イスラエル・イラン交戦中にガザで870人死亡 飢えと銃声の配給所
イスラエルとイランの12日間の交戦中、パレスチナ自治区ガザでは、イスラエル軍のもう一つの攻撃が続いていた。ガザ当局によると、この期間に870人が死亡した。米国主導で設けられた支援物資の配給所では、物資を求めるパレスチナ人に向けた発砲が相次いでいる。何が起きているのか。
「イスラエルとイランの戦争に世界の注目が集まり、私たちは放っておかれた」
ガザ北部ガザ市に住むユセフ・ナスララさん(28)は、朝日新聞の電話取材にこう語った。2人の幼い子どもと暮らすナスララさんの最大の不安は、食べるものがないことだ。
衰弱した3歳の娘、「体力を落とさないように」と医師、でも…
ナスララさんは、米国主導で設けられた「ガザ人道財団(GHF)」の配給所に何度も通い、ようやく小麦粉1袋を手に入れたという。「銃声がしても列を離れられない。帰りたいと思ったが、家には食べ物がないのでなんとか、持って帰らないとと思った」と語る。
しかし、「命の危険を冒して得られるものとしては、あまりに少なすぎる」と嘆く。「もう一度行く勇気が出るかわからない」。GHFが配給を開始した5月末以降、配給所に物資を求める人が殺到し、イスラエル軍が発砲して死傷者が続出している。ガザ保健当局によると、配給所を巡る混乱で6月27日時点で500人以上が死亡した。
同じくガザ市に住むアフマド・ゾヘイアさん(28)は、朝日新聞の現地スタッフの取材に「配給所に何度も並んだが、得られたのは混乱と恐怖だけだった」と話す。食料は得られず、3歳の娘は病気で衰弱している。医師からは「体力を落とさないように」と言われたものの、家には十分な食料も清潔な水もない。「助けたいのに、何もできない」と嘆いた。
国連児童基金(ユニセフ)と国連世界食糧計画(WFP)は5月の段階でガザの子ども約7万1千人が急性の栄養失調に陥いると発表。「必要な支援が届かなければ、さらに多くの命が失われる」と警告しており、状況はさらに深刻になっている。
GHFによる配給は、国際的な非難を招いている。従来、配給を担ってきた国連の配給拠点はガザ全域に約400カ所あったのに対し、GHFの拠点はガザ中部に1カ所、南部に3カ所の計4カ所に限定されている。
国連機関などは、支援の量が著しく不足しているうえ、住民に長距離の移動を強いるイスラエル軍の軍事的な目的に沿ったものと批判し、従来の国連主導の支援体制に戻すよう求めている。国連人権高等弁務官事務所は24日、「民間人に対する食料の武器化は戦争犯罪にあたる」との声明を発表した。
配給所による「支援」体制 イスラエルの戦略は
それでも、イスラエルはこの支援体制を見直す姿勢を一切見せていない。
なぜなのか。米紙ニューヨーク・タイムズは、「GHFはイスラエル当局が構想し、その後米国が関与するようになった」と報じた。資金源は明らかになっていないが、支援体制は「イスラエル軍の軍事作戦の一環として機能している」と指摘している。飢餓を利用し、住民を移動させているという見方だ。
イスラエル側は、支援物資がイスラム組織ハマスなどに奪われるおそれがあるため、搬入を制限していると説明するが、「戦闘後のガザ統治」を念頭に置いたものとの見方が根強い。
ネタニヤフ首相は5月21日、「最終的にはガザ全域がイスラエルの管理下に入り、ハマスは完全に敗北する」と述べた。その上で、「ガザを完全に非軍事化し、トランプ(米大統領の)計画を遂行する」とした。トランプ氏は2月にガザの住民を域外に移住させ、米国がガザを「所有」して再開発する構想を明らかにした。
スモトリッチ財務相は5月5日、「ガザを完全に破壊し、住民を移動させたうえで、第三国に移住させる」と発言した。
イスラエル軍、意図的に発砲か ネタニヤフ首相「誹謗中傷」
さらに深刻な疑惑も出ている。イスラエルの有力紙ハアレツは27日、配給所周辺の治安維持にあたっていた兵士たちが支援物資を求めるパレスチナ人を狙って発砲している、と複数の兵士らの証言をもとに伝えた。証言によると、軍事車両から機関銃や迫撃砲、さらには手榴弾(しゅりゅうだん)が使われているという。兵士は脅威を感じていなくても、追い払うために発砲するよう指揮官に命じられていたといい、軍はこの対応が適切だったかどうか調査するよう命じたという。
ネタニヤフ首相とカッツ国防相は同日即座に、この記事について「世界一道徳的なイスラエル軍への誹謗(ひぼう)中傷で、悪意に満ちている」と批判し、虚偽だとする共同声明を発表した。
イランとの停戦を受け、イスラエル軍トップのザミール参謀総長は24日の声明で「いま焦点はガザへと戻った」と述べた。ガザの複数の住民によると、イスラエル軍の空爆は激しくなっているという。「イランとの停戦後にイスラエルがガザへの攻撃をさらに強化することを恐れている」といった不安の声が上がっている。
AP通信によると、25日にはイスラエル兵7人がハマスの爆弾攻撃で死亡。報復とみられる空爆で24時間のうちに少なくとも79人のパレスチナ人が死亡した。イスラエル軍は「警告射撃だった」と説明しているが、ガザ保健当局によると、うち33人は援助物資に殺到した住民だったという。ガザ保健当局によると、2023年10月の戦闘開始以来の死者は5万6331人になった。
国連のグテーレス事務総長は27日の声明で、「自分や家族のために食料を求める人々が殺されている。食料を求めることが死刑宣告であってはならない」と述べた。
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- 【視点】
この記事でも紹介されているハアレツ紙の記事を読むと、イスラエル軍将校や兵士の証言を読んで唖然とさせられる。記事には<配給センターは通常、毎朝わずか 1 時間しか営業していない。その地域で軍務についた将校や兵士によると、イスラエル軍は(民衆が)センターが開門前に近づくのを防ぐために、またはセンターが閉まった後に再びやってきるのを防いで追い散らすために発砲した。>とある。 さらに現場にいた兵士の証言として、「私が駐留していた場所では、毎日1人から5人が殺された。彼ら(民衆)は敵軍のように扱われ、群衆を制御するための催涙ガスのような措置はなく、重機関銃、手榴弾発射装置、迫撃砲など、考えられるすべての形の実弾射撃のみで対応していた。センターが開くと、銃撃は停止しました。我々のコミュニケーション手段は銃撃だった」という。 ネタニヤフ首相とカッツ国防相はこの記事について「世界一道徳的なイスラエル軍への誹謗中傷で、悪意に満ちている」と批判したが、記事の中には「この状況はガザにおけるイスラエル軍の倫理規範の完全な崩壊である」という兵士の言葉もある。 そのような状況と、イスラエルメディアを通して将校や兵士の批判が出てくるにもかかわらず、ネタニヤフ首相とカッツ国防相が、この配給システムをやめないのは、この記事に出ているように、ネタニヤフ首相は「最終的にはガザ全域がイスラエルの管理下に入り、ハマスは完全に敗北する」というシナリオを描いているのだろうが、そのシナリオについてもハアレツで6月18日の記事で分析記事が出ていて、「致命的な失敗」という評価を下している。 「新しい食糧配給システムは残酷で危険であり、これまでの失敗によって約400人が命を落とし、数千人が負傷した。 新システムに託された二つの目的である飢餓の防止と、配給によって食料と資金がハマスへ届くのを阻止するという目標の達成に全く失敗した」 イスラエル軍の戦略としては、国連や国際NGOに代わって、自分たちが食料提供者になることによって、ガザの民衆をハマスの支配から引き離し、自分たちに従わせようとさせたのだろう。自分たちがガザを封鎖して全住民を飢餓状態に置いた上でのマッチポンプの食料提供とはいえ、イスラエル軍の支配下でガザ住民に食料や人道援助援助を安全に秩序を持って提供できていたら、イスラエル軍が「戦後のガザ統治」に関わることをガザ住民や国際社会に求める機会になったかもしれない。 しかし、今回のイスラエルと米NGOによる食料供給プロジェクトは、イスラエル軍の「秩序維持」と「統治能力」の欠如を世界に示し、ガザ住民の間にイスラエル軍への憎悪と敵意を増幅させただけだった。 戦争が終わっても、廃墟とおびただしい負傷者を抱えてのガザの戦後は大きな困難しかないだろう。その中で、ガザ全土にあるモスクを拠点として、イスラムに基づいた社会活動、慈善活動のネットワークを持ち、政治・行政のノウハウを持ったハマスという組織抜きでの復興は不可能だろう。イラク戦争の後や「アラブの春」の後に、体制崩壊の混乱の中で、秩序回復の役割を果たしたのが、イスラム勢力だったことを考えれば分かることである。
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- #中東緊迫
イスラエル・パレスチナ問題
イスラム組織ハマスが2023年10月7日、イスラエルに大規模攻撃を行いました。イスラエルは報復としてハマスが実効支配するパレスチナ自治区ガザ地区に攻撃を始めました。最新のニュースや解説をお届けします。[もっと見る]