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『 7 』











「ほんで、お前。どうやねん、最近。」

「ど、どうって?」



うららかな陽射しが漂う社食で、霧矢が生姜焼き定食をかっこんで尋ねた。
先輩ってば、いきなり何言い出すんだよ。
掻揚げが、喉に詰まりかけちまう。



「せやかてな、あのりかさんやろ?」

あのって、他にどのりかさんだよ。
俺のりかさんは世界に一人しかいないってば。
「バリバリでキャリアでべっぴんで、そんであの色っぽさやん。」
霧矢さん、ひとつ忘れてる。
可愛いんだってば、りかさんは。
「普通ですよ。」
「普通って?」
「だから、普通。
 ちゃあんと新婚らしくしてくれてますよ。」
「なにをしてくれてるねん?」
「ええっと、だから・・・掃除とか洗濯とか、
 ・・・・・・・・・料理とか・・・・」


「おい、ココ空いてるか?」
ハンバーグ定食を片手に、憮然とした顔で同期の真飛が横に座る。
「あ、もう帰ってきたの?」
「どっか、行ってたんか?」
「ああ、今朝まで出張、エジプト。
 空港から直行してきた。」
「なんでまた、エジプトやねん?
「なんかさ、新しく古代エジプトのテーマパークの計画が持ち上がってるから。
 視察みたいなもん、湖月課長のお供。」
「そういえば、お前んとこも新婚やったなあ。」
先輩の話が真飛にふられてる間に、俺はうどんに戻る。
「そーだよ!まったくよう。
 新婚早々出張なんか行かせやがって、
 全く、かよこが淋しがるっての。」
ぶつくさ言いながら、付け合せの人参なんかかじりだして。
「大和んちだって、そうだろ。」
「えっ、うち?」
「あ、でも、りかさんなら自分もバリバリ海外出張してたから、
 理解あるよな。」
そういや、りかさんよーく駆け回ってたよなあ。
「俺達とかもベルリンかなんかに連れてかれたよな。
 そりゃあ人使い荒かったけどさ、流石だったぜ。」
ピンヒールに綺麗な脚で、男供を引き連れて仕事してたもんな。
口調はちょっときつかったけど、
真っ赤に塗った唇とかに、俺ってばぼんやり見とれてて、
「悠河クン!」ってよく注意されたよなあ。
それがさ、今じゃああんなに可愛い俺だけの奥さんなんだよ。




「おい、なに、にやけとんねん。」
箸を止めてぼんやりしていると、霧矢先輩に小突かれる。
「えっ、にやけてなんか・・・・いませんよ。」
「いーや、にやけとった。そんなええんか?りかさん。」
「いいって・・そりゃ・・・・いいですよ、りかさん。」
まあ、いいや、なんとなく話を合わせとこう。


「そうやねんて、真飛。」
「そりゃあさ、あれだけ年上で。
 酸いも甘いもぜえんぶ分かってますっていうカンジだもんな~。」
だからなんなんだよ、俺はちょっとムッとする。
りかさんは年上でもなんでも、すっごく可愛くて。
なんでも一生懸命やってくれてて。
多分・・・・・多分だけど、俺の事ちゃあんと愛してて。
そんなこと分かって無くても、俺はいいんだってば。
「だって、お前んとこだって・・・年上じゃん。」
「うーちーはー、一つ違い。同い年みたいなもん。」
箸をぐるぐるさせながら、真飛がふふんってカンジで笑う。
「絶対遊ばれてるー、て思おたもんな、俺ら」
「もお~、ひどいなあ。なんすか、ソレ。」
「だって、まさか、本気で相手すると思わないじゃん。
 あの、りかさんだよ。」
「そんで、お前の給料で暮らしてるんやろ?」
「よく納得してくれたよなあ。」
「納得も何も・・だって俺たち、夫婦だもん。」



からかわれてるって分かるけど、俺ってばことりかさんのことになると、
真面目に相手しちまうからよくないよな。







「お前なあ、まだ若いのにもっと遊びたいとか思わんかったんか?」
「べ・・・別に・・・。」
「もう充分なんだろ。」
にやりと意味シンな笑いを向けられる。
「あーあ、そうやな。あのりかさんやもんな。」
「じゅ・・・充分って・・・?」
「せやから、他の子とかと遊ぶ必要ないゆう事やろ?」
「うん、俺満足、かよちゃんで充分。」
「お前には、聞いてへん。」
「ああ~もう、今日は途中で直帰しちまおうかな。」
真飛がなんだかぶつぶつ呟いてる。
「けどな、お前。」
先輩がびしっと人差し指を向ける。
「な・・・なんですか。」
「お前が満足でも、りかさんがそうとは限らんねんぞ。」
「あ、ソレ言えてる。」
真飛もこちらの世界に戻ってきたらしく、やっぱびしっと指を向ける。
「せやかてな、りかさんもわけわからんくらいもててたやろ?
 お前みたいなんが、満足させられるとか思われへんぞ。」
そうなんだよなあ、仕事も出来てその上綺麗でビシっとしてたから、
流した浮名は数知れず。
でも、本気になったのは俺だけって言ってくれたから、
それで充分だったんだ、俺としてはさ。


これだけ喋りながら、いつのまにやら先輩の生姜焼きは
綺麗さっぱり無くなっていた。
「そ・・そんなこと、ないですってば。」
なんかそう言われると、なんとなく声が小さくなっちゃうよ。
「だってさ、お前だけ満足してるかのかもよ。
 女って複雑だからさ。」
真飛、お前結構意地悪くない?
身体なんか乗り出して、おいソースがネクタイについてるぞ。
霧矢先輩てば、にやりと笑って、
「ちゃんと、バリエーションもたせてるんか?お前。」
「ば・・ばりえいしょん・・・って。」
「同じことばっかしてると飽きちゃうかもよ。」
「でも、ちゃんと独身のころみたいに、外でデートとかもしてるし・・・」



「あ~っ!そうゆうことやないねん!!」
「じゃ、どーゆーことですか?」
「ちゃんと、してんのか、ってことですよね。」
先輩と真飛が勝手に頷きあう。
全く、メシ食ってる時に下ネタかよお。
「そーゆうことは、新鮮さが大事やねん。
 惰性でするようになったら、おしまいや。」
「まあ、ウチはそんな心配ないけどさ。」
なんとなく自慢気に言われて、俺は悔しくなる。






だけど・・・だけど・・・・
もしかして、りかさん、飽きてるのかなあ。
だからこないだとか情緒不安定みたいに、ぽろぽろ泪を零してたのかなあ。
あれはあれで、もんのすごく可愛いんだけど、
だけど泣かせちゃだめだよな。
惰性でしてるつもりとかないんだけどさ。
でも、やっぱりりかさんから見たら、つまんないのかなあ。


俺ってば、なんとなくどす黒い不安に襲われる。





「なんか、顔が曇ってるぜ。」
「え、そんなことないってば。」
「まあ、ほんなら、コレでも読んどけ、
 やっぱりな、勉強は大事やからな。」
霧矢先輩が何故か携帯していたのは、四十八手解説の文庫本。
 ・・・・・・・・・・・・カバー位つけて下さいよお。
「こ・・・これって。」
「いや、お前やったらこのくらい初心者向けのほうが、ええやろ
 りかさんのためや、りかさんの。」
「人助け、って気持ちいいよな。うん。」
勝手に頷きながら、二人はさっさとメシを片付け席を立つ。









りかさんのためかあ・・・・・・
ぱらぱらとページをめくる。
あ、これってやったことある、で、こっちってアクロバット?
りかさん身体柔らかいからな~、何でも出来そうだな~
りかさん喜ぶかなあ、呆れるかなあ。
どんぶりを前に、なんでこんな本読んでるんだ?俺。


本当いうとなんだってやっちゃうよ、りかさんが笑ってくれるならさ。
今更だけど、そのくらい惚れちゃってる。




俺だけの素敵な奥さんに。













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