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『 16 』
夢のようなお正月休みが、矢のように過ぎてしまい。
ああ、きょうは悠河クンの、仕事始め。
団地のベランダで、いってらっしゃ~いって手を振るの。
あなたは笑窪で、投げキッス。
あなたのいなくなった部屋の中、
あたしは真っ赤な椅子に、小さく体育り。
やんなきゃいけない後片付けは、きのう悠河クンがさっさっさっとしてくれた。
ぎゅうっと縛った大きなゴミ袋を爽やかに抱えていくあなた、すてきだったぁ!
あたしってば、クッションに顔を埋めてにやにやにや。
ふざけんな!ってくらい混んでる境内を、
悠河クンは必死にあたしをガードしてくれて。
大丈夫、ほら、みんな道を開けてくわ、なんたってこの迫力のりかさまよ。
でもね、破魔矢を抱いて、悠河クンに手をとられてお参りしたの。
一緒に柏手、一緒にお祈り。
たぶんきっと、おなじこと。
ちょっとあたしは、欲張りなこと。
お賽銭はちょっと張り込んどいたもの。
ずっとずうっと、この人と一緒にいたいのよ!ねぇ、神様。
悠河クンは妙に真剣に、唇なんか尖らせてぶつぶつと、
なにをお願いしたのかしら、今度聞いてみちゃおっと。
ずうっと手を繋いで、悠河クンと歩いたの。
独身の頃に戻ったみたいで、とても新鮮。
外だと、あなた、「りかさん」になるのね。
小さな発見。
歩幅が小さくなっちゃうから、ゆっくりゆっくり歩いたの。
悠河クンの手の暖かさを、じんわり感じながら。
団地に戻って、ああ、やっぱり着物は疲れちゃう。
帯を解きかけたところで、悪戯心が顔を出す。
「ゆ・う・が・くん!」
ソファーでひっくりかえっているカレに、乱れた着物のままで圧し掛かってみる。
「うわ・・・あ」
とあいいながら、目がまんまるよ、あなた。
だって・・・そろそろ・・・・いわゆる・・・・・・・・
ナントカ始めよね。
ううん、いっつもあたしたちはアツアツで、そんなのは必要ないんだけど。
でも、けじめってことで、ね。
頬を両手でおおい、ちゅう。
「ことしも宜しくね。」
ちゅっ、ちゅっ、
たまにはいいでしょう、あたしからのキスの嵐も。
はい、最後は仕上げに、耳の穴よ。
スーツをちょっと強引に剥ぎ取って、あたしはあたしの着物にカレを包みこむ。
乱れ髪のあたし、極彩色の振袖、包まれた美青年。
すごいわ、正月早々耽美このうえないリビングじゃない?
すきすき大好き、だから我慢なんてしてあげない。
着物の下で、あたしはあなたの身体に唇を這わせるの。
さらさらと、絹の感触がここちいいわ。
今日くらいは、あたしにイニシアティブ取らせてね。
「あうっ。」とか
「んっ・・」とか
「りかちゃ・・・ん!」とか
いちいち眉間にしわ寄せる、この世でたった一人のいい男。
それがあたしのものなんて、流石あたしだわ!
・・・・・・もとい、流石悠河クンよっ!
開いた唇をさんざっぱら味わって、
さあ、久しぶりにお姉さまな気分になってきたわ、あたし。
悠河クンは、そんなあたしを見てくすくす笑ってる。
んんん、その渋がった笑顔も、とっても素敵。
あなたのアップにうっとりしながら、あたしはあなたに被さるの。
「ああん、なんにも出来てなーい!!」
肩で息しちゃってるあたし。
夢中になってたら、もうお夕飯の時間じゃない。
やだわ、ご飯くらいなんで炊いとかないのかしら、あたし。
「いいよ、お米だけといで、あとはお節あるじゃん。」
そういって、すらっとした身体でベッドからおりる悠河クン。
新年早々、いいのかしら・・・あたしってば。
枕に顔を押し付けて、あたしちょっと反省。
「どしたの?りかちゃん?」
戻ってきたカレが、頬にちゅう。
あたしってば枕に顔押し付けたまんま突っ伏して、沈没。
「・・・ん、新年早々、またあたしご飯作んなかった・・・・」
「だから?」
「だって・・・・・・・」
まずいわ折角悠河クンと一緒なのに、あたしってばちょっとロー。
「悠河クンの奥さん、なのに。」
「いいんじゃない?」
「俺の奥さん、なんでしょ。」
突っ伏したあたしを、ぎゅうっとだっこする。
「それなら、いいよ。」
あたしに顔を埋めて、ピアスにそっと舌を這わせる。
「俺の奥さんで、いてね。」
ああ、あなたの声があたしの背骨をじいんと走り抜ける。
あなたの腕の中で、あたしったら震えそう。
「だから、ご飯炊けるまで、ね。」
なんか急につかまっちゃったみたいに、上に乗っかられる。
「さっきはりかちゃん、お姉さんだったから。」
唇を突き出すみたいにして、ニヒルな微笑み。
あたしはもうわかんなくなるくらい、悠河クンにしがみついて。
子供みたいに甘えた声を出しっぱなし。
背中には一杯の爪の跡。
お正月だもん、いいわよね。
背中にあたしの跡をしょって、今日も仕事をしているあなた。
あたしはクッションに埋もれながら、あなたの夢をみてみよう。
どこまでも、いつまでも、ずうっとあたしが奥さんね。
あたしの素敵なダンナさま。
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