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『 32 』
よりにもよって今日は休日出勤。
元旦からやるイベントの準備でてんやわんや。
新しい部署に配属になって、じゃお先に~とはいえないじゃん。
でもさ、こんな遅くなる予定じゃなかったんだよね。
折角のクリスマス、ケーキ買って帰るって約束したのに。
あああ、こんな時間じゃめぼしいケーキ屋なんて締まってるってーの。
ライティングした並木にカップル達が群がってる。
あああ、りかちゃん今ごろ一人で待ってるのかなあ。
人の波をかき分けて、地下鉄に飛び乗って。
酒臭いくたびれたスーツにぎゅうぎゅうされながら、
頭はりかちゃんがぐるぐるまわってる。
駅で飛び降りると、売れ残りのケーキとサンタの格好の売り子。
センスの欠片もないケーキだけど、もう仕方ないやって諦めた。
薄っぺらい白い箱を抱え、バスに乗る。
又、ぎゅうぎゅうで潰れないように、しっかりとかかえて。
「次は~団地前~団地前~」
「あ、降りま~す」
叫んでボタンを押す。
停留所が近づいてくる。
俺は気が急いて、ドアの側に移動。
あれ、停留所に女の子がぽつんと一人。
こんな夜中に、あんなミニはいて。
毛皮はおってるけど、すらっとした脚が目立ってる。
暗い停留所に、危ないよ~
でも俺、りかさん待ってるから、ゴメン送って上げられないや。
とか考えて、バスのステップを飛び降りる。
「悠河クンっっ !!!」
叫び声と共に抱き着いてきたのは、さっきのミニの・・・・
「り・・・りかちゃん。なにしてんの?!」
「悠河クン、待ってた・・・」
こんなところで、りかちゃん一人で―――!!
俺はちょっと頭に血が上る。
「だめでしょ、りかちゃん。
危ないよう。」
りかちゃん、きっとした目で見つめ返す。
「だって―――――――――――― !!
悠河クン、携帯忘れて行っちゃったし・・・
会社はもう出たって電話で言われたし・・・」
「だからって、こんな時間だよ。
風邪引いたら、どうすんの?」
「だって、だって・・・・・・・」
りかちゃんはほっぺを膨らませ、涙が溢れそうに大きく目を開く。
「早く、あいたかったんだもんっ !! 」
もう泣かんばかりの顔になる、毛皮に美脚の俺の奥さん。
「心配だったんだもん、なんか事故でもあったんじゃないかとか・・・」
「だいじょうぶだよ。」
腰を抱いて、鼻と鼻とを擦り合わせる。
「だって、だって・・・」
りかちゃん、なんだか必死でやっぱりかわいくて。
「もしかしたら、どっかいっちゃったんじゃないのかしら、って。」
信じられないこと大真面目で言ってる、俺の奥さん。
もう、誰が見ててもいいや。
バス停の前で俺はりかちゃんを、ぎゅっと抱き締める。
「どこにいくの?」
「どこにもいかない?」
「いかない。」
「帰ってくる?」
「帰ってくる。」
「絶対?」
「絶対。」
子供みたいな押し問答。
寒い12月のはずなのに、なんとなくほんわり俺は暖かい。
「はい。」
手を差し出す。
「うん。」
手を握る。
「いかないでしょ?」
「うん。」
「帰るでしょ?」
「うん。」
そういって、二人歩き出す。
団地をゆっくりと抜けながら。
「お月さま。」
りかちゃんの指の先には、白くまあるいお月さま。
「綺麗な月だね。」
「うん、あのね、待ってる間ね、ずうっとお祈りしてたのよ。」
「何に?」
「お月さまに。」
「何を?」
「悠河クンが帰ってきますように、って。」
ちょっと木枯らし、りかちゃんは俺にぎゅっと寄り添う。
甘い匂いがぷうんと広がる。
寒いけど、俺達はすっかりあったかい気分。
いつのまにかりかちゃんの腕と俺の腕は絡みあい。
いつのまにかりかちゃんの頭は俺の肩に。
月の照らす真っ白な道を、歩いて行く。
真っ白な光に照らされた、りかちゃんと一緒に歩く。
言葉なんかいらなくて、ただこうして並んでいるだけでも幸せなんだ。
奥さんは知ってか知らずか小さく欠伸。
こちらを見上げ、照れたように笑う。
俺も笑う。
寒いけど、あたたかな、白い夜。
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