第18章 動乱前夜 

  王都からわずか5キロほど離れた郊外の広大な敷地内にかつて旧王立科学研究所が存在していた。
 当時の事故の悲惨さを物語る建物の残骸と廃墟のみが放置されていたこの区域はこれまで立入禁止とされてきた。しかし前王が暗殺され、新しくルシアン女王が即位することが決定されるとこの無人の地に再び人の出入りが見られるようになっていた。
 急ピッチで建設が進められる施設が何であるのかこのとき知る者は殆どいなかった。
 その施設が驚くべき速さで完成されると次にここへ運ばれてきたのは軍によって強制的に徴発されてきた若く健康な男女たちであった。
 彼らの誰一人として自分たちがなぜ、何のために、この不気味な施設に連れて来られたのか知るよしも無かっただろう。だがその疑問もすぐに解消されることになる。
 そこは工場であった。物を生産する工場である。そして彼らはその「材料」であった。
 女王ルシアンに絶対の忠誠を誓い働く機械の兵士――サイボーグに改造されるために彼らはこの改造工場へ運ばれてきたのだ。
 哀れな若者たちは到着と同時に男女に分けられ、身体検査を受けさせられた。サイボーグにもランクがあり、そのデータにより改造されるタイプが決定されるのである。特に女性型サイボーグは用途も多岐にわたるためその検査は念入りに行われた。
良好なデータがでた者は即座に工場へと連行される。そこで彼らは初めて自分たちに待ち受けている運命を知らされることになるのである。
「改造作業は進んでいるかしら」
 新しい改造工場を見回すように入ってきたのは金の髪と銀の全身スーツをまとった美少女である。彼女はオートメーション化された改造手術マシンのあげる大きな駆動音と、それに混じって聞こえる今まさに改造されている女性たちの苦痛の叫びを聞きながらふんと鼻を鳴らした。
 ベルトコンベアに載せられた全裸の少女たちが次々と改造マシンに送り込まれてゆく。
そしてそれをコントロールしているのも制御コンピュータにされたサイボーグ少女たちである。彼女たちは上半身だけで両腕も無く、腰から下は装置に直接接続されている。

    

「セレナ様、改造作業は順調に進んでいます。間もなく第17組の素体の改造に取り掛かります」
「そう、ではそのようにグリエフ博士に報告しておくわ。素体はどんどんここに運ぶからしっかりやるのよ」
「はい。ルシアン女王陛下のために、この生体脳を捧げて働きます」
 マシンを制御しながら無表情で答える少女の頭を撫でながら女王親衛隊サイボーグ・セレナは冷たい笑みを浮かべた。
「頼むわよ。この改造工場の制御用サイボーグの予備はちゃんと用意してあるから、心置きなく働きなさい」
「はい。ありがとうございます」
 カツンとブーツで床を蹴りながらセレナはその場を離れた。
 笑いを噛み殺すように彼女は肩を揺らしてくっくっと喉を鳴らした。
「あの様子だと生体脳が焼ききれるのもすぐね。次の娘を呼んでおかなくちゃ。あはは」
 工場を出た彼女は冬の空を仰ぎ見た。
セレナは寒さなど感じない。また星の輝きもデータとしか認識できない。しかし彼女はこの機械の体を楽しんでいた。
改造されるときに激しく抵抗したのが馬鹿らしくさえ思える。
そんなとき女サイボーグ兵士たちに両腕を掴まれて連れてこられる三人の少女の姿を見つけた。
少女たちはこの寒さの中全裸にされており、白い息を吐きながら、その身体を小刻みに震わせている。
この娘たちが次の改造素体であることはすぐにわかった。
「助けて、助けてください!」
「な、なんで私たちが…こんな…」
「いやぁ、家に帰して…ママーッ!」
 セレナは不愉快そうに唇を歪めると、抵抗する三人につかつかと歩み寄る。
「お黙りなさい。ルシアン女王陛下の忠実なサイボーグになれるというのに見苦しい!」
「じょ、冗談じゃないわ!どうして私たちがサイボーグなんかに改造されなきゃいけないのよ!」
 そばかすの似合う少女の一人が涙混じりの声で訴えた。
 甲高い音が夜空に鳴り響く。
 セレナの平手が少女の頬を打ったのだ。
「げふっ」
 両腕を拘束された少女が血の塊を吐き出した。
「リエータ!?」
「リエータ大丈夫っ!?」
 友人たちの呼びかけに少女は朦朧としながらもセレナを睨みつける。彼女が吐き出した血の塊の中には砕けた歯が混じっていた。
「あら、ごめんなさい。手加減してあげたんだけど。私が本気だったらその首…飛んでるわよ」
 リエータと呼ばれた少女の顔色がすっと青ざめた。しかしその視線はセレナを睨んだままである。
それを見て、セレナは少女の顎をつまみあげ顔を近づける。
「あなた、気に入ったわ。ちょっと、この娘のデータを見せてみなさい」
「はい、セレナ様」
 女兵士が耳の裏から引き出したコードを受け取ったセレナはそれをこめかみの小さな端子に差し込んだ。冷たく蒼い瞳が点滅を始める。
「ふうん、可哀想に。最下級のサイボーグ兵器に改造されるのね。でもこの気性は道具にしてしまうのは勿体無いわ。こういう素材はいいサイボーグになるのよ、選定プログラムを私の権限で修正しなさい」
「かしこまりました。ピッ。手続き更新致しました」
「うふふ、喜びなさい。あなたたちはワルキューレ予備軍に改造してあげる。立派なサイボーグになりなさい。功績を挙げれば上級サイボーグにもしてあげるわよ」
「い、いやだって言っているでしょう!私をおばあちゃんの所に帰して、お願いっ!」
「手術が終わっても同じことが言えたら、私が人として殺してあげるわ」
 セレナが顎で連れて行けと指示する。
「ちょ、ちょっと待って、いや、いやっ、離して、いやああああっ!!」
少女たちは儚い抵抗をしながら工場の奥へとひきずられて行った。
「今から改造手術が始まるとすれば…そうね明日の昼には完成するかな。うふふ、楽しみ」
 セレナは長い黄金の髪を翻し工場を後にした。
 三人の少女たちが助けを求める最期の悲鳴が工場の外に聞こえてきたのはそれからすぐのことであった。




この二日後。一人の東洋人女性が王都に戻ってきた。
王都の戒厳令がいまだ解かれていなかったことは冴香にとって好都合であった。
夜の闇に覆われた市街には全くと言ってよいほど人の姿は無い。街路を照らすガス灯の光だけが日没に伴って発生した濃霧によってぼんやりとその存在を主張しているに過ぎなかった。
前に差し出した指先も見えないほどの霧の中でも五感の全てを強化改造されている冴香が移動することは造作もないことである。こうして彼女は誰に憚られることなく容易にリザーブしている街宿にたどり着くことができた。
「あんた無事だったのかい!?」
冴香を出迎えてくれたのは宿の主人の老婆であった。
この宿はホテルと言うよりは民宿に近い。宿の切り盛りもこの老婆と孫娘の二人でしている。
冴香はこのアイアス王国に入国するにあたり雑誌記者を装っていた。東洋人の客が珍しかったのだろう。宿での彼女の扱いは一般客に比べて明らかに上待遇であった。
「心配をおかけしました」
 そう言って深々と頭を下げる冴香を見て老婆は呆れた様子で詰め寄る。
「心配って、この国がおかしくなっちまったことは知っているんだろう?」
「え、ええ…まあ」
詳細を話す訳にもいかないので冴香は曖昧に返事をするしかない。
「この街のあんたみたいに若い者はみんな軍に連れて行かれちまったんだよ」
「みんな?まさか…それじゃ」
このとき冴香はこの宿の看板娘であるあのそばかすの似合う紅茶色の髪の少女の姿がどこにも見えないことに気付いて絶句した。
「…孫娘のリエータも連れて行かれてしまったよ、嫌がるリエータを軍の奴らは…おおぉぉぉ…」
老婆はそのまま泣き崩れた。
「可哀想なリエータ、今頃どんなひどい目にあわされているかと思うとわたしゃもう…」
リエータは冴香の黒髪を「綺麗だ」と言って気に入っていた。冴香にとっては人工毛髪を褒められることはいささか複雑な心境ではあったが、太陽のような少女の明るい笑顔は見ていて素直に心和ませてくれる物であった。冴香が語って聞かせる、遠い外国の話に胸躍らせ、想いを馳せていたリエータの澄んだ蒼い瞳を思い起こすとその心は引き裂かれんばかりに痛んだ。
軍がリエータたちを連れて行った目的はわかりきっている。
サイボーグ兵士の素体にするためだ。あのリエータがその若くて生命力に溢れた肉体を切り刻まれて機械に改造されている光景を脳裏に浮かべ、冴香は慌ててそれを振り払った。
しかしリエータの身を按ずる反面、冷静に状況を分析する諜報サイボーグとしての冴香も間違いなくこの場に存在していた。
彼女はガルディ軍がサイボーグ兵士に改造する若者たちをここまで徹底的に徴収しているとは思ってもいなかった。認識が甘かったと言わざるをえない。そしてこのような状況にあってはこの宿がいつまでも安全であると考えるのは危険だと感じていた。
冴香はひとまず二階の自分に用意されている部屋へ戻った。そこで部屋の荷物が物色されていないことを確認した。
「奴らの目的はあくまでサイボーグ兵士にする人間だけだったようね」
冴香は衣服を脱ぎ去り全裸になる。



人の手で造られた身体は女神像のように美しく均整のとれている。しかしこのとき彼女の左肩から胸にかけた部分だけは無骨な金属が露出していた。
ガルディ配下のサイボーグとの戦闘で負った損傷である。とりあえずレイナというサイボーグ少女の亡骸から部品をもらい応急修理したが、全身精密機械であるサイボーグにとってそれはかなりの負担を強いられることであった。
「ふう…生体脳にかなり負荷がかかってる…戦闘時に支障だけは出ないようにしないと…」
冴香はそう言ってつらそうにこめかみを押さえた。
肩の関節がギリッギリッと嫌な駆動音を立てる。部品が微妙に噛みあっていないのだ。
腕の感触を確かめるように冴香はスーツケースの中から薄手の特殊素材で作られた濃紺のバトルスーツを取り出し、身に着けた。さらに武器や特殊器具を収めた小型のバックパックの中身を確認し背負う。



首から下をバトルスーツに覆われ、冴香はややきつめの胸元に眉をしかめた。乳首の先の違和感が気になっているのだ。
「山の中でバストウエポンの試し撃ちをしておいた方がよかったわね…うっかりしていたわ」
彼女にとって最強の武装である両乳房に埋め込まれたマシンガンウエポンの弾丸は既に撃ち尽くされている。今は先日リーファ嬢の執事バフマンより譲り受けた規格外の弾丸が装填されている状態である。
使用に問題は無いと聞かされてはいるが無論、保障などあるはずもない。
戦闘時に不具合が発生しようものなら命取りである。試し撃ちを忘れたのはとにもかくにもそれだけ生体脳に負担が生じている証拠であった。
不安要素は小さく無い。しかしこうなってはもう運を天に任せるしかない。
冴香は自分を納得させた。敵のサイボーグとは現状持てる武器の全てを駆使して戦うほか無いのである。
フィオラ王女たちと別れてから既に10日ほど経過していた。
ここに戻ってくるまでの間に周囲の情勢を探っていたためで、その甲斐もありガルディ軍とグルジエ軍がいよいよ直接対決に向かうとの情報も入手済みであった。
「フィオラ様は無事グルジエ大佐の所へ合流できたのかしら」
フィオラ王女がガルディらに捕縛されたという情報は耳にしていない。
「あのリーファが付いていれば大丈夫だとは思うけれど…私は私の仕事をするしかないわね」
そうつぶやきつつ太腿に巻かれたホルスターから拳銃を引き抜き、弾倉に収められた弾丸を確認する。バストマシンガンを濫用できない以上、これも重要な武器のひとつである。
そのとき窓の外で扉を押し破るかのような大きな物音がした。
さらに続いて若い女性の悲鳴が飛び込んでくる。
冴香は素早く窓の陰に身を潜め慎重に外の様子を伺った。
宿の向かい側の家であった。そこから悲鳴の主らしい若い女性が引きずり出されてくる。引きずり出しているのはメタリックな光沢のレオタードとブーツに身を包んだ少女たちである。

 

「あの子たち…サイボーグに改造された女の子たちね」
冴香は網膜に投影されるデータを分析しながら哀しげに眉をひそめる。そして外で交わされる会話を聞き取るため聴覚センサーの感度を上げた。
「許して、見逃してダニエラ!私たち親友だったはずじゃない、どうしてこんなひどいことするの!?」
「親友だったからこそサラを迎えに来てあげたんじゃない。あなたも私たちと同じようにルシアン女王陛下にお仕えするサイボーグに改造されなさい」
「さ、サイボーグ!?…本気で言っているの!?そんな夢みたいなこと言わないで!」
「聞き分けがないわね、だから人間は下等なのよ。大丈夫、私たちのように改造手術を受ければあなたも考えが変わるから」
「ま、まさか、あなたたち…!?」
「そうよ、私たちは生まれ変わったの。ルシアン女王陛下に永遠に衰えない機械の身体に改造していただいたのよ!アハハハ!!」
狂気の笑い声をあげながらダニエラはかつての友人の長いブロンドを掴み引きずって行く。少女が苦痛でどんなに泣き叫ぼうともサイボーグ少女たちは全く気にかける様子はない。長いスカートの下から伸びる足を激しくばたつかせて抵抗してもそれは無駄な努力であった。やがてサラは路傍に停車していた鉄格子が付いた護送車に放り込まれた。



「ま、待ってください!娘を返してください!!」
そう言って家の中から飛び出してきたのはサラの両親とおぼしき中年夫婦であった。二人は目の前で暴挙を働いているのが見覚えのある娘の友人たちであることに気が付いて驚いた。
「お父さん、お母さん助けて!私、サイボーグにされるなんて嫌あっ!!」
護送車の窓を塞ぐ鉄格子の奥からサラが助けを求めて泣き叫ぶ。
「娘を返してくれ、ダニエラにジュディ?君たちは一体どうしてしまったんだ?それにその姿…軍に連れて行かれて何をされたんだ!?」
「…うるさい人間ね。邪魔よ、死になさい」
サイボーグ少女たちの瞳が紅く輝いた瞬間、鈍い音が夜の街路に響いた。
首を失った夫婦の体が石畳の街路に転がった。
サイボーグ少女たちは切断された夫婦の首に口付けすると、それを放り捨てた。
この光景を目の当たりにして鉄格子の中のサラが半狂乱になって絶叫する。
冴香はどうすることもできず、ただけらけらと声をあげて笑っている彼女たちの顔を確認するしかなかった。
そのとき冴香は思わず絶句した。
「そんな…リエータちゃん?あなたまで…サイボーグに改造されてしまったの…間に合わなかった!?」
冴香が知るそばかすの似合っていた明るくてちょっと気の強い少女はもうそこには存在しなかった。
リエータはただ泣き喚くサラを一瞥するとすっと手を差し入れ、その首を掴んだ。
バキッ。
鈍い音と共にサラはかつての友人に首を握りつぶされ、両目を見開いたまま絶命した。
「こんな奴はサイボーグになる価値ないわ。二人とも素材の選定はもっと慎重になさい」
リエータは手についた返り血を舐めながら大きく口を開けて笑った。
「わかっているわ。でも人間って簡単に死んじゃうのね。こんな弱い生物だったなんて自分が恥ずかしいわ」
「でも私たちはもう違う。サイボーグになるのがこんなに素晴らしいことだとは思ってもいなかった」
「さあ、早く隠れている素体の捕獲を続けるわよ」
三人の少女たちは互いに頷くと周囲をぐるりと見回した。
「あらぁ」



不意にリエータがかつて自宅であった建物の二階を仰ぎ見た。その機械化された瞳が妖しく点滅する。
「そうかぁ、冴香さん…戻って来てたのね。冴香さーん、いるんでしょう?あなたも私たちの仲間にしてあげるわ、出てらっしゃいよぉ」
慌てて壁際に身を隠す冴香であったがそれももはや無意味であった。
銃の安全装置を解除し身構えると同時に窓を蹴破って銀色のレオタードを輝かせるリエータが飛び込んできた。
地上からここまで一気にジャンプして侵入してきたのだ。
もはや人間ではない彼女を見て、冴香は感情を振り払った。
リエータという少女は死んだ。目の前にいるのはリエータの姿をした機械の塊なのだ、倒すべき敵なのだと。
「見・つ・け・た」
「リエータちゃん、あなた…」
薄いピンクに銀粉が混じったようなルージュの塗られた小さな唇が妖しい笑みを浮かべる。
ゆっくりと立ち上がったその姿も以前の幼さを残したリエータの肉体とは明らかに変わっていた。
「うふふ…どう?私、綺麗になったでしょう。ガルディ閣下がこんなに素晴らしい体に改造してくださったのよ。胸もこんなに大きくしてくださったし。サイボーグになるのって素敵なことなのよぉ」
「もう何を言っても通じないようね」
冴香の返答を聞いてリエータの表情が消えた。
「力づくでも改造手術を受けてもらうわ。外国人で美人のあなたなら特Aクラスの諜報サイボーグになれる。それに私たちもその功績で女王陛下親衛隊の高性能サイボーグに再改造してもらえるわ」
「特Aクラスの諜報サイボーグ…ね」
 皮肉を込めた冴香のつぶやきだったが、リエータがそれを理解することはできない。
リエータの背後の窓から残る二人の女サイボーグ――ジュディとダニエラが飛び込んできた。
この狭い室内で三対一。それも相手はサイボーグである。状況は冴香に圧倒的に不利であった。ただ唯一の救いは先ほどからのリエータの言葉からもわかるように、彼女たちが冴香を普通の人間として認識していることである。
冴香の五感センサーがフル稼働して状況を分析していた。
先に動いたのは冴香であった。それも三人の真正面に突進したのだ。
「あっ」
一斉に飛び掛って獲物を捕獲しようとしていた三人は冴香のプログラム予測外のアクションを前にして連携を崩された。
さらに驚きの展開が彼女たちを待っていた。
リエータとその左脇に立っていたダニエラの間に飛び込んだ冴香の右拳がぶうんと唸りを上げ、ダニエラの顔面を豪快に粉砕したのである。
破壊された少女の顔面から火花と黒いオイル、そして義眼が弾け飛び、さらに後頭部からは砕け散ったカプセルと共に人間であった証の生体脳が飛び散っていた。



冴香の動きは止まらない。
拳を撃ち込んだ勢いのまま上半身を回転させる。
それに合わせて旋回した強烈な回し蹴りがリエータの下腹部にめり込んでいた。
金属骨格と内部臓器がつぶれてひしゃげる感覚が伝わってくる。
しかし冴香は容赦なく、そのままくの字に折れ曲がったリエータを壁に叩きつけた。



残るは一体。着地と同時に一度大きく屈みこむと、冴香は鋭い視線を正面に立つ目標に突き刺し、渾身の肘撃ちを叩き込んだ。
「ぎゃぴいいいいいいいっ!」
電子音混じりの悲鳴が上がる。ジュディの大きく豊胸された乳房がゼリーのように変形したかと思うと、それを覆うメタリックスーツが、風船が弾ける様に破裂したのだ。さらに人工皮膚の下から露出した内部装甲が砕け、激しい火花を噴き上げる。
冴香は気合と共にジュディも壁へめりこまんばかりに叩き付けた。
「ぎゃあああああっ!げぼおおおっ」
破壊した胸部から噴き出した人工体液が冴香の顔と体に降りかかる。人工心臓を叩き潰したのだ。
「死ぬ…ピピピ…死んじゃう…サイボーグになったのに…あんな痛い思いをして改造されたのに…なんでぇ…ピーッ!」



ひときわ大きな電子音を喉から鳴らし、サイボーグ少女は両目を見開いたまま稼動を停止した。
冴香が撃ち込んだ肘を引き抜く。
絶命した少女は人形のように崩れ落ちた。
「おまえ、おまえ、人間じゃないな!?げほっげぼおおっ!!」
体内の人工臓器を破壊され、床に這いつくばったリエータが人間では到底ありえない色の体液を嘔吐しながら叫んだ。
「うう…苦しい…苦しいよおっ!機械の身体になったのに…なんでこんなに苦しいのよぉっ!」
そのとき目や鼻、口から体液を垂れ流す彼女の紅く明滅する瞳が自分に向けられている銃口を捉えた。
「なにそれ?殺すの?冴香お姉ちゃん、私を殺すの?毎朝食事を運んであげたじゃない。街を案内もしてあげたわ…私を殺せるの?“冴香お姉ちゃん”!」

  

「勘違いしないで」
「え?」
「私は殺人機械を破壊するだけ。この宿の看板娘だったリエータという女の子はもうこの世にはいないわ。サイボーグに改造された時に彼女は死んだのよ」
「冗談言わないで。私は生きているわ。死にたくないよぉ」
一瞬だが冴香の顔に躊躇が走った。さらに彼女の動きを停止させたのはいつしかドアの向うで立ち尽くしていた老婆の姿であった。
「り、リエータ…おまえ…帰ってきたのかい!?」
「ダメ、近寄ってはだめ!」
けたたましい笑い声と共にリエータの腕が冴香の銃を払い飛ばし、逆撃を加えた。
木製の椅子とテーブルを粉々にして転倒する冴香の視界にあの老婆が飛び込んでくる。
「リエータ、リエータ、おまえその体…その格好…一体何があったんだい、何をされたんだい!?」
黒い体液を撒き散らしながらよろよろと立ち上がる孫娘に老婆はゆっくりと近寄る。
「なんだババアか。私はね…うふふ…あはははははは」
リエータが両手を天空に掲げるように大声で笑った。そのとき、その体を包んでいたレオタードがズタズタに引きちぎられかと思うと、同時にその体の各部から機関砲が姿を現したのだ。



「り、リエータ!?」
「私はルシアン女王陛下に忠誠を誓うサイボーグに改造していただいたのさ!もうてめえみたいなババアに用は無いんだよ!」
彼女の股間から伸び出た機関砲の砲身が、続いて両足両腕の砲身も唸りを上げ回転を始める。
冴香は立ち上がっていた。
乳首の先に意識を集中させる。
――いちかばちか賭けるしかない。
ふたつの乳房を覆った戦闘スーツの先端に割れ目が生じ、その奥から鋼の銃口が突出する。
「私はワルキューレ部隊のサイボーグに再改造してもらうんだからああああっ!邪魔する奴は皆殺しにしてやるぅぅっ!!」
ズガガガガガガガガッッッ!!!
凄まじい炸裂音が轟いた。
沈黙が周囲を満たす。
両乳房から硝煙を立ち昇らせながら、冴香は顔をそむけた。
床には四肢のみならず胴体も木っ端微塵に破壊されたリエータの残骸が転がっていた。

  


頭部も額から上を完全に破壊され、唯一の生体器官であった生体脳の生々しい残滓が床に飛び散っている。
「あ、あれ…?お…ばあちゃん?」
リエータの瞳に感情の色が戻っていた。
「どうしちゃったの…うぐぅ…私…軍に…工場へ連れて行かれて…げぼおっ!」
砕けた金属製の頭蓋骨の中からショートによる火花が飛び散る。
「リエータちゃん、記憶が戻ったの?」
「冴香お姉ちゃん…私…工場で…裸にされて…綺麗な女の人に…会って…それから、それから?…い、いや、いやぁぁぁっ、サイボーグにされるなんていやああああっ!!」
「リエータ、しっかり、しっかりしておくれ」
「おばあちゃん、私、私…やだ…サイボーグになんか…なりたくないよぉ…うぎっ、死にたくない…やだっ、やだっ、や……ピーッ」
その冷たい電子音がリエータの絶命を告げる合図であった。
「ピーッ…生体脳破損ニツキ全機能ヲ停止致シマス。コノ機体ハ修復不可能デス速ヤカニ廃棄シテクダサイ…廃棄シテクダサイ…廃棄シテクダサイ…廃棄シテクダサイ…廃棄シテ…」
「り、リエータ、何を言ってるんだい?…リエータ…そんな…そんなおまえ…」
 老婆は孫娘の無残な姿をしばし呆然と眺めていた。
しかし号泣があたりの沈黙を破るのにそれほど時間を要することはなかった。
かける言葉は冴香には無い。またその資格すらない。
「……し」
黙ってこの場を去ろうとする冴香を老婆のつぶやきが呼び止めた。
「ひとごろし…よくも…よくも…わしのリエータを…この化物ぉぉっ!!」
冴香はその叫びに返す言葉も無く駆け出していた。
自分もリエータと同じサイボーグ――どんなに外見を装おうともこの体は冷たい機械でできている。人間ではない。そして二度と人間に戻ることもできない。化物なのだ。
呪詛と怨嗟の声を振り切るように冴香は宿を出た。
そのとき。
ドドンッ!
凄まじい爆発が冴香のいた部屋で巻き起こった。
「そんな…自爆装置が内蔵されていたなんて…おばあさん!?」
濛々と巻き上がる紅蓮の炎と夜空に立ち昇る黒煙を呆然と見上げながら、冴香の瞳から本来流れるはずのない雫が流れ落ちた。
このようなことをこれ以上続けさせてはいけない。
諜報員としての使命もある。しかしそれ以上に自らの意思をもってサイボーグとなり人の体を捨てた者としてのけじめを付けなければならない。
冴香は決意と覚悟を決めた。




「フィオラ王女捕縛に差し向けたワルキューレたちが戻ってこないだと?」
鮮血に染まった手術着とゴム手袋を外しつつ、グリエフは怪訝な顔つきを浮かべた。
たった今、昨夜からおよそ二十時間に及んだ新たなサイボーグの改造手術が終った所である。緊張と興奮の糸が切れ、どっと疲労が押し寄せてきたと思ったら、手術室の外では自分が造り上げたセレナが待っていたというわけだ。
「捜索の結果、三体の破壊が確認されたわ。任務を与えたのは四体だから…あと一体がどうなったかですけど…詳細は不明のまま」
セレナは頬に掛かる金色の髪を指先で耳の後ろにすき上げながら報告した。
その仕種は優雅で妖しい雰囲気を漂わせている。もちろんそれは男を扇情するためにグリエフ自身が彼女を改造洗脳したときにプログラムしたものである。
そうでありながらグリエフはゴクリと生唾を飲み込み、慌てて視線を逸らしてしまっていた。
「そ、そんな報告は信じられん。量産型とはいえワルキューレはこの私も開発に加わっていたのだ。現在改造工場で生産中のサイボーグ兵士とはそもそも性能が違うのだぞ」
「私の報告を疑うというの?あなたが改造したこの私を」
 セレナの瞳が鋭くなり、グリエフをにらみつける。
「そ、そんなことは言っていない。だがそれでは誰が屈強なサイボーグを一度に三体も破壊できるというのだ」
セレナは大きく造型された乳房の前で腕を組み、壁に背中を押し付けるようにもたれかかった。
その肢体を包み込む銀色の全身スーツが妖しい光沢を放っている。
特殊繊維で作られたそれが包み込んでいるのは血の通った肉体ではなく、冷たい金属とオイルが流れる機械の体である。それを考えるとグリエフの疲労感はいつしか薄らぎ、変わって鈍い熱さを伴った性欲が鎌首をもたげてくる。
「涎が垂れているわよ」
「なっ?…う、うるさいっ」
「うふふ…そんなに私のことが魅力的なのかしら。それもそうよね、私を改造したのはあなたですもの。どうせこの身体もあなた好みに造型してあるのでしょう?」
グリエフが絶句して頬の肉を震わせるのを見て、セレナはケラケラと笑った。
「ふ、ふん。少しは感謝して欲しいものだな。この私がおまえに永遠に衰えることの無い肉体と美貌を与えてやったのだぞ」
「誰もサイボーグにしてくれと頼んだ憶えは無いわ。強制的に改造しておいて都合のいいことを言わないでちょうだい」
「な、なにいっ!?」
顔を紅潮させるグリエフとは対照的にセレナは鋭い視線に微かに笑みをまじえ、ゆっくりと身体を起こす。そして腕を組んだ姿勢のままグリエフに歩み寄った。
コツンコツンと音を立てるブーツの爪先を見つめながらグリエフは眼前に迫ってきたセレナの瞳に射竦められていた。
「人の体を弄んで酷い男…。貴族の令嬢だった私をこんな女に改造して…」
 セレナの唇から紡ぎ出される呪詛とも取れる言葉に反して、彼女の行動は違っていた。
 彼女はスーツの背中に手を回しファスナーを下ろす。そしてその場でブーツを残して全裸となったのである。



「見てちょうだいグリエフ」
 そう囁きかけながらセレナは右手の指を股間に差し込んだ。びくんと彼女の肢体が震えると嗚咽にも似た声を漏らしながらさらに指を奥へ奥へと潜り込ませてゆく。
「な、なにをしているのだ…」
「あふっ、あふぅっ、ここに、…ここにスイッチが…ここっ!ひゃううううううっ!!」
 ぶしゅっという音と共にセレナは潮を噴き出してその場にへたり込んだ。床に広がった人工愛液の染みがどんどん広がってゆく。



「感じていたのよ。手術台であの娘が改造されているのを見ていて…たまらなく興奮していたのよ、私は!」
 グリエフは愉悦に顔を緩ませて機械の花園をまさぐり続ける美少女を前にして激しい興奮に襲われていた。
「生身の体を切り裂かれて…鮮血にまみれた臓器が摘出され…人工骨に交換され…身体が機械に改造されてゆく…そして、そして…生体脳が剥き出しにされて…あああああっ!!」
 セレナは後ろにのけぞりかえりながら絶叫した。しかしその右手は動きを止めていない。
 そのあまりの狂態にグリエフの興奮は頂点を迎えようとしていた。
「も、もうやめろ、それ以上続ければ生体脳が焼き切れてしまうぞ…鎮めてやる。この私がその性欲を鎮めてやるぞ」
 下卑た笑みを浮かべながらグリエフは悶え狂うセレナに覆いかぶさろうと、左右に大きく開かれた股間の中心に顔を近づけた。
 しかしそのときセレナの右手の指先が股間から引き抜かれ、グリエフの喉元へ突き出された。
彼女の指先は強力なレーザーナイフとなる。この状態でそれが発動されればグリエフの首は永遠に胴体と別れを告げることになるだろう。
体を起こしたセレナが左手をグリエフの肩に回し、改めてその柔らかな肢体を絡みつかせる。
「ふふっ、私の洗脳が解けてあなたを殺すとでも思った?」
「いや…私が改造した最高傑作であるおまえにそのような欠陥が起りうるはずがない」
「あら、随分と自分の造ったサイボーグに自信をお持ちなのね…」
グリエフは耳に舌を這わせながらつぶやくセレナの言葉に胸を張るようにして答えた。
「それで?私を楽しませてくれたあの娘の改造手術は成功したのかしら?」
「と、当然だ。誰が執刀していると思っているのだ」
セレナがグリエフに唇を重ね合わせながら部屋の奥へ視線を向ける。
そこはガラス張りの壁になっており、その奥はかつて自分とエルセアが改造された手術室でもある。
今、その部屋の中央に設置された金属製の手術台の上には全裸の少女が横たわっていた。
その体は大きく広げられ、金属ベルトで拘束されており、首筋、左右の乳首、腹部、股間と全身にケーブルやチューブが接続されている。エネルギーと人工体液の充填を行っているのだ。
頭部はすっぽりと機械装置に包み隠されていた。その機械装置は洗脳処理を行う物である。
セレナにも経験があるがこれは激しい嫌悪感と激痛を伴う処理である。人間であったときの倫理観や感情を完全に消去、書き換えられるのだ。しかしこれが完了すればその娘は下等な人間からサイボーグへと生まれ変わることができるのである。
「あっ、あうっ、…うぐぅっ、いや…消える…私が…お、お父様ぁぁぁ…あああ…」
手術台の上で少女の身体が小刻みに痙攣を繰り返し苦悶の声を漏らしているのが見える。
「苦しいのね、うふふ。苦しみなさい。生体脳を掻き混ぜられるような感覚に悶えなさい。私もそれを味わったのだから!」
やがて少女が低く短い悲鳴をあげた。そして四肢を硬直させたまま動かなくなった。
洗脳処理が終ったのだ。
自動的に洗脳装置が開放されると、短く切り揃えた淡い紫色の髪をした少女の顔が顕にされた。
セレナは年齢も自分とさほど変わらないその顔に見覚えがあった。
「おまえたちが捕まえてきたグルジエの一人娘、クレオだ」
「生きて連れ帰れなんて命令するから従ったけど…殺してあげた方が幸せだったんじゃないかしら」
「不自由な体を新しい機械の体に改造してやったんだ。感謝してもらうべきだと思うが?」
「ふうん。うむ…」
グリエフの口を貪り吸いながらセレナは甘い吐息を漏らす。しかしその瞳は手術台に横たわったままのクレオに注がれていた。
「ふん、どうせ、いつもどおり手術前に散々嬲って嬲って嬲りつくしたんでしょう?人間でいたくなくなるくらいにね」
「そ、それも改造処理の大切な下準備だ」
「あら、そうだったの?…あ、あふぅっ!」
不意にセレナが唇を離して声をあげた。我慢しきれなくなったグリエフが彼女の股間をまさぐりながら押し倒したのだ。
「セレナ、命令だ!俺を満足させろ」
「あ、ああっ。ふ、ふん、前にも言ったはずよ…あふ…私に命令できるのは…ああん…ガルディ閣下と女王陛下だけ…」
「これでもそんなことが言えるのかな?」
「え?…ひやあああああっ」
突然セレナがグリエフにしがみついたままの姿勢で天井を仰ぐようにしてのけぞった。「いやああっ、なに、何をしているのっ、あああああっ!!」
大きく見開かれた両目は途端に焦点を失い、左右に開かれた足がグリエフの腰に絡みつき電気ショックが走ったかのように痙攣を繰り返す。
「ピッ、ピピピッ…なに?生体脳が…脳が…しびれるぅぅぅ」
ブシュッ。ブシュシュシュワー。
セレナの股間からまた透明な液体が噴き出した。
その間も止まらないグリエフの指が液体の噴出口の周辺をなぞるように愛撫し続ける。
「おまえの性器を改造したのはこの私だぞ。この機械の身体、髪の毛産毛一本に至るまで私の知らないことはないのだ…それを忘れてもらってはこまるな」
セレナの生体脳は人工性器の感覚センサーのツボを巧みに刺激され、完全に思考能力を奪われてしまっていた。激しい快感パルスが津波にように脳細胞を貫き駆け巡る。
「あひいっ!あひいっ!ご、ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!グリエフ博士っ!私が間違っておりましたぁぁっ!!ひああああああっ」
狂ったように髪を振り乱し、セレナはグリエフに哀願する。
「わかればいいのだ。さあ私を満足させろ」
「はっ、はいっ、わかりましたっ!奉仕させていただきますっ!」
セレナは泣きそうな顔をしながら頭を起こし、グリエフのズボンの奥から姿を見せている大きく肥大した肉棒に手を差し伸ばした。



熱く激しく脈動している生身の肉体の感触を懐かしむようにセレナはそれを握る。そして躊躇無く己の蜜壺の奥へ差し入れた。
「ぐっ、うぐうううっ、あ、あはああっ、グリエフ博士の太くて大きいぃぃっ!」
「おっ、おおっ、セレナ…す、素晴らしいぞ、さすがは私の…最高傑作だ!」
セレナの胎内で人工性器が絶妙の圧迫とローリングを開始する。
「突いて、もっと激しく突き上げてくださいっ!セレナを壊してっ、ばらばらにしてぇっ、き、気持ちいいっ!」
セレナは人工性器の各部に埋め込まれた快感スイッチを次々に突きまくられ、ただただ涙と涎を振り撒いて嬌声をあげ続ける。
「うぐぅっ、もう我慢できん。人工子宮のタンクが一杯になるくらいに注ぎ込んでやるぞ!感謝しろよっ!」
「ひ、ひやああああああっ!中に中にちょうだい!妊娠の心配はいらないから…思いっきり出してぇぇぇっ!!」」
その叫びが引き金となりセレナの胎内を貫いていたグリエフの剛槍が瞬間、大きく膨らみ、そして弾けた。
「ぎゃ、ぎゃぴっ!?」
電源が落ちたかのようにセレナの動きが停止した。
グリエフの腰を折れんばかりに挟み込んだまま空を仰いだ彼女の口は半開きになり幾筋も涎を垂れ流している。そして下腹部からは胎内で放出された精液を処理する無粋な駆動音が鳴り響き出した。
「ようし…いいぞ、そのまま搾り取れ…最後の一滴まで…うぐっ」
人工性器がやがて停止した。
壊れた人形のようにセレナは床に仰向けのまま転がる。
その顔は荒い息をつきながらも牝猫のような微笑を浮かべていた。そして熱い余韻を堪能しながら喉の奥でくっくっと笑う。
「お楽しみはもう終わりましたか?」
突然であった。
セレナは頭上からいきなり問いかけられ顔をあげた。

  

なんとそこには先ほどまで手術台で横たわっていた少女――クレオが全裸姿で立っていたのだ。
「あなた、いつのまに起動したの?」
「四分二十三秒前です」
クレオの髪の色と同じライトパープルの瞳が小刻みに駆動している。その奥では妖しい電子光の点滅が見えた。それは完全にサイボーグ化されている証拠である。
クレオという少女は捕虜になった時からもともと感情を面に出さないタイプであったがサイボーグ化され洗脳処理も完了した今は以前にもましてそれが希薄になっているようであった。
「それじゃあずっと私たちのSEXを観察していたというのかしら?」
「はい」
無表情でそう応えるクレオにセレナは唖然とした。
しかし彼女がそれよりも関心を引かれたのはクレオの改造された新しい身体であった。
彼女がもともと戦傷で失っていた手足は人工皮膚が貼られていない銀色の装甲で造られた無骨なギミックが移植されている。
「随分と優雅さに欠ける身体に改造されたものね」
棘のこもったこの言葉もクレオの表情を崩すことはなかった。
それを見たセレナは違和感を感じ立ち上がった。
先ほどまでの興奮は熱を潜めている。セレナは指先でクレオの顎をつまみあげると左右に動かして観察する。
やがて何かを悟ったのか彼女は眉間にしわを作った。
「ちょっと…この娘の生体脳はどれくらい残してあるの?」
「はて…欲しかったのはグルジエ軍の情報だったからな。そこはしっかりとサルベージさせてもらったさ」
「なんてひどい事をするの。この娘の生体脳の大部分は散々切り刻まれて標本ケースの中ってことよね…それでは、この娘の頭の中にはもう…」
グリエフは乱れた衣服を直しつつクレオの全身を舐めるように見つめた。
「このクレオの使い道は決めてある。だからそれに合わせて特殊サイボーグに改造したのだ。任務に支障をきたすほど完全なロボット化はしておらん。最低限の生体脳組織は残してある」
「使い道?」
「女王陛下親衛隊であるおまえには関係のないことだ」
セレナは不愉快そうに顔を歪めた。
「それよりも先の破壊されたワルキューレに関連した話だが…そういえばこのクレオから手に入れた情報で不可解な物があった」
「ふん、何をいまさら」
あからさまに眉を吊り上げるセレナの顔を見てグリエフは苦笑を浮かべた。
かつては上流階級の令嬢であったとはとても思えない攻撃的なその態度である。
「フィオラ王女の行方についてだ」
その言葉にはセレナも如実に反応を示した。
「フィオラはグルジエの所にはいない」
「ちょっと待ちなさい、では先ほど話したワルキューレたちを破壊したのは誰なのよ」
「さあな。王女が独自の戦力を持っているとも考えられない…となれば」
明らかに釈然としない様子でセレナは両腕を組んでそっぽを向いた。
「答えはひとつよ。私たちの知らない第三の勢力が存在するということ。わかったわ、エルセアにもこのことを伝えておく」
そう言って部屋を出て行くセレナを見送り、グリエフは改めて直立不動のクレオに歩み寄った。
照明の光を反射させる鋼鉄製の腕を手に取り、その冷たい感触を楽しむ。その間接から指先に至るまでとても繊細なギミックで造られているそれは他のサイボーグたちと何ら変わるものではない。
肘から上、胴体と太腿まで人工皮膚が貼られている。その部分を掌でなぞりながらグリエフはさらに腿から下の銀色の足に手を伸ばした。
肩膝をつきクレオの右足を自分の膝の上に乗せさせる。
その銀色の金属で造型された細い爪先と細くて高いピンヒールの踵は彼女の体の一部となっている。
「美しい足だ。新しい手足は気に入ってもらえたかな?」
まるで奴隷が主人である女王に奉仕するかのようにグリエフは冷たい金属の足を愛撫する。
「本来ならおまえは生体脳を摘出された時点で処分されてもおかしくない立場の人間だ。それを救ってやっただけでなく、不自由だった身体を新しく造り替えてやった。喋れるようにもしてやった。それは理解しているな?」
「…はい。私はグリエフ博士の手でサイボーグに改造していただいたことを心から感謝しています」
「よかろう。ではガルディ閣下からの命令にも絶対服従するであろうな」
「もちろんです。閣下と女王陛下に絶対の忠誠をお誓いします」
グリエフは目の前にあるクレオのメタリックな指先に舌を這わせ、口に含み、肩を揺らして笑った。
「ではおまえには明朝出発するグルジエ軍迎撃部隊に加わることを命じる。その手で反逆者グルジエを殺せ。これは女王陛下とガルディ閣下からの至上命令だ」
そのとき宙を彷徨っていたクレオの視線がグリエフに向けられた。
「かしこまりました。反逆者グルジエは必ず私が殺します」
人間の感情と記憶を失ったクレオは淡々とそう答えた。
彼女の銀色の手足がガチャリと冷たい音を鳴らす。
「さて…では最終チェックだ。朝までたっぷりと楽しませてもらうとするか。そのための機構もしっかりとおまえの体に埋め込んであるからな」
グリエフの口元に卑猥な笑みが浮かんでいた。
クレオはコツンコツンと床を鳴らしながら自分の人間であった時の血と肉が残る手術台の上に再び横になる。
そしてグリエフを招き入れるかのように銀色の足を掲げ、なんの躊躇いも見せることなく左右に開いた。



「グリエフ博士、どうぞクレオのこの新しい機械の身体をご存分にご賞味くださいませ」
クレオに埋め込まれた人工性器が分泌される愛液でじっとりと潤み、大きく口を開けていた。その奥ではグリエフと彼女自身を昇天させる電子回路が不気味に輝いている。
「昨夜、人間であったおまえも実においしい身体だったが…今度の身体はどうかな?」
グリエフはそう囁きながら嬉々としてその少女の上に覆いかぶさって行った。
第18章/終


動画 アダルト動画 ライブチャット