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祝★15周年『梅雨のカエル祭り第5弾:千木良くんの夏休み』

六男ださあ、今回もおはようこんにちはこんばんは同志諸君。
僕はそろそろこの前座のネタギレに悩み始めた。
まぁこんなものは飛ばして読んでる人が殆どだと思うし、悩む必要なんてないんだろうけどな。
あときっと連続して書いてる所為だそうに違いない僕は話題をいくつも持ってるんだぞー!!

時には嘘を吐きたくなることもある、6月でも。それでは……

『カエル畑DEつかまえて★彡』15周年記念
【梅雨のカエル祭り第5弾! 千木良くんの夏休み】を公開するぞ!!

※注意※
引き続きこの【梅雨のカエル祭り】で公開される内容には、ディープでぶっ飛んだ内容も多数。閲覧の際はご注意ください。










【前提】
『千木良くんの夏休み』とは、
2010年発売『カエル畑DEつかまえて・夏 千木良参戦! ぽーたぶる』
JOLLY PLAZA(TAKUYO通販)予約特典となる小冊子である。
2011年のイベント出展にて一度だけ特典として復活した過去がある。

【更新について】
6月19日(木)~6/27(金)まで土日を除いた毎日続きが追加されていきます。
※公開は6月30日(月)まで





■ネタバレ注意





――或る夏の日の物語でした。



千木良くんの夏休み 1



夏休みのクソ暑い最中、月蛙寮に行くことになった。
千木良 「あーかったるー……ん? おお、寮前で水撒きしとるんはジミーやないか」
広瀬 「なんでそんな説明的なんですか」
千木良 「うっさいボケ」
広瀬 「……こんにちは先輩。散歩ですか?」
千木良 「いや。ノリのヤツが寮に遊びに来いやかましくてな」
広瀬 「余計なことを……」
千木良 「聞こえとるでジミー」
広瀬 「い、いたたたた!! 肩痛い!!」
空閑 「ど、どうしたの広瀬くん!!」
千木良 「おお、ヒロインくんやないか」
空閑 「え、え?」
広瀬 「初めて聞きましたよ、そのあだ名」
千木良 「略して“ヒロくん”やな」
広瀬 「……俺と被ってません?」
千木良 「いや、お前はジミーやろ?」
葉村 「くがー、ちりとりく……」
千木良 「よう、ガラムマサラ」
葉村 「誰だよ」
広瀬 「香辛料の名前ですよね」
千木良 「ああ。カレーじゃあんまりや思うてな」
葉村 「お前の優しさの基準わかんねーな。つかまだカレーの方がいいよ」
千木良 「遠慮すんなガラムマサラ。で、ノリのヤツおる?」
葉村 「法月先輩なら菅野と買い物出かけたぜ?」
千木良 「菅野と?」
広瀬 「残念でしたね。彼女を法月先輩に取られて」
千木良 「…………」
広瀬 「無言で肩掴むの止めてください!!」
葉村 「つか……菅野もなんでアンタと付き合おうと思ったんだろうなぁ」
千木良 「煩いわ負け犬ども」
葉村 「! べ、別に俺は……な、なあ空閑?」
空閑 「えっ? ごめん、ネコ見てた……」
葉村 「…………」
広瀬 「はいはい、中に入りましょうねー。先輩麦茶でいいですか?」
千木良 「おー」


菅野風羽という人間の娘と、簡単に言うと付き合う(?)ことになった。

祓玉を抜いたことで、菅野からは一連の記憶がすっぽり抜けている。
俺が烏天狗だということも向こうは覚えていない。

断片的に記憶を繋ぐつもりだったが、菅野の体への負担を考え、一旦全て消去する道を選んだ。
あわせて寮のやつらの記憶も操作した。


千木良 「ミサキちゃんと生徒会長は?」
広瀬 「炊事場にいますよ。キノコ煮てます」
千木良 「キノコ?」
空閑 「はい! 土地を綺麗にするお薬だそうです! 良く分からないですけど」
千木良 「ふーん」
葉村 「アンタそういうエコとか興味なさそうだもんなー」
広瀬 「市内清掃に参加する千木良先輩か……そんな爽やかな姿想像つかない」
千木良 「言ってくれるやないの」
空閑 「あ、あのっ! 千木良先輩!」
千木良 「なんや? ヒロくん」
葉村 「……ヒロくん?」
広瀬 「後で説明してあげるよ。はい、空閑くんどうぞ」
空閑 「えっと、どうして菅野さんと付き合おうと思ったんですか!」
千木良 「…………」
広瀬 「……あー、ええと」
千木良 「“好きだから”以上に理由なんてあらへんやろ」
空閑 「! そ、そっか! ありがとうございます!」
葉村 「……え、ああいうキャラだっけチヂレ先輩」
広瀬 「……俺の知ってる千木良先輩じゃない、確実に」
千木良 「何ぞ気に食わないことでも?」
広瀬 「いえ。千木良先輩ほどの人でも色ボケが始まるんだなと」
千木良 「お前俺にどんなイメージ抱いとったん」
広瀬 「……面倒見がいい人だとは思ってました」
千木良 「へえ」
広瀬 「でも、必要以上に深入りしない人だとも思ってました」
千木良 「…………」
葉村 「そうだな。菅野にちょっかい掛け始めたときも、単にからかってんだと思ってた」
空閑 「そうだったの?! 僕は普通に、千木良先輩は菅野さんのことが好きなんだなーって思って見てたよ」
千木良 「ヒロくんが一番純粋やなー。そっちの二人は穿った目で見すぎじゃ」
広瀬 「いやいや、日頃の行いが」
空閑 「あ! じゃあ千木良先輩は好きな子を虐めるタイプなんですね!」
葉村 「その方式で行くと俺らも好かれてるってことじゃねーか」
広瀬 「勘弁願いたい」
千木良 「しばかれたいんかお前ら」
米原 「キノコの量少なかったんじゃないか?」
戸神 「ちげーよ。先生が火力強くすっからわりーんだ」
米原 「お前が強火って言ったんだろ!」
戸神 「最初が強火で途中から弱火だったんだ!」
葉村 「……あの二人は何をしてるんだ……」
空閑 「け……喧嘩?」
米原 「お、千木良。なに? 彼女に会いにきたのか?」
千木良 「いや、ノリの方」
戸神 「よォチヂレ! 今日も生きがいいなァ!」
千木良 「会長さんは相変らず頭温いですね」
戸神 「おうよ! 熱い男だからなァ俺は!」
葉村 「話かみ合ってねー」
法月 「ただいまー! あ、ちーちゃんいらっしゃーい!」
風羽 「おお、千木良先輩」
千木良 「よー」
法月 「待たせてごめんねー?」
千木良 「別にええけど。で、なんの用事やったん?」
法月 「そうそうそれ! ちーちゃん、最近スガちゃんと会ってあげてないでしょ!」
千木良 「…………」
千木良 「風羽、言うたん?」
風羽 「む……すみません。雑談程度のつもりだったのですが」
法月 「スガちゃんは謝らなくていいんだよ! 悪いのはちーちゃんなんだから!」
葉村 「つか法月先輩。それって大きなお世話ってやつじゃないんすか? 本人同士の関係に第三者が口だすって」
法月 「いいの! だって俺ちーちゃんの親友だもん!」
葉村 「どんな理屈……」
広瀬 「あー……で、法月先輩は何がしたかったんですか?」
法月 「え? ちーちゃんとスガちゃんを会わせたかっただけだよ?」
空閑 「あの、あわせた後……は?」
法月 「え? 普通にお話したり?」
千木良 「…………」
風羽 「千木良先輩、申し訳ありませんでした」
千木良 「なんでお前が謝るん」
風羽 「……いえ」


どこか俺に遠慮する物言いの風羽。

何も覚えていないのだしそれは仕方ないことだ。
それを承知で“付き合え”と言った。

――特に好意を分かりやすく伝えないまま。


米原 「えーと、なんか複雑なことになってないかい?」
戸神 「“色恋沙汰”ってやつだなァ! 師匠に習ったぜ!」
米原 「お前の師匠って変な知識しか与えないな、本当」
千木良 「…………」





突拍子もない展開だと思った。

まさか、あの千木良先輩が。



千木良くんの夏休み 2



いつもの昼下がり。
放送室。

部員は四人しかいない。
いつも通りに曲をかけたりしてぼんやりしていた。

菅野さんが何かを必死にはがしている。
飴玉を入れた小瓶についたシールを爪で削っている。

瓶は法月先輩のものだった。
中々はがれない。


広瀬 「貸して」
風羽 「む。できます」
広瀬 「水付けて洗った方が取れるんじゃないの?」
風羽 「…………」


じっと自分の手元にあるものを見る菅野さん。
物分りはいいけど中々頑固なときがある。

それの持ち主は珍しくソファーでダウンしていた。
前日、夜遅くまで空閑くんとカエリーナタンのアニメ(再)を見ていたらしい。

小さい子供の様に丸まったまま、動こうとしない。
いつもはそこに寝ているはずの千木良先輩は珍しく起きていた。

放送機材の前に座ってぼんやりしている。

ふと


千木良 「おい、菅野」
風羽 「はい、なんでしょうか」


椅子から立ち上がり、俺らの方を向いた千木良先輩。


千木良 「俺と付き合え。意味は“俺の子を産め”、や」
風羽 「…………」


菅野さんが驚いている。
目をしばたたかせている。

なんだろう、これ。
ボケ? 俺は笑いながら「いやいや」って言えばいいのか?


でも。
千木良先輩が余りにも真面目な顔をしている。

俺はそれ以上何も言えなかった。





妙な場面に出くわした。



千木良くんの夏休み 3



風羽 「……分かりません」
広瀬 「そう」
風羽 「でも、お受けしようと思ってます」
広瀬 「え、ええと……それって、千木良先輩と付き会うってこと?」
風羽 「はい」
広瀬 「…………」


寮、脱衣所にて。
広瀬が間抜け面晒している。

今の会話だけを聞くに、どうやら菅野がチヂレ先輩に告白され、
それにこれからOKを出すって話なのだろう。

恋愛ってものから一番縁遠そうだった二人がくっつくって流れだ。
そりゃ広瀬じゃなくても驚きだ。

淡々としてるかもしれないけど、俺も充分に驚いている。


風羽 「色々と相談に乗って頂きありがとうございました」
広瀬 「それはいいけど……でも、どうして俺に?」
風羽 「資料室で落ちてきた本から守ってくださった時がありましたよね」
広瀬 「ああ……うん」


菅野は広瀬の目を見て、真っ直ぐに見て。
そして言った。


風羽 「あの少し前に約束しました。私も何か困った時がきたら広瀬くんを頼ると」
広瀬 「…………」


実は菅野のことが気になっていた俺としては心境は複雑だが、
でもまあ、アイツが選んだ相手だし――若干異論はあるものの――祝福はしてやろうと思った。





菅野さんが、寮のみんなの前で、千木良先輩と付き合う事になったと発表してくれた。

僕は驚いた。



千木良くんの夏休み 4



空閑 「ねえ、菅野さん」
風羽 「はい、何でしょうか空閑くん」
空閑 「あの……千木良先輩と付き合うことになったって、本当?」
風羽 「はい」
空閑 「そ、それって……先輩のこと好きなの?」
風羽 「分かりません」
空閑 「えっ!?」
風羽 「ただ、血が騒いだのです。先輩に告白なるものをされて、ざわつきました」
空閑 「ざわつく……?」
風羽 「はい。これが恋かと聞かれれば全く分かりません」
空閑 「す、菅野さん……そんなに簡単に決めちゃったら……だって、子供を産むって前提で」
風羽 「まだ続きがあります」
空閑 「あっ、うん」
風羽 「でも身体の奥底から何かが湧き上がってきたのです」
風羽 「あの人を放してはいけないと。離れてはいけないと」
空閑 「…………」
風羽 「もしかして“前世の記憶”というやつかもしれませんね。先輩との間に何かあったのやも」
風羽 「おぼろげなものではありますが……それでも私は自身の直観を信じます」


こう見えても人を見る目は多少あるのです。
そう少し得意げに、夕日に照らされながら笑う菅野さんは可愛かった。

僕は初めて自分が彼女に恋をしていたのだと気付いて、
そしてたった今、それがかなわない恋であるのだと悟った。





法月 「もうなんでもいいよ! そんなことより、ね、お祭り行こう!」
葉村 「また脈絡ない上に急っすね。つかどこで……」
法月 「さっきね、スガちゃんの実家の近くでやってるって聞いたの!」


とにかく自然な流れで二人きりにさせてあげたかった。



千木良くんの夏休み 5



正直ちーちゃんの突然の告白には驚いた。
今までそんなそぶりも見せなかったから。

でも分かるよ、ちーちゃんの気持ちは。
スガちゃんとってもいい子だもんね。

スガちゃんがちーちゃんの申し出にOKしたとき、
“悔しい”って気持ちよりなんでか分からないけど
“良かった”って気持ちの方が大きかった。

それは多分俺が二人のことを大好きだから、なのかな。


法月 「この後用事がある人手ーあげてー!」
千木良 「おい、ノリ……」
法月 「はい! 誰もいない! じゃあ皆でお祭り決定!」
米原 「法月、少し待とうな? えーと、用事あるヤツ本当にいないかー?」
戸神 「……。いねーみてーだなァ」
米原 「まあ、たまには遠出もいいかな? よーし、お前ら5分で仕度しろ!」
空閑 「ご、5分ですか?!」
法月 「よーし、一番に仕度終わらせるぞー!」
空閑 「あ、あわわわ」


おせっかいと言われようが構わない。

俺にはこれくらいしかしてあげられる事がないから。





千木良くんの夏休み 6



米原 「いやー、青春だねぇ」
戸神 「親父くせェな、ミサキ」
米原 「残念、親父なんだよもう」
戸神 「まだ20代後半だろ? これからだろ、これから!」
米原 「お前に慰められたくないよ俺……」
戸神 「しっかし、師匠は何考えてんだろなァ」
米原 「いいじゃん。青春」
戸神 「青春なァ……」
米原 「嫌なのか?」
戸神 「嫌じゃねーよ。風羽もいい奴だしなァ」
米原 「じゃあいいじゃん」
戸神 「でも風羽からは記憶が抜けちまってるんだぜ?」
米原 「うん」
戸神 「うんって……お前」
米原 「大丈夫だろ? 忘れないよ」
戸神 「いや、実際忘れてんだろ」
米原 「大丈夫、忘れない。……俺も、もし今祓玉を抜かれたとしてもお前のこと絶対忘れないから」
戸神 「ミサキ……」
米原 「な!」
戸神 「……十九波さんに俺を忘れないようにってお願いしたヤツの言葉とは思えねェな」
米原 「あ、そういうこと言っちゃうの!? あれは……ほら、若気の至り!」
米原 「今だったら絶対忘れない! 忘れても思い出せる!」
戸神 「はいはい。ほら、そろそろ5分経つぜ?」
米原 「あ、マジだ。俺何も仕度してねーや」
戸神 「……ミサキ、本当に適当な性格になったな」
米原 「お前のお陰でな」





あの月宿池で。
目を閉じたあいつから祓玉を抜いて。


再び目を開いた風羽は、俺とのことを何も覚えていなかった。


当たり前のことのはずが、その現実に少しばかり動揺した。
この俺が。たかが人間の娘の記憶ごときに振り回される。

……それほど俺の中で大きな存在になっていたということだ。


風羽は人の枠を越えている。
その内土地の記憶を視るだろう。そして全て思い出すだろう。


でも、視せられた記憶には“主観”が伴わない。


想いというものは強くて、そして脆い。
人として生きなければ、こんな感情を知ることはなかっただろう。



千木良くんの夏休み 7



広瀬 「結構混んでますね」
米原 「本当だなー」
戸神 「おい、お前ェらはぐれるなよ?」
風羽 「平気です」
葉村 「いや、空閑と法月先輩がヤバイと思う」
法月 「どういう意味? それって俺達がはぐれるってこと?」
葉村 「ああ」
法月 「そんなことないもん! ねー、空閑く……あれ?」
広瀬 「既にその空閑くんの姿が見えませんね」
風羽 「なんと」
米原 「しょうがない。ジャンケンして負けた奴は向こうの鳥居の下で待機。合流地点作っとかないといけないからな」
法月 「早くじゃんけんしよ! 空閑くんが心配だよ!」
米原 「はいはい。じゃあいくぞー? 最初は……」


時間経過。


広瀬 「確かに予想はしてましたけど」
千木良 「なんやねん」
広瀬 「いや、こうも筋書き通りだと捻りがないなって」
千木良 「ふーん」
広瀬 「…………」


急に黙り込んだ広瀬が気色わるい程にこちらを見る。


千木良 「何見とんねん」
広瀬 「皆、菅野さんに笑っていて欲しいんです」
千木良 「……?」
広瀬 「……今彼女を笑顔にできるのは、先輩だけですから」
千木良 「急に薄ら寒いこと言い出しよんな、お前」
広瀬 「菅野さんはちゃんと考えた結果、先輩と付き合うって決めたんですよ」
千木良 「…………」
広瀬 「自分で告白しておいたくせに、彼女の行動が分からなかったんでしょう」
千木良 「何が言いたいねん、ジミー」
広瀬 「真面目に答えてください」
千木良 「風羽のこと信じてない訳ないやろが。アホ」
広瀬 「ベタ惚れじゃないですか」
千木良 「悪いか」
広瀬 「いえ、別に。面白いだけです」
千木良 「…………」


突然の物言いに、少しばかり驚いた。

お前ちゃうやろ?
そんなこと人に言うキャラやないやろ?


広瀬 「このあと菅野さんがここに来ますから」
千木良 「?」
広瀬 「空閑くんが迷子になったのは狂言です。皆で仕組みました。菅野さんは知りませんけど」
千木良 「お前ら、なん――」
広瀬 「だから皆菅野さんの味方なんですよ。彼女の力になりたいんです」
広瀬 「先輩が何を考えて彼女と会ってあげないのかは分かりませんけど、ちゃんと話してあげてください」


……ああそうか。
キャラ崩すほど風羽に惚れとったってことか。






広瀬がどこかへ消えた後、少しして菅野が戻ってきた。



千木良くんの夏休み 8




風羽 「千木良先輩」
千木良 「よう」
風羽 「私が一番乗りですね。広瀬くんは?」
千木良 「遠いお空の星になりましたー」
風羽 「何と。広瀬くんに会おうと思ったら大変そうですね」
千木良 「…………」
風羽 「?」


風羽の目を見る。

別にジミーに言われたからという訳ではない。
確かに前から思っていたことではあった。


千木良 「……なあ」
風羽 「はい?」
千木良 「お前、どうして俺と付き合おう思たん?」
風羽 「直観で」
千木良 「……お前、こんな時までそれなんか」
風羽 「直観は大事です。それに自慢ではありませんが、私は人を見る目があるのです」
千木良 「じゃあ、俺はそのお目がねにかなったってことか」
風羽 「はい」



こいつに理屈は通用しない。
分かっていたはずだったが、いつからか忘れてしまっていたようだ。



千木良 「……なんや色々考えんのがアホみたいに思えてきたわ」
風羽 「何か?」
千木良 「いや。無駄に感傷的になっとっただけや。お前は気にせんでええねん」
風羽 「それでは逆に質問です」
千木良 「なんや」
風羽 「先輩は私のどこを好いて下さったのです?」
千木良 「…………」
風羽 「先輩は私のどこを好いて下さったのです?」
千木良 「……お前みたいな小娘に答えてやるのは千年早いわ」
風羽 「では、千年後になら答えて下さると」
千木良 「生きてへんやろ」
風羽 「ふむ。烏天狗はどのくらい生きられるのですか? そのくらいは軽いのかと勘違いしておりました」
千木良 「…………」


は?
思わず風羽の目をガン見する。


風羽 「む、もしや先輩は耳が遠いのですか」
千木良 「いやいや、お前がおかしなこと言い出したからやろ? なんで文脈に関係なく“烏天狗”いうワードが出てくんねん」
風羽 「先輩が烏天狗だからです。てっきり同じ種族になれるのだとばかり。違いましたか」
千木良 「ちょいまち」
風羽 「はい」
千木良 「俺は人間やろ?」
風羽 「人だったのですか? いつの間に……」
千木良 「風羽!」
風羽 「はっ」
千木良 「お前……まさか記憶があるんか?」
風羽 「それなりに」
千木良 「何でやねん!?」
風羽 「千木良先輩が抜かった所為です」
千木良 「……俺が?」
風羽 「口から祓玉を抜いたのは、私が初めてだったのでしょう?」
風羽 「そして多分余計なことを沢山考えておられたのでは?」
千木良 「…………」
風羽 「全部ではありませんが、私の中には貴方と過ごした日々が残っております」
風羽 「それは多分、私の中に祓玉が多少なりとも残っているからなのでしょう」
千木良 「……ありえへん」
風羽 「何故?」
千木良 「お前、俺を誰だと思うてんねん。天下の烏天狗様やぞ?」
風羽 「存じております」
千木良 「その俺が……失敗した、やと?」
風羽 「はい」
千木良 「…………」
風羽 「千木良先輩」
千木良 「ありえへんありえへんありえへん」
風羽 「事実です」
千木良 「風羽」
風羽 「はい」
千木良 「俺、耄碌(もうろく)したらしいわ」


言い終わらないうちに、目の前の小娘を抱きしめた。
驚いたのか、最初は身を硬くしていた。
が、そのうち俺の背に手を回し、めいっぱい抱きしめ返してくる。


風羽 「正しくは“徐々に思い出して行った”が正解ですね」
風羽 「皆さんと話していて思い出しました」
千木良 「もうそんなんどうでもええわ」
風羽 「良いのですか」
千木良 「ああ」
風羽 「もしや不安だったのですか?」
千木良 「……お前が思っとる以上に俺はお前にぞっこんやからな」
風羽 「おお……」
千木良 「ホンマ色気ないな、お前……しかし、何で黙ってたん?」
風羽 「思い出し方がおかしかったのです。まずは第三者視点で過去を思い出し、暫くして主観が伴いました」
千木良 「土地の記憶を見て、その後お前の中に残った祓玉が作用し始めたってことか」
風羽 「はい。……あの千木良先輩がまさか……と、最初は鳥肌が立ったものです」
千木良 「…………」
風羽 「しかしそれも直ぐに終わりました。後から来た感情で、貴方がいとおしくなって仕方なかった」
千木良 「あほ」
風羽 「ふふ。……先輩」
千木良 「ん?」
風羽 「私には記憶がありませんでした。なのに何故私をお選びに?」
千木良 「陳腐な言葉なんぞ並べとうない」
風羽 「良いではありませんか。大体今の貴方は“月宿高校二年生、放送部副部長千木良工”、ですよ」
千木良 「…………」
風羽 「先輩」
千木良 「あほ。……“好きだから”以外にないやろ」
風羽 「千木良先輩」
千木良 「なんや」
風羽 「元気な子供、沢山産みます」
千木良 「……おう、頼むわ」
風羽 「はい、任せて下さい」




人生において、必ずといっていい程用意されている選択肢。

貴方の選択次第で物語は幾重にも広がりを見せます。

だからこの物語もその一つに過ぎません。

貴方が辿る道かもしれないし、そうではないかもしれない。


――或る夏の日の物語でした。



(※公開は本日まで)