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   『 5 』









ああん、もうこんな時間。
カーテンの隙間から、外を覗く。
だって、どおしても欲しかったんだもん。
悠河クン、怒るかなあ。
悠河クン、呆れるかなあ。



どこからどう見ても、団地に不釣合いなソレ。
ああどうしてあたしって、派手で珍しそうなものに弱いのかしら。
だって、ステキっ!て思ったの。
まるで、あたしたちの為に作られたみたいに。

だから、あたしはとっておきのおめかしで、悠河クンを待ってるの。






ばたばたばたっ!
階段を駆け上がる音がする。






今日はひさしぶりに、早く帰れると思ったのに。
バタバタしてて、こんな時間。
電話入れる暇も無かったから。
うちの奥さん、むくれてないといいな。
でも、むくれてても、可愛いんだよな。
もう、りかさんって、何してもかわいいんだもん。








キーホルダーをがちゃがちゃしてると、珍しく中からドアが開いた。
「りかちゃん~」
おんなじくらいの背なんだけど、小首を傾げて上目遣い。
「お帰りの、ちゅう。」


んんんんん・・・・



お帰りにしちゃ、ちょっと濃厚。
奥さんの舌は、いつも甘い。



でもって、俺の首に腕なんか回して。
「ねえ、悠河クン。」
「なあに、りかちゃん?」
「あのね・・」
そして、頬へ、ちゅっ。
「買っちゃったの。」
また、軽く、ちゅっ。
ふわふわしてる、甘い唇。


そういや、かわいくて顔ばっか見てたけど、
今日は・・・いや、今日も面白い服着てんな~


「買ったって、ソレ?」

「あ、コレ?違うの。」

そういって奥さんは、くるりと優雅に回ってみせた。
白いスカートがふわふわと玄関に広がって。

「うわあ、綺麗だね~。」
「そお?」

奥さんにこやかに微笑んで、裾を摘んでお辞儀する。

「だってこないだ、見たいって言ってたじゃない。」
「え?」
「チュチュ。」
「ああ、そういやあ。」
「昔のね、ちょっとリフォームして・・・・着てみたの・」
「うん、とっても似合う!」


ああん、そんなに笑窪をきらきらさせねいで。
あんまり期待通りの反応なんで、うきうきしてきちゃうじゃない。

「ほんと?」
「うん、お姫さまみたいだよ。」

そう言って、彼はあたしをひょいと両手で抱き上げた。
「やぁ・・ん。」
「だって、お姫様だもん。」
そういって今度は鼻の頭に、ちゅっ。
あたしってばなんだか、どきどきしちゃって彼の首にぎゅうっと腕を回す。












彼はあたしを抱っこしたまま、リビングへ。
で、リビングのど真ん中に鎮座してるソレをみて笑い出す。


「買ったって、コレ?」

奥さんはすこし膨れて、俺の腕から飛び出して。
ハートの真っ赤な椅子に飛び乗った。
脚なんか組んで、ぐる~りと回ってみせる。


「だって、欲しかったの。」
「うん。」
「ハートでしょ。」
「うん。」
「真っ赤でしょ。」
「うん。」
「自己主張強くて。
 ・・・・・・・アタシみたいでしょ。」


俺はたまらず吹き出した。
奥さんってば、また膨れる。


「だ・か・ら!
 悠河クン、座って!」
「え・・俺?」
「ん、あたしみたいな椅子に座って。」


俺は手を引かれて、椅子に座らせられて、
なんだかいろいろポーズとか取らされて。


「ん、やっぱりかっこいい。」
「こないだのりかちゃんには、負けるよう。」
「ううん、そうね、五分五分ってとこ?」

奥さん満足そうに、またにっこり。


「でも、やっぱり足りないよ。」
「何が。」
「りかちゃん。」


そういってあたしは手を引かれて、カレの上にまた抱き上げられる。
あたしみたいな椅子にすわる悠河クン、の上のあたし。
なんだか、とってもいい気分。


「イタリア製のね。」
にこにこしてる彼に囁く。
「一点ものなの。」
ウェーブしてる髪の毛がくすぐったい。



「りかちゃんらしくて、いいんじゃない?」



でもってカレってば、首筋なんかにちゅっ。
あたしはカレの膝で蕩けてく。
「ごめんね、勝手に。」


「いいじゃん、りかちゃんなんだから。」
「なあに、ソレ?」
「理屈とか、いらないでしょ、ってこと。」


なんだかわからないけど、なんだか嬉しくて、
また、ちゅっ。











「今日は早く、ごはんたべちゃお。」
「じゃあ、パスタにしよっか?」












すくっと立ち上がり、さっさかエプロンをつける悠河クン。
後ろからあたしはぺたっと張りついて。
カレと一緒に冷蔵庫を覗き込む。
湯気の立った鍋に、パスタを放り込んで。
手際よくサラダを作るカレの横で、パスタの番をする。


「ねえ、どうして分かるの?」
「なにが?」
「あたしの食べたいもの。」
「理屈じゃないよ。」
「でも、どうして?」


じいっと見つめると、すごく真面目な顔でカレは言う。

「りかちゃんが、好きだから。」
「だって、わからないわよアタシ、悠河クンの好きなもの。」
「わかってるじゃん。」
「え?」
「ああいう椅子、すごく好きだよ。」
「だって・・あんなに派手でちょっと変わってて、ちょっと浮いてるのに・・」


くすくすっと微笑んで、レタスを水からあげながら、

「だって、りかちゃんみたいでしょ。」
「なにが?」
「あの椅子、派手で可愛くて、それでいてカッコイイ。」


きっぱり言ってのけるアナタ、口が開いちゃうじゃない。









「さ、出来たよ。食べよ。」









フォークにぐるぐるパスタを絡めながら、あたしってばにやにやしちゃう。
ほんとはすごく寂しがり屋で。
なのにすごく意地っぱり。
だけどアナタはわかってくれる。
そう信じてしまえる、なんて幸せ。
 


「ねえ、悠河クン。」
「なに?」



「今夜は早く寝よっ。」




そしてもっと、あたしを見せてあげる。
全部全部、わかるまで。


だから、一杯愛しあいましょ。









あたしの素敵なダンナさま。












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