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  『 28 』











今日は金曜日。
明日は週末、ずうっと悠河クンといっしょ。
ああん、楽しみだったらありゃしない。

だから今日は、ちょっとお散歩。
お散歩だってコンセプトを決めるの。
だってあたしはこだわりファッションのりかさまですもの。
今日はね、ちょっとぐれちゃった女の子。
年は、そうね・・・20代前半ってところかしら。
いいのよっ、あたしトシ超越してんだから。
本当は素直なんだけど、クラブとかいってイキがってるタイプ。
髪を明るく染めたから、気分はそうね、
・・・フランスあたりとのハーフってカンジ?
ぴちぴちタンクトップ、勿論ヘソ出しようっ。
ローウエストのパンツにざりざり飾りの真っ赤な皮ジャン。
ちょっときつめに化粧して、髪はゆるゆるふぁさっ肩にかけてっと。
お財布もったし、ゴールドのミュール履いて、
さあ、出発。





ポケットに手なんかつっこんで、だらだら歩きをしていたら、
あら、公園が凄い人だわ。
なになに、へえ、フリマやってんのね。
あたしブランドとかにはこだわってるよーで、こだわりはないのよ。
ただ自分の感性にあうかどーかだけが命!
それが本当のおしゃれさんってもんじゃなくて?
だから、ちょっと覗いて行こうっと。


余りの人いきれにいささか疲れちゃって、
あたしは公園の端っこの木陰で一休み。
そしたらいきなり声が聞こえたの。


「そこの・・・とっても綺麗な『お嬢さん』」




いやだわ、どっからどーかんがえてもあたしよね、コレ。
って見回したけど、こんな立地の悪いとこに出店なんかあるのお?
あら、木の陰に隠れるようにぽっつりと地味~な出店がひとっつ。
売り子さんてばこのクソ暑いのに、炬燵に入ってグラサンとマスクしてる。
どっからどーみても怪しいわ。
炬燵の上に三角錐、「SYOMU 2」って名前らしいけど。
なんか変なものでも売ってるのかしら。
あたし思いっきり怪訝な顔で、
「なーに?」
振り向いたあたしの美貌に、んまあ言葉をなくしたみたい。
見た目は怪しいけど、なかなか美意識は高いじゃない。
あたし気を良くして売り物を見る。


炬燵の上にはMDがずらっと並べられて、手書きのラベル。
『R&T』『T&B』『W&K』『K&M』とか、
なあに全然わかんないけど。
「何、なんかの海賊版でも売ってるの?」
そしたら売り子さん、びくぅんとしてどもりどもり答えるの。
「いえ・・・何といいますか、ええ、海賊版とも、はあ・・」
「なあに??それに値段書いてないわよ、コレ。」
「え・・ええ、そこはその・・・交渉次第でして・・」
「で、なにが入ってるのよ?」
「いや、何と言いますか。その・・一種の語らいみたいな、あの、その。」
やだわ、説話テープかなんかかしら。
「ごめんね、あたしあんまりそーゆーの興味ないのよ。」
なんかあんまりこっそりと悲しそうに売ってるから、
ついあたしってば優しく答えてあげちゃったの。



「あ、いえ、よもやあなた様に売りつけようなどと思ってはおりません。」
そして、その売り子さんははにかむようにして炬燵からそっと手を出した。
「あの・・・・宜しければ。」
ちょっと、声震えてるわよ。
「イ・・・イメージぴったりかと思いまして・・・」
開いた掌にはペアリング。
シルバーで凝った紋章が入ってて、ふうん結構いいセンスしてるわ。
「こ、こちらはその、紋章部分をこーゆーふーにいたしますと・・・」
あら、あらあらあらっ!!
やぁん、なかなか役に立ちそうね。
「いいわね、お幾ら?」
そしたら売り子さんぶんぶん首振って、
「いえいえいえ、これはわたくしが戯れに作ってしまった物ですし・・
 使っていただけるならば・・・・」
とか言って、赤くなる。
「そーお、いいの?」
あら、トクしちゃった。
お代がわりに、とっておきのウインクなんかしてあげちゃおう。
ごそごそごそって手作りっぽい花柄の紙袋に入れて、
手が震えてるような気もするけど、すごく冷え性なのかしら、この人?



まあ、いいやと受け取ってスキップであたしは帰ったの。
うふふ~今夜つかっちゃおっと。
  











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