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毎日新聞朝刊1面の看板コラム「余録」。▲で段落を区切り、日々の出来事・ニュースを多彩に切り取ります。

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解体されるはずだった中野サンプラザが…

塀に囲まれた中野サンプラザ。閉館に伴って手前の広場も閉鎖されたが、今は再び開放されている=2025年6月21日、日下部聡撮影
中野サンプラザのクロージングセレモニーで同社の金野晃会長に花束を手渡すサンプラザ中野くん(中央左)=東京都中野区で2023年7月2日、幾島健太郎撮影

 解体されるはずだった中野サンプラザが今も建ったままだ。東京・中野駅前の一等地である。個性的な三角形のビルは塀で囲われ、白い壁面には汚れが目立ち始めている▲国内外の有名ミュージシャンとファンに愛されたコンサート会場は、2年前に惜しまれながら閉館した。2029年度までに最大7000人収容のホールを備えた複合施設に生まれ変わる予定だった。ブレーキをかけたのは資材や人件費の高騰である▲再開発事業者の大手デベロッパーは当初の計画を変更し、収益の見込める住宅部分を増やした「ツインタワー」案を中野区に提示した。これに区議会から「タワーマンション化するだけではないか」と批判が相次いだ。区は事業者との協定解除を議会に諮り、今年6月に全会一致で可決された。計画は白紙に戻った▲酒井直人区長は「100年先も区の顔となる場所で進める提案としては、十分でないと判断した」と説明している。公共性を優先した区と議会の決断は理にかなっている▲近年、各地で進む再開発の多くは高層ビルやタワマンとセットである。新たに生み出したフロアを売ることで建設費を捻出できるためだ。しかし、人口減少が進む日本で持続可能なモデルといえるのか▲サンプラザは築50年あまり。区は新たな再開発の道を探るが、区民からは改修して再利用を求める声も上がる。必要なのは少子高齢化時代にふさわしい柔軟な発想だろう。行政と住民が知恵を出し合う貴重な機会になるかもしれない。

塀に囲まれた中野サンプラザ。閉館に伴って手前の広場も閉鎖されたが、今は再び開放されている=2025年6月21日、日下部聡撮影

中野サンプラザのクロージングセレモニーで同社の金野晃会長に花束を手渡すサンプラザ中野くん(中央左)=東京都中野区で2023年7月2日、幾島健太郎撮影

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