「引きこもり40年」57歳で社会復帰も…仕事や人間関係など試練の連続「働かんで不安になる。働いても不安になる」
■「身元引受人がいない」市営住宅で立ち退きを迫られ…
そんな中、国近さんのもとに市営アパートの担当者から電話がかかってくる。 「連帯保証人とか いろいろな書類を提出して下さいと、書類を頂いたんですけど、連帯保証人の欄が埋まらないんですよ。なって下さる人がいないんですよ、私には……。身元引受人という人もいないし、親戚も疎遠になっちゃってるし」(国近さん) 国近さんは市営アパートに住んでいるが、入居を認められていなかったのだ。公営住宅への入居権は原則、親から子へと引き継ぐことができない。入居希望者の公平性を図るためとして、国土交通省がガイドラインを示しているのだ。親が死亡した後も住み続けることができるのは60歳以上の人や障害者などに限られている。国近さんも父親が死亡すると、アパートからの立ち退きを迫られた。 それ以来、不正入居の状態となり、家賃が2倍以上(7800円から1万5000円・年度により異なる)に引き上げられた。 2022年、60歳になり、 入居が可能となったが新たな問題が浮上する。契約には連帯保証人が必要だったのだ。 さらに、市営アパートの家賃は収入によって決まるため、入居者は毎年、市に収入を申告しなければならない。しかし、国近さんは死亡した父親の弘さんが契約者になっているため、収入申告書を提出できずにいた。 「(収入申告書を)出しても、僕の収入だけでは受け取ってくれないし、(父は)死んで、いないのに収入なんてなんですもんね」「連帯保証人が どうしてもみつからないので、何か方法がないですかというのを聞きに行かないといけません」(国近さん) そこで国近さんは、宇部市役所に足を運んだ。「また書類を渡されました。親戚の名前を書いて、どうしても支援ができない、連絡が取れないということを書いてもらって。父の戸籍、僕の戸籍かな……。これと一緒に提出してもらう」。 国近さんは、うまく説明できていないようだった。相談する内容を整理して、もう一度、窓口に向かった。連絡が取れる親戚がおらず、連帯保証人を頼める人がいないこと。市営アパートを出ると、他に住む場所がないことなどを伝えた。 「市役所へ行って、名義変更の手続きを一応終えることができた。身元引受人の署名がまだだけど」(国近さんの日記 2023年3月16日) 連帯保証人の免除が認められ、ようやく入居者になることができた。家賃も正規の料金に戻り、およそ1万円下がった。代わりに「身元引受人」の届け出を求められた。「身元引受人」には入居者が死亡した後の手続きが求められる。国近さんはまだ身元引受人を見つけられていない。 「この食パンも120(円)なんぼだったのに、今170(円)なんぼだから。上がりましたね。シイタケも今日は高かったから、半額のを買いました。電気とかあんまりガスは使わないようにとはしてますけど。うちはエアコンないんでね、まあ、その分はいいと思うんですけど」(国近さん) 記録的な猛暑が続く夏のことだった。国近さんの暮らすアパートである出来事があった。「僕と同じ一人暮らしの人。だいぶ前、30年くらい前かな、両親と3人で住まわれていた人。それが次々に亡くなって。なんか僕みたいな感じなんですよね。8月の台風が来た時点から、お隣に住んでいる人が魚の腐ったようなにおいがする、変なにおいがするって言って。自治会長さんに何かあったのかもしれないと届けて、そして14日に発見された」(国近さん) 「8月14日、近所の人が部屋で亡くなっていたのが発見された。彼の境遇は僕とまったく一緒、僕もいずれはと思うと、胸が締め付けられた」( 同 2023年8月14日)