ひきこもりの子供が中高年、親も高齢化「いつまで頑張ればいいのか」…不足する「親亡き後の支援」
大人のひきこもり<2>
ひきこもりの40代の長男と暮らす、70代の男性は、65歳で教職を退いたのを機に、家族支援を頼った。親が集う家族会で「同士」の存在に勇気づけられたが、将来不安はぬぐえない。 【表】ひきこもりの家族がいる人たちが「不足している、または拡充すべき」と答えた支援
迫る「8050」問題
男性は退職後、家で過ごす時間が増えると、長男の今後に頭を巡らせる時間も増えた。小学6年で自室のカーテンをひき、閉じこもった長男は30歳を超えていた。どうしたら現状を脱することができるのか。もう教師としての体面にこだわる必要もない。インターネットでひきこもりの家族支援を調べ始めた。
自宅の近くで家族会が開かれていることを知り、参加した。同じ境遇の親たちが順に、子どもの様子や悩みを打ち明ける。男性は初めて人前で長男のことを語った。「皆が率直に語っていたので、自然に話せた。救われた思いがした」
〈家族が支援を求めるタイミングはまちまちだ。東京都が2020年、ひきこもりの相談支援機関を対象に行った調査では、当事者や家族が相談までに要した期間は、「1年未満」が25%だったが、「10年以上」も15%、「3年以上10年未満」も22%だった。家族支援を行うNPO法人「ふらっとコミュニティ」理事長の山根俊恵さんによると、「ひきこもりの子どもがいる親は、自身の子育てが否定されたような気持ちで、傷ついている。このままではいけないと思いつつ問題から目を背け、相談できずに10年、20年たっていることは珍しくない」〉
男性は毎月、家族会に足を運ぶようになった。家族だけでなく、受験に失敗したり人間関係がこじれたりして、ひきこもった当事者の話も聞いた。そのうちに気づいた。
「ひきこもっているのは、怠けているわけではなく、自分を守るため。一番苦しいのは、たまたま何かにつまずき、ひきこもらざるを得なくなった本人だ」。長男との過去の関わりについても後悔の念が湧いた。「自分が描いた『普通のレール』など、どうでもいいことだった」と思った。
以来、長男とたまに顔を合わせると、「無理やり学校に行かせようとして申し訳なかった」「つらかったな」などと言葉をかけるようにした。次第に長男の暴力は減り、表情も穏やかになった。最近は男性の部屋を訪れ、「人生を取り戻したい」と漏らすこともある。ただ、そんな時に当事者同士の交流会への参加を勧めても、長男は決して首を縦に振らず、「就職はできない」というのがもどかしい。