TOP




  『 21 』









ああん、もうこんな時間。
今日は出かけてたから、遅くなっちゃったわ。



そうよ、今日はバレンタイン!
一年に一度女の子から愛を告白する日なの。
あたしは、当然悠河クンにチョコレートをあげなきゃいけないの。




去年は大失敗しちゃったけど、同じ失敗は二度としないわよ!
だから探しに行ったのよ、最高級のチョコレート。
やっぱね、チョコってったら、ヨーロッパよ!ヨーロッパ!!
あたし絶対に前世は外国人だった、と思うくらいヨーロッパが好きなのよ。
デメルかゴディバかさんざ迷ったけど、やっぱチョコはベルギーよね。
んふふ、だからゴディバのトリュフ、大人仕様でシャンパン入りよー!
でもって、あたしたちの愛の乾杯用にドンペリよ。
あたし薔薇が好きだから、当然ロゼよ。
ぽっ、とか頬をロゼ色に赤らめて彼にチョコを手渡すの。


うふふん、とかほくそえみながらあたしはメークを直す。
チークもロゼにしちゃおうかしら、とかブラシをしゅっ!!
アイラインは薄めでいいかしら、あたしのきらきらした瞳が引き立つように。
でもってマスカラをたっぷりと、睫が撓るくらいつけちゃうの。
口紅は薄め、グロスはたっぷり。
仕上げに粉をしゅっしゅってはたいて、ああ、なんて綺麗で可愛いの、あたし。
このくらいじゃなきゃあ、悠河クンには相応しくないわ。



彼のことだもん、きっと又山のよーにチョコ貰ってくるに決まってるわ。
なんかこの頃は、湖月のプロジェクトに参加してるって言ってたもん。
今年は色んな部署を回るらしいし。
初めて彼を身近で見た女の子達とか、きっとうっとりしてるに違いない。
ううん、勿論彼が気付くはずもないけどね。



でも、今夜も惚れ直させてあげるわ、悠河クン。
ネイルを塗りなおしながら、あたしはうっとり考えてた。



仕事がヘビーになってるせいか、この頃毎日帰りが遅いの。
休日だって返上出勤。
ううん、あたしは理解ある妻だもん。
そんなことが不満じゃなくて。
でもね、あのすべすべの肌が近頃お疲れ気味。
うっすらと隈なんか浮いてると、妻としてはすっごく心配。
だから、今日はなんか元気のつくものにしよう。
ちゃんと調べたのよ、絶対失敗しない奴。
ふうふうネイルを乾かしながら、お夕食の準備を考える。












ああ、もう、こんな時間だよ。


気楽に頑張れよ、って湖月部長は言ってくれたけど、
はいそうですか、ってわけにもいかないじゃん。
結局毎日遅くまでやることは山のようで。
りかさん、分かってくれてるとは思うけど。
実はりかさんとゆっくり出来なくて、テンパってんのは俺だったりしてる。


だから階段も勿論二段抜かし。



「たっだいまあああ~~!りかちゃあん!!」



かちゃっと鍵を開けた奥さんは、今日も美人。
「おかえりなさーいっ!」
そういって抱きついて、仄かに甘くていい香り。
「ちゅうは?」
ふっくらした唇を突き出して、うふふって顔で笑ってる。
「ん。」
そういって、奥さんの可愛い唇に、ちゅっ。
細い身体をも一度抱き寄せて、ちゅっ、ちゅっ。
ああ、俺やっぱり奥さんに飢えてたんだなって。


「悠河クン、ちゃんとお昼ご飯食べた?」
「あ、今日はそれどこじゃなかったかも・・・」
「うん、朝より痩せてるぅ。」
彼の涼やかな目元に薄っすらと隈。
んもう!どーゆー仕事させてんのよ!
メシ位食わせなさいよっつ!!
あたしの大事な悠河クンよっ!!!



「じゃ、お風呂はいったら夕食作るから。」
「ううん、平気、今日はちゃあんと準備してあるの。」
りかちゃん、俺の首に腕を回してにっこりと。
「疲れてるダンナ様に元気つけてもらうのが、
 妻の仕事だもん!」






お風呂場から気持ちよさそうな鼻歌が聞こえてくる。
本当はあたしも一緒に飛びこんじゃいたいんだけど、我慢我慢。
チョコレートの山はぜえんぶ生ゴミ行き。
そして切っといた材料を土鍋に放り込む。
そう、冬は鍋よね。
ちょっと耽美なあたしのイメージじゃないんだけど。
とりあえず入れりゃあできるって、書いてあったわ。
だからあたしは精のつきそうなもの、一杯入れて。
ああ、悠河クン、元気つけてね。


「お先~」



バスローブひっかけてダイニングへ。
もうもうとした湯気の中で、奥さん土鍋に向かい真剣な面持ち。
「今日は、鍋かあ。」



「頂きます。」
「どうぞっ!」
りかちゃん息を詰めて、お箸を構えてこちらを見てる。
可愛い顔でじいっと見つめて、ちょっと不安げ。
鍋の中身は・・・・・見ただけだとよくわかんないけど。
ちょっと煮込み過ぎなのかな、とりあえず箸を伸ばす。
「美味しい?」
「うん。」
なんか色んな味が混ざりまくってて、
ううん・・・・りかちゃんらしく世界に二つとない味って感じ。
「やあね、なに、笑ってるの?」
「ううん、鍋までりかちゃんらしいね。」
「やーね、ただのアンコウ鍋よ。」
でもね、ほんとは隠し味があるの。
考えたの、あたし。
ニンニクを大量にすりおろして、
ちゃんと無臭ニンニク使うあたりが妻の気配りなの。
やあん、あたしったら、「つま」ですって。



なんかりかさんのアンコウ鍋は、みぞれ鍋みたく濁ってて。
中身なんか見えなくて闇鍋と大してかわりゃしないけど。
だけどきっと一生懸命作ってくれたんだろーなー、
とか思うと、俺は胸が熱くなった。
りかさん、こんなにどろどろになるまで俺のこと愛してくれてるんだ。
このりかさんの為なら、俺どろどろになるまで働くよっ!





お鍋食べ終わって、一息ついて。
「あ、俺片付けるよ。」
「ううん、いいの、まだデザートあるから。」
そういってぱたぱたぱたって鍋を引っ込めて、ソファに俺を引っ張って。
ドンペリとシャンパングラス。
「うわ、なんか豪勢だねえ。」
「んっ、悠河クンこのごろ疲れてるもん。」
ああ、俺の奥さんってば眉間に皺なんか寄せてるのに、何故か可愛い。
俺ってやっぱ骨抜きかも。
「じゃ、注ぐよ。」
「ううん、悠河クンはゆっくりして。」




りかちゃんが唇を尖らせながら、細いシャンパングラスに注意深く注いでく。
ちょうどいい具合に、グラスの中でゆらゆら泡が立ち上る。















← Back   Next →












SEO