新築マンション200室、全て民泊 開業も運営も簡単「ほぼホテル」
部屋数は200室以上、14階建て新築マンションを丸ごと民泊に――。
大型ホテルのような民泊施設が、大阪市の認定を受けて今月30日に開業する。
これほどの規模は「想定していなかった」と市の担当者。
インバウンド(訪日外国人客)需要の拡大とともに、民泊が大規模化した背景を探った。
レストランに温泉スパ、BBQ施設も
ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)にほど近い大阪市のベイエリア。マンションが立ち並ぶ一角に、その建物はある。
最上階にレストランや温泉スパ、屋上にバーベキュー施設などを備える。
事業者は、「民泊マンション」とうたう。隣のマンションの住人男性(43)は、「規模も機能も、ほぼホテルですよ」。
「特区民泊」制度を活用した施設として、市から6月27日に認定を受けた。
特区民泊とは、国家戦略特区に指定された区域に限って、宿泊施設の開業規制などを緩和する制度。
東京都大田区や新潟市、北九州市なども指定区域だが、大阪市は観光資源が豊富なうえ、市内の多くが指定区域となっており、9割超の特区民泊施設が集中している。
大阪市によると、今年4月末時点で6194施設(1万7016室)。今回の「民泊マンション」は、市内最大という。
年間19万人が訪れる想定 「どの特区でも起こる」
事業者によると、もともとは、賃貸マンションの計画だった。
「全室を民泊にする」。今年2月に周辺住民へ伝えられ、その後にあった住民説明会で、年間の利用者想定が19万人と明らかにされた。
単純計算で1日500人余りが訪れることになる。周辺住民らは住環境の悪化への懸念から、市に認定しないよう求める約2万1千筆の署名(オンライン署名含む)を提出した。住民らは「全国の特区どこでも同じような事例が起こる可能性がある」と懸念していた。
市は認定したが、横山英幸市長名での要請書を事業者側に出した。騒音や交通渋滞をできる限り抑えるよう努めること▽地域住民と定期的な協議の場を設け、協定書を締結すること、などを求めた。
事業者は、朝日新聞の取材に「当初、民泊施設にする予定はなかった」としつつ、方針転換の理由は「経営判断に関する事項を含むので、回答を控える」。
住民からの懸念の声を踏まえ、「トラブル対応や交通整理などに協力する。近隣住民の意見を最も大切だと考え、必要な対応をとる」とした。
営業日数に上限なし「民泊にした方が…」
ホテルのような民泊が登場した背景には、特区民泊制度の特性がある。
一般的な民泊には、年180日までという営業日数の制限があるが、特区民泊に上限はない。室数にも制限はなく、大規模な宿泊施設を通年で営業することができる。
2024年に日本を訪れた外国人は前年比47.1%増の約3687万人で、過去最多だった。大阪府も24年は推計1464万人と、同じく最多を更新した。
民泊に詳しい阪南大の松村嘉久教授(観光地理学)は、「賃貸よりも民泊にした方が利回りが良いし、特区民泊は、ホテルよりも開業が簡単だ。インバウンドによる追い風もある」と話す。
ホテルや旅館の場合、建築計画などについて事前に自治体に届け出る必要があるが、特区民泊は不要だ。地域住民への説明会を開く必要があるが、「合意」までは求められていない。
トラブル対応のため、住宅宿泊事業法(民泊新法)は、事業者か管理人が駆けつけられる態勢を取るよう求めているが、人数の定めはない。
一定のサービスが求められるホテルでは、管理人らフロントの人数も清掃スタッフも充実させる傾向にある。ただ、松村教授は「民泊の場合は清掃頻度が低く、フロントも基本的に置かない施設が多い。だから運営コストが低い」と話す。
「摩擦は当然、制度設計を考え直す時期」
キャリーケースを引くときのガラガラ音、ポイ捨て、周辺道路の混雑……。特区民泊をめぐる苦情は社会問題化しており、大阪市によると、24年度は399件。前年度に比べ2.3倍、前々年度の3.6倍に増えた。
松村教授は、現行制度の中で住民の生活を守りながら民泊と共存するためとして、「行政が住民と民泊の間に入って対応できるような体制を構築することが必要ではないか」。
そのうえで、「住む地域とにぎわい創出の地域を分けなければ、摩擦が起きるのは当然。制度設計を考え直す時期に来ていると思う」と指摘した。
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- 【視点】
年間19万人、1日500人超の利用想定なのに「住民合意が不要」とは無理があります。関西を行き来する私には、大阪が万博でインバウンド拡大の恩恵を受けていることは肌で感じますが、同時に「観光地化の代償」も目の当たりにしています。2万1千筆の署名という住民の切実な声を、要請書で済ませる行政対応では、全国の特区で同様の問題が続出するでしょう。観光立国を掲げるなら、受け入れ態勢の整備と地域住民の安心をどう両立させるか、その制度設計に真摯に向き合ってほしいです。
…続きを読む - 【視点】
大阪万博などに合わせて活用されている特区民泊制度の負の部分が表出しているように見受けられます。大きなイベントのために急いで準備してきたことの悪影響の一つでもあると思います。そして、その影響を受けているのは住民です。この制度導入が正しかったのか?含め大阪市の政策決定への振り返りも重要そうです。
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