【前提】
『正月の俺ら』とは、2014年発売Vita版『カエル畑DEつかまえて★彡』
JOLLY PLAZA(TAKUYO通販)特典となる小冊子である。
【更新について】
6月4日(水)~6/12(木)まで毎日続きが追加されていきます。
※公開は6月30日(月)まで
■ネタバレ注意
正月の俺ら 1
【場所:談話室】
【日付:一月三日】
葉村 「ふぁ~あぁ…………あーくっそ寒ィ……あれ、空閑だけか? 先生達は?」
空閑 「えっとね、米原先生は今日から冬休み最後の日まで自宅だよ?
法月先輩も、今日から最後の日まで自宅で、彼女も今日から最後の日まで自宅だよ?」
葉村 「……は? 何それ、聞いてねぇんだけど」
空閑 「え? あの……い、言ってたよ……?」
葉村 「いつ」
空閑 「冬休みに入る前?」
葉村 「だからいつだよ」
空閑 「え……? えーと……詳しくは、覚えてないけど……き、昨日も話してたよ?」
広瀬 「あれ、葉村くんやっと起きてきたんだ」
葉村 「何だよ、悪ぃのかよ」
広瀬 「いえ滅相も。……ん? どうしたの? 空閑くん。そんなに困った顔して」
空閑 「あの、葉村くんが、先生達が、冬休みの後半帰省するって話、全然聞いてないって……」
広瀬 「…………」
葉村 「何だよ、何見てんだよ」
広瀬 「葉村くん、ここのところ空閑くんから借りたゲームずっとやってたよね。原因それじゃない?」
葉村 「は?」
広瀬 「談話室にいる時も大体ゲームやってたし、ゲームしてない時は徹夜してるんだか知らないけど、大体眠そうだったし」
空閑 「あ、文字通り、聞いてなかったって、ことだね!」
広瀬 「そう、ご本人様が原因で」
葉村 「…………」
空閑 「そういえば僕、誰とも話さないのに、何で葉村くんは談話室にいるんだろうって、疑問だった」
広瀬 「一人でゲームは寂しいんだよ、空閑くん」
葉村 「うっせぇぞオイ! ……つか、なに? あいつら俺に挨拶もなしかよ」
空閑 「うん……もう、13時だからね……」
葉村 「起こせよ」
広瀬 「起こしたら起こしたで怒るくせに」
葉村 「怒んねぇよ!」
広瀬 「……既に怒ってる人が何を言うんだか」
葉村 「んだと?」
空閑 「だ、駄目だよ広瀬くん! 煽りをスルーできない人も、煽りなんだよ!!」
広瀬 「うん? ちょっと良く意味が分からないけど、ごめん。俺も大人げなかったよ」
空閑 「うん!」
葉村 「おいお前ら俺を無視するな。……つか飯は?」
空閑 「皆で作ったおせちと、お餅があるよ?」
葉村 「もう両方とも飽きた」
空閑 「な、何か作ろうか?」
葉村 「マジで? じゃあ頼むわ」
空閑 「えっと……じゃあ、カレーを……」
葉村 「…………」
広瀬 「……空閑くん、彼すごい不満そうな顔してるけど」
空閑 「ええっ!?」
空閑 「……あ、そうだ広瀬くん。米原先生に、買出し頼まれてたよね?」
広瀬 「うん、すごい唐突に思い出したね? じゃあ今から行こうか」
空閑 「うん!」
葉村 「おいこらお前ら!! マジお前ら!!」
広瀬 「ああ、何か食べたいものがあるなら適当に買ってくるよ。お金渡してもらえれば」
葉村 「違ぇよ?! 何ナチュラルに俺を置いてこうとしてんだよ!」
空閑 「え? 葉村くんも来てくれるの?」
葉村 「は? ……お、おう。心優しい俺が買出し手伝ってやるよ」
空閑 「本当? わあ、ありがとう葉村くん!」
広瀬 「…………」
葉村 「……おい、言いたいことがあるなら言えよ」
広瀬 「いえ、何も」
正月の俺ら 2
【場所:寮前】
葉村 「うわっ、寒っ……馬鹿じゃねーの、何この寒さ」
広瀬 「地球の裏側に行けばいいと思うよ」
葉村 「ふざけんな。つか寮監不在とか、普通はありえねぇだろ……」
空閑 「あ、葉村くんのマフラー、可愛いね!」
葉村 「あ? ああ……可愛いか?」
空閑 「えーっと……女の子って、とりあえず良いと思ったものを可愛くなくても“可愛い”って言うよね。そんな感じ?」
葉村 「お前女子じゃないだろうが」
広瀬 「はいはい行くよー」
空閑 「あ、はーい!」
葉村 「へーい。……つか、正月なのに店開いてるんだな」
空閑 「葉村くん、夕飯は、何が食べたい?」
葉村 「つか朝と昼すら食ってねーし」
空閑 「ええと、じゃあ、何が食べたい?」
葉村 「え、別に何でも良いけど」
広瀬 「君、空閑くんがカレーって言った時に、すごい不満そうな顔してなかったっけ?」
葉村 「カレーはな。カレー以外なら何でもいいよ。別にカレーに恨みはねーけど」
空閑 「どうしよう、広瀬くんは何が食べたい?」
広瀬 「え、カレー」
葉村 「てめぇ」
広瀬 「空閑くんは?」
空閑 「えっと……カレーの話してたら、カレーが食べたく、なっちゃったなって……」
葉村 「…………」
葉村 「……なら百歩譲ってカレーうどんな。それならまあ、食ってやらんこともない」
空閑 「本当!? ありがとう葉村くん!」
広瀬 (カレーが食べたいって言うのは冗談だったんだけどな……まあいいか)
広瀬 「俺、辛いのがいいな」
葉村 「ああ、俺も。甘口はパス」
空閑 「…………」
葉村 「……あれ、お前もしかして甘口派だったっけか?」
空閑 「あの……カレーうどんで、甘口とか辛口とか、あんまり聞かないよね?」
広瀬 「え……」
葉村 「…………」
広瀬 「…………」
葉村 「お、俺は広瀬につられただけだし!」
広瀬 「葉村くんってそういう人だよね」
空閑 「あの、もしかしたら、あるかもしれないし……一概に間違ったとは……」
葉村 「いや、間違いなら間違いだって正してやるのが優しさだぜ? 空閑」
広瀬 「……葉村くんってそういう人だよね」
正月の俺ら 3
【場所:スーパー内】
空閑 「ごめんね、広瀬くん。ケータイで調べたんだけど、カレーうどんにも甘口とか、あるみたい」
広瀬 「あ、そうなんだ」
葉村 「ま、普通ならあるわな」
広瀬 「…………」
葉村 「……って、あー、やっべ懐かしい。これ、買ってもらえなかった菓子だ」
空閑 「? どういう意味?」
葉村 「俺ガキの頃あんまスナック菓子とか買ってもらえなくてさ。なんか、饅頭とかそういう和菓子ばっか食わされてた」
広瀬 「だから甘いものが嫌いなの?」
葉村 「あー、どうだろうな」
葉村 (……一概にプリンとかマシュマロの一気食いだけが原因じゃねぇのかもな。すっかり忘れてたけど)
空閑 「あ、ねえねえ、皆でこれ作ろう?」
広瀬 「どれ?」
空閑 「これ!」
葉村 「……ジャンボプリン?」
空閑 「うん、5~7人前だって。作って冷やしておけば明日も食べられるよ!」
葉村 「……なあ、お前。俺が甘いもん苦手だって知っての所業か? 今さっき広瀬が言ったよな?」
空閑 「え、そうだっけ!? そっか……じゃあ、僕と広瀬くんの分は甘くて、葉村くんだけわさびとか、マヨネーズとか入れる?」
葉村 「気持ち悪いわ! どんな味になるんだよ!」
広瀬 「砂糖入れなければ茶碗蒸しと一緒なんじゃないの?」
葉村 「マジかよ。嘘だったらお前にカエリーナタンの話、今後一生してやらねぇからな」
広瀬 「え、ありがとう」
葉村 「なんで感謝されねぇとなんねーんだよ! お前カエリーナタンのこと見くびってるだろ!」
広瀬 「葉村くん、とりあえずここ寮じゃないし、落ち着いて」
葉村 「お前のその半笑いの顔が腹立つ!」
空閑 「葉村くん、顔はもう生まれつきだから、どうしようもないよ? 広瀬くんの所為じゃないよ」
葉村 「冷静に返すなお前」
広瀬 「空閑くんのフォローって、フォローって言うか……ううん、なんでもない」
空閑 「?」
正月の俺ら 4
【場所:寮、談話室】
葉村 「で、飯な訳だが」
広瀬 「早くない? まだ15時ちょっと過ぎだけど」
葉村 「俺の朝飯と昼飯がまだじゃねーか」
広瀬 「…………」
広瀬 「じゃ、俺部屋でちょっと課題片付けてくるね。夕飯作る時は声かけて」
葉村 「おい」
空閑 「う、うん! がんばってね!」
葉村 「お前も笑顔で送り出すな!」
空閑 「は、葉村くんは何が食べたい? カレーうどん?」
葉村 「それは晩飯だろ?」
空閑 「うんと、葉村くんの朝昼兼用のご飯がカレーうどんで、僕達の夕飯もカレーうどん」
葉村 「俺に二度もカレーうどんを食えと」
空閑 「……嫌?」
葉村 「嫌過ぎるだろ!」
空閑 「じゃあ、何カレーなら、いい?」
葉村 「そもそもカレーから離れろ」
空閑 「…………」
空閑 「えっと、何が食べたい?」
葉村 「何でもいい。カレーと名のつくもの以外なら」
空閑 「じゃあ……卵かけご飯にする?」
葉村 「それって白飯に卵割ってかけて終わりだろ? それ飯を作るって言わねーだろ。つかそれなら俺でもできるわ」
空閑 「じゃあ……オムライス、作る?」
葉村 「お、マジで? 頼む」
空閑 「うん。あの、最後に乗っける卵をふんわり作れた試しがないけど……それでもいい?」
葉村 「……作ってもらうのに何だが、程度によるな」
空閑 「うんとね、ちょっとぐちゃぐちゃで、ぼろぼろになる、かな?」
葉村 「…………」
空閑 「…………」
葉村 「お前に手間かけさせるのも悪ぃし、俺、卵かけご飯食うわ」
空閑 「そ、そう? じゃあご飯用意してくるね!」
葉村 「お、おう。……つか、俺も炊事場行くわ」
【場所:寮、炊事場】
葉村 「えーっと、卵、たまご…………お、あった」
空閑 「葉村くん、ご飯よそったよ! 後、お箸!」
葉村 「お、サンキュー…………よっと。 あ、空閑、醤油は……」
空閑 「! すごい葉村くん! 卵、片手で割れるの!?」
葉村 「え? ま、まあ…………つか、驚きすぎだろ。これくらい普通は誰でもできるって」
空閑 「だって僕、片手で割ろうとすると、いつも殻がぐちゃぐちゃに、なっちゃうよ?」
葉村 「卵にひび入れる時、手に力入れすぎなんじゃねーの?」
空閑 「そっか……じゃあ、今度は力を入れないように、試してみるね!」
葉村 「おう。……んじゃ、頂きまーす」
空閑 「談話室で座って食べないの?」
葉村 「ここで食った方が片付けるの楽だろ」
空閑 「そっか!」
葉村 「…………」
空閑 「…………」
空閑 「葉村くん、美味しい?」
葉村 「ん? まあまあ……」
空閑 「……葉村くん、何時も、ありがとうね」
葉村 「っ!? ……な、なんだよ急に! 米が鼻の方に行っちまっただろ!」
空閑 「器用だね、葉村くん」
葉村 「お前の所為だよ! つか、何だよ急に……」
空閑 「あの……何時も仲良くしてくれて、ありがとうって、お礼、言ったことなかったなぁって」
葉村 「んなの…………お互い様だから、言わなくてもいいんだよ」
空閑 「! そっか!」
葉村 「そうだよ。ったく……あー、米下りてこねぇし」
空閑 「え、大丈夫?」
葉村 「お前の所為だよ」
正月の俺ら 5
【場所:炊事場】
広瀬 「……え、結局卵かけご飯食べたの? 彼」
空閑 「うん。オムライス作るよって言ったんだけど、僕に手間かけさせるのが悪いからって」
広瀬 「へえ……彼も成長したんだね。夕飯の手伝いは全くしてくれないけど」
空閑 「ゲームで忙しいって。あ、でも明日の朝は葉村くん一人で作るって言ってたよ?」
広瀬 「……食べられるものができ上がればいいね」
空閑 「だ、大丈夫だよ! 葉村くん、やればできる人だから!」
広瀬 「……空閑くんってさ、葉村くんと本当に仲良いよね」
空閑 「? どうしたの?」
広瀬 「いや、細かいこと考えないで純粋に“友達”って関係って良いよねっていう」
空閑 「…………」
空閑 「広瀬くんは、……あの、僕と、葉村くんの友達じゃ、ない?」
広瀬 「……空閑くんと葉村くんがそう思ってくれるなら友達だよ?」
空閑 「も、もちろん、友達だよ! は、葉村くんも、そう思ってるよ!」
広瀬 「ありがとう」
空閑 「う、うん! こちらこそ! えへへ……」
広瀬 「…………」
空閑 「……ねえ、広瀬くん」
広瀬 「?」
空閑 「広瀬くんは、どうして僕に、優しくしてくれたの?」
広瀬 「え?」
空閑 「この寮に来る前から、僕に良く話しかけて、くれたよね? それって、学級委員だから、とか、先生に言われたから……とか?」
広瀬 「…………」
空閑 「あ、あのね! 別にそれでもいいんだ!」
空閑 「広瀬くんが、例えば僕に優しくするのが、人から良く見られたいから、とかでも、僕は嬉しかった、から……」
広瀬 「別にそうは思ってなかったよ。……ただ、少し打算はあったかな」
空閑 「あの、どんな?」
広瀬 「…………」
空閑 「な、何を聞いても僕、傷付かないから大丈夫、だよっ!!」
広瀬 「……俺さ、日常に波風がない方が楽できるし好きなんだ」
空閑 「う、うん」
広瀬 「だから誰かがその状態じゃないと、凄く気になって」
空閑 「……それって、僕の場合、一人で誰とも話さずに、ぽつんと座ってるって……状態だよね」
広瀬 「……うん。だから空閑くんに話しかけてたのは、ただの自己満足なんだよ」
空閑 「そっかぁ……」
広瀬 「ごめんね、全然優しさからでも何でもなくて」
空閑 「! そんなことないよ! 広瀬くんは、優しいと思う!」
広瀬 「ありがとう。……でも俺は空閑くんの方が優しいと思うよ。普通はそういう風にお礼言えない気がする」
空閑 「そ、そうかな? ……うん、でも、少し前までなら、そういう風に考えられなかったかも」
広瀬 「? どういう意味?」
空閑 「あのね、彼女がね、僕の一番の友達になってくれたから。……だから、僕も余裕を持って周りを見られるようになった気がするんだ」
広瀬 「そっか」
空閑 「うん」
広瀬 「……じゃあ、夕飯作るの再開しよっか?」
空閑 「! う、うん! そうだね!」
正月の俺ら 6
【場所:談話室】
葉村 「カレーうどんじゃねぇし!」
空閑 「うん、普通のうどん、だよ?」
葉村 「何でだよ!」
広瀬 「いや、それはこっちの台詞なんだけど。カレーに乗り気じゃなかったじゃない」
葉村 「そりゃ最初だろ! だけどカレーうどんって聞いてたから気分はカレーうどんだったんだよ!」
空閑 「あ……、ちょ、ちょっとなら気持ち、分かるかも……」
葉村 「どこ行ったんだよカレー要素は!」
広瀬 「いや、良く考えたらカレー作る手間があるなって」
葉村 「省くな!」
広瀬 「……作らない人がよく言うよ」
葉村 「ああん? 聞こえるように言えよ、なあ?」
空閑 「け、ケンカしないで! え、えっと、今からレトルトのカレー、買ってくるから!」
葉村 「お、おい! 別にそこまでしなくても……」
広瀬 「頂きまーす」
葉村 「おい、話は終わってねーぞ!」
空閑 「い、頂きますっ!」
葉村 「お前もかよ! 今さっきカレー買って来るとか言ってた奴?!」
空閑 「葉村くんっ、美味しいよ?」
広瀬 「早く食べないと伸びるよ」
葉村 「…………」
葉村 「……頂きます」
空閑 「あれ、そういえば戸神先輩、いないね?」
葉村 「あの人は豆しか食わねーからいいだろ、別に」
戸神 「でもよォ、食事は皆で喰わねーと美味くねぇんだぜ?」
葉村 「ぶっ!?」
空閑 「わあっ! ネギが飛んできた!」
広瀬 「ちょ……うどんがこっちまで飛んできたんだけど……」
葉村 「お前らもっと驚けよ!」
空閑 「うん……驚いたよ? 葉村くんの口から飛んできたネギに……」
葉村 「俺の方じゃなくて、戸神先輩にだっつーの!」
広瀬 「いつものことじゃない」
葉村 「非日常を受け入れんなよ!?」
法月 「やっほー、皆、ちゃんとご飯食べてる? ……って、なんでテーブルの上がうどんまみれなの?」
空閑 「あ、法月先輩! お帰りなさい!」
広瀬 「何か忘れ物ですか?」
法月 「ううん、皆がどうしてるか心配になっちゃって。それに俺の家、月宿にあるから近いし」
法月 「……で、このテーブルの上の惨事は一体……」
空閑 「ええと、これは……」
米原 「やっほー、ミサリンだぞ☆彡 ちゃんとご飯食べて……っていうかテーブルの上汚っ!」
空閑 「お、お帰りなさい先生!」
法月 「どうしたの? ミサキちゃん」
米原 「いや、お前らのことが心配になって……っていうか法月こそどしたよ」
法月 「俺も様子見に来ただけ」
葉村 「……ガキじゃねーんだし、別に俺らだけでも平気だっつの」
米原 「うん……でも、このテーブルの上……」
葉村 「うっせーな! 大体戸神先輩のせいだっつの!」
広瀬 「それはちょっと……責任転嫁が過ぎるかと……」
葉村 「俺一人だったらこんなことになってねーよ!」
法月 「食べ散らかしたの? ハム男……」
葉村 「だから俺の所為じゃねーっつの!」
空閑 「あの、先生と先輩、晩御飯は食べましたか?」
法月 「ううん、まだー」
米原 「あ、俺も。まさかお前らがこんなに早く夕飯食べると思ってなかったから、なんか作ってやろうかなって思ってたくらいだし」
広瀬 「じゃあ用意しますね」
空閑 「あ、僕も手伝う!」
法月 「ありがとう! ……ほら、ハム男。散らかしたんだったら自分で拭かないと」
葉村 「……分かってるっつの」
米原 「で、その肝心の戸神は?」
葉村 「は? ……あれ、いねぇし」
法月 「ハム男、幻覚でも見たんじゃないの?」
葉村 「幻覚だったとしても、そこでなんで戸神先輩をチョイスしたのか俺の脳に問いかけたいわ」
空閑 「はい! 用意できました!」
法月 「あ、ありがとうー!」
広瀬 「はい、先生」
米原 「お、サンキュー」
広瀬 「ちゃんとテーブルの上は拭いた?」
葉村 「はいはい拭きました拭きましたー」
空閑 「あ、先生、法月先輩! あの、明日の朝のご飯、葉村くんが作ってくれるそうですよ!」
法月 「え、そうなの! ちょっと大丈夫? ハム男」
米原 「まじか、なら俺このまま泊まってこうかな」
葉村 「作る手間増えるだろ? 先輩と先生は家に帰ってくれ」
法月 「そう言われたら泊まりたくなるじゃん。……で、何を作るつもりなの?」
葉村 「卵かけご飯」
法月 「…………」
米原 「…………」
広瀬 「……それは、作ったうちに入らないんじゃ」
葉村 「うっせーなぁ、卵割って醤油入れてかき回すまでやったら立派な料理だろ?」
法月 「料理、かな……?」
米原 「料理かどうかと聞かれれば……うーん……」
空閑 「葉村くん!」
葉村 「んだよ、お前もなんか文句あんのかよ」
空閑 「明日の朝、楽しみにしてるね!」
葉村 「! お、おう……」
法月 「空閑くん、いい子過ぎ……」
広瀬 「空閑くん優しすぎる……」
米原 「本当空閑は天使だな……」
葉村 「お前らうっせーぞ!」
空閑 「ふふっ……」
空閑 (……今頃彼女もご飯、食べてるのかな?)
正月の俺ら 7(おまけ)
【場所:月蛙寮の屋根】
戸神 「師匠、“くりすますぷれぜんと”ってやつが欲しいんだぜ!」
千木良「……どこでそんなん覚えてきたん?」
戸神 「公園で遊んでたガキどもが話してたんだぜ!」
千木良「アホやな、あれは“イイコ”しかもらえんのやで?」
戸神 「“イイコ”?」
千木良「せや、イイコや。……で、自分の名前は? 言うてみ」
戸神 「戸神明杜だぜ!」
千木良「せやろ? イイコやないやろ? そら無理や。もらえへんわ」
戸神 「そうなのか……残念だぜ」
十九波「……アンタ、相変わらず酷い烏だね」
千木良「お褒めに預かり光栄やな。……ちゅーか、そもそもクリスマス過ぎとるし」
戸神 「師匠、なら“おとしだま”くれよ!」
千木良「自分……ろくでもない言葉しか覚えてこんな」
十九波「それよりアタシゃ、クリスマスプレゼントもお年玉も知らないアキモリに驚きだよ」
千木良「コイツの脳の記憶容量は1キロバイトもないねん。せやから全部上書きや」
戸神 「なんだよ、俺だって“おとしだま”くらいは分かるんだぜ!」
千木良「ならどんなんか言うてみ」
戸神 「………………」
千木良「知らんのやないか。何を見栄はっとんねん」
戸神 「! 魂を落とすことだろォ!」
十九波「ドヤ顔で言うんじゃないよアンタ。後、発想が怖いよ」
千木良「……ちゅーか、それを俺にくれ言うんは、俺にタマ落とせっちゅーことか?」
戸神 「師匠ならできんじゃねーか?」
千木良「アホか自分」
十九波「そもそも人間の親ができる芸当じゃないね」
戸神 「なるほどなァ。おかしいと思ったんだぜ」
千木良「オイ明杜、“おとしだま”が欲しいならミサキちゃんに頼み」
戸神 「? センセイならくれんのか?」
千木良「くれるんちゃう? ……ま、言ってもくれへんかったらこう言い? 『良識ある大人ならくれるって師匠が言ってたぜ!』ってな」
戸神 「分かったぜ!」
十九波「アンタ、本当に最低だね……」
千木良「お褒めに預かり光栄やな」
米原 「戸神ー、戸神ー?」
千木良「……ほれ、ミサキちゃんが飼い犬呼ぶみたいに呼んどるで」
戸神 「お、じゃあちょっくら行ってくるぜ! じゃあな!」
千木良「戻ってこんでえーぞー……っと」
十九波「……アンタ、もうちょっと弟子は大事にしてやんなよ」
千木良「へいへい。……さぁて、たまには月宿の様子でも見回ってきますかー」
十九波「ならたまには付き合ってやるよ」
千木良「…………」
十九波「……なんだい。こっちじっと見て」
千木良「いやあ、にゃんこちゃんが優しいと気色悪思うてなぁ……」
十九波「しみじみ言うんじゃないよ、この烏野郎」
END.