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『 13 』
ふと目が覚める夜がある。
あなたの寝息が聞こえてくるの。
あなたの胸に手を伸ばし、
あなたの鼓動を感じてみる。
こんな時間はちょっと嫌い。
置いてきぼりにされちゃうみたい。
わけもなく不安になるの。
だからあたしは思い出す。
あなたとあたしの色んなことを。
あなたの寝息に包まれて。
新入社員でピカ一だった、悠河クン。
次から次への仕事の山、抜擢の繰り返し。
なのに笑顔はかわらずに、
ひたすらに必死に、仕事をこなし続けてた。
ハイヒールのあたし、本当はとこまでもつかしらって、
ちょっと気になってた。
だけどあなたは文句一つ言わず、やっぱり微笑んで仕事をこなしてた。
色んな陰口やら噂やら、耳に入らないはずないのに、
どうして平気なのこの子?って、不思議だった。
ただの鈍感なのかしら。
それとも、って興味が沸いてきた。
だからね、誘ってみたの。
仕事の話に相槌なんて打ちながら、
あたしたちってば、いつのまにかベッドにいたわよね。
ちょっとあたしが強引だったのは認めるけどね。
ずうっと好きだった、ずうっと憧れてたなんて、
耳元で囁いてたわねあなた。
鼻で笑っちゃった、あたし。
年上の女に、ありがち過ぎる台詞じゃない?
聞こえない振りをして、あなたの肌だけ感じてた。
ぴかぴかの生命力が溢れてるみたいなあなたが、
どうしてそんなにそっと触れるのか、不思議でならなかったの。
どうせ明日は、ちょっと気まずそうな顔をして、
オフィスでこともなげに言葉を交わしてお仕舞いじゃない?
こんなかわいい顔してるけど、そういうもんじゃないかしら。
そんなこと考えながら、あなたの吐息に混ざってた。
あなたは結構好みのタイプ、一時だけでも楽しいじゃない。
それならそれも面白いなんて、なんとなく言い聞かせてた。
窓一杯に流れ込む光が、あたしの目をこじ開けた。
一番最初に目に入ったのは、あなたの顔。
なんだか真剣で、思いつめたような顔をして。
ぼんやり起きあがるあたしの傍ら、
ねえ、どうして正座なんかしてるの?
「りか・・さん・・」
なあに、忘れて下さいとか、いまさらいわなくても分かってるわよ。
ごめんなさいとかは、もっとごめんだわ。
髪をかき上げて、あたしってば大きく欠伸。
「け、結婚、してください。」
あたしの口は開いたまま。
「俺、本当にずうっと好きで、憧れてて。」
なに言ってんの?って言おうとした瞬間、
あたしの目はやっと焦点を結ぶ。
大きな目が怖いくらい真剣な、あなた。
「まだまだの俺だけど・・・
だけど、精一杯しあわせにするから・・・だから・・・。」
そういって、あとは言葉にならぬままに頭をベッドにこすりつける。
あたしはどうしたらいいのかしら?
コレって信じてイイのかしら?
そんなこと考える前に、あたしの首はこっくりと頷いていた。
くどき文句とかプロポースとか、いろいろ聞いてきたけれど、
こんな素朴な言葉は初めて。
飾ったり格好良かったり、そんな化けの皮はすぐにわかっちゃうの。
だけど彼の言葉はわからなかった。
だから信じていいのかな?って思ってしまった。
なにか、とても、大事なこと。
忘れてた、綺麗なこと。
あなたの瞳にあるような気がしたの。
だからあたしは頷いた。
あたしはきっと、夢見るような瞳だったに違いない。
もいう随分昔に忘れたはずの。
「うっわああ―――――――――――――― !!」
あなたはいきなりあたしの手をとって、
ベッドの上で踊り出した。
滅茶苦茶なあなたの腕の中、あたしはいつのまにか笑ってて。
いつのまにか、泣いていた。
あなたの胸に、そっと顔を寄せる。
あの時と同じ暖かい涙が溢れてくる。
あなたの知らないところでだけ、少し涙もろいあたし。
そんなあたしが好きになれたのも、きっとあなたのお陰なの。
「ん・・・りか・・ ・・・・ ちゃ・・ん。」
寝息の中であたしをかき寄せるあなた。
だからあたしは幸せな涙を流したまま、幸せなまどろみに身を委ねる。
いつまでも、どこまでも、愛してる。
あたしの素敵なダンナ様。
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