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『 22 』
シャンパングラスから立ち上る泡は、きらきらと溶けてりかちゃんに反射する。
奥さん、うふふ~ってまた得意な笑み。
ちっさな包みをテーブルへ。
「はい、悠河クン。」
「何?」
「バレンタインでしょっ!!」
綺麗に包装された包みの中には、可愛いトリュフが一個。
「近頃、疲れてブツできたら困るかなって思ったの。」
りかちゃん、優しいってば。また俺惚れ直しちゃう。
二人でリボンかけたグラスで乾杯。
「ねえ、チョコ、食べて。」
あ、俺ってばどしたのかな。
なんか体温が上がってきてる。
熱とかじゃなくて、なんか元気が沸きそうなカンジ。
でもって、目の前に頬杖ついてる奥さんが、いとおしくてたまらない。
さっきまではへろへろだったのに、変にテンションあがってる。
悠河クンはテーブルを回り、いきなりあたしの横に寄り添って。
「じゃあ、食べさせてよ、りかさん。」
耳元で、痺れそうな声で囁くの。
ちょっと笑いなんか含みながら。
いやだわ、いつの間にこんなセクシーな仕草までサマになるようになっちゃったの。
耳元にあたる息が熱い。
そして、温かな舌でいきなり、ぺろん。
きゃん、あたし耳弱かったっけ。
そして頬擦りする彼に、あたしはチョコをさしだして。
「だめ、口移し。」
あら、今日は何だか大胆。
ちょっと目が座ってる。
これって、もしかして鍋のお蔭?
んんん、って唇を合わせて、チョコを彼に。
「美味しい。」
「ゴディバだもん。」
「喉渇いた。」
シャンパンを上目使いの悠河クン。
「口移し?」
「ん。」
なんか俺ってば、めちゃくちゃりかさんに甘えたくて、
めちゃくちゃりかさんにさかってて。
これじゃあ、年下の悠河クンに逆戻りだよ。
「なんでこんなにしてくれんの?」
俺ってばいきなり聞いちまった。
なんかいつもと正反対。
ほんのり目元を染めて、うふんっていう唇をぷっくりさせたりかさんに、
このところの疲れがまとめて出ちまったってカンジ。
ああ、情けないったら。りかちゃん大きな目を真ん丸く見開いて、人差し指を唇へ。
ん~って考える風情も可愛くて、俺はりかちゃんの細い肩をつかんじゃった。
悠河クンたら、いきなり、んもう、分かりきった事真面目に聞くんだもん。
ちょっと絶句しちゃうでしょ、あたし。
そしたらぐいっと肩つかまれて、長い指、細い指、なんて優雅な指。
耳の裏側から、そうっと吐息。
掠れた声。
「一目見たときから、りかさんに参ってた。」
あたし背骨に、なにかがずうんと走る。
「だから、りかさんが他の男に飽きちゃって、気紛れでもいいと思ってた。」
悠河クン、ひとつ間違ってるわよ。
飽きちゃったのは、下界の景色。
慌しい人の群れ。
目を差すような光の群れ。
目まぐるしく行き交う、人と人との心。
囁きあう嘘と、ひけらかしあう偽りの駆け引き。
男に飽きたわけじゃない、人間に飽きたわけじゃない。
だけどあなたはそんじょそこらでは見つけられないほど、新鮮だった。
強くて逞しくて、繊細で優しくて、なによりあたしを心底愛してる。
ホテルのダブルベッドの朝、見たことも無い煌きが眩しくて。
この人は、あたしを引っ張り上げてくれそうな気がしたの。
あたしの夢見ていた、何処かへ。
「強引にせまればよかったじゃない?」
ちょっと意地悪くあたしは聞いてみる。
「そんな下品なこと出来ないのが、俺の泣き所だって。」
ちょっと照れながら、でも真剣な声。
いつのまに肩に腕を回して、小さな顔を寄せられる。
「じゃあ、あたし、下品?」
「ううん、りかちゃんは俺に手を差し伸べてくれた、女神様。」
うでにぎゅうっと力が入り、あたしは胸が潰れそうになる。
「ねえ・・・・俺さ・・・」
「なあに?」
「いい?」
そんな切ない声を耳元で出さないで。
「いや、っていったら?」
「でも、したい、今日は。」
低い声できっぱりと。
ああ、どんどん大人の男になってくのね、あなた。
あたしの理想通りになっていくような気がするのは、何故?
肩を剥き出しにされて、下着の線に沿って舌を這わせて。
エプロンは手早く外されて、脚を手が探る。
「ここ、リビングよ・・・・悠河クン。」
「ごめん、我慢できない気分。いや?りかちゃん?」
いやなわけないでしょ。
悠河くんに愛してもらうのよ。
返事の代わりにちゅうを返す。
にやっと笑うあなた、そのニヒルっぽい笑みも素敵。
いつもよりちょっと乱暴に、あなたの身体があたしを覆い尽くす。
膝小僧をなでなでする。
「ちいさくて滑らかで、いい形。」
「好き?」
「勿論。」
ああ、あたしはその言葉だけで、とろとろに溶けてゆく。
膝をぐいっと上げられて。
いつもよりちょっと乱暴に、あなたがあたしに入ってくる。
呟く声はあたしの名前。
あたしが感じ尽くすまで、あなたはあたしをかき混ぜる。
このまま溶けてしまうのではないかというほどに、とろとろにされっぱなしのあたし。
もうこれ以上はくっつけないという程に、一つになってる体。
あたしはひたすらあなたを呼びつづけた。
「ああ~」
ソファの上で素っ裸で落ち込んでる悠河クン。
「俺、なんか行き詰まってたのかなあ・・・・変にさかってて・・・・
それをりかちゃんにぶつけるなんてサイテーだよぉ。」
頭抱え込んでぶつぶつ。
「そんなことない、すっごく素敵だったもん。」
ニンニク鍋の事は言わないでおこうっと。
あたしはふわふわの頭をなでなで、ちゅっ。
大人の男がさかってる、それって結構セクシーよ。
でも、これもあたしだけの秘密。
落ち込んでるあなたも素敵なんだもん。
いつまでもどこまでも愛してね
あたしの素敵な旦那さま。
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