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『 8 』
ああん、もうこんな時間。
今日はお給料日。
だからちゃあんとお肉買ってきたのよ。
特売とかじゃないわ、松阪よ、松阪。
赤ワインだって、奮発したのよ。
でもね、いざ焼くと思うと怖くて手がつけらんないのよおっ!
とりあえずベビーリーフ洗って、
・・・・・・・・・適当にレタスとか混ぜてサラダになんか作ってみよう。
このごろちょっと不安定。
あたしってば、どうしちゃたのかしら。
レタスなんか千切りながら、時々思っちゃうのよ。
好き過ぎて怖くなっちゃうの。
悠河クン、あたしの何処が好き?
野菜を水切り器にばさっとなげこんで、ぐるぐる回しながら。
そうね、洗濯は人並みにやってる、だけどアイロンとか面倒くさい。
掃除は・・・悠河クンが日曜日にやってくれるほうが綺麗になるのよね。
でもって、料理がこれでしょう。
サラダくらいなら出来ない事ないのよ、
だけどね加工するとなると、もうわけわかんなくなっちゃうの。
自分ひとりのならできるのよ。
だけどどうしてかな、悠河クンの為に美味しいもの!って思うと、
頭が一気に固まっちゃうの。
野菜と一緒に、ぐるぐるぐるぐる頭が回っちゃう。
綺麗なだけの奥さんで、本当に好き?悠河クン。
うお、もうこんな時間。
あんな本読んだから、バス停ひとつ乗り過ごしちゃったよ。
なんか頭にぐるぐる、手やら足やら絡まっちゃってるけど、
俺は二段抜かしで階段をあがる。
「たっだいまあ!りかちゃん――― 」
ぱたぱたぱたってりかさんが飛んでくる。
あ、りかさんってば、今日は珍しくエプロンなんかしてる。
真っ白なフリフリエプロン、新妻ってカンジでよく似合う。
物憂げにすら見えそうな、大きな瞳がにこっと笑う。。
俺は抱きしめて、ちゅっ。
りかさんも抱きついて、ちゅっ。
「おかえりっ!」
どんなに疲れてても、あなたは笑窪で帰ってきてくれるのね。
・・・・・・・んんん
もう一度、今度は舌なんか思いっ切り入れて、濃厚なキス。
さっきまでの不安はどこへやら。
あたしってば、なんて現金。
でもってキッチンに手を繋いで連れてくの。
「あ、今日はステーキ?」
「ん。お給料日だもん。」
言ったままりかちゃん、もじもじしてる。
「いいよ、俺に焼かせて。」
「でも、今日は悠河クンご苦労さまって思ったのよ・・・」
「だけど、俺、ステーキ焼くの得意だもん。」
そういって、さっさと上着を脱いでネクタイ外して。
腕まくりして、あたしと並ぶ。
「りかちゃんはサラダ作ってて。」
「・・・ん。」
ちょっと胸元なんか開いちゃって、長い腕に高い腰。
お塩や胡椒をぱっぱっと散らす。
横にいるだけであたしったら、どきどきが止まらない。
お肉にワインを振りかけて、ぶわっと火があがって。
いとも容易くフライパンを操るあなた、
見とれちゃうわ、あたし。
エプロンしたまま、黙々とサラダに向かう俺の奥さん。
ドレッシング混ぜるのに、唇結んで真剣な顔で。
だけどちょっとだけ俺に寄り添って。
少しだけアンバランス、少しだけ不安定、
そんなとこも、可愛くてたまんない。
なんてこと考えてる間に、いい匂い。
「はい、お皿出して。」
「んんん~~~ もうお腹いっぱあい!」
リビングのソファにひっくりかえるあたし。
いっけない、今日は悠河クンありがとうって日なのに。
もうお皿をさっさと食器洗い機に並べてくれてる、あなた。
なのにあたしったら、食べるのに疲れて伸びちゃってるの。
慌てて立ち上がるあたし。
「ごめんっ、あたし・・やる。」
とかいってあたしってば、何故かかならず壊すのよね、お皿。
今日はいい食器ばっかだから、悠河クンにっこりと。
「ここはいいから。
りかちゃん、先にお風呂はいってきて。」
「え・・でも。」
なんか役立たずもいいとこだわ、あたし。
りかちゃんちょっと困った風に、上目になってエプロンのすそを掴んでる。
困った顔のりかさん見られるのなんて、多分この世に俺一人。
だからいいんだってば、それだけでもさ。
ちょっとカッコつけて、片眉なんか上げながら、
つやつやのピンクの頬に、ちゅっ。
「そしたら一緒に、
腹ごなし。しよ。」
鼻歌歌いながら、おくさんはバスルームへ。
そして俺は、キッチンで文庫本を又開く。
なんだかんだ言っても、ついつい気になっちゃって。
だけど、結構やってるじゃん、四十八とは言わなくてもさ。
流石りかさんだけあるよなー、とか変な処で感心しちまったりして。
とりあえず、候補は決めたんだ。
先輩ってば、茶臼とかに何故かご丁寧に付箋なんかついてるよ。
・・・・・ 『オススメ!』 とか書かないでほしいよなあ。
あれで結構恥ずかしがりやなんだぞ、うちの奥さんは。
オーソドックスな本手にも付箋。
『あたりまえすぎ!』、大きなお世話だよ、ったく。
ま、でもな、折角の好意なんだよな、多分。
無駄にするべきじゃないよな、うん。
うんと優しそうなやつにしよう。
りかちゃんを包み込んで、どのくらい好きかって伝わるような。
でもって名前がりかちゃんらしいやつ。
虹の架橋と、浮橋かあ ・・・・・・
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