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  『 42 』








うちのリビングには、大きな鏡があるの。
金色の額で、ちょっとアンティーク。
あたし、鏡に顔を寄せる。
皺、・・・・・・無いわ。
肌、・・・・・・つやつや。
唇、・・・・・・ぷりぷり。
いつも通り、綺麗だわ。
にこっ、って笑ってみる。
ううん、キューティー!
グレートキューティー・・・・・・・・なんだけど。

この頃悠河クンがお疲れ気味な気がするの。
なんだか時々
「・・・・胃が痛い・・。」
とか言ってるし。
肌なんか透けるみたいに白くなっちゃって、
顔なんかいよいよシャープで、
目元に憂いが漂ってる、ってカンジなの。
かっこいい、ってかお耽美でそれもいいんだけど。
でも、奥さんとしてはちょっと心配。

なんかテンション上げてあげる方法ないかしら。
あたしは腕組みして考える。
料理とか掃除とか、そーゆーのはダメ!ムリ!
とすると、やっぱあたしの得意分野しかないわよねえ。
うーん、ってかんがえながらクロゼットをひっくり返す。



















はふ~、今日もなんだかへとへと。
配置転換やら、歓送会やら、どーして年度末ってのはこう忙しいんだろ。
お陰でこの頃、俺はいささか疲れ気味。
でもって、かわいい俺の・・・・あっ、俺のだって、
そう、『俺の』奥さん・・・・じゃなくて、
『俺のりかちゃん』とも、いささかコミュニケーション不足かも。
りかちゃん、時々上目でじーっと見てなんか言いたそうなんだけど、
で、そのままおっきな目に吸いこまれる気分で俺寝こんじゃうからなあ。
ちょっとは元気ださないと。


とか思いながら、勢いつけて階段二段抜かしで駆け上がる。
ドアの前で、大きく息を吸いこんで。
「りっかちゃ~~~~ん!
 ただいまあっ!!」









だだだだだっ!!と柔らかい身体が体当たりする。
「おかえりなさい~っ!」

え?え?
「りりり・・・りかちゃん・・・・そのカッコ・・・」
ショートのふわふわの小首をかしげて、上目遣い。
「うふん、お・か・え・りっ!!」
細い指先で、俺の頬をちょん。
「ど、どしたの?」
そしたら、拗ねたように唇を尖らせて。
「だって、このごろ元気ないでしょ、悠河クン。」
「あ・・・そうだっけ・・・・ごめん。」
「ううん、だから、ちょっとでも元気になってもらおうと思って・・・」


元気にするために・・・・・・
りかちゃん、白いレースふわふわのビスチェにガーターベルト。
すらりとまっすぐな脚にはレースのストッキング。
ふわふわの髪に金粉まいて。
ちっさな肩に、まろやかに鎖骨のライン。
露出度はMAXなのに、なんだかほんわか無邪気な笑顔で。
「ね・・・なんかヘン?」
真顔で俺を覗きこむ。
くりくりした瞳、ぷくぷくした唇。
「ううん、とってもかわいい。」
俺はりかちゃんを抱き上げる。
羽みたいに軽い、俺のりかちゃん。
「悠河クンを励ます、愛の戦士なの!」
右手をピシッと上げて、ポーズを決める。

りかちゃんらしい励まし方。
綺麗で、可愛くて、カッコよくて。
それって俺には一番の薬。
どんな美味しい料理よりも、
どんな甲斐甲斐しい世話よりも。
りかちゃんが、綺麗で可愛くてカッコよくて、
そして俺のこと見てくれてるなら、俺はたちまちシアワセに。


ちゅっ。


天使みたいなビスチェのりかちゃんが羽みたいなキス。


ちゅっ。


つやつやのりかちゃんの頬にお返しのキス。



そうして二人で見詰め合って。
「悠河クン、少しは疲れとれた?」
りかちゃんは俺が欲しいものを一番よくわかってる。
「うん、思いっきりとれた。」
久しぶりに、心から笑える。
「ほんとにカワイイ?」
そういうとこが可愛くてしかたない。
「うん、世界一。」
りかちゃんは大きな目を更に大きく見開いて。
「やっぱり?」
満面の笑みで首に抱き着いて。


「じゃあ、もっと疲れとろう。」
思いっきり低音で、りかちゃんの耳元で囁く。
「・・・・余計疲れない?」
ちょっとハスキーに、りかちゃんが耳元で返す。
「疲れない。」









今日のりかちゃんは、ベッドでも笑ってる。
首筋にキス、鎖骨にキス、
胸元に、お臍に、そのたんびうふふって、囁くように。
笑うたんびに、天使の羽がひらひら落ちてくるようで、
俺は身体が軽くなる。
白い下着よりも、もっと眩しい白い肌。
華奢な肩が俺を抱きしめて。
長い脚が俺に絡みついて。
天使とくっついたまま、これが天国っていうのかな。
「やっと、笑窪が見えた。」
ハスキーに囁く声。
そのまま抱き合って、沈みあって、そして昇りあって。
声は甘く、柔らかく、白い羽に蕩けてゆく。






下着だけでも可愛い俺のりかちゃん。

だけど俺、もっと頑張るよ。
そして、いつか、
東京中のブティックを、りかちゃんのクローゼットに押し込める。











呟きがいつしか寝息に変わる。
あたしの愛する、黒い瞳が閉じる。
あたしの愛する、笑窪がちいさくなる。

そんなあなたをうっとり眺める。
肩に軽く頭をもたせかける。
上下する胸の鼓動を聞きながら、あたしも眠ってしまおう。






あなたの傍ら、束の間、天使のふりをしよう。











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