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「リクエスト」”誤審”問題──リクエスト制度の限界と構造的問題

2025年5月27日、神宮球場で行われたヤクルト対中日の一戦は、試合後も大きな波紋を呼びました。話題の中心は、8回表に起きた「リクエスト」判定です。中日の打者が放った打球がライトポール付近に飛び、フェアかファウルかが問われたこのシーン。審判団はビデオ検証の末に「ファウル」と判定しましたが、その後の報道で「誤審」であった可能性が高いと伝えられ、多くのファンや関係者の間で議論が巻き起こりました。

この問題、果たして何が原因で、どこに責任があるのでしょうか?表面だけをなぞれば「審判団の判断ミス」とされがちですが、本質はもっと根深いところにあります。本記事では、この判定を通して、日本プロ野球における「リクエスト」制度の限界と構造的な課題を掘り下げます。

「あえて間違えるはずがない」──では、なぜ誤審が起きたのか?

まず前提として、審判員が誤審を”わざと”することはあり得ません。注目度が高く、勝敗を左右しかねない場面で、あえて誤った判定を下して非難を浴びる理由など、どこにもないのです。審判員にとって最も望ましいのは、何事もなく静かに家路につけることなのです。

では、なぜ誤審が起きたのか?

原因は大きく分けて3つあると考えられます。

  1. 設備・システムの問題

  2. 審判員の能力・体制の問題

  3. 制度・ルールの問題


① 設備・システムの問題:民放頼りの“家庭用リプレイ”

最大の問題は、そもそも使われているリプレイ検証のシステムが極めて原始的であるという点です。現在のプロ野球では、審判控え室で民放の中継映像を家庭用録画機器で録画・再生し、その映像を頼りに判定を行っています。

これには以下のような致命的な問題があります:

  • 欲しい映像を“選べない”

    • テレビ局側がどの角度の映像をいつ出すかに完全に依存しているため、核心部分を映したカメラ映像が放送されなければ、そもそも確認すらできません。

  • 映像が出るまで“待たされる”

    • また欲しい映像があるかないかがまだわからない状態で、ずっと待ち続けることになります。

つまり、「どの角度から見たいか」を自分たちでコントロールできないという時点で、フェアな判定が下される土台が欠けているのです。

これがMLBやWBCなど国際試合で使用されるシステムとは大きく異なる点です。本来であれば、審判団自身が任意のカメラアングルを選び、スロー再生・ズームなど自由に操作できるシステムが求められます。


② 審判員の能力・体制の問題:責任と教育の不在

今回のケースでは、“ボールがライトポールに隠れる”瞬間が映った映像が存在していたと報じられています。もし審判団がその映像を実際に確認していたとすれば、それでもなお「ファウル」と判断したことについて、映像の読み取りや判断の精度に問題があった可能性も否定できません。

その根拠として、NPBの審判員の中には、論理性を欠いたプレイの見方をしてしまうケースも散見されます。個々の能力にはばらつきがあり、審判教育や評価の仕組みも不透明です。

こうした現状が事実であれば、審判の育成・評価・再教育体制を根本から見直す時期に来ているのではないでしょうか。


③ ルールの問題:5分以内の検証時間、すべてを現場任せに

制度面でも大きな問題があります。NPBのリクエスト制度では、「検証は5分以内」と定められており、その限られた時間内に、

  • グラウンドから控室へ移動

  • 該当映像を探す

  • 複数人で協議し、結論を出す

  • 再びグラウンドへ戻り、結果を告げる

という全工程を、現場の審判団だけで行わなければならないのです。

このプロセスにかかる心理的プレッシャーは計り知れず、冷静な判断力を保つことは極めて難しい環境にあります。MLBのように、現場とは別に専任の「リプレイ審判チーム」を設け、試合中にリアルタイムで映像チェックを進めておく体制が必要です。

さらに、現在のNPBでは、「三人の多数決」で最終判断を下していますが、その根拠となった映像を後から開示・評価する仕組みが存在しません。これでは、誤審の責任の所在が曖昧なままとなり、改善にもつながりにくいのです。


落ち度の9割はNPB

中日は今回の判定に対し、意見書を提出する意思を表明しています。この判断によって逆転の可能性が潰されたということを考えると、その動きは当然のこととも言えます。

ただし、意見書の内容は審判員個人への糾弾ではなく、現行の「リクエスト制度」そのものの見直しを求めるものであるべきです。

審判員を責めるだけでは、何も解決しません。なぜなら、この問題は「現場対球団オーナーたち」という構図であるからです。

現行の制度は、各球団のオーナーたちが設備投資を渋る代わりに、審判団に文句を言わないという“黙契”のもとに成立しています

つまり、NPBおよび各球団が劣悪な検証体制のまま放置している構造的な責任があり、審判団を批判するのは筋違いです。

この構図を「チーム対審判」という対立で語ってしまうと、本質を見誤る危険性があります。むしろ問題の本質は、「現場 対 NPB(=球団オーナー)」であり、責任の矛先をどこに向けるべきか、今一度ファンも冷静に考えるべきでしょう。


最後に:正しい判定のために、いま必要なこと

誤審はスポーツに付き物とはいえ、「映像による検証」という技術を導入した以上、その制度設計と運用においては責任が伴います。選手が一打に魂を込め、チームが一球に全てを懸けている以上、「正しい判定」は最低限の保証でなければなりません。

  • 審判団が映像を自在に操作できるシステムの導入

  • 専任のリプレイ担当の常設

  • 検証プロセスと判断根拠の可視化

  • 審判教育と評価制度の透明化

こうした改善がなされて初めて、「リクエスト制度」は本来の機能を果たし、プロ野球の判定に対する信頼も取り戻されるはずです。日本のプロ野球が、誰もが納得できる“リプレイ検証”を実現するリーグへと進化できるかどうかが、今まさに問われています。

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コメント

1
joyous_curlew247
joyous_curlew247

初めまして。
前々から審判の判断にも有益なはずの映像判定技術の更新があまり進まない事にはあまり良い印象を持っていませんでしたが、改善のためには球場設備への投資も重要なのですね。
SNSでは熱狂的野球ファンが応援チームに都合のよくないジャッジの度に審判の名前を挙げて危害願望を叫んだり、批判というには行き過ぎた発言をしている場面も見かけます。
この状況が悪化すれば今後プロ野球の試合について、よりSNSで発信することを制限せざるを得なくなっていくでしょう。
一刻も早く必要なテクノロジーの導入がされ、審判の職を全うする方々がより正確にかつスムーズなジャッジを下せるようになることを願っています。

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「リクエスト」”誤審”問題──リクエスト制度の限界と構造的問題|松田貴士(まつだたかひと)
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