第16章 フィオラの葬列
フィオラの洗脳及び生体強化改造をロッド博士に一任し、再び基地を離れていたミス・クリムゾンが戻ってきたのはそれから一週間後のことであった。
ミス・クリムゾンがこの一週間どこへ何をしに行っていたのか、それを知らされている者はこの基地の中において誰もいない。いや、彼女の秘書サイボーグであるシスターだけは唯一、別であったかもしれないが。
「お姉さま、これがこの一週間の報告書でございます。」
自室と兼用でもある薄暗い司令室に置かれた革椅子に細く美しい肢体をうずめるミス・クリムゾンはシスターが差し出した彼女の不在期間における報告書を受け取った。
静かに目を通し始めたミス・クリムゾンの様子が徐々に険しくなってゆく。
それを見つめていたシスターはこの主人の変化を見逃しはしなかった。
「お、お姉さま…?」
バサッ!
報告書を顔面に叩きつけられ、シスターは小さな悲鳴を発して後ろに倒れこんだ。
「シスター、ロッド博士・・・いや、ロッドの無能者をここへ呼んでちょうだい。今すぐに!」
「は、はいっ!ただちにっ!!」
ミス・クリムゾンの只ならぬ怒気に恐れおののくシスターは起き上がると靴音も荒々しく飛び出して行く。
溢れ出る怒りをどうにも抑えられないのか、ミス・クリムゾンは覆面の下から覗く唇を振るわせている。やがて彼女は床を踏みつけるように立ち上がると足元に落ちたままの報告書を睨みつけ、さらに踵のヒールで引きちぎった。
「憎いアイアスの王女め・・・どこまで私に逆らえば気がすむの!?」
シスターがロッド博士を伴って司令室へ戻ってくるのに五分とはかからなかった。
彼女が研究室を訪れたときすでにロッド博士は自分が呼び出されるであろうことを予測し準備していたのである。
「ろ、ロッド博士を・・・お、お連れ・・・しました!」
シスターはミス・クリムゾン直属のサイボーグに改造されてから今日というこの日まで、これほど感情を露にして怒る主人を見るのは初めてのことであった。サイボーグに改造され、人間としての感情は全て電子情報という擬似データにされている筈であったが、このときシスターは明らかに怯えていたのである。
そんなシスターとは対照的にロッド博士はいつもと同じく半開きのまま紫色の舌を覗かせた口に無気味な笑みを浮かべていた。
音も無く椅子が回転し、足を組んだ姿のミス・クリムゾンが二人の正面に姿を見せる。彼女の黒いサングラスが司令室の機器の放つ光に照らし出されて妖しく輝いている。
「ロッド、この一週間でドルークによるフィオラの機械化改造手術の準備はほぼ完了しました。それなのに、肝心の第一段階改造である人体強化・・・特に洗脳手術が全く進んでいないのはどういうことなのかしら?」
ミス・クリムゾンが剃刀の刃のように冷たく鋭い口調でロッドに問いかける。
その口調には怒りと苛立ちが籠っており、シスターは例えようも無い恐怖を感じて床にうずくまってしまった。機械で造られているはずの小さな身体がブルブルと震え出して止まらない。
追い詰められたシスターは何を思ったのか、恐る恐るミス・クリムゾンの足元に這い寄った。そして黒い光沢を持つブーツを手に取って頬擦りを始めたのである。
「お、お姉さま・・・お怒りをお、お鎮めください・・・、まずは、お、落ち着いて・・・ください。シスターが、シスターが御奉仕致しますから…」
「うるさい!お前は黙っており!!」
バキイッ!
「ギャウッ!!」
ミス・クリムゾンに顔を蹴り上げられて吹き飛んだシスターはそのまま壁に激突し、異様な電子音を全身から鳴らしながら床へ落下した。
鈍い駆動音を発し、苦しそうに顔を上げたシスターは目から黒い液体を涙のように吹き出すと、二、三度大きく肢体を痙攣させて動かなくなった。
「やれやれ、これはおまえさんの“妹”ではなかったのかね?ヒドイことをする」
横目で機動を停止させたシスターを眺めながらロッド博士が漏らす言葉にミス・クリムゾン自身はなんら関心を向けようとはしなかった。その視線はただロッド博士だけに注がれている。
「さあ…納得の行く説明を聞かせてもらいましょうか?」
椅子の上で足を組みなおすミス・クリムゾンを前にしてロッド博士はヒッヒッと下卑た声で笑うと舌なめずりしながら口を開いた。
*
この日、ロッド博士による処置を受けたフィオラが放り込まれたのはいつもの牢獄とは違う、窓ひとつない暗く薄汚れた倉庫であった。
黒の全身スーツに白衣を着た研究員二人に両腕を抱えられ、引きずられるようにして運ばれてきたフィオラはわずかに下着を着けているだけである。半裸に近いその露出した身体の至る所には薬物投与の注射痕や代償の傷が無数に見受けられ、彼女が現在どのような処理を施されているか誰もが自ずと想像できた。
まるで物でも扱うように無造作にこの倉庫部屋に投げ入れられたフィオラは床に転がったまま死んだように身動きひとつしない。
「おい、死んでるんじゃないだろうな?」
「大丈夫だ。だがしかし・・・ここ一週間ずっと洗脳処理で薬漬けにされているうえ、脳味噌を散々掻き回されているって話だ。正直よく生きていられるものだと感心するよ」
「さすがは王女様ってところさ。俺たちとは精神力が違うってか?イヒヒ…」
二人の研究員の会話は鉄製の扉が閉じられた時点で途絶え、密室は静寂に包まれた。
どれくらいの時間が経過したのであろうか。時の経過を測る術がない以上それを確認することはできない。
「あ…ふう…」
フィオラは全身を包む苦痛と倦怠感に思わず呻き声をもらした。
意識を取り戻したフィオラが瞳を開いた時、彼女の視界に映ったのは長い金色の髪を持ち、青い扇情的なドレスを着た女性の姿であった。
女性はフィオラの額から濡れたハンカチをそっと取り上げようとしていたのだ。
「あ、ありがとう・・・」
フィオラは自分の汗と涙で汚れた頬を優しく拭ってくれる女性に感謝の言葉を告げたが、不意にその顔が恐怖と驚きに染まった。
眼前の女性の腕は剥きだしの機械で造られていたのである。小さな駆動音をあげて動く指を見てフィオラは慌てて後ろずさる。
「コ、コワガラナイデ!・・・オネガイ・・・」
人工声帯から発せられる電子音声を耳にしてフィオラは女性がサイボーグであることに気付いた。
「ワ、ワタシハ…」
そう言って女性が差し伸べてきた手をフィオラは払いのける。
「ち、近寄らないで!!」
恐怖と怒りに満ちたフィオラの眼差しを受けて女性はしばし沈黙すると、悲しげにうなだれた。彼女は肩を小刻みに震わせ、俯いたまま泣いているかのように見える。
それを見たフィオラは意外な彼女の反応を受けたことで心に逆に平静を取り戻すことができたようであった。
落ち着いて見てみれば、彼女は肌に密着したドレスを着せられてはいるが、人工皮膚が張られているのは溢れんばかりに豊胸された乳房から臀部までであり、それ以外の腕や足は不気味な内部機械を露出させたままの状態であった。
さらに女性の瞳も薄いレンズを埋め込まれているだけで、眼球もガラス玉のような粗末な物である。
とてもフィオラがこれまで見てきたサイボーグと同じとは思えなかった。
「ううっ、い、痛い…く…」
落ち着きを取り戻した反動であろうか、額に激痛を感じたフィオラは右手でこめかみを押さえた。
フィオラの左右のこめかみには金属製の端子が埋め込まれていた。この端子は彼女の脳と直結されており、もはやそれを自分の手で取り除くことは不可能であった。
この端子を通してフィオラは脳に直接、洗脳処理だけでなく脳細胞への薬物処理も施されているのである。
頭に異物を埋め込まれたことはフィオラ自身に自分の身体に手が加えられていることを嫌でも実感させる効果をもたらしていた。痛む額の端子を指でなぞりながらフィオラは悔しさと哀しさで声を漏らす。
「ダ・・・ダイジョウブ・・・デスカ・・・?」
「え、ええ…この端子を埋め込まれてから…いつものことだから…う、ううっ」
額を押さえながらフィオラは小さく頷く。
脳に直接響く激痛は押し寄せる波のようにフィオラを苦しめたが、それもすぐに潮が引くように収まって行った。
「あなたはサイボーグなの?」
一呼吸をおいてからフィオラが女性に問いかける。
「・・・ハイ・・・ワタシハ・・・三日前ニ改造手術ガ完了シタ、サイボーグ…デス・・・」
「三日前?・・・では、あなたも捕まって無理矢理・・・サイボーグに改造されたのですか?」
「ア・・・ワ、ワカリマセン・・・改造サレル以前ノ記憶ガ・・・ワタシニハ・・・ナニモ残ッテイナイノデス・・・」
女性の電子音のその声は深い悲しみに包まれているかのようであった。
「あの…あなた・・・お名前は?」
「ナ・マ・エ?」
「そう、お名前を教えてくださいますか?」
女性はメモリを探っているのか、瞳を点滅させる。
「ワタシハ・・・形式番号RA・・・」
「違う!そんな番号なんかじゃなくて、あなたの人間としての名前よ!!私の名前はフィオラ、あなたの名前は!?」
「・・・ワ、ワタシノ名前?・・・アナタハ“フィオラ”?・・・ワタシハ・・・」
女性の瞳は薄いレンズを埋め込まれているだけで、眼球もガラス玉のような粗末な物であった。曇ったレンズの奥でカメラアイが鈍い光を放っているのが見える。
「ワタシハ・・・ワタシノ名前ハ・・・セリ・・・カ・・・。ソウ…“セリカ”デス」
「セリカ…それがあなたの名前なのね?」
身体を起こしたフィオラは黙って両腕を差し伸べると優しくセリカの両肩を抱きしめた。
セリカの身体は冷たかった。
満足に人工皮膚すら移植されていない、一見すれば改造途中で廃棄されたのではないかという感じさせるほどその姿は無残であった。
「冷タイデショウ?・・・ゴメンナサイ・・・」
セリカが自嘲気味に言った。
「どうして…セリカ・・・どうしてあなたはこんな身体に・・・」
「ワタシノ・・・脳ハ・・・殆ド・・・使イ物ニ・・・ナラナカッタラシクテ・・・。ダカラ・・・最低限ノ改造シカ・・・シテモラエナカッタノデス」
「最低限って、そんな・・・」
セリカはぎこちない笑みを浮かべた。
「デモ、ナゼデショウカ・・・私ハ・・・機械トハイエ・・・手ヤ足ガアルコトガ・・・トテモ、嬉シイノデス・・・」
フィオラはセリカがこの完全な機械体サイボーグに改造される前に父親であるドルークにどのような仕打ちをされていたか知るよしもなかったが、彼女が人間であったときにいろいろとつらく苦しい思いをしてきたであろうことは察することができた。
ガタン。ギギギ。
そのときである。
それまで固く閉じられていた鉄製の扉が開かれたかと思うと、一人の黒い全身スーツ姿の男がこの部屋に入ってきた。
男が扉の外で警備についている仲間に合図を送ると扉は再び閉じられた。
「さあて、たっぷりと楽しませてもらうとするか」
サングラスを外した男の獣のようにギラギラと輝く瞳は一瞬フィオラに向けられたが、その視線はすぐにその脇のセリカへ移動していた。
「おい、お情けをくれてやる。さっさと準備しろ」
男の言葉にセリカは瞬時に反応すると嬉しそうに立ち上がった。
「ハ、ハイ!アリガトウゴザイマス!!」
フィオラは突然、様子の豹変したセリカのこの行動が理解できずに困惑した。
「ちょ、ちょっとセリカ!?なにをする気なの!?」
セリカは黙って部屋の隅から比較的奇麗な毛布を引き出すと半裸のフィオラにかける。
「フィオラ、寒イデショウ?アノ…少シ・・・ココデ、マッテイテクダサイ・・・」
「セリカ!?」
嬉々とした笑みを口元に浮かべたままセリカは背中に手を回すとドレスのファスナーに手をかける。そして男のもとに駆け寄って行く。
「おらっ!セクサボーグRA-20!早く脱いで準備しろっ!!」
「ハイ、申シ訳アリマセン・・・今スグニ・・・」
男は鼻息も荒く、もう待ちきれないという様子でドレスを脱ごうとしているセリカの金属と人工の肌が交じり合った肢体を力任せに抱きしめるとその唇を貪るように吸った。
「ア、 アフ…モット、優シク…シテクダサイ」
「ふん、セクサボーグのくせに甘い息をもらしてんじゃねえよ。まあそういう風に改造されてんだから仕方がないか、ヒヒヒ…」
男はセリカの舌と自分の舌を絡み合わせながら笑うと、そのまま彼女をフィオラの位置から見えない倉庫の隅へ引きずり込んだ。
「たっぷりと奉仕するんだぞ、機械娘!」
「・・・ハ、ハイ・・・一生懸命・・・奉仕サセテイタダキマス・・・アアアッ!!」
セリカの電子音声による嬌声が暗い倉庫内に響き渡った。
時には甘く切ない吐息、そして泣き叫ぶかのような激しい喘ぎ声がフィオラの耳に流れ込んでくる。そして同時にフィオラは理解していた。
セリカは性処理専門のサイボーグ-“セクサボーグ”に改造されていたのである。
男の野獣のような雄叫びとセリカの歓喜の叫び、そして肉と肉がぶつかりあう音が毛布をかぶって耳を塞ぐフィオラの心を淫らに刺激してくる。
「いや、いや!こんなの聞きたくない!!」
どういうわけか、毛布にくるまり両耳を塞いでいるにも関わらず、セリカや男の発する淫猥な言葉や音がフィオラの頭の中に流れ込んでくる。
「なに?どうして聞こえるの!?…それにセリカ、あなたは一体、何をされているというの!?」
フィオラは恐る恐る毛布から顔を出して周囲を見回した。今も絶え間なくセリカの嬌声が室内全体に響いている。
だが、フィオラはこのとき初めてこの部屋がどういう部屋か気付いた。
今まで周囲に気を配る余裕など無かったために気付かなかったが、倉庫の隅に山のように積み上げられた鉄くずや廃材だと思われたそれは、なんと若い女性の姿をした人形のスクラップだったのである。
いや、人形などではない。
間違いなく彼女たちはセリカと同様に性処理専門セクサボーグに改造された女性たちの哀れな亡骸に違いなかった。
その恐ろしい事実に驚いたのも束の間、フィオラは自分のすぐ傍の壁際にも一体のセクサボーグが横たわっているのを見つけた。
フィオラは這うように毛布から抜け出すと、既に動かなくなったセクサボーグに近づいて見る。そこでフィオラは思わず両手を口に当てて息を呑んだ。彼女はこみ上げてくる嘔吐感を必死に耐える。
先ほどセリカは濡れたハンカチで自分の顔を拭ってくれていた。そして水も飲ませてくれた。しかしその水は一体どこから持ってきたのであろうか。そもそもこの倉庫部屋には水道の蛇口などどこにも見当たらないのである。
フィオラは先ほどから漠然と感じていた疑問の解答をそのセクサボーグの亡骸から得たのである。
横たわるセクサボーグは胸から腹部にかけての皮膚装甲を引き剥がされており、その体内からペットボトルサイズのタンクが引きずり出されていた。そのタンクからこぼれ、床に染みを作っている液体から判断して冷却水か何かであることは間違いない。
セリカはフィオラを手当てするために、もう動かなくなった仲間の機械体から水を確保していたのである。
「こ、こんな・・・こんなことって・・・!」
フィオラはいつしかセリカが渡してくれたハンカチを握りしめていた。
全身に例えようも無い怒りが満ち溢れ、姿勢を維持できなくなったフィオラはそのまま顔を床にうずめるように蹲る。
「ガルディも…ここの人間たちも…一体、一体、人間をなんだと思っているのよおおおおっ!!!」
フィオラの絶叫に合わせて、セリカの絶頂に達する歓喜の声もまた倉庫のなかに響き渡った。
ムッとした生臭い異臭が室内に漂う。
しばしの静寂の後、情事を終えて再び黒い全身スーツをまとった男が満足そうな笑みを浮かべながら奥から姿を現した。その眼が床に丸く蹲っているフィオラの背中に注がれる。
「どうだい、お姫様?俺たちの声を聞いていて興奮しちまったかい?なあに、あんたも組織のサイボーグに改造されれば、喜んで俺たちに奉仕するようになるからな。楽しみにしているぜ」
男はそう言ってカラカラと笑うと腕の通信機にパスワードを打ち込んだ。すると扉が先ほどと同じ重い音を響かせながら開き始める。
「マ、待ッテクダサイ!」
そう叫び声をあげて、出て行こうとする男にすがりついたのは全裸のまま、無残な機械体を露出させたセリカであった。
「な、なんだ!?」
「オネガイデス!モット!モット、精液ヲ・・・私ノ中ニ・・・注入シテクダサイ!ワタシ・・・モットモット・・・ガンバリマスカラ!!オネガイデス!」
腰にすがりつくセリカを男はうっとうしそうに一蔑すると無造作に蹴り倒した。
「アアッ!!」
男はそのままセリカを無視して外へ出てゆく。
足蹴にされてもなおセリカは這いずるように男の背中を追おうとしたが、すぐに扉は閉じられてしまった。
「ア・・・アア・・・」
閉ざされた鉄製の扉にすがりついてセリカは嘆きの声を発した。
「せ、セリカ・・・」
フィオラはセリカのその尋常ならざる様子に戸惑っていた。
悲痛な声を漏らしつつずるずると崩れ落ちるセリカの臀部から股間にかけて先ほどまでの行為を証明する牡の液体がベットリとこびりついているのが見える。
「フィオラ・・・」
打ちひしがれたままのセリカが小さな声で呼びかけてくる。
「アナタモ・・・セクサボーグニ・・・改造サレルノ?」
それはフィオラにとってある意味、恐ろしい質問でもあった。ミス・クリムゾンたちが自分をどのように改造するつもりかはすでに聞かされている。だがそれを口に出来るはずもなかった。
「・・・ソウカ・・・フィオラハ・・・違ウノネ。ワタシタチトハ・・・違ウサイボーグニ・・・改造シテモラエルンダ・・・。・・・ヨカッタネ」
顔を上げたセリカがフィオラに向けてプログラムで作られた笑顔を浮かべて言った。
そのとき彼女の唇から咥内に残っていた白い獣液の残滓が零れ落ちるのを見たフィオラの感情が爆発する。
「なにが・・・なにが「ヨカッタ」って言うのよっ!?」
男に嬲り尽くされ、そして汚されきったセリカの姿とその言葉に向かってフィオラは泣き叫んでいた。
涙が止まらない。その涙は人間を実験材料としか見ていない人の皮を被った悪魔たちに対する心の底からの怒りがもたらしたものであった。
「許せない!許せないわっ!でも・・・でも今の私には、どうすることも・・・くっ、うううう・・・」
悔し涙でフィオラは泣き崩れていた。
セリカはそんなフィオラを見て立ち上がるとゆっくりと歩み寄る。そして彼女の肩に手を掛けながらも改めて彼女に呼びかけた。
「泣カナイデ、フィオラ・・・コノ基地デ改造サレタ・・・ワタシタチ“セクサボーグ”ハネ・・・」
セリカはそうつぶやきながら腰を少し下ろすと自分の股間に指を差し入れる。
「せ、セリカ!?」
「イ、イイノ・・・少シ・・・待ッテ・・・ア、アウッ!」
甘い声を漏らしながらセリカは指を機械仕掛けの陰部の奥へもぐりこませてゆく。
カシャッ。
やがて、セリカの下腹部内部でなにか装置が外れるような音が聞こえた。それを確認してセリカは指を人工の淫裂から引き抜く。
「見テ、フィオラ」
フィオラはあっと声をあげた。
セリカの下腹部がハッチのように開かれ、内部機械が丸見えになったからである。
そこにはT字型の人工臓器らしき物が埋め込まれていた。その両脇にはそれぞれニつずつ透明なカプセルが接続されている。
「セリカ、これはまさか…」
「ハイ…人工子宮デス。ソシテ、コノカプセルニ入ッテイルノガ…」
セリカはそう言うと人工子宮に指を差し入れると、カプセルのひとつを取り出した。
その指に握られた小さな透明のカプセルの中には白いヨーグルトのような液体が保存されている。
それが先ほどの男がセリカに注ぎ込んだ精液だということはすぐに理解できた。
「コノ基地デ改造サレタ、セクサボーグニハ・・・コレト同ジ精液タンクガ・・・人工子宮ニ・・・イクツカ組ミ込マレテイルワ・・・。ワタシニハ4基・・・。私タチノ生体脳ヲ・・・維持スルニハ・・・コレヲ一晩デ一定量溜メナイト・・・イケナイノ。」
「な、なんですって!?」
「ヒトツノタンクヲ一杯ニスルニハ・・・少ナクトモ・・・一晩デ三人ニハ・・・SEXシテモラワナイトイケナイ・・・」
「そんな・・・ひどい・・・ひどいわ・・・、それじゃあ、ここに積まれている人たちも・・・」
セリカは黙って頷くだけであった。
「ソコデ横タワッテイル人ハ二日前ニ、生体脳ガ生命活動ヲ停止シマシタ。ココニイタ最後ノセクサボーグデス」
「ふ、二日前?どうしてこんなひどいことを…」
「ワタシタチガ・・・逃ゲ出サナイヨウニデス。・・・オカシイヨネ・・・コンナ体ニ改造サレテシマッテ・・・ドコヘ逃ゲラレルッテ言ウノカシラ・・・」
フィオラは改造されてしまったとはいえ男に精液を執拗にねだるセリカを一瞬たりとも嫌悪したことを心から恥じた。彼女はこの地獄とも言うべき状況の中で自分自身の力で必死に生きようとしていたのである。
「ごめん、ごめんなさい・・・セリカ・・・私が・・・王女の私が・・・アイアス王家のせいでこんな・・・ひどいことになってしまって・・・」
「フィオラ・・・王女?・・・王女・・・」
ふとセリカの様子が変わった。なにかを思い出そうとしているのか、またカメラアイが点滅している。
「そう・・・私はアイアス王国の第二王女フィオラです。セリカはアイアス王国の人なのかしら?それとも外国の方なのかしら」
セリカはフィオラの問いかけに答えなかった。ただ、ぶつぶつとフィオラの名前をつぶやき続けている。しかし、それもやがて止まった。
「ワカラナイ・・・フィオラ王女・・・ゴメンナサイ・・・何カ大切ナコトガ・・・思イ出セナイ・・・」
フィオラは頭を横に振ってセリカを慰めた。
しかし考えてみれば、なぜ自分がこの部屋に入れられたのか。
先ほどセリカを抱きに来たあの男も一瞬ではあるがフィオラに少なからず情欲を刺激されていたことは間違いない。それにも関わらず男はフィオラを襲おうとはしなかった。
衰弱著しい今のフィオラであればその身体を好きなように弄ぶのは容易であったにも関わらず、である。少なくとも陵辱を目的としたものではないことは確かであった。
フィオラはその理由を思案するが、このときはまだ明確な答えを導き出すことはできなかった。
*
夜が明けたのであろうか。フィオラの元にパンとスープだけの粗末な朝食が運ばれてきた。ここに捕らえられてからフィオラはまともな食事を与えられたことは無く、栄養剤を投与されるのみであった。むろんフィオラ自身も食事を出されたとしても口にはしなかったであろう。
しかし、フィオラはこの朝食に手を伸ばしていた。
昨夜、あれから少なくとも六人の男が代わる代わるセリカの身体を求めて部屋を訪れ、彼女の胎内にその命を繋ぐ白濁液を注入して行ったことをフィオラは知っている。
セクサボーグに改造され、常に男の精液を受け続けなければ生きてゆけない身体になったセリカを思えば、フィオラは自分がこの先、生き抜くための最低限の努力はすべきだと悟ったのである。
王室では食べたこともない固いパンをフィオラは冷めて冷たくなったスープで胃の中へ流し込む。
「フィオラ・・・大丈夫デスカ?」
そう言って近寄ってきたのはセリカであった。彼女の人工皮膚の貼られた乳房や股間は昨夜のあれから継続された激しい性行為を物語るように傷つき汚れている。
「大丈夫、私より・・・セリカの方がもっとつらいはずだから・・・。私は・・・負けないわ」
セリカはそう言ってまたうなだれるフィオラの金色の髪を優しく撫でた。
ギギギギ・・・。
やがて、彼女たちを閉じ込める鉄の扉が再び開いたのはそれから間もなくのことである。
そこに現れたのは両脇に研究員を従えた赤い髪の少女サイボーグ・シスターであった。
シスターは両拳を腰に当て胸を反り返させたまま、フィオラを見下ろす。
コツン。
シスターのブーツが冷たく床を鳴らす。
「あら、食事を取ったのね、だったらもっと上等な食事を用意しておくべきだったかしら?」
フィオラは答えない。しかしそのシスターを見る眼差しは以前とは違う物であった。
「な、なによ、その目は・・・この前は自分から死ぬなんて喚いておきながら、結局は命が惜しくなったってことかしら?」
「…あなたも無理矢理、サイボーグに改造されたのかしら?」
「!?」
そのときシスターの顔色が変わった。小さな唇がわなわなと振るえ出し、冷たい義眼が怒りで赤色に染まってゆく。
「わ、私は自分の意思で自ら改造手術を受けたのよ!お姉さまのために私は喜んで人間の肉体を捨てたわ!ふん、そのおかげで御覧なさい、こんな奇麗な身体に造ってもらえたのよ!」
「そう・・・でも、それがあなたの本当の記憶なの?その記憶も都合のいいようにプログラムされた物ではないのかしら?」
ガキッ!
「うぐっ」
シスターのブーツの爪先がフィオラの腹部に食い込んでいた。
「だまれっ!今日からいよいよおまえには本格的な遺伝子改造が施される!もう人間とも呼べない生物に改造されるんだ!無駄口を叩くなっ!!」
力任せに踏みつけられるフィオラの白い肌はみるみるうちに引き裂け血を吹き出す。
小さな身体とはいえシスターも全身を機械化改造されたサイボーグである。生身のフィオラが受けるそのダメージは尋常な物ではなかった。
ブーツのヒールが身体を丸めるフィオラの背中に何度も深く突き刺さり、鮮血が飛び散る。
「このっ!このっ!このおっ!!」
「ぐ、ぐ、ううっ!!」
フィオラはその攻撃を、歯を食いしばって必死に耐える。
「シ、シスター様、モウ・・・オヤメクダサイッ!死ンデシマイマスッ!!」
シスターを制止したのはこの凄惨な光景を見かねて歩み寄ってきたセリカであった。
シスターの鋭い瞳がゆっくりとセリカに向けられる。
「“できそこない”のセクサボーグごときが、この私に命令するなっ!」
「モ、申シ訳アリマ・・・ギャッ!!」
シスターの黒いスカートの下から白い足が閃光となってセリカの横腹へめりこんでいた。
ベキッベキベキッ!
「ピヒイイイッ!!!」
シスターは足の感覚からセリカの内部機構を破壊したことを感じ取っていた。
途端、電子音の悲鳴をあげながらセリカは崩れ落ち、床をのたうち回る。
ブシュウッ!ブシュッ!
「せ、セリカッ!?」
フィオラはセリカの股間から白い液体が噴水のように吹き出ていることに気がついた。
「まさか、人工子宮の精液タンクが!?」
セリカは下腹を抑えたまま悶絶しており、フィオラの呼びかけにも答えない。
「セリカ!セリカ!?」
必死にセリカに呼びかけるフィオラの髪をシスターは無造作に掴み上げる。
「さあ、お前は私と来るのよ」
「ううっ!せ、セリカを助けて!このままじゃ・・・セリカが死んでしまう!!」
「心配するな。こいつも一緒に連れてこいとの命令だ。この後、こいつも再改造されるらしいから」
「さ、再改造?」
「そう・・・だが・・・今のおまえには関係ない。来いっ!」
髪を引っ張られ、痛みによる悲鳴を上げるフィオラはそのまま室外へ引きずり出されてゆく。
そのフィオラが最後に見たのは、男たちに強引に引き起こされながら苦しそうに叫ぶセリカの姿であった。
「フィオラ…、フィオラ!」
*
フィオラが連れて来られたのはいつも彼女が処置を施されていた部屋とは別の研究室であった。
そこにはすでにロッド博士とミス・クリムゾンが待ち受けていた。
「ご機嫌いかが、フィオラ王女?」
シスターによって惨めにも床に頭を押さえつけられたフィオラは眼前の悪魔たちを睨みつけている。
「はあ…。やはり、洗脳効果が全く効いていないようね?」
その視線を受けて、不快そうにミス・クリムゾンはつぶやいた。もちろんその言葉は傍らのロッド博士に向けての物である。
しかし当のロッド博士はその皮肉にまるで関心を示そうとはしなかった。博士はいつもの低い笑い声をもらしながら押さえつけられているフィオラの側へ歩み寄ると、シスターに彼女を立たせるように促した。
そして立ち上がったフィオラの裸身を舐めるように観察する。
「ほう、シスター・・・ここへ連れてくる前にかなり痛めつけたようじゃな?」
「え、そ、それは・・・!?」
シスターは慌ててミス・クリムゾンの顔色を伺う。
ロッド博士は立たされたフィオラの顔に手を伸ばすとその顔をベロリと舐め上げた。
「ひっ!?」
「うむ・・・順調のようじゃな。」
「え…?」
ロッド博士がつぶやいた不可解な言葉に思わず驚きの声をあげたのはフィオラだけではなかった。
「どういうことかしら」
ミス・クリムゾンの問いかけに、ロッド博士はすぐには答えなかった。
博士は嫌がるフィオラの身体に手を伸ばし、上から下へと撫で回し始める。そしておもむろにその手を彼女の股間に差し入れると無造作に下着を引き下ろした。
「や、いやあっ!!」
屈辱と恥ずかしさで悲鳴をあげるフィオラを楽しむように博士は剥きだしになった彼女の秘部に顔を近づけると、そこに小さく咲く淫花を指でまさぐり始める。
必死に身体をよじって抵抗するフィオラであったが両腕はシスターに拘束されているので逃げることはできない。
やがてロッド博士はフィオラから引き抜いた指に付着した粘液をまじまじと観察し、舐め取ると、満足したようにニタリと笑みを浮かべた。
「フィオラの肉体は順調に変化しておる。シスター、おぬしはその足で散々、この王女を踏み付けたようじゃのう?」
「あ、い、いや・・・その・・・」
フィオラという大切な素材を傷つけたことがミス・クリムゾンの怒りに触れるかもしれないと恐れたシスターは満足に返事をすることができない。
「おぬしの履いたブーツの爪先やヒールを見ればわかるわい。ほれ、血がベットリと付いておるではないか。」
ロッドの指摘は偽りではなかった。
シスターの履く黒いブーツにはくすんだ血の跡がびっしりとこびりついていたからである。
「あ、あわわ…」
シスターは言い逃れる術がないことを悟り、そのまま床にしゃがみこんでしまった。
「お姉さま!お許しください!お許しくださいぃっ!!」
シスターは床に額をこすりつけるようにして必死にミス・クリムゾンに許しを乞う。
しかし、このときミス・クリムゾンの耳にシスターの声は届いてはいなかった。彼女の視線はシスターではなく、両腕で慌てて胸を覆い隠すフィオラの美しい肌に向けられていたのである。
ミス・クリムゾンは気がついたのだ。
まがりなりにもシスターは身体こそ小さいが常人の数十倍の力を持つサイボーグである。そのシスターによって身体に鋭いブーツのヒールを突立てられ、抉られたにしてはフィオラの肌はあまりにも奇麗過ぎるのだ。その傷も皆無ではないにしろ、痣や擦り傷程度である。
「ま、まさか、再生しているのか?」
「え!?」
ミス・クリムゾンの言葉に本人たるフィオラの方が驚いたようであった。
確かに先ほどシスターから受けた傷の痛みはもう殆ど残っていない。あれだけの出血があった肩や背中の傷もすでにその痕跡が見当たらないぐらいまでに治癒しているではないか。
「そ、そんな・・・いつの間に…これは・・・!?」
フィオラの唇が自分の肉体に起きた驚愕の事実に震える。
これがこの一週間、ロッド博士に施された数々の処理の影響であることに思い至ったとき、フィオラは恐怖で立っていられずにその場にへたりこんでいた。
「見た目はわからぬがこの王女の肉体組織は順調に変化を続けておる。色々な生物のDNAを組み込んでやったからのう・・・さてさて、これからどのような変化が王女の身体に起こるのかのう?獣のような剛毛が生えるか、それとも魚類の鱗に覆われて人魚姫となるか・・・楽しみじゃ・・・イヒヒヒ」
「い、イヤッ、イヤアアッ!!あああああっ!!」
フィオラはロッド博士の言葉を拒絶するように両耳を塞いで激しく頭を振り続ける。
自分が自分でも気がつかないうちに人間ではなくなってしまいつつあるという常識では考えられない事実に、今のフィオラにはただ現実を拒絶することしかできなかった。
フィオラのそんな様子を眺めつつミス・クリムゾンはロッド博士に口を開く。
「人体強化処置についてはよくわかった。しかし・・・洗脳処理はどうなのだ?」
いかにフィオラを改造しても自分たちの思うがままに動かすことができなければ意味がない。
「・・・そうじゃな。それはこれから仕上げが必要じゃ。」
ロッド博士は引き裂けんばかりに自分で自分の身体を抱きしめているフィオラの顎を引き寄せると、その長い舌をフィオラの耳の穴に差し入れた。
「い、いやああっ!やめて、私に触らないでぇっ!!」
「どうしたフィオラ?このような辱めを受けて、今日は抵抗して死のうとは思わぬのか?」
「!?」
このロッドの質問にフィオラは答えられなかった。
さらにロッドはフィオラの身体をまさぐり、舌を這いずりまわす。
「いや、やめて・・・やあっ、あ…」
「ほれ、抵抗するならするがよいぞ・・・できたらな」
思わず甘い吐息を漏らしそうになりフィオラは唇を噛み締めた。その潤んだ瞳からまるで堰が切れたように涙が溢れ出す。
ロッド博士の言うとおり、フィオラにはロッド博士の行為に抵抗することがどうしてもできなかったのである。もちろん以前のように舌を噛み切ろうとすることもできない。
「ああ…ああ…あああぁ…」
哀しげな声を発しながらフィオラが泣き出した。彼女が流す涙は心と身体が相反する行動を取り、衝突したことによる産物であった。
「そ、そんな、恥ずかしい…。こんな辱めを受けているのに…私は、私は…ああっ!」
「イヒヒ・・・正面から攻めてもダメならば、搦め手から攻めるのが上策じゃからのう」
ロッドはフィオラにそう囁きながら彼女の小さく開いた唇にその長い舌を差し込んだ。
今度は先日のように噛み切られることがないことがわかっているから、思う存分にフィオラの咥内を汚し、貪る。
「う、うむっ、ううっ…ぷはっ!どうして…身体が言うことを利いてくれないの…お姉さま、フィオラを、フィオラを許して…ああっ」
自らの身体に起きた明らかな変化を受け入れることができないフィオラはロッド博士に弄ばれながらうわ言のように声を張り上げる。
「強力な洗脳には頑強に抵抗しようとも、同時に低レベルの洗脳処理が施されているとは気がつかなかったようじゃのう。イヒヒヒ!」
「そ、そんな・・・」
フィオラはロッドの唾液によって肉体が疼き始めていた。
女として初めて感じる感覚。子宮の奥底から湧き上がってくる熱い感触。
白い肌を真っ赤に上気させながらフィオラは肢体をびくっびくっと波打たせる。
頬を赤く染め、熱を帯びた息をつきながらフィオラは自分自身の意識に問い続けていた。
すでに自分はこの身体に、精神に、彼ら悪魔の侵入を許してしまっていたというのか、と。
ぴちゅん。
そのときフィオラは自分の股間からいつしか溢れ出した液体が床に大きな染みを描いていることに気付いて悲鳴を上げた。
「違う、違うぅぅっ!私はこんな…いやああっ!!」
フィオラは立ち上がることも出来ずのけぞるように後ろへ飛び退いた。そしてそのまま顔を伏せて大声で泣き出していた。
そんなフィオラを愉快そうにロッドは見下ろしている。その口が裂けんばかりにニタリと不気味な笑みを浮かべた。
「フィオラ王女、何も苦しむことは無い。あとはその情欲に身を任せ、肉体を組織に捧げ「改造される」ということを受け入れればよいのじゃ」
「ば、ばかなことを言わないで!誰がサイボーグになどなるものですか!!…く、ううっ」
苦しそうに呻き声を漏らし拒絶するフィオラを観察しながらロッドは大きく息を吐き出す。
「やれやれ…おい、セクサボーグRA-20を連れて来るのじゃ!」
ロッドの合図を待っていたのであろうか。
二人の技師に両腕を抱えられ、ひきずられるようにして、ぐったりとしたままの女性がフィオラの前に連れてこられた。
「せ、セリカ!?」
フィオラの目の前に姿を現したその女性は先ほど別れたばかりのセリカであった。
セリカはフィオラの声に気付いたのか朦朧とした顔を上げる。しかしシスターによって受けた腹部の損傷はそのままのようで、すぐにセリカは苦しそうに眉をしかめた。
「まあ、あなた…ちゃんとしたサイボーグに改造してもらえたみたいね。どうかしら、新しい手足の感触は?」
セリカは力なく光を点滅させる瞳をミス・クリムゾンに向けた。
四肢を切断され彫像のような簡易サイボーグにされていた自分の頭を銃で撃ち抜いたのが彼女、ミス・クリムゾンであることを彼女は憶えていなかった。いや脳を撃ち抜かれ破壊されたことで彼女の記憶の殆どは永遠に失われてしまっているのだから無理もない話である。
「ハイ…機械ノ…新シイ手足ヲ…クダサイマシタコト、心カラ…御礼モウシ…アゲマス。」ウウッ…」
「そう?気に入ってもらえて私も嬉しいわ。これからはセクサボーグとして組織に忠誠を誓いなさい」
「ハイ…御主人サマ」
二人の会話を間で聞きながらフィオラはミス・クリムゾンを睨みつける。
「あなたたちは、せ、セリカになにをする気なの!?」
「ヒヒッ!こうするのじゃよ」
ロッド博士は白衣のポケットから小さな端末を取り出すとそのスイッチを入れた。
ガシュンッ!
「アアッ!?」
突然、両脇で支えられていたセリカの両腕と両足がその付け根から分離したかと思うと、まるで積み木が崩れるように彼女は床に崩れ落ちたのである。
「よく見ておるのじゃ、フィオラ王女。」
ロッドは手足を失い身動きが取れなくなったセリカの身体に圧し掛かると嬉々とした表情を浮かべながら、悶える彼女のドレスを荒々しく引き裂いた。
このように手荒な扱いを受けても組織のサイボーグに改造された者は決して逆らうことはできないのである。
セリカはプログラムと微かに残った人間の恐怖という感情に苦しんでいた。
そんなセリカを楽しむようにロッド博士は、露出した彼女の下腹部皮膚装甲に手を掛けた。
「ピーッ!オ、オ許シクダサイッ!ピーッ!!」
バキイイッ!!
「ピギャアアアアアッ!!」
電子音の悲鳴、そして装甲がひしゃげる鈍い音と共に眩い火花がセリカの下腹部から激しく迸った。
「やめてええっ!セリカにひどいことしないで!!」
ロッドはフィオラの懇願など意に介さず、機械化されたセリカの内臓組織に手を差し入れる。
「ギッ!?ウギギギギ…!?」
神経回路を遮断されていないセリカはその常軌を逸する苦しさに悲鳴すらあげることができない。
ズルッズルルッ!
やがてロッドはセリカの下腹部からT字型の小型臓器を抉り出した。
その半透明な人工臓器の内部には左右に透明のカプセルが接続されている。そのカプセルにフィオラは見覚えがあった。昨夜、セリカが教えてくれたセクサボーグの生体脳を維持するための男性精液を保管するカプセルである。つまり今、ロッドがセリカの体内から取り出したのは彼女の人口子宮であった。
見れば、その人工子宮の左側がひしゃげて破損している。カプセルも割れており、中に保管されていた精液は殆ど流れ出てしまった後のようである。そしてそれは先ほどフィオラを庇った折に、シスターの蹴りを受け破損した物であることは明らかであった。
ロッド博士は人工子宮の右側のカプセルを確認する。そこには空のカプセルと精液が半分ほど残ったカプセルが接続されていた。
「なんだ、もう残っていないではないか。早く補充せんと生体脳の生命維持ができなくなるぞ、ヒヒヒ」
ロッド博士のこの言葉を聞いてフィオラは動揺した。
その様子を確認して、ロッド博士は白衣のポケットの中から小さなカプセルを取り出す。
「さて、ここにたっぷりと精液がつまったカプセルがある。セクサボーグRA-20、これが欲しいか?」
息も絶え絶えなったセリカは仰向けに倒れたまま力なく頭を縦に振る。
「ではフィオラ王女はどうしてほしいのかな?」
突然、ロッドの狂喜の色に染められた視線を向けられたフィオラは瞬間、その真意を図りきれずに返事を返せずにいた。
「どうなんじゃ?」
低い声でもう一度問いかけてくるロッド博士を見て、フィオラはごくりと唾を飲み込んだ。
「・・・せ、セリカに・・・カプセルを・・・お願い・・・。彼女を…助けてあげて…」
「よろしい!…では、その願いを聞く代償として、フィオラ王女にはおとなしく我々に忠誠を誓う証としてサイボーグとなるべく改造手術を受けていただきましょうか!!」
「な、なんですって!?」
「簡単なことじゃ。ただ一言。そう…「改造手術を受けて喜んでサイボーグになります」と、私たちに聞かせてくださればいいのです」
これまで必死に抵抗を続けてきたフィオラにとって、この台詞は自分自身に死刑宣告するも同然の物であった。追い詰められた心情を表すかのようにフィオラの唇が前にもまして血色を失い、小さく激しくわななき続けている。
「もちろん、承知のこととは思いますが、もしこの提案を拒否なされるならば・・・」
ロッドはそう言うと手にしたカプセルを二人によく見えるように掲げるとゆっくりと傾けた。蓋の無い口から白い粘液が糸を引くように床に零れ落ちる。
「アアッ、精液ガ、私ノ精液ガアッ!!ヤメテクダサイィィッ!!」
セリカの悲痛な叫びが響き渡る。彼女が動けない体にもかかわらず舌を突き出し、少しでも床にこぼれる精液を舐め取ろうとする姿はあまりにも痛々しく、フィオラにはそれを静観することなどとてもできなかった。
「・・・ます。・・・・・・言います」
「はあ?よく聞こえませぬなあ~、イヒヒヒヒ!」
「あなたたちの改造手術を・・・サイボーグになることを…」
フィオラの両目から大粒の涙がこぼれ、言葉が詰まる。
「…よ、喜んで・・・う、受け入れます・・・」
ロッド博士の口が勝利の笑みを浮かべた。これを待っていたとばかりにその口が大きく開く。
「フィオラ王女・・・おっしゃいましたな。今、確かに!おっしゃいましたなぁっ!!」
そのときフィオラは自分の身体に起こった異常に気付き全身を硬直させていた。
急速に周囲の世界が色彩を失って行き、意識が暗闇に埋没してゆくのである。
「な、なに?・・・これは・・・どういうこと・・・あ、ああああ・・・」
フィオラはその怒涛の闇の侵食に抗うことはできなかった。
もう自分が立っているのか、それとも倒れてしまっているのかもわからない。頭の中に湧き起こった黒い泉が全身を満たしていく感触をフィオラはただ嫌悪することしかできなかった。
「消える・・・私が・・・消えちゃう・・・ルシアンお姉さま…助け…て…」
フィオラは虚空を見上げながら脱力したように両膝を床に落とした。
全身の筋肉という筋肉が硬直し、かろうじて倒れることは無かったが、やがてフィオラの頭は糸が切れたようにガクリとうなだれた。
まるで幽鬼のように佇むだけとなったフィオラの様子が普通でないことに気付いたミス・クリムゾンはロッドに訊ねる。
「これは・・・どういうことだ?フィオラに何が起きたのだ?」
「簡単なこと。精神の最後の壁を崩すキーワードを自分で言わせただけじゃ。“トロイの木馬”、わかるじゃろう?」
ミス・クリムゾンは全てを悟った。
正面から強硬に洗脳しようとすれば強い精神力を持つフィオラのことである。頑強に抵抗した結果、精神崩壊の末に廃人となってしまう可能性が大きい。
ゆえにロッド博士は高レベル洗脳をカモフラージュにして同時に低レベル洗脳をフィオラの真相意識の中に刷り込むことにより、精神障壁を内側から破壊する爆弾を密かに植え付けていたのだ。
まるで洗脳処理に成果があがっていないと周囲から見られていたのは始めから成果を上げるつもりなどなかったからだったのだ。
「やはりあなたは恐ろしいマッドサイエンティストだわ・・・」
さすがにミス・クリムゾンもこれには気がついていなかった。
ロッド博士はミス・クリムゾンのその言葉に勝ち誇ったように下卑た笑いを漏らす。
「さあて、フィオラよ。いつまでそうしておるつもりじゃ?」
その呼びかけにフィオラはゆっくりと顔を上げた。それまで清んだ美しい碧色の瞳は暗く澱み、焦点も泳ぐように漂い定まっていない。
「はい・・・申し訳ありません。・・・ロッド博士。」
まるで感情を感じさせない口調でフィオラは答えた。
そこに先まであれほど抵抗していた気高いフィオラの姿はもうなかった。
「フィ、フィオラ・・・?ドウシテシマッタノデスカ…」
力ないセリカの呼びかけもフィオラの耳に届いてはいない。
「フィオラ!?返事ヲシテクダサイ!フィオラ!!」
セリカは何度も呼びかけるが、まるで糸の切れた人形のように呆然と瞳を漂わせているフィオラはセリカの声に何ら反応を示さなかった。
「無駄じゃよ。ほれ、褒美のカプセルをくれてやろう」
ロッド博士はセリカの人工子宮に例のカプセルを埋め込むと無造作に放り投げた。
「シスター、こいつを運び出してくれんか。もう用はない。後の処置は研究員15号に伝えてある」
シスターはロッドに命令されて明らかに不満そうな顔を浮かべるが、ミス・クリムゾンがそれに同意したためしぶしぶ、その役目を引き受けるのだった。
「マ、待ッテクダサイ!フィオラヲドウナサレルノデスカ!?待ッテ!!」
「うるさいセクサボーグね。おまえにはもう用は無いのよ!!」
「ギャッ!!」
シスターに無造作に蹴り上げられたセリカは大きく弾け跳び扉に激突すると、口から煙を噴き上げて動かなくなった。
そのままセリカの髪を掴みひきずってシスターが退室してゆくのを見届けたミス・クリムゾンはフィオラに近寄るとその顎をつまんで顔を覗き込む。
「それで、これからどうするの?」
ミス・クリムゾンの言葉にロッド博士は傍らの装置を操作する。
それに合わせて手術室の奥に設置された巨大な装置が動き出した。その装置は中心でふたつに分かれ、左右に広がってゆく。そしてその中から現れたのは人間が一人入れる大きさの円筒状の透明なカプセルであった。
サングラスの下でミス・クリムゾンの瞳が妖しく輝く。
「なるほど、ルシアンと同じ処理を施す以上、次の工程はこれよね」
「この培養カプセルの中でフィオラの肉体強化改造の仕上げを行う。また同時に本格的な服従洗脳もこの中で行う。言わば新生フィオラの子宮じゃな」
フィオラはただ無言で自分が入れられ、改造されるカプセルを見つめていた。
「さあ、フィオラ王女。いざ、新しき生物へ生れ変わりましょうぞ。その後は美しき機械生命体へと・・・」
ロッド博士の芝居じみた言葉に感傷を引き起こされるはずもなくフィオラはゆっくりとおぼつかない足取りでカプセルへ向かって一歩を踏み出す。
その足取りはなぜか震えていた。意識を支配されてもどこかでフィオラはまだ改造されることを拒んでいたのかもしれない。
彼女がとうとうカプセルの中に足を踏み入れたときその両手両足、さらに首に鉄製のリングが巻きついた。そのリングには太いパイプが接続されている。
続いてフィオラの足元から飛び出したのはまるで芋虫のような形状の端末であった。
それは蛇の様にうねりながら、フィオラの股間に咲いた花唇に容赦なく潜り込む。
「う、うぐうっ!い、痛いっ!!」
生理的な激痛に過敏に反応しての悲鳴であったが、すでに両手足を拘束されてしまっているフィオラにそれを防ぐ手立てはなかった。
フィオラは胎内にもぐりこんでくる異物を拒むかのように腿を擦り合わせるが、端末はそれを意に介することもなく、奥深く突き進んでゆく。
メリメリッ・・・。
「うっ、ぐっ!」
フィオラの頭が上へむけてのけぞった。身体が硬直し、手足のみならず全身がガクガクと震えている。
ブチッ!
「あっ、あああっ!?」
ブチッ!ブチブチッ!
「あぎゃああああっ!い、いやああああっ!!」
それはフィオラの股間を突き貫く端末が彼女の純潔の証である乙女の膜を突き破った音であった。フィオラはこの瞬間、意志を持たない単なる機械装置によって乙女の純潔を散らされてしまったのである。
ミス・クリムゾンはフィオラの股間から彼女がそれまで処女であったことを証明する紅い血の筋が何本も腿から足を伝い流れ落ちてくるのを見て高らかに笑った。
「高貴な王女様の初めての経験が機械の端末装置とはね…フィオラ、おめでとう!人間でなくなる前に女にしてあげたのよ、私たちに感謝しなさい!ハハハハ!!」
フィオラの純潔を無残に引き裂いた端末はなおもフィオラの胎内を奥へ奥へと進んでゆく。
「が、がはああっ、おなかの中が・・・えぐられて・・・く、苦しい…いやあ…っ、うぐっ!?」
そのときフィオラの胎内でなにかがコツンと衝撃を響かせて止まった。
端末がフィオラの最奥、すなわち子宮口へたどりついたのである。
「では、卵子を採取してから投薬を開始するぞ。たっぷり味わえ。」
ロッド博士が装置のボタンを押す。
「や!?お、おなかのなかで・・・おなかのなかで・・・いやあああっ熱いぃぃぃっ!!」
子宮口にたどりついた端末の先から凄まじい勢いで人体強化薬の注入が始まった。
フィオラは気も狂わんばかりに腰を揺さぶるが、その扇情的にも取れる光景はロッド博士をさらに楽しませるだけであった。
「ああっ!ああっ!ああああっ!だめええっ!だめええっ!壊れるぅぅつ!許してええっ!いやあああああっ!!」
口から舌を出し、唾液を振り撒きながら絶叫をあげるフィオラに吸盤上の端末チューブが左右の乳首と彼女の臍、そして心臓の上に吸い付いた。
さらに彼女の額に埋め込まれた二つの端子にも電子ケーブルが接続される。
「第二段階開始」
悶絶するフィオラの両目が大きく見開かれた。
リングの内側から鋭い針が飛び出し、彼女の身体に突き刺さったのである。この注射針と全身に繋げられたパイプを通じてフィオラの体内へ、別の人体強化薬の投与が始められたのである。
「う、うううっ、こんな・・・こんな刺激…あはぁっ、死んじゃう…死んじゃうぅぅっ!」
瞬きすることもできず瞳を大きく見開いたままのフィオラの頭が後ろにのけぞると、全身が激しく痙攣を始めていた。
ロッド博士の制御する装置が示すフィオラの心電図が明らかに異常な軌跡を描き、生命の危機を告げている。
そのときカプセルの上から降りてきたマスクがフィオラの口に装着された。
「うぐっ、うぐううっ・・・」
麻酔ガスがマスクを通して肺の中へ流し込まれると、フィオラの瞳が静かに閉じられてゆく。
フィオラにとって、恐らくこれが人間としての最後の眠りになることは間違いなかった。
「り、リーファ・・・ごめん・・・ごめんね・・・私・・・もう・・・だめ・・・」
澱んだ瞳を微かに開いたままフィオラは意識を失った。
それを確認したロッド博士はカプセル内へ緑色の不気味な培養液の注入を始める。
カプセルの中のフィオラを液体が包み込んで行く。
やがて透過性のある緑色の培養液はフィオラの頭の上、カプセル一杯に満たされた。
フィオラの口と鼻に装着されたマスクの隙間から無数の小さな白い気泡が漏れ出るようにして、そのまま上へと昇ってゆく。
カプセルに閉じ込められ、その中に漂うフィオラはまるで生体標本のようであった。
薄く開かれたままのフィオラの瞳は外で自分を観察しているミス・クリムゾンとロッド博士を映している。
残されたほんのわずかな意識の中でフィオラはまだ抵抗を諦めてはいなかった。
――私は・・・負けない・・・私は・・・王女として…人間として…みんなを守って・・・みせる・・・
しかしすでに洗脳処理は始まっていた。額に接続されたケーブルが淡いイオン光を発し始めたのである。
――わ、私の中に入ってくる?・・・い、いや…入って…こないで、ああ…。
フィオラの頭の中に訳のわからない膨大な情報が津波のように流れ込んでくる。
幼い頃の思い出も、強くて優しかった父・ローム三世の記憶も、リーファや友達との学園での思い出も、そして母のように自分を愛してくれた大好きな姉・ルシアンの温もりも、全て冷たい闇の中へ押し流されて消えてゆく。
――みんな消えてゆく…記憶が消えてゆく…忘れたくない・・・忘れたくない・・・よ・・・。
フィオラが消え去ってゆく記憶の中で最後に見たのは憶えているはずのない赤ん坊の自分に乳を与える母ポーラの微笑みであった。
全てが消え去る。
そこに残されたのは深い暗黒の暗闇。
哀しき人間フィオラの生命は今この瞬間に終わりを告げたのだった。
*
自室に戻ってきたミス・クリムゾンはひどい疲労感を感じているのか、外したサングラスを無造作に投げ捨てると、そのまま両手をついて壁に突っ伏した。
「はあ・・・はあ・・・」
彼女の荒い呼吸に合わせて肩が上下しているのがわかる。
「くううっ!!」
ミス・クリムゾンはおもむろに全身スーツの頭部を脱ぎ去った。
その中からまるで紅玉のような光沢を持つ美しく長い髪がこぼれ落ちる。
「な、なんで・・・こんなことに・・・フィオラ様・・・フィオラ様・・・お許しください・・・」
まるで泣き崩れるようにミス・クリムゾンは全身を震わせながらその場にうずくまった。
それはこれまでのミス・クリムゾンからはとても想像できない姿であった。
ピピーッ!
室内にコールが鳴った。
胸を抑えるようにうずくまっていたミス・クリムゾンはしばしの沈黙の後、低い声で応える。
「・・・だれだ・・・」
「シスターでございます、お姉さま・・・」
「少し待て…」
一分ほどの間を置いてシスターが部屋に入室を許されたとき、すでにミス・クリムゾンはもとの全身スーツを頭からかぶりサングラスをかけた姿に戻っていた。
「どうかなさいましたか?」
「なんでもないわ。ドルーク博士にフィオラサイボーグ化の準備を急がせてちょうだい。近いうちに北部方面軍のグルジエが動き出すわ。情報収集を怠らないように」
「わかりました」
シスターはそれ以上、何も言わずに退室した。
再び部屋に一人になったミス・クリムゾンは椅子に身体を埋めたまま天井を仰ぐ。
「・・・諦めなさい・・・アイアス王国はもうお終いよ。・・・ウフフフ」
「・・・くっ・・・は、早く・・・私を・・・誰か・・・殺して・・・」
「ええい、出てくるな!消えろっ!!」
沈黙が流れた。
ミス・クリムゾンは椅子から立ち上がると、ブーツを脱ぎ、全身スーツを脱ぎ捨ててシャワー室へ駆け込む。
そのとき誰かが見ていれば驚きで言葉を失ったであろう。
ミス・クリムゾンの髪がどういうわけか、先ほどの赤い髪から金色の髪へと変貌していたのである。
「フィオラ・・・どんなサイボーグに造ってあげようかしら・・・とても楽しみだわ・・・ウフフフ・・・」
色も長さも全く違う髪をシャワーの熱湯に浴びせながらミス・クリムゾンは低い笑い声をもらしていた。
第16話/終