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  『 29 』













ああ、やっと金曜日だよ。
身体はくたくたなんだけど、りかさんと一緒の週末がまってるし。
よれよれの足に鞭打って、階段一気に二段抜かし。


「りっかさあ~~ん。」



ぱたぱたぱたってスリッパの音。
「お帰りっ、悠河クン。」
で、玄関から熱烈にお帰りのちゅうを浴びせかける奥さん。
頬やら瞼やら、もうちゅう攻めの俺。
「寂しかった?」
奥さんの鼻をちょん。
柔らかなそれはふわっと弾んで、おっきな目がくるん。
ちょっと照れたような、はにかむ顔がまたかわいいったら。
ああ、俺ってどこまでもデレデレじゃん。
「はい、荷物。」
スーパーの袋を受け取って、さっさか台所に。
俺は急いで着替えて、エプロンつけて。
ああ、全くさっきまでへろへろに満員電車で疲れてたのに、
りかちゃんの顔見てふっとんじまう、なんて現金なんだろう。



りかちゃんもお揃いのエプロンつけて。
・・・エプロンの下は・・・
「り、りかちゃん、今日はそのファッション・・・?」
「えっ、わかっちゃった?」
奥さん、無邪気に目を見開いて嬉しそうにエプロンを外す。
エプロンの下はヘソ出しタンクトップ、びりびりジーンズ。
「露出度・・・高くない?」
ちょっと俺ってば、眉間に縦皺。
「え―――、そうお~?悠河クンこーゆーの嫌い?」
いや、そういうわけじゃなくてさあ。
じゃありかさん、今日は見知らぬ人々におヘソ大サービスしちゃったわけだよなあ。
ここは大らかに構えるのが大人だって分かっていても、
ああ、どうして俺ってりかさんの前だとこんなになっちまうんだろう。

「だって悠河くんだってオフはびりびりジーンズはいてるじゃなーい、
 ずるーい。」
「そりゃあ・・・そだけど・・」
うふ、ほんとは言いたい事なんか分かってる。
顔にでちゃってるもん、眉間の皺にくっきりと。
だから、カレを覗き込むようにして、ぱっちり目を見開いて、
「ダメ?」
「ダメ・・・じゃないけど?」
「じゃ・・・嫌?」
「ん・・・ちょっと。」
「なあんでぇ?」
「だって・・・そりゃあ・・・」
言いよどむカレがあんまりかわいいから、もう許してあげる。
ほっぺにちゅっ。
「じゃあね、これからは・・」
「これからは?」
「悠河クンと一緒の時にする。」


りかさん最大の妥協案だよな、俺も気を取り直して夕食作ろっと。
「ねえねえ。今日のごはんはなあに?」
「うんと、冷しゃぶとかは?」
「じゃ、サラダ作っとく。」
りかちゃん、真面目な顔で野菜を切って、ドレッシングの味見。
「どお?」
「うん、あと塩一つまみ。」



食器だけはいつもゴージャスな食卓で、向き合ってごはん。
「りかちゃん、どっち?」
「うんと・・・胡麻ダレ。」
で、しゃぶしゃぶにタレをたっぷりつけて小さな口に、
「あーん。」
小鳥の雛みたいに素直に口開けてりかちゃんもぐもぐ。
「うふ、あたし大好きなの。」
「何が?」
「悠河クンにエサもらうの。」
こんなたわいも無い言葉に俺はいつもノック・アウト。
肉の味なんかわかんないくらいに舞い上がっちまう。




あら、ちょっと言い過ぎたかしら。
悠河クンてば黙っちゃった。
でもね、でもね、ついつい言っちゃうの。
からかってるんじゃないのよ。
下手に言葉で遊ぶ気にならなくて。
なんかね、言葉で取り繕う以前の時代に戻っちゃったみたいで。
でも、大人の魅力半減・・・ううん全滅かしら、悠河君にとって。
もう、あたしってば幸せにご飯食べてるのに、
変なとこネガティブなのよね。
大人もあたしだけど、こっちもあたし。
悠河クンは受け入れてくれる筈、信じなくっちゃだめだってば。
で、信じるものは救われるってことで



「はい、悠河クン、あーん」
「りかちゃん、あーん」



受け入れて、付き合ってくれる、あなた大好きよ。










「お腹いっぱあい。」
ごろんとフローリングにひっくり返るあたし。
「後片付けなんて、あとでいいのっ!」
悠河クンの脚に手をかけて、こっち来てっておねだり。
ふたりで仰向けにごろんってなって、肘に当たるあなたの感触が心地いい。

「あのね、今日の掘り出し物。」
あたしはポケットからペアリングを見せる。
「ふうん、なかなか凝ってて綺麗だね。」
「悠河クンも、しましょ。」
あたしはカレの綺麗な指をとって、するりと指輪をはめてみる。
で、あたしの指にも一つ。
「お揃い。」
カレの前に並べて、うっとり眺めるの。
子供っぽいけどお揃いって、なんとなく嬉しいじゃない。
悠河クンもへえーとかまんざらでもない様子。

で、ここからが本題よ。
「あのね、ここの模様。」
「これ?」
「うん、コレをこうやってあわせると
「あれ~あっ、あっ、何これ。」

がっちり繋がった指輪がふたあつ。
「うふん、面白いでしょ。知恵の輪みたいになってるの。」
悠河クン片眉上げて、吃驚した顔かわいいったらありゃしない。
「こうしてたら週末はずうっと一緒。」
外し方は聞いてあるけど、月曜の朝まで教えてあげない。
あたしって、困った奥さんなんだもん。




「だ・・だって、お風呂とかトイレとか・・・」
「なんで?なんか困るの?」
ああ、りかちゃんの挑戦的な上目使い。
「いや、だって、りかちゃんだって・・・」
「あら、ずうっと悠河クンといる方がうれしいもん。」
ああ、言い切っちゃう俺の奥さん。
目がいたずらっぽそうに光ってて、唇なんかきゅっと上がってて。
外し方知ってるんだろうけど、俺は乗せられたことにしよう。


指輪だから抜いちゃえば、なんて発想はないんだよね、
うちの奥さん。
ペアの指輪、ずうっとしてるって信じてる。
俺たちがずっと一緒でいるのと同じくらい。
そういう素直なところがたまんない。
だから俺は外さない。
りかちゃんだって外さない。
外すなんて考え付きゃしない。
そんな俺たちは傍から見たら、かなり馬鹿かもしんないけど。
でも、それでもいいんだよ、幸せなんだから。


りかちゃんのちょっと広めのおでこにちゅ。
奥さん、眩しそうに俺の下でわらう。




いつまでも、どこまでも、愛してる。
素直でかわいい、素敵な奥さん。


















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