<ミャンマーの声>
4年前に軍事クーデターが起き、内戦が続くミャンマーから日本に留学する若者が増えている。だが、借金してまで来日してもアルバイト先が見つからず、生活に困窮する留学生もいる。日本政府は外国人留学生の増加を目指しているが、受け入れ後の支援態勢は整っているだろうか。(北川成史、中川紘希)
◆4月から日本語学校に留学したのに…憤り
「留学前に聞いた話と違う」。ミャンマー人男性のウィンさん(22)と女性のミンさん(23)=ともに仮名=は憤りを表す。
3月、友人ら20人以上と留学ビザで来日。4月から甲信越地方の日本語学校に通っている。学校は県庁所在地から電車で50分ほど離れた市にある。
2人はミャンマー中部バガン出身。世界遺産登録された仏教遺跡がある観光地だ。ウィンさんは英語専攻の大学生、ミンさんは伝統美術の専門学校生だった。
◆「軍政下の教育は受けたくない」
2021年2月のクーデターが人生を変えた。国軍がアウンサンスーチー氏率いる国民民主連盟(NLD)政権から実権を奪った。2人は「軍政下の教育は受けたくない」と通学をボイコットする「市民不服従運動(CDM)」に加わった。
その後、国軍と民主派や少数民族との内戦が激化。劣勢になった国軍は昨年、18歳以上を対象に徴兵制の運用を始めた。影響は2人の身辺にも及んだ。
「兄が徴兵候補に選ばれた。兄は身を隠したが、次は自分の番が来る」とウィンさんは振り返り、留学を決意した理由を語る。「平和な日本なら徴兵の心配もなく教育を受けられる」
◆恋人が「君は早く逃げた方がいい」
ミンさんも「徴兵候補になった恋人に『君は早く逃げた方がいい』と言われた」と明かす。両親が生業とするアクセサリー製造は、クーデター後の混乱で売り上げが激減した。「日本で勉強して仕事に就き、親を助けたいと思った」
2人は自国内で日本語を勉強し、仲介業者の手引きで留学先が決まった。半年分の学費や寮費を含め、日本円換算で1人約170万円を支払った。
両親が観光客向けのレンタルバイク店を営んでいたウィンさんは「親が土地やバイクを売って費用を工面した」、ミンさんは「親が親戚に借金するなどして用意した」と話す。
◆「学費未納で退学になると不法滞在に」
日本での生活費について仲介業者からは「私たちや学校がバイトを紹介するから心配しないで」と説明されたという。ところが来日後、バイトの紹介はない。
地方都市で求人自体が少なく、日本語能力が不十分な外国人の場合、選択肢がさらに限られるのが実態だった。学校に相談しても「ちょっと待って」と言われるばかり。同時に来日した20人以上の大半が、バイトを見つけられていない。
寮として、ウィンさんは一軒家に8人、ミンさんはアパートの部屋に5人で暮らす。家賃は1人月4万円で、光熱費は含まれず、賄いはない。長く日本にいるミャンマー人から食事の支援を受けながら生活しているが、10月以降半年分の学費や寮費計約100万円の支払期限が迫り、勉強に手がつかない。
ミンさんは「未納で退学になると不法滞在になってしまう。親は『収入がなく、助けられない』と泣いている」と顔を曇らせる。ウィンさんは「バイト先の多い東京や大阪の系列校に転校させてほしい」と望みつつも「日本語でうまく説明できないし、学校に嫌われるのが怖いので、言い出せない」と吐露した。
◆失われた「アジア最後のフロンティア」
国軍による民主派への弾圧や内戦で、ミャンマーは不安定な情勢が続く。
地元人権団体によると、クーデター後、国軍に6800人以上が殺害され、計2万9000人以上が拘束された。国内避難民は国連推計で300万人を超える。
世界銀行は12日、ミャンマーの25年度の実質国内総生産(GDP)が、3月に発生した大地震の影響もあり、2.5%減少するとの見通しを発表した。
「アジア最後のフロンティア」と飛躍が期待されたクーデター前の姿はなく、日本に夢を託すミャンマーの若者は後を絶たない。
◆日本のビザ求め1日600人が大使館に
昨年9月まで駐ミャンマー日本大使を務めた丸山市郎氏は最近の講演で「徴兵制実施以来、留学や技能実習のビザを得るため、1日600人以上が日本大使館を訪れている」と話した。
出入国在留管理庁によると、昨年末の...
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