「モンスターペアレントの虚言」を鵜呑みにした福岡「でっちあげ」事件の真相 「学校」「教育委員会」「マスコミ」「弁護士」が善良な教師を「殺人教師」に仕立て上げた【映画公開】
検討も検証もしないまま
次いで当時の学校の対応を厳しく批判した。 「教員の児童に対する体罰やいじめを巡って、教員と保護者の間で対立が生じた場合、学校運営の責任者は、できるだけ公平中立な立場で、客観的な証拠を中心に事実関係を把握し、妥当な解決を図るべきである。 しかるに、校長と教頭は、事実を十分に解明することもないままに、申立人(教諭)の側に不適切な言動があるとして、申立人に謝罪するよう指導し、他方、裕二の両親の『抗議』内容の真偽については十分な検討も検証もしないまま、裕二の両親の要求を次々と受け入れているのであり、その結果、両親による『抗議』が正当なもので、申立人が極度の差別意識を持った暴力教師であるかのようなイメージが作り出された」(要約) そして市教委もまた、この校長らの報告を鵜呑みにして、教諭の弁明に耳を貸すことなく、浅川側の言い分に偏った処分を下したのである。判定文は結論として、「本件処分は裁量権を著しく逸脱しており、これを取り消すのが妥当である」と述べる。
組織が判断したこと
教諭の代理人弁護士は、「教諭の言動がいじめか教育的指導かを真正面から判断するなど、非常に常識的な判定をしてくれた」と評価。 市教委は、「人事委の判定を厳粛に受け止める。判定の内容については全面的に認める。この判定に対する再審請求はしない」とコメント。それならば、誤った処分を下した当時の担当者に対して責任を問うことはしないのかと尋ねると、「個人ではなく組織が判断したことなので処分は考えていない」と言う。 担当者であった当時の市教委教職員第1課長に質すと、「今回の判定は非常に重く受け止めている。しかし、組織による判定なので、個人的なコメントは差し控えたい」。
筆舌に尽くしがたいつらさ
浅川夫婦の代理人弁護士にも連絡をしたが、電話口にすら出なかった。毎日新聞には、「裁判所が認定した事実があるのに、なぜこんな結論になるのか。全く理解できない信じがたい判定だ」と怒りのコメントをしていたが。 そもそもこの判定が民事訴訟の判決以前に出されていれば、教諭の体罰やいじめが一部認定されるなどということはなかったはずだ。いや、市教委は、裁判の過程で、この事件がモンスターペアレントによるでっちあげであることはよくわかったはずである。判定を待つまでもなく、メンツや体面を捨てて自らの処分の過ちを認めていれば、教諭が長く冤罪に苦しむこともなかったのである。 その教諭は既に教壇に復帰しているが、今回の判定についてこう言う。 「この10年間のつらさは本当に筆舌に尽くせません。今回の判定はようやく私の主張を聞き入れてくれたもので、溜飲が下がる思いです」 公平性を欠いた理不尽な懲戒処分が、一人の善良な教師の教師生命、いや、社会的生命までも葬り去ろうとしたことを、市教委は肝に銘じるべきである。 *** 事件から22年、教育現場には変わらず、いや当時にも増して「モンスターペアレント」が蔓延り、教師や学校はその対応に疲弊している。教師や学校を蝕む「モンペ」の危険性は全く変わらないままだ。 【前編】では、事件の概要、そして裁判で一審、二審とも、児童両親側の主張が主要部分で退けられた経緯について記している。 福田ますみ(ふくだ・ますみ) 1956(昭和31)年横浜市生まれ。立教大学社会学部卒。専門誌、編集プロダクション勤務を経て、フリーに。犯罪、ロシアなどをテーマに取材、執筆活動を行っている。『でっちあげ』で第六回新潮ドキュメント賞を受賞。他の著書に『スターリン 家族の肖像』『暗殺国家ロシア』『モンスターマザー』などがある。 デイリー新潮編集部
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