大内裕和教授(現武蔵大学、前中京大学)の研究不正調査に係る損害賠償請求控訴事件「控訴理由書」 (暫定版)


 大内裕和・武蔵大学教授の著作に関する研究不正(盗用・捏造)調査がずさんな形でなされたとして、告発者の筆者(三宅)が、調査を行った中京大学と武蔵大学を相手どって起こした損害賠償請求訴訟の控訴審の期日が指定された。8月26日午前10時30分、東京高裁826号法廷である。一審東京地裁判決は、例外的にはあっても告発者の保護利益はあるとしながら、被告らの調査は研究不正制度の趣旨等に照らして著しく不相応ではなかった、などとして原告の請求を棄却した。これを不服として私が控訴したものである。
 昨日、控訴理由書を提出した。ご紹介したい。なお敬称は省略している。なお、現在大幅な手直しをしており、近日中に改訂版に差し替える予定である。
 
東京高裁 令和7年(ネ)2504号 
控訴人(原審原告)三宅勝久
被控訴人(原審被告)学校法人梅村学園(中京大学)、学校法人根津育英会武蔵学園(武蔵大学)


第1 事案の概要等

1 概要

 本件は、訴外大内裕和教授(以下「大内」という)の著作に盗用・捏造など研究不正の疑いがあるとして、控訴人が被告らに対して告発を行ったところ、被告梅村学園(以下「中京大学」という)は、予備調査を実施した結果、不正の疑いはなかったとして本調査不要と結論づけ、被告武蔵学園(以下「武蔵大学」という)は、本調査を実施した結果、不正等にはあたらないと結論づけたことについて、これらの調査のあり方が研究不正防止制度の趣旨・目的に照らして著しく不合理であるほか、調査結果等の情報公開義務にも反する行為があったとして、告発者の期待権侵害等による不法行為に基づく損害賠償を求めた事案である。

2 原判決の判断
 原判決は次のとおり判断し、控訴人の請求を棄却した。

(1)調査に関する判断
 ア 判断枠組み
 研究不正防止制度は告発者の保護を目的としたものではないが、調査のあり方が不当な目的でなされるなど著しく制度の趣旨に反する場合は(例外的に)違法となる。
 イ 中京大学の予備調査について
 大内の弁明には相応の理由があるものと判断したものであると認めることができ、このような判断が著しく不相当とまではいえず、研究不正行為の調査をする権限の趣旨に明らかに背いたものとまでは認められない。
 ウ 武蔵大学の調査について
 調査方法や判断内容について、規程に基づいて研究不正行為の調査をする権限の趣旨に明らかに背いて判断をしたと認められるような事情はみあたらない。(調査委員会の判断は)相応の検討の上でなされたものであって著しく相当性を欠くものとは言えず、研究不正行為の調査をする権限の趣旨に明らかに背いたものとまでは認められない。

(2)情報公開に関する判断
 ア 中京大学
 中京大学研究不正防止規程20条8項は、文科省ガイドラインを踏まえて、「倫理委員会は本調査を実施しないことを決定したときは、その理由を付して告発者及び被告発者に通知する。このときには、配分機関や告発者の求めがあったときに開示することができるよう、予備調査に係る資料等を保存するものとする。」と定めているものの、予備調査に係る資料等の中には、研究者の公にしていない研究上の秘密情報や研究機関の業務遂行上開示することが相当でない情報も含まれ得ることからすると、上記条項により直ちに告発者が被告梅村学園に対して予備調査に係る資料のすべてを開示請求することができると解することはできない。梅村学園は、学校法人梅村学園情報公開・開示規程に則って検討して中京大学予備調査報告書のみを開示することとしたものであって、このような措置が違法なものということはできず、原告(控訴人)の主張する説明義務違反があるということはできない。イ 武蔵大学
 文科省ガイドラインを踏まえた武蔵大学研究不正防止規程30条は、1項において、認定を含む本調査の結果について、告発者等に通知することとし、2項において、文部科学省等に対し、上記の通知に加え、調査結果を報告するものとしていることからすると、被告武蔵学園は、原告(控訴人)に対し、武蔵大学による本件調査について、同条1項に基づく通知義務を負うものの、これを超えて武蔵大学本調査報告書の開示義務を負うものとは解されず、本件調査報告書等の開示義務を負うものとは解されない。このほかに被告武蔵学園は原告に対する本件調査について説明義務を負うとする根拠はみあたらない。説明義務違反があったということはできない。

3 審理不尽による判断の誤りがある
 被控訴人らの調査の態様及び調査結果は、研究不正に関して被控訴人が定めた学内諸規程や文部科学省研究不正防止ガイドライン(甲1、以下「文科省ガイドライン」という)、及び社会通念等に照らしていちじるしく不合理かつ相当性を欠いており、研究不正行為の調査をする権限の趣旨に明らかに背いたものであった。また研究不正防止制度の趣旨に照らして、被控訴人らに情報開示にかかる義務違反もあったというべきである。大内の弁明内容や被控訴人らの判断過程には、多くの矛盾がみられる。原審は証人調べを行っておらず、十分に事案を解明したとはいいがたい。原判決には審理不尽による判断の誤りがある。

第2 被控訴人らの調査は著しく制度の趣旨に反する

1 被調査者に証明責任があること

 本件各調査は、文科省ガイドライン(甲1)を踏まえて作成された「武蔵大学における研究活動上の不正行為防止等に関する規程」(甲13)または中京大学の「研究活動及び研究費の取扱いに係る不正防止及び不正行為への対応に関する規程」(乙2)に基づいて実施された。不正の疑義が生じた際の調査を実施する際には、

①盗用・捏造・改ざんなど特定不正行為の疑義を晴らす証明責任は被調査者が負う。研究者はデータや資料の保管義務を負い、疑義が生じた場合はそれらを示して証明しなければならない。
②疑義に対して証明できない場合は不正と認定し得る。疑義の生じた研究行為の原因が故意のみならず重過失にある場合(研究者としてわきまえるべき基本的な注意義務を著しく怠ったことにある場合)も不正と認定する。
③盗用については、直接引用や間接引用によって先行論文等の内容を区別せず、著者の独自のもののように記載したような場合は、不適切な引用として盗用に該当する。

――との考えを基本とする制度設計になっている。
(控訴人準備書面6・1頁18行目~2頁9行目、同準備書面8・2頁19行目~3頁2行目)

2 著しく相当性を欠く調査とはなにか

 文科省ガイドラインは「不正行為に対する基本姿勢」としてこう述べている。

 研究活動における不正行為は、研究活動とその成果発表の本質に反するものであるという意味において、科学そのものに対する背信行為であり、また、人々の科学への信頼を揺るがし、科学の発展を妨げるものであることから、研究費の多寡や出所の如何を問わず絶対に許されない。また、不正行為は、研究者の科学者としての存在意義を自ら否定するものであり、自己破壊につながるものでもある。
 これらのことを個々の研究者はもとより、科学コミュニティや研究機関、配分機関は理解して、不正行為に対して厳しい姿勢で臨まなければならない。

(甲1・5頁冒頭付近)

 研究不正行為は科学に対する信頼を揺るがし、その発展の妨げにつながることから、「不正行為に対して厳しい姿勢で臨」むべきとする基本理念のもと、不正行為の疑いが生じた場合には自律的に是正をはかるというのが文科省ガイドラインや学内諸規程で定めた研究不正防止制度の趣旨・目的である。そうすると、研究機関において、不正の疑義があることを認識しながら厳しい姿勢を取ることなく看過する、または隠蔽するといった態様で調査が行われれたような場合は、研究不正防止制度の趣旨・目的を没却することにつながり、著しく不相応であるといえる。例えば次のような調査が該当するといえる。

 ・研究者コミュニティの常識で不正と認定され得る事案であるにもかかわらず、特段の理由なく不正ではないとするといった社会通念に著しく反した判断を行う
 ・客観的にみて疑義が明らかであるのに調査をしない
 ・疑義に対して説明が不十分・不合理であるにもかかわらず看過する
 ・規程等の解釈を誤る、またはゆがめる
 ・架空の事実、捏造した事実を前提にして判断する
 被告らの調査の態様は、上に例示した例に比類する著しく不相応なものであった。

第3 中京大学の予備調査について

1 「意見書」による大内の弁明は不十分かつ不合理であった

 中京大学不正行為予備調査委員会(以下「予備調査委員会」ということもある)は、被調査者である大内に対して弁明を求め、順次計3通の「告発にかかる意見書」の提出を受けた(甲45〜47、以下「意見書」もしくは「意見書1~3」という)。
 意見書1(2020年9月23日付)は控訴人の当初の告発(甲14、大内記述1・3関係)に対する弁明であり、意見書2(同年10月13日付)及び意見書3(同年10月27日付)は、追加の告発(大内記述2をはじめとする雑誌「選択」との類似がみられる記述多数=「大内記述2等」という)に対する弁明である(甲15~18)。意見書2と意見書3は告発対象の記事等が異なるだけで内容はほぼ同趣旨である。
 意見書の結論は、大内記述1、大内記述2等、大内記述3について、いずれも盗用・捏造等の不正にはあたらないとの趣旨である。しかしながら、その根拠に関する説明は不十分であり、不正の疑義を払拭するに程遠いものであった。

(1)「回収データ」の根拠が説明されていない(大内記述1・盗用)

 大内記述1の告発(盗用)に対する意見書1の弁明についてみると、「たとえば2012年度の債権回収業務を担当した日立キャピタル債権回収株式会社は21億9545万3081円を回収し、1億7826万円を手数料として受け取っています」という記述(以下「記述A」という)のうち、日立キャピタル社の債権回収額と受け取り手数額(以下「回収データ」という)の根拠が説明されていない。(控訴人準備書面6・8頁17行目〜12頁1行目参照)
 なお、この回収データに関する説明の欠落が単なる不注意で生じたとは考えにくい。大内の説明要領は、前記記述Aを、まず「⑧日立キャピタル債権回収会社の回収と手数料」と要約し、続いてその要約を「⑧については…論じています」と説明している。このような二段階に分けた複雑な説明方法をあえて採る必然性はみられないことから、回収データについての根拠を説明できなかったため、その部分を省いて要約し、その要約内容のみを説明することですべて説明したかのような印象を与えようとしたものと推認できる。(甲45・2頁2行目、及び3頁10~14行目)

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