「モンスターペアレントの虚言」を鵜呑みにした福岡「でっちあげ」事件の真相 「学校」「教育委員会」「マスコミ」「弁護士」が善良な教師を「殺人教師」に仕立て上げた【映画公開】
6月27日、映画「でっちあげ〜殺人教師と呼ばれた男」が公開された。 この映画、実話が原作である。2003年、福岡市の小学校教師が、担任児童を自殺強要や、凄惨な暴力でPTSDによる長期入院に追い込んだとされ、マスコミに「殺人教師」とまで報じられた「教師によるいじめ」事件――。ノンフィクション作家の福田ますみ氏は現地で取材を重ね、この一連の事実は児童両親による「でっちあげ」だったことを明らかにした。その顛末をまとめた著書『でっちあげ 福岡「殺人教師」事件の真相』(新潮文庫)は、第6回新潮ドキュメント賞を受賞した。 【写真】ホラー級に恐ろしい「モンスターペアレント」を演じた女優とは…映画「でっちあげ」の豪華キャスト
作品のリアルなストーリーや心理描写は、この実話が根底にあるからこそである。 福田氏は、2013年3月号の「新潮45」誌で、この事件の深層レポートを寄稿している。映画公開を機に、同記事を再録し、事件から22年後の今でも教師や学校を蝕む「モンスターペアレント」の危険性を改めて考えてみよう。【前編】では、事件の概要、そして裁判で一審、二審とも、児童両親側の主張が主要部分で退けられた経緯について記した。【後編】では、市教委による教師への懲戒処分が取り消された経緯について詳述する。 【前後編の後編】 【福田ますみ/ノンフィクション作家】 (以下は、「新潮45」2013年3月号記事の再録です) ***
なぜ誰も責任を取らないのか
私は、2審の判決までを『でっちあげ 福岡「殺人教師」事件の真相』(新潮文庫)と題して一冊の本にまとめた。 しかし教諭の闘いはこれで終わったわけではなかった。裁判のために中断されていた懲戒処分(停職6か月)への不服申し立ての審理がこの後再開され、ようやく(2013年)1月17日、判定が言い渡されたのだ。 審理の過程は非公開であるため、処分が取り消された理由を、判定文の内容に沿って検証していくこととする。
供述はいずれも信用できない
まず、教諭が、ミッキーマウス、アンパンマン、ピノキオといった体罰を家庭訪問の翌日から行ったとする浅川裕二(被害を訴えた児童・仮名)側の主張に対しては、「家庭訪問から二十日間近く経過した後に、はじめて抗議したというのは、合理的な説明が不可能であって、和子(児童の母・仮名)と卓二(児童の父・仮名)の供述、さらに裕二の供述は、いずれも信用できない」(要約)と明快に論じた。 また10カウントやランドセルをゴミ箱に置く、あるいは入れる行為にしても、裕二は強い指導を必要とする児童であるため、教育的な指導として行われたにすぎないと判断。ただし、ランドセルをゴミ箱に入れる行為は行き過ぎだとした。 家庭訪問での「血が混じっている」発言にしても、教諭が供述する会話は自然で十分信用できる。反対に、浅川和子が主張する家庭訪問の経緯は「虚偽というべきである」と断じる。なぜなら、児童の曾祖父がアメリカ人と聞いただけで差別意識をむき出しにするというのは、「教員としては稀に見る特異な人物ということになる」「しかし、本件の各証拠からは、申立人(川上教諭)がそのような人物であることを窺わせる形跡は皆無である」。また、体罰についての検証と同様、「家庭訪問から二十日間近くも経過した後に、はじめて抗議したというのはいかにも不自然である」。 教諭が「アメリカ人」「髪の赤い人」と発言したと認定した根拠は主に、校長が事件後、裕二のクラスの子供たちを対象に、教諭の体罰行為などについて聞き取り調査をした結果である。「先生が じゅぎょう中やゲーム中に アメリカ人のことや 髪の毛のこと などを みんなの前や一人の子どもに言ったりしたところを 見たり 聞いたり したことが ある ない」との質問に16名の児童が「ある」と回答したためだ。 しかし判定では、「聞き取り調査はあまりにも漠然としていて、児童がどのような意味として理解し回答したのかが明らかではなく、申立人(教諭)が差別的発言をしたことの裏付けとすることはできない」(要約)とした。こうして、いじめの事実も否定した。