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Wolfwood side:
鏡を見ると、そこには醒めた視線を送る暗い色の瞳がワイを見とる。
トンガリに初めて会ぅた時、奴はちょっと自分に似てると思った。
その顔には「カラッポの笑い」が、常時張り付いとった。
それに気付いて「痛い」と感じたんは、ワイも時々同じ表情をしとるからやろう。
特に自分の育った孤児院に帰ってしまうと、この薄笑いは消そうとしても消えへん。
だからここ最近は、本来なら家ともいえる院に帰ることがでけへん。
子供等は好きや。
純粋で逞しい。
一緒に居ると心が暖かぁなる。
何をしてでもコイツ等を守ったろ思う。
けど、認めざるを得ないのんは、濁った空気を心地エエと思っとるワイもまた己の中に居るっちゅうところや。
護りたい者達を守る為、そして己が生きる為にとった手段が、そのままはね返って己の手を汚しとる。
その行為自体を愉しんどる時がある。
戦闘・血臭・緊張・硝煙・沈黙… 命の遣り取りは、体の奥に疼きにも似た快感をもたらす。
トンガリは撃合いに恐怖と嫌悪しか感じてへんようやが、戦闘時に於ける反応や適応はワイ以上で、自分の隣にそんな奴が居るのが愉しくもあり、邪魔臭くもある。
奴の行為や言葉は、己が汚れた手を握り締めて生きようと、やっとの思いで踏み出した重い一歩を、何の罪悪感も無くあっさりと払いよる。
そして悪いのは「己」だと言い、手を汚さずに生きろと、事も無げに言い放つ。
腹立つ奴っちゃ!
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story:
バスルームから出るなり、ウルフウッドが
「ムカツクわ!」
と言って、それまで髪を拭いていた濡れたタオルをヴァッシュの顔に投げつけた。
「なんなんだよ、いきなり~。僕、何かした?」
全く怒っているように聞こえない口調でヴァッシュが言い、タオルをベッドの背もたれに干す。
その柔らかな対応が妙に癇に障って、ウルフウッドの悪態は無意識の内に口を突いて出ていた。
「ははん、余裕なこって。人ならざる高貴なモンは早々腹なんぞ立てへんのんか?」
瞬時に空気が変わった。
「………何だよそれ…」
ウルフウッドはマズイと思い、取り成そうと口を開いたが、言葉を紡ぎ出すことはできなかった。
「今、なんて言ったの?」
そう問うヴァッシュの口調はやんわり、視線は鋭く、そしてウルフウッドは弁解する事も、誤魔化す事もできずに、成す術なくベッドの上に縫い付けられた。
「…カンニン」
その言葉を聞き終わる前に、ヴァッシュの手はウルフウッドの喉元を塞いでいた。
ウルフウッドは、決して口の端に上らせてはいけない言葉を口にしてしまった事を承知していた。
だから抵抗しようとは思わなかった。
ヴァッシュはウルフウッドが何かに苛立ち、その感情のままを自分にぶつけたのだとしたら、そのまま本音を見せて欲しいと思った。
しかし腕の中の男は意に反して抵抗を止めてしまった。
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Vash side:
「オドレがそうしたいんやったら、そうしたらええ」
僕の腕の下でウルフウッドは小さく言った。
その声が囁くほどにしか発せられないのは、僕が君の喉元を締め上げているから。
それなのに君はその優しい眼差しを僕に向けたまま、口元には微笑みさえ浮かべて言うのだ。
「オドレがそうしたいんやったら、そうしたらええ」
抱擁するような拒絶の言葉。
僕は手の平に君の体温を感じながら、ゆっくりと力を込める。
「ど…して…君は…いっつも…!」
締め上げられている君よりも、よっぽど掠れた声を絞り出して、僕は君に悪態をつく。
僕の瞳から溢れる涙は頬を伝うことなく、直接君に降り注ぐ。
冷たく滑らかな頬へ、僅かに寄せられた眉間へ、閉じられようとしている瞼へ、次第に蒼ざめる唇へ。
僕は僕の涙で濡れる、蒼ざめて微かに震えるその唇に口付けた。
そしてそのまま君の頭を掻き抱く。
君は小さく咳き込んで脆音を鳴らし、呼吸を整える。
そうしながらも、嗚咽する僕を優しく抱きしめる。
抱きしめながらも、やはり、容赦なく、僕を拒絶する。
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Wolfwood side:
「ど…して…君は…いっつも…!」
トンガリは消え入るような声でそう言いながら、ワイの喉元に巻きつけた手にゆっくりと力を込めていった。
オドレがそうしたいんやったら、そうしたらええ
もう声に出す事もできひん、繰り返し囁いた言葉。
オドレの望むようにしてきたつもりやってんけど、どうして届かへんのやろな…。
何が足らん?
オドレの顔を見ててやりたいんやけど、瞼が言うこと聞かへん。
視界が狭なってくる。
その暗い上からオドレの位置を示すように、熱い涙が降り注ぐ。
頬へ、額へ、瞼へ、唇へ。
己のもんは疾うに枯れ果てとるけど、オドレのもんでその感触と味を思い出す。
遠退く意識の先から唐突に与えられた、優しいキス。
続いて縋り付くような、がむしゃらな抱擁。
戒めが解かれ、ワイは肺に新鮮な空気を採り込みながら、オドレの体に腕をまわす。
これで足りるとは思ってへんけどな。
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story:
二人はそのまま絡み合う。
静寂を喘ぎ声が支配する。
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Wolfwood side:
ワイがトンガリに初めて会ぅた時「辛くてしゃあないクセに我慢して笑っとる」って思ぅたけど、二度目に見つけて、一緒に旅する内に「コイツの笑顔を本気のものだけにしてやることが出来た時、ワイも本気の笑顔だけを浮かべる事が出来けようになっとるかもしれん」と思うようになっとった。
何時の間にか、トンガリに全幅の信頼を置いといる己が居った。
己ですら見失っとった奥深い所を、この旅のツレは容赦なく暴いていきよる。
そしてワイは、時には心から笑ろとるし、コイツに背中を、それどころか己の体の全てをも、預けるようになっとる。
信じられへん…このワイが!
はっ!
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story:
夢現にまどろんでいるヴァッシュの横で、不意にウルフウッドが笑い出した。
それもクスクスといった忍び笑いではなく、少し正気を疑うような大笑いである。
ヴァッシュは少し苛め過ぎただろうかと不安になり、ウルフウッドの顔を覗き込む。
ウルフウッドはヴァッシュが向けた視線の意味を正確に感じとって、
「ワイが狂うたのはオドレのせいや」
とだけ言い、そのまま掠れた声で笑い続けた。
ヴァッシュはどうしたら良いのか分からず、ただウルフウッドを抱きしめた。
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END
by chibiinu
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