斉藤一は、教室の中でまどろんでいた。

 あたりは喧噪に包まれている。

 卒業を前にした2月上旬。

 これまでの中等部での生活は終わりを告げ、4月からは高等部での生活が始まる。

 とはいっても、校舎が変わるだけで、とくに自分たちの生活が激変するということはないだろうという予感があった。

 友人たちとの関係や、サッカー部において部活動に明け暮れるという毎日は、もはや決定事項のように、予測することができる。

 そして、腹立たしいことに、女性との関係も同じだった。

 自分たちは、高等部でも、女の子様にこきつかわれ、崇め奉り、服従しなければならない。

 それは高等部だけではなく、さらにその卒業後も、就職してからも同じだろう。

 そのことは、この三年間のうちに、いやがおうにもたたき込まれていた。


(思い出したくもない3年前の入学式、そこでおれたちの人生は終わったんだ)


 斉藤はそのように感じていた。

 入学式。

 2歳年下の女の子様たちに、情け容赦なくボコボコにされ、格の違いというものを教え込まれたあの日。

 それ以来、年下の同級生たちには、ひたすら教育という名の拷問をされた。

 逆らうなんてもってのほかで、ひたすら従順を誓わされる毎日。

 少しでも反抗の態度が見られたならば、すぐさま馬乗りで顔が変形するほど殴られ、

 その発達した太ももの間に挟まれて、潰される。

 それを彼女たちは楽しそうに、満面の笑みで行うのだ。

 その「能力」を度外視しても男子たちは彼女たちに純粋な力の差で勝てなかった。

 この3年間で、彼女たちとの違いをまじまじと見せつけられ、斎藤たち男子は、女の子様たちに忠誠を誓うことになったのだった。

 形ばかりの・・・・・・・暴力を受けないためだけの忠誠を。


(とはいっても、ここ1年はずいぶん平和だな)


 斉藤は中等部3年となった1年間のことを思い返していた。

 この1年、彼女たちの教育がされることはまったくというほどなかった。

 さすがに、表だって女の子様たちに反抗すれば、きつい罰が与えられた。

 しかし、入学してから2年間で、嫌というほど彼女たちの力を見せつけられてきた斎藤たちは、表だって反抗なんてできるはずがなかった。

 結果として男子たちは、つかの間の平和を得ることになっていた。

 朝、教室に来ても、彼女たちの脚を舐めて忠誠を誓う必要もない。

 授業中、彼女たちの尻の下で顔面をクッションにされ、永遠と過ごさなくてもいい。

 放課後、部活動の中で、彼女たちの足下に膝まづいて過ごす必要だってなかった。

 まるで、初等部に戻ったような関係性。

 生まれてから学校に入学するまでの、男女平等の世界。

 対等な立場でものを考え、接することができたあの頃のような日々。

 そんな毎日を、斎藤たちは送ることができていた。


「おい、斉藤。今日の放課後、ひまか」


 隣のイスに座った浅羽が声をかけてきた。

 同じサッカー部。

 男子の中では斉藤と同じく体格がよいほうで、男子サッカー部の中では斎藤と並んだフォワードとして君臨している。

 くされ縁の中で、初等部時代からのつき合いがある男が浅羽だった。


「ああ、空いてるけど、なんで?」

「いや、俺たちもいよいよ卒業じゃん? だから、今日は後輩たちに最後の練習でもつきあってやろうかと思って」

「サッカー部に? でも、いちおう卒業試験もあるんだし、勉強しなくていいのか?」


 エスカレーターで高等部にうつる斉藤たちだったが、いちおう試験もあるのだ。

 その成績いかんによっては、高等部への入学も認められないかもしれないという噂があって、斉藤は毎日勉強に励んでいた。

 今も、机の上には参考書が広げられている。


「大丈夫だって。勉強しなくても高等部にはどうせ入学できるだろうし。それに、いくら勉強したって、あいつらには勝てないんだからさ」


 浅羽がしらけたように言った。

 あいつらというのは、女の子たちのことである。力が違いすぎて、分かれて行われることが多い部活動とは違って、勉強は同じ立場で行われる。

 しかし、頭の出来ですら、斉藤たち男子は彼女たちの足下にも及ばない。

 結果として、試験の成績は彼女たちが上位を独占し、男子の一番成績のよい者も、彼女たちには歯がたたなかった。


「それに、斉藤は別に勉強しなくてもいいだろう。男子生徒の中では3期連続で1位なんだから。サッカー部でもエースで、勉強もできるなんて、おまえくらいなもんだろう」

「いや、でもさ」


 斉藤がさらに口を開こうとしたときだった。

 いつの間にか現れていた人物が、話しに割り込んできた。


「なになに、面白そうな話ししてるね」


 気さくな彼女。

 薄い色素の髪を肩ぐちまでのばしたショートカット。

 目鼻が整っていて、まるで西洋人形のような顔立ち。

 スレンダーな体型もあって、どこか中性的な雰囲気すら感じられる女の子が、いつの間にか近くに立っていた。


「月村・・・・・」


 浅羽が若干怯えて言った。

 彼は今、月村様と呼ぶかどうか、迷ったのだろう。

 月村陽子。

 女子サッカー部のストライカーであり、入学してからの2年間、斎藤たち男子サッカー部を教育してきた、女子サッカー部のキャプテンだった。


「斉藤くんたち、今日、部活に顔出すの?」


 笑みを浮かべて、月村が言う。

 その可愛らしい笑顔は、見るものを虜にするものだった。


「ええと、悩んでいるところなんだよね。卒業試験もあるし」


 斉藤が心臓をドキドキさせて言った。


「そうかー。でも、たまには気分転換もいいんじゃないかな。体動かすと、勉強にも集中できるしさ」

「そうかな」

「そうだよ。そうだ、いいこと思いついちゃった!」


 天真爛漫といった様子で月村が言った。


「今日、久しぶりに、3年生の元サッカー部員で集まろうよ」

「え?」

「女子サッカー部の子たちには私から声かけとくからさ。斉藤くんは男子のほうをお願い」

「で、でも」

「いいでしょ? ね?」


 両手をあわされて、その西洋人形のような顔で懇願されると、斉藤としても嫌とはいえなかった。


「う、うん。わかった」

「やった。それじゃあ、お願いね」


 月村が、本当に嬉しそうに斉藤に言った。

 彼女は、そこではじめて、浅羽のほうに振り返ると。


「ところで浅羽くん、そこ、私の席だから、そろそろどいてくれるかな」


 ドクンと、教室中が静まりかえった気がした。

 そう、ぜんぜん気にしていなかったが、浅羽が座っているのは月村の席なのだ。

 こんなことにも気が付かないなんて、ここ1年のぬるま湯で、油断しすぎていた。


「ご、ごめんな、月村」


 浅羽が謝って、すぐに席から立った。

 固唾をのんで見守っていると、月村は、


「うん、悪いね」


 なにもなかったかのように、隣の席に座る。

 その発達した、長い脚を華麗に組んで、携帯電話を取り出し、連絡を取り出した。

 おそらく、ほかの女子部員たちにメールかなにかをしているのだろう。

 おとがめもないようで、斉藤も浅羽もほっとしている。


「よし、女子部員は全員参加でOKみたい。放課後、よろしくね」


 Vサインをして、おどけたように振る舞う月村。

 それを見て、斉藤たちは、肯定する以外になかった。


 *


 放課後。

 久しぶりに勢ぞろいした3年生の女子サッカー部員と男子サッカー部員は、合同でミニゲームをしたり、思い思いに体を動かしていた。

 その中で、斉藤たちは、彼女たちの身体能力の高さに、あらためて驚かされていた。

 走る早さは言うに及ばない。

 カウンターをしかけられて、全力で走る彼女たちに追いつけるものはいなく、その発達した脚が織りなす脚力で、どんどんと彼女たちの姿が遠くなっていくのを見送ることしかできない。

 キック力も段違いで、ペナルティエリアの外からであっても、男のゴールキーパーは反応することもできずに、弾丸のようなボールがゴールネットをゆらす。

 その純粋な身体能力の違いをまざまざと見せつけられと、本当に自分たちは、彼女たちと同じ人間なのかと疑念にかられるほどだった。

 しかし、練習自体はとくになんの問題もなく続いた。

 レクリエーションのような雰囲気で、みなが笑いながら、軽く体を動かす。

 女子部員だけでかたまるということもなく、練習中、女子部員と男子部員が談笑することも多かった。

 現役時代のように、少しでもミスをしたり、怠慢プレーをしたら、容赦なくその発達した脚で蹴り潰され、絞めあげられるようなことも全くなかった。

 平和な、心休まるひととき。

 少なくとも、男子部員はそう受け取っていた。


「いやー、やっぱりあいつらすげえな」


 浅羽が斉藤に言った。

 ちょうど練習とは名ばかりの気分転換が終わり、彼らはボールを用具入れに片づけにきているところだった。


「なんていうか、化け物? 身体能力が違いすぎるんだよなあ。女の子様って感じだよ」


 まるで吐き捨てるような口調だった。

 今にも舌打ちをうちそうな、不満たらたらな様子である。


「おいおい、浅羽、聞かれたらどうするんだよ」

「別にいいだろ。ほんとのことなんだしよ。あーあ、ずるいよなー、女って。なあ斉藤、おまえもそう思うだろ」

「俺は別に・・・・・・」


 浅羽の言葉に、斉藤は感情を動かされてしまう。

 とっくに諦めてしまった、彼女たちとの差。

 身体能力でも、頭の出来でも、けっして自分たちは勝つことはできない。

 そのことを、この3年間、イヤというほど思い知らされた。

 年下の彼女たちに、手も足もでずに敗北し、彼女たちの足を舐め、服従の毎日を繰り返す。

 その記憶は、斉藤の頭と体に刻み込まれている。

 自分たちでは、絶対に彼女たちには勝てない。

 それに対する納得のいかなさも実際はあるのだ。

 完全な屈服ができていれば、こんな葛藤も感じる必要がないだろう。

 自分を劣った存在であると認め、彼女たちを優越した存在として崇め奉ることだってできたはずだ。

 しかし、今、自分は、浅羽の言葉によって動揺してしまっている。

 浅羽の言ったとおりのことを、自分もまた感じてしまっているのだ。

 彼女たちに対する不満と反抗心。

 そんなものがまだ自分の中にあるということが驚きで、斉藤は口ごもってしまった。


「ねえねえ、なんの話をしているの?」


 倉庫の中に女性の声がした。

 斉藤と浅羽はビクンと背筋を凍らせ、倉庫の入り口へと勢いよく振り返る。

 そこには、笑顔を浮かべた月村が立っていた。


「なんか、面白そうなこと言ってたね」


 月村は笑顔だ。

 さきほどまでのサッカーをやっている彼女と同じように、天真爛漫といった感じで、ニコニコと笑っている。

 それが二人にはとてつもなくおそろしかった。


「ねえねえ、黙ってたら分からないよ?」


 彼女が笑顔のまま、二人のほうへと歩いてくる。

 その発達した体。

 彼女は今、学校指定のジャージを着ていた。

 胸はそこまで大きくないスレンダーな体型。

 しかし、その丈の短い半ズボンから延びる太ももは、カモシカのように発達していて、地面を踏みしめるたびに浮き出てくる柔らかそうな筋肉の筋が、すさまじい色気を放っていた。

 自分たちとは比べものにならないほどの、長い、長い脚。

 腰の位置からして、自分たち男子とは比べものにならないほど高く、同じ人間には思えないほどだ。

 そんな圧倒的な体格差。

 年下の同級生の存在に、斉藤と浅羽は心底震え上がってしまっていた。


「ふう」


 月村がため息をついた。

 二人に目向きもしないで、倉庫の中にあった大きなマットレスに腰掛ける。

 そして、彼女は両足を斉藤たち二人に差し出しながら言った。


「疲れちゃったから、マッサージしてよ」


 当然のように同級生の男子に命令する。

 その様子は有無を言わせない女王様そのものだった。

 自分たち男子を地獄のような目にあわせてきた、同級生の女の子。

 つい1年前までは、常にこの調子で、男子調教に余念がなかった少女の姿。

 そんな恐怖の対象が、今、唐突に斉藤の前に出現したのだった。


「ねえ、はやくしてよ」

「う、あ」

「聞こえないの? わたし、命令してるんだよ?」


 ダンっと、月村が勢いよく地面を踏みつけた。

 ビクンっと斉藤と浅羽の背筋が震えた。


(う、わ・・・・・体が、かってに・・・・・)


 斉藤は恐怖心でビクビクと震えた。

 それと共に、そんなことはしたくないと心が思っていても、体が勝手に反応してしまうのを感じた。

 条件反射的に斉藤は月村の足下にはいつくばった。

 そして、彼女の長い、発育のよい太ももに両手をあてがった。


「し、失礼します」


 心の底まで調教された作法どおりに斉藤は動いた。

 月村の太ももを、ゆっくりとさすっていく。

 熱をもった、ごむまりのような弾力をもった女の子の脚。

 自分の脚とは比べものにならないほどの筋肉量を内に秘めていながら、決して女の子の柔らかそうな様子を失っていない見事な太もも。

 そこに斉藤は畏怖と崇拝の念をもって、心をこめてマッサージをしていく。


「もっと力こめてよ」


 その行動を淡々と受け止め、頭上から月村が斉藤に命令を下す。

 月村の命令に、これまで調教され尽くしている斉藤は、命令どおりに従った。

 同級生の年下の女の子の脚に、必死にご奉仕をしていく。


「お、おい斉藤」


 そんな斉藤とは正反対に、浅羽はその場から動けなかった。

 斉藤だけが月村の足下に膝まづいて、彼女の脚をマッサージしている。

 そんな様子を嫌悪の視線でもって、浅羽は見下ろしているのだった。

 浅羽としても、1年前だったら、斉藤と同じことをしただろう。

 月村の足下に膝まづき、必死に彼女の脚をマッサージしたはずだ。

 しかし、中等部3年生にあがった始業式からそれまで苛烈だった調教がいっさい終わった。

 授業中や部活中、放課後や休日も含めて毎日のように同級生、上級生、下級生から受けていた調教が、全てなくなったのだ。

 そのことによって、浅羽の中にはプライドが芽生え始めていた。

 男としてのプライド。

 人間としてのプライド。

 女に命令されればなんでもするような卑しい人間ではないのだという自負。

 ここ1年の間に芽生え始めていたプライドのせいで、浅羽は月村の命令には従えなかったのだった。

 浅羽の瞳に、斉藤への冷ややかな侮蔑が浮かんでいた。


「ふーん、なるほどね」


 月村が言った。

 自分の足下で必死の奉仕をする男を見下ろして、彼女が続けた。


「やっぱり、潰すのはおしいかな。みんなの言うことも分かるよ」


 独り言のように言う月村。

 次の瞬間、彼女はさきほどまでの女王様としての雰囲気を完全に消し去ると、いつもの天真爛漫といった雰囲気で言った。


「よし。斉藤くん、ありがとうね」


 言って、月村が斉藤の頭を撫でる。

 条件反射的に行ってしまった負け犬の行動に、斉藤は茫然自失としていた。


「それじゃあ、斉藤くんには今日から卒業まで、わたしの仮奴隷になってもらうね」


 突然の言葉。

 斉藤はなにを言われたのか聞き取れず、呆然と頭上を仰ぎ見た。

 はるか頭上には、自分のことを天真爛漫の笑顔で見下ろす月村の顔があった。


「再調教してあげるから、感謝してよね」

「なにを、言って」

「だから、仮奴隷だよ。仮っていっても、奴隷は奴隷だからね。容赦はしないから、覚悟するように」

「そ、そんな・・・・・・なんで・・・・ぼくは、」


 ドスウウンン!!


 立ち上がろうとした斉藤の体の横。

 そこに勢いよく月村の脚が直撃した。

 予備動作もなにもまったく見えなかった。

 地震かと思うような衝撃と、自分のすぐ横、彼女の体温すら感じられる近くにある圧倒的な太もも。

 それだけで、斉藤は震え上がった。


「口答えが許されるなんて思ってないよね」

「ひ、ひい」

「なんなら、このまま踏み潰しちゃおうか。ぼろ雑巾になるまで、わたしの脚で踏んで踏んで、踏み潰してあげようか」


 言いながら、月村がゆっくりと、自分の右足を振り上げ、斉藤の右肩を踏んだ。

 さらに悲鳴をもらした斉藤に思い知らせるように、力をこめず、しかし意思をこめて、ぐりぐりと斉藤の右肩を踏みしめる。


「斉藤くん、わたしの脚に何度も調教されてたから、分かってるよね。逆らったらどうなるか。それとも、もう忘れちゃったのかな」

「や、やめて」

「何度も何度も、気絶するまでこの脚で蹴って、挟んで首締めて、口からブクブク泡でるまで胴体締め付けてあげたの、もう忘れちゃったのかな」

「許して、おねがい、おねがいしますうう」


 懇願する斉藤。

 それを月村は、斉藤の右肩を踏みながら淡々と見下ろしていた。

 彼女が言った。


「まあ、これからイヤってほど思い出させてあげるよ。仮奴隷、まさか拒否しないよね?」


 斉藤が勢いよく首を縦に振った。

 ブンブンと首がとれるくらい何度も、首を振る。


「ふふっ、それでいいんだよ」


 月村が笑顔で言った。


「まっ、わたしに任せておけば悪いようにはしないからさ。斉藤くんは大船にのったつもりでいてよ」


 それじゃあ行こうか、と月村が立ち上がった。

 月村に手を握られ、そのまま主導権を握られたまま彼女と斉藤は倉庫から出て行く。

 引きずられるようにして斉藤が月村の後に続く。


「お、おい、月村」


 浅羽が声をかけるが、彼女は反応しなかった。

 途中、浅羽の隣を通るときに、月村は彼のほうを振り向きもしなかった。

 後には呆然とした浅羽だけが残された。

(続く)
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