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『 35 』
「・・・・・・・男じゃん。」
は?
悠河クン、ついに働き過ぎでアタマにきちゃったのかしら?
スリムで均整のとれた美貌のあたしの、どーこーがー男なのよ!
そりゃあばかみたいにおっきくはないけど、かたちのいい胸だって、ほら!
・・・・・・え・・・・・・
・・・・・・えええっ!
ないっ!!!!!
嘘よっ!いっくらあたしがないったってこんなにないわけが・・・
あたしはアタマ真っ白のまま、恐る恐る手を下に。
なに~~~~~~~っ!!
これっ!!!
あるっ!!
なくてあるっ!!!
いったいどうしちゃったのよう!
ぽかんとみている悠河クン。
あたしその胸に飛び込むしかないの。
「ちょ・・・ちょっと!」
「あたしよっ!あたしなのっ!!」
いやん、声も心持ち低音じゃない。
「いや・・・だから、君・・・・」
「あなたの、りかちゃんようーーーーーーーっ!!」
ドレッサーの鏡が目に入る。
そこには戸惑い顔の悠河クンに、涙を溜めた水も滴るイイ男が抱きついてる。
ある意味、物凄く美しい絵なんだけど、でも、違うのようっ!!
悠河クンの手が肩にかかる。
あたしの顔をじいっと覗きこむ。
「君・・・りかちゃんなの・・・?」
あたし、こくこくうなずいた。
「俺の・・・・りかちゃんなの・・・・?」
もっと強くうなずいた。
悠河クンはおっきな目で、あたしの目を覗きこむ。
あたし涙ぽろぽろこぼしながら、悠河クンを見つめ返す。
急にぎゅうっと抱きしめられる。
「うん、りかちゃんだ。」
悠河クンきっぱり言ってくれる。
「りかちゃんの目だもん。」
そしてまた強く抱きしめられる。
「どうしたんだろうね?」
「わ・・・わかんないの。
起きたらこんなになってたの。」
悠河クン、あたしをあやすように揺らしながらちょっと考え込む。
「可愛そうに、びっくりしちゃうよね。」
うんうんってあたしはうなずいて。
でも、だんだん心が落ち着いてきた。
「わかんないから、とりあえず落ち着こう。」
うん、って素直に言ってみる。
「とりあえず、今日は会社休もうか?」
ああ、なんて優しい悠河クン。
こんなわけわけらない状況なのに、この順応性。
これもあたしへの愛ゆえね、と思うと一層愛おしさが募ってくる。
でも、あなたが今大変なお仕事なのは知ってるの。
あたし奥さんだから、旦那さまに無理させたくない。
なんか悠河クンの落ち着きが伝わってきたみたい。
「もう・・・・平気。」
「ほんと?」
「ん、なんだかわからないけど、
じたばたしてもしょうがないって気もするの。」
くりくりの目で覗きこみ、ちょっと心配そうな顔。
あたしちゃんと微笑を浮かべる。
「だから、悠河クンは会社いって。
あたし、大人しく待ってるから。」
「そう・・・?出来るだけ早く帰ってくるから。」
「なんかあったら、遠慮なく携帯していいからね。」
「ん、平気・・・・だと思う・・・」
「とりあえずね、家でおとなしくしてるんだよ。
今日は早く帰るから。」
あたしはこっくりうなずいて、とんでもない朝のせいでトースト食べ損なった悠河クンはダッシュで飛び出してく。
ん~~~む。
とりあえず、一人になってじっくりと鏡を見てみる。
ちょっとウエーブかかった髪。
深くて翳りのある眼差し。
ニヒルでセクシーな唇。
ああっ、確かにあたしが男になったらこうだろうな~と思わせる超イケメン。
あたしはしばらく鏡の前で見とれてた。
あたしだけじゃなくて、誰かに似てる気もするんだけど・・・
ま、そのうち思い出すわね。
そういや、まだ素肌にガウンはおったまんま。
筋肉も付きすぎず無さ過ぎず。
しなやかで均整がとれてて。
日本人離れしてる身体に、レースのフリフリガウン。
ちょっとバランス悪いわね。
こんなハンサムなんですもの。
うふふ、幸い悠河クンの服あるし。
ということで、カレのクロゼットからとっかえひっかえ。
いやだわ、恐ろしくなるほどカッコいいじゃない、あたし!
スーツ着て、ちょっとターン。
ソフト被って、投げ捨てて。
ああああ、どれもこれも決まるわっ!
あたしってこんなにキザキザなポーズも完璧じゃない。
「俺・・・」
とか呟いてみる。
うわあ!外国の映画スターみたいよ、これって。
着せ替えごっこしてるうちに、あたしの頭にムラムラと野望が湧いてくる。
大人しく待ってる、とは言ったけど「家で」とはいってないもん。
こんなにカッコいいあたし、やっぱ見せびらかしたいじゃない。
別になにするってわけでもないし、ちょっとお散歩くらいしたっていいんじゃないかしら。
そうよ、日が落ちる前に帰ってくれば、携帯だってあるんだもん。
こんなわけわからない状況で、家に篭ってたらそれこそ頭おかしくなっちゃうわ。
という訳で、悠河クンのオフのジャケットとパンツ。
あら、あたしにジャストフィット。
これも出かけろっていう神様の思し召しね、んふ。
タイは堅苦しいからやめとこう。
胸元はちょっと開き目に。
ちょっと寂しげでセクシー、非の打ち処のない美青年。
さあ、車の鍵もったし、
いくわよ ――――――― !!
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