訪日客で京都観光激動、地域の絆を再考 中井治郎さん
関西のミカタ 観光社会学者
■龍谷大非常勤講師で観光社会学者の中井治郎さん(44)は2019年に著作「パンクする京都」を出版し、外国人観光客が殺到する京都で起きた問題について論じた。
京都では14年ごろから観光客の過度な集中を意味する「オーバーツーリズム」が問題となっていた。ホテルなどの建設ラッシュによる地価高騰や、交通機関の慢性的な機能不全が住民の暮らしを圧迫。外国人観光客が急増し、その中で芸舞妓(げいまいこ)を撮影するために追いかけ回すという、かつてない問題も起きていた。
学生時代から京都かいわいで過ごしてきた自分にも関わりがあることだった。4年ほど前に京都市内のある映画館が閉館してホテルになった。廃校を利用した風変わりなミニシアターで好きな場所だった。自分が足しげく通った場所が消え、足を踏み入れることのないホテルに変わる。「大事な場所を観光客に奪われた」と初めて思った。
■本の出版後ほどなく新型コロナウイルス禍が日本を襲った。渡航制限で外国人観光客の姿が消え、諸問題が「強制解決」される一方、京都の観光産業は大打撃を受ける。
京都の宿は非常に苦しい局面だ。東京のようにビジネス需要が少なく、人口も多くないので地元の需要喚起も限界がある。特にこの10年ほどで急増し、外国人観光客を受け入れてきたゲストハウスの状況は悲惨だ。修学旅行客を受け入れてきた旅館も厳しい。
宿は苦しくてもその土地から逃げ出すことができない。だからこそ、新しい取り組みも始まっている。テレワーク化が進むなか一部のゲストハウスは1カ月滞在プランなど「京都で暮らす」を打ち出して集客している。これまでも京都の観光は「暮らすように旅をする」ことを志向してきたが、コロナ禍でさらに進み、旅と暮らすことの線引きがなくなり始めている。
コロナ禍の最中にオープンしたある商業施設は敷地内にホテルと映画館が併存しており、宿泊客と住民が入り交じって訪れる。観光客と住民は「同じ場所にいても見るものが違う」といわれるが、ここでは双方が同じ映画を見て、同じような感動を味わう。コロナ禍以前に企画された施設だが、観光客と地元の分断をどう解消するかという意味で面白い取り組みだ。
■コロナ禍で街の光景は一変したが、多くの気づきもあった。中井さんが注目するのは「観光のせい」と「観光のおかげ」の見直しだ。
世界的な流行が始まったころ、京都から外国人観光客の姿が消え、国内の観光客だけになった時期があった。静かで人の少ない街を歩く観光客から「ポスターのような京都が見られた」と喜びの声が上がった。
一方で外国人観光客がいなくなってもポイ捨てやマナー違反はなくならなかったという声があった。京都では様々なことが観光の、特に最近は外国人観光客の「せい」にされてきた。コロナ禍はそれらが本当に全て彼らの「せい」だったのか再検討させた。
観光業は地域社会では浮いた存在になりがちだ。しかし、最近は関係者から「住民との関係が良くなった」という声が聞かれる。「コロナで大変ですね」などと住民に声をかけてもらうことが増えたという。観光客の激減を地域社会全体の危機と感じ、「観光のおかげ」が改めて意識されているのかもしれない。
コロナ後はまた外国人観光客であふれる光景が戻るだろう。だが、京都の観光業で進んでいる実験の成果は残るはずだ。目指すべきはコロナ前の状態に「回復」することではなく、観光と地域の関係を「やりなおす」ことだ。コロナ禍を、地元住民の支持を得たより強い観光業に生まれ変わる好機と考えている関係者は多い。(聞き手は蓑輪星使)
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