第15章 恐怖の生体改造 

 まだアイアス王国の夜は明けていない。
深い夜の闇を斬り裂きながら一機の小型ヘリコプターが北部国境に近い寒村へ向かって飛んでいく。やがてヘリコプターの前方の針葉樹林がわずかに開けた。
そこに姿を現した村の広場でヘリコプターを誘導するライトが小さく明滅している。
 地上からのライトに照らし出されながら着陸したヘリコプターはその外装を漆黒に塗り固められており、明らかに諜報作戦専用の機体であることに間違いなかった。またその機体もアイアス王国軍の軍用ヘリコプターとは姿かたちを異にする物であった。
着陸したヘリの扉が開かれる。そして機内から細くしなやかな肢体を持つ人影が軽やかに降り立った。
それはあの黒い全身スーツに身を包んだ謎の女であった。周囲がいまだ闇の中であるにも関わらず女は黒いサングラスを着用したままである。
 女は軽く周囲を見渡し、そのままゆっくりと歩き出す。
ヘリからは彼女に続いて小太りの男が降り立っていた。
アイアス王国のサイボーグ兵士量産計画に携わるドルーク・ガバナス博士である。
着地時にその体重が災いし転びそうになったドルークは不安と困惑をその顔に浮かべながら女に背中を追って小走りに駆け出す。
「ま、待て!どこへ連れてゆく気なのだ!?」
謎の女はそんなドルークに関心を傾けることもなく、正面に設置されたヘリ誘導ライトの強い光に照らし出されている二人の兵士の影に近づいてゆく。
兵士たちもまた女と同じ黒い全身スーツに身を包んでおり、近づいてくる女に対して凛とした動作で敬礼した。
「お帰りなさいませ、ミス・クリムゾン。それで作戦の首尾はいかがでしたか?」
「成功よ。すぐにお客様たちを地下基地に案内します。お前たちはひきつづき警戒にあたってちょうだい。」
「了解いたしました。」
 ミス・クリムゾンと呼ばれた女は満足そうに唇に笑みを浮かべると、微かな明かりが灯る小さな木造の民家に向かって歩き出した。
「ドルーク博士、さあこちらへ。」
 民家の扉に手をかけたミス・クリムゾンは周囲をいぶかしげに眺めまわしているドルークに呼びかける。ドルークは警戒心を顔に出したまま黙って彼女のもとに駆け寄った。
「こ、この村はいったい・・・」
「お話はまた後で。お寒いでしょう、さあ中へお入りください。」
ドルークはミス・クリムゾンのこれまでとは違う丁寧な言葉使いに少しだけ満足したのか、彼女に促されるまま民家へ足を踏み入れた。
「な、なんだ!?」
暖かい屋内を見渡した時、民家の中に人間はいなかった。
いや、つい数日前までは人間であったであろう“物”は存在していたと言うのが正しいであろう。
ドルークの眼前には大きな木製の卓で木工細工を造っている五十歳くらいの男。
かまどで温かいスープをつくる四十歳くらいの婦人。
暖炉の前で寝そべり、楽しそうに絵本を読んでいる幼い女の子。
一見すればごく普通の親子三人、家族団らんの姿である。
だが、少しだけ注意深く見ればその三人がもはや人間ではないこと、その家族の営みも擬態に過ぎないことは一目瞭然であった。彼らの身体の動きや顔の表情は単調に規則的に動いているだけなのである。
木を削る父親のナイフを持つ手の動きも、左手を腰に当て右手の勺でスープをかきまぜる母親の仕種も、そして絵本を読む女の子が浮かべる微笑みも、全て人工的に作られた偽者の動きであった。
「み、ミス・クリムゾン・・・この親子は一体?」
動揺するドルークの言葉にミス・クリムゾンは口に手を当ててホホホと短く笑った。
「そのように驚かれることではありませんわ。あなたたちがこれまで行ってきたことと同じことをこの村の住人に施しただけですわ。」
ミス・クリムゾンたちはこの辺境の寒村に活動拠点たる地下基地を秘密裏に建造していたのである。地図に名前すら見つけるのが困難なこの寒村がミス・クリムゾンたち組織の手中に落ちるのはさしたる時間を要しなかった。ミス・クリムゾンたちは制圧し、捕らえた村人全員を強制的にサイボーグへ改造したのである。
しかし、このとき殆どの村人たちに施された改造手術はサイボーグ化と呼べるレベルの手術ではなかった。ミス・クリムゾンは臓器の全てを取り除いた素体の身体に単純な動きしかできない単純構造なアンドロイドギミックを埋め込み、言わば展示用の機械人形にしてしまったのである。
彼らにはもはや生体脳すらも組み込まれていない。まさにカモフラージュのためだけの機械人形であった。そして機械人形に改造された村人たちはそれぞれの家に戻され、同じ動作を休むことなく繰り返しているのである。
パチッ!
暖炉の薪が火を跳ねた。
ミス・クリムゾンは暖炉の前で寝そべる女の子に視線を向ける。
「物を一切考えなくてすむ機械人形になるのと、全身を弄りまわされた挙句に機械の塊のサイボーグ兵器にされるのと・・・あなたはどちらが幸せだと思う?」
 女の子が首を捻って微笑んだ。もちろんそれはミス・クリムゾンの質問に答える仕種ではない。
聖タニア女学院の学長として大勢の女生徒たちをサイボーグ改造実験の材料にしてきたドルークではあったが、老若男女問わず、村人全員を意識のない単なる機械人形に改造したミス・クリムゾンたちの組織に対して恐怖を覚えずにはいられなかった。
「さあ我々の研究施設にご案内いたしますわ。」
 ピシュッ!
「!?」
 ミス・クリムゾンの言葉に呼応するように木造の屋内には不釣合いな半球形のクリアカプセルが床からせり出してきた。ミス・クリムゾンとドルークの二人はそのカプセルの中に入ると、そのカプセルエレベーターは自動的に彼女たちを地下深くへと導き降りて行く。


 高速で降下してゆくエレベーターが目的の階に到達するのにたいして時間はかからなかった。
そこではミス・クリムゾンと同じ黒い全身スーツの上に白衣をまとった十人近い男たちが二人を待ち受けていたのである。
言うまでもなく彼らは全員、組織の研究者と技術者たちであった。
「みなさんお待たせしました。紹介しますわ、今回のフィオラ王女サイボーグ化手術の総指揮を執っていただくドルーク・ガバナス博士です。」
 黒い全身スーツと黒いサングラスという無気味な姿の研究者たちの顔と視線が一斉にドルークへ注がれる。
 事ここに至り、ドルークは覚悟を決めてはいたがその不安な気持ちは隠しようがなかった。ガルディや自分たちが知らぬところでどことも知れぬ組織がこのような施設をアイアス国内に建造していたのである。それも無理からぬことであろう。
そんなドルークの表情を見て取ったのか研究者たちの先頭に立っていた男がミス・クリムゾンに問い掛けた。
「それで我々はドルーク博士にいかほどの情報をお与えすればよろしいのでしょうか?」
「今回の改造手術に必要なデータ、関連する一切のデータを提供しなさい。ウェルター博士の遺したデータも全てです。」
「す、全てでありますか!?し、しかしその中には組織のトップシークレット扱いのデータも・・・」
「ウェルター博士が死んだ今、あの特別製サイボーグ素体を使用してフィオラ王女をサイボーグ化できる知識と技術を持っておられるのはこちらのドルーク博士だけと私は判断しました。なにか不満がありますか?」
ミス・クリムゾンの淡々とした口調に研究員たち誰もが言い知れぬ威圧感を受けて口をつぐんだ。
今回の計画でフィオラ王女をサイボーグ化するにあたり、彼女の肉体に埋め込まれるサイボーグギミックは数日前の「王女拉致作戦」の折に死亡したウェルター博士が組織の今ある最先端技術をもとに設計開発した最新型サイボーグ素体である。それは並の研究者が到底取り扱える代物ではなかったのだ。
さらに付け加えれば今回の改造手術に失敗は許されない。改造素体となる王女-フィオラはこの世に一人しかいないのである。
「では意義はありませんね。ではサイボーグ開発研究員13号に命令します。」
「はい。」
 研究員の中から一人が歩み出る。
「ドルーク博士を資料室へご案内してちょうだい。フィオラ王女の洗脳と生体強化処理が完了次第、サイボーグ化手術を執り行うのでそれまでに準備を怠らないように。」
 ミス・クリムゾンの指令に研究者たちは揃って頭をさげた。
「では、ドルーク博士。こちらへどうぞ・・・」
 研究員13号に促されるままにドルークが通路の奥へ消えるのを確認したミス・クリムゾンはそこに残った研究員たちにあらためて向き直り言った。
「・・・ところで、あなた達の中の何人かでフィオラ王女の改造手術までの間に、もう一体改造・・・というか再生修理してもらいたい娘がいるの。」
「娘でありますか?・・・先日、脳改造手術を施し、我らの奴隷サイボーグに造り替えたあのカタリナとかいうサイボーグ娘とは別の素材でありますか?」
「そう。娘の名前は“エイツ・ビー”・・・人間名は「九条すみれ」よ。データで確認済みでしょう?」
その名前を耳にしたとき研究員たちの間から小さな歓声が湧きあがった。
実はアイアス王国で開発された女性サイボーグの成功体第一号である彼女の名前は彼らの間でも関心の的になっていたのである。
「かなり致命的に破壊されているけれど生体脳はかろうじてまだ生きているわ。彼女は使える、いいわね?」
「了解致しました。協議のうえ、再生修理チームを編成致します。」
 そこまで指示を下したミス・クリムゾンは研究員たちに解散を命じると、通路の奥に向かって歩き出した。噂に聞こえる九条すみれを改造できる機会を得て研究者たちのざわめきが背中から聞こえてくる。そのとき彼女はひとつ思い出したことがあり振り返った。
「そうそう、ひとつ忘れていたわ。カタリナが後で運んでくる手足のない娘はあなた達にあげる。頭を撃ちぬいてしまったから生体脳はもうグチャグチャ・・・使い物にならないわ・・・そうね、電子頭脳に取り替えてセクサロイドにでも改造しちゃうなり好きにしていいわ。もう、この村の娘たちを改造したセクサボーグも残っていないのでしょう?・・・但し、このことは王女の改造手術が成功するまで父親のドルークには秘密厳守、いいわね。」
 口元に冷たい刃のような笑みを浮かべてミス・クリムゾンが言うと再び基地の奥へ歩き出す。
 しばらく女の身体に飢えていたのであろうか、新しいセクサボーグの材料を与えられた研究員たちからはさらに大きな歓声があがっていた。
*
 暗い通路に甲高いブーツのヒール音がこだましている。
やがて通路を奥に進んでいたミス・クリムゾンは通路脇の一室に入った。
彼女が入ったそこは部屋全体を埋め尽くすほどの数のモニターや電子機器が置かれている言わば管制室のような趣の部屋であった。
そこでは黒の長袖シャツとミニスカートを着た赤毛のショートヘアの少女がコンピューターに向かってデータ処理を行っている。
少女はこの地下基地にいる他の組織構成員とは様相が違っていた。
ミス・クリムゾンたちのように黒の全身スーツを着用しておらず、まだ十代前半の幼い顔にかけた黒いサングラスだけが唯一、彼女が組織の人間であると伺わせる物であった。
「お姉さま、お帰りなさい。」


 彼女の入室に反応して振り返った少女のその口調は表情に比べて単調で抑揚が無い。
ミス・クリムゾンを見つめる少女の瞳がサングラスの下で無気味に輝いた。
言うまでもないであろう。彼女は、容姿はまだ少女であるが超高性能電子頭脳を生体脳に組み込まれた秘書サイボーグなのである。
「シスター、フィオラ王女の様子はどうかしら?」
シスターと呼ばれた少女はクスクスと機械的に笑うそぶりを見せた。表情と口調が微妙に噛みあっていないのは彼女の生体脳に組み込まれた電子頭脳の負荷による物らしい。
「はい、お姉さま。間もなく睡眠薬の効果が切れる頃です。すでに機械化改造前処理を担当するロッド博士の準備も完了しています。」
「そう、さすがはシスターね。ありがとう。」
シスターはミス・クリムゾンに褒められたことが嬉しくてたまらないといった笑顔を浮かべる。しかしその瞳に感情が無いため、それは自然と無気味な印象を持つ表情になってしまっていた。
「でもお姉さま、あんなひ弱そうな小娘が今回の改造手術に耐えられるのですか?手術の途中で死亡するのがオチではありませんか?」
 ぎこちなく笑いながらそう言ったシスターは、ミス・クリムゾンの鋭い視線に気付いて顔を強張らせた。
「・・・何のためにおまえをサイボーグに改造したと思っている?おまえはフィオラ改造に関するあらゆるデータ分析処理を行うためだけに選ばれて改造されたのです。」
 シスターはその言葉に一瞬、呆然としたかと思うとその機械の瞳が二、三回激しく明滅した。
ガタッ!!
そしてシスターはまるで主人に捨てられそうな子犬のように震え出すと床にへたりこみ、ミス・クリムゾンの足元にしがみついたのである。
「申し訳ありません!お許しください!シスターを、シスターを捨てないでください!」
ミス・クリムゾンは足元にしがみつく少女を真上からしばらく見つめているとゆっくりと腰を落とし、少女サイボーグを抱き起こした。
「何を怯えているの?あなたは私の大切な“妹”なのよ。犬猫のように捨てるわけがないじゃない。今の私の言葉は削除しておきなさい。」
「は、はい。・・・・・・ピー!・・・削除しました。」
「シスター、あなたがなぜサイボーグに改造されたか言って御覧なさい。」
「はい・・・私は親に捨てられた身です。そして人買いに売られ、あの地獄のような娼館で身体を売らされていた・・・。そんな私をお姉さまは救い出してくれました。そして私の汚れきった身体を全く別物の・・・このように奇麗な新しい顔を持つ機械の身体に造り替えてくださったのです!シスターはこの唯一残った生体脳が焼き切れるまでお姉さまについていきます!だから・・・だから・・・捨てないでくださいっ!捨てないで!捨てないで!」
 義眼で造られた瞳からシスターは人工体液を涙のようにこぼす。そのように激しく明滅する少女の瞳にミス・クリムゾンは唇を押し当てた。
溢れ出る擬似体液をミス・クリムゾンは舐め、そして吸い取る。
「私の可愛いシスター・・・もう泣かないでいいのよ。」
「お、お姉さま・・・わたし・・・嬉しい・・・」
シスターの人工皮膚が紅潮してゆくのを確認したミス・クリムゾンは唇を離すと、少女の赤い髪を撫でながら一緒に立ち上がった。
「それで、フィオラは今どこで“調整中”なのかしら。」
「第4調整室です。早速、参りますか?」
 シスターが愉悦に満ちた表情で問い掛けると、ミス・クリムゾンは黙って頷いた。
*
 アイアス王国北部国境から王都へ向かう街道沿いにヴェルツウッド変電所がある。
 ここは深い山林に覆われたアイアス王国北部へ電力を提供する重要な送電施設であったが老朽化が進み、新設されたヴァルヴァッサ発電所にその役目を引き継いで廃止されていた。
この夜、今では無人の廃墟となったヴェルツウッド変電所施設の正面広場に森の中から小さな人影が姿を現す。
その人影はその容姿から見て明らかに女性であった。苦しそうによろめき、地面に転がりながらその女性は広場に中心にたどりついた。
「ミラーナ・グイッシュ少尉!帰還しました!回収を!お願いっ!」
女性は地面にへたりこみながら絶叫するように正面の闇の中へ呼びかける。
ブルンッ!
そのとき闇に包まれた施設の廃墟の中で車のエンジン音が鳴り響き、二つの光点が瞬いた。崩れた壁の奥に一台のジープが身を隠すように停車していたのである。
「ミラーナ少尉に間違いないか?」
「私です!ミラーナです!!早くっ回収してください!!」
ミラーナと名乗った女性士官の声は激しく動揺していた。
「・・・どうしたというのだ。様子がおかしいぞ。」
ジープには武装した兵士が三人と女性士官が一人乗り込んでいた。助手席に座った指揮官らしき軍人が運転席の兵士に指で指示を出す。
ジープのライトが上げられた。
「なっ!?」


そのとき兵士たちは揃って声を失った。そのライトに照らし出された女性はボロボロの布を身体に巻き付けているだけであり、何よりも彼らを驚かせたのは彼女の身体の露出している殆どの部分が機械に改造されていたからである。
人の肌を残した彼女の顔は間違いなくミラーナのものであったが、露になった乳房も片方は金属の装甲で造型されており、さらに機械の両手足からは回線がショートしているのか小さな火花が見えた。
「こんな身体にされてしまっていますが・・・私はミラーナ少尉です!信じてくださいっお願い!!
ミラーナは涙ながらに必死に訴える。
「み、ミラーナ、その身体は・・・」
ゆっくりと近寄ってくるジープを見て、ミラーナは力尽きたように倒れ伏した。
それを見た指揮官は兵士たちに命じて、哀れなミラーナを素早くジープの後部座席に乗せさせる。
「よし、ミラーナの調査は後回しだ。今はすぐにここを離れて帰還する!急げ!!」
ジープが砂塵を巻き上げて走り出す。
彼らはグルジエ大佐の部下たちであり、王都へ単独潜入していた諜報員を回収にきていたのである。このミラーナもその諜報員の一人であった。
兵士の一人がミラーナを気づかい、彼女の身体を毛布で覆う。ミラーナはがたがたと身体を震わせながら安堵の涙をその両方の瞳から流した。
「まだ・・・涙は流せるみたい・・・。」
そうつぶやくミラーナの様子を横に座った女性士官が複雑な面持ちで見つめていた。
ミラーナがその視線に気付いたとき初めてその女性士官が誰か認識したのである。
「く、クレオ・・・あなたが迎えに来てくれたの・・・?」
 その女性士官はグルジエ大佐の一人娘のクレオであった。
戦傷で手足と声を失っているクレオはゆっくりと頷いて見せる。
実はクレオとミラーナは親友同志であった。
ミラーナはもともと戦災孤児で、幼い頃にグルジエに拾われクレオと共に育てられた仲である。言わば本物の姉妹のような間柄であるといって過言ではなかった。
その後、二人は一緒に軍隊へ進み、父の部隊に参加したのである。
しかし、クレオは数年前の国境付近での戦闘で右手足と声を失ってしまう。ミラーナはこのときクレオの分もグルジエの役に立ってみせると言って危険な諜報任務に志願し、王都へ潜入していったのである。
その姉でもあり親友であるミラーナのあまりに変わり果てた姿にクレオは動揺を隠せずにいた。
「・・・潜入作戦でガルディ軍の“人間狩り”に捕まってしまったの。あいつら王都に戒厳令を敷くと同時に周囲の村や町からサイボーグ兵士に改造する人間を狩り集めているのよ。」
ジープの兵士たちの誰もが衝撃で息を飲んだ。ミラーナの話が出まかせでないことは彼女の身体が証明している。
「ターゲットになっているのは若い健康な男女。その多くは改造工場とかに送られて次々に改造されてサイボーグ兵士にされているわ。私は捕まったことを利用して内情を探ろうとしたんだけど・・・。」
ミラーナは口惜しそうに顔を伏せた。


「グリエフよ・・・あの狂った科学者のグリエフが私に目を付けたのよ!連れて行かれた手術室、冷たい手術台・・・あいつ、私を縛り付けて・・・レーザーメスを私の胸に・・・いやっ、いやあああああっ!!改造されるなんていやあああっ!!」

突然、恐怖の記憶が甦ったのか頭を抱えて震え出したミラーナをクレオは必死に押さえ込み抱きしめる。
バキィッ!
そのときクレオの右腕と機械が剥き出しになったミラーナの左腕がぶつかり合ってクレオの腕が折れ飛んだ。
それを見たミラーナは呆然と折れた手首を見つめるクレオの姿にやっと平静を取り戻す。
「わ、私・・・ごめんなさい、クレオ・・・私・・・私、もう人間じゃなくなってしまったから・・・。」ミラーナは泣き笑いともいう哀しい表情を浮かべていた。そのミラーナに対してクレオは頭を軽く左右に振って応えた。
「ミラーナ、それでどうやって逃げ出すことができたんだ。」
「改造手術の途中でなにかトラブルが発生したみたいで、意識を回復させられたのよ。目が覚めたときは、もう・・・こんな身体にされてしまっていたけれど・・・。」


「人間を機械に改造するなんて狂ってるぜ、あいつらは!!」
ジープのハンドルを握る兵士が怒りに震えながら叫んだ。
「手術が中断されて、私を改造していた研究者たちも一時手術室を出て行ったの。その隙に私は逃げ出したのよ。」
「なるほど、それで追手を警戒していたというわけか?でももう大丈夫だ。基地まであと少しだからな。」
指揮官がミラーナを励ますように言った。ミラーナはやっと安堵の表情を浮かべると、額の剥き出しになった金属骨格の中に指を差し入れる。
「くっ。」
微かな痛みを感じたのか、ミラーナは一本の電子ケーブルを頭の中から引き出した。
「クレオ、お父様・・・いえ、グルジエ大佐に王都の機密情報を送るわ。通信端末にこれを接続してちょうだい。あなたがここにいるのはそのためでしょう?」
クレオはその不自由な身体のため主にコンピューター端末の情報管理、暗号通信などの任務を専門としている。彼女がいる時点でミラーナはその意図を察していたのである。
「こんな機械の身体にされてしまったけど・・・こういう時は役にたつわね。」
「・・・・・・。」
ミラーナの冗談をあえてクレオは聞き流し、愛用の携帯コンピューター端末にミラーナの脳神経とも呼べるケーブルを接続した。
同時にミラーナの顔が硬直し、感情が消失する。瞳が黄色に点滅を開始し、電子音が彼女の頭から鳴り出した。
「ピポッ!・・・ただいまから補助電子頭脳内の情報を伝達いたします。ピピッ。データ送信開始。・・・・・・ピーッ!」
兵士たちは完全に機械人形になってしまったかつての仲間のその様子を哀しい面持ちで見つめ続けた。
「・・・ピピッ!データ送信完了。・・・極秘事項のためマスタデータを消去します。ピーッ!・・・・・消去完了。・・・ピポッ!」
しばらくの沈黙が彼らの周囲を包んだ。
クレオは無事にデータが基地に送信されたことを確認して端末からケーブルを引き抜き、ミラーナの冷たい金属にされた掌に返す。それに反応するようにミラーナの顔に再び感情が戻った。
「・・・クレオ・・・私、こんな機械のバケモノにされてしまったけれど・・・グルジエ大佐は・・・私を・・・また受け入れてくれるかしら・・・」
 孤児で一人ぼっちだった頃の記憶が呼び起こされているのだろうか、ミラーナは哀しそうに顔を伏せた。こんなサイボーグにされてしまい、もう娘として受け入れてもらえなくなるのではないか。そういう彼女の不安がクレオには痛いほど伝わってきた。
 クレオがそっとミラーナの肩を抱き寄せようとしたそのときである。
「いいっ!?」
突然であった。
「きゃあああああああっ!ピポポポポポ!頭が、頭が!私が、私が消えちゃうーっ!いやああああっ!!」
ミラーナがいきなり頭を抱えて凄まじい絶叫をあげたかと思うと座席から立ち上がった。
「ど、どうしたんだ!ミラーナ少尉!?」
「た、助けて!く、クレオぉぉぉぉっ!いや!いや!いやぁぁっ!!ぎゃあっ!!」
 ボシュッ!!
 そのときクレオが見たのはミラーナの口頭部からまるで排泄物のように排出された彼女の脳髄であった。
「あがああああっ!?」
 生体脳を失ったミラーナは身体を硬直させたまま後方に倒れ、ジープから転がり落ちた。
兵士たちはジープを停め、銃を携えたまま車から降り立つ。
ミラーナは地面にうずくまっていた。兵士の一人がその異様な様子に警戒しつつ、ゆっくりと歩み寄る。
「おい、ミラーナ少・・・?」
ザンッ!
その兵士の首が夜の闇に舞っていた。同時に兵士たちは反射的に銃を構える。
「ピ、ピピピ・・・生体脳排除完了・・・残留記憶抹消確認・・・全システム電子頭脳に完全移行・・・殺戮プログラム起動します・・・ピピピピ・・・」
「み、ミラーナッ!!」
 指揮官の怒声とその声が途切れるのは次の瞬間であった。指揮官の背後に銀色の身体と金色の髪を闇夜に浮かび上がらせる美女が立っていたのである。
 いつの間に現れ、そして近寄ってきたのか。
「ご苦労様。ご褒美に一瞬で殺してあげるわ。」
 美女の銀色の腕が青白い光に包まれ水平に走った。そのラインにそって指揮官の胴体はまるでずれるように崩れ落ちる。
 その金髪の美女はあのサイボーグ・セレナであった。妖艶な微笑を浮かべ、美しいボディラインを強調したシルバーのメタリックスーツに身を包んだセレナは恐怖でひきつる運転席の兵士に赤く発光した瞳を向ける。
「う、うわあああああああっ!!」
 恐怖に耐え切れなくなった兵士がアクセルを目一杯踏み込もうとした。だが、正面に視線を移した兵士の顔は次の瞬間、一条の光に貫かれていたのである。


 ジープの正面にはライトに照らし出された赤い髪の美女が立っていた。その乳房からは白い煙が昇っている。
 セレナと共にグリエフによって改造されたサイボーグ・エルセアである。
 身を屈めていたクレオは前の座席に座っていた運転席の兵士をおそるおそる見上げて、呼吸だけの悲鳴をあげた。
兵士の頭がその外郭だけを残し、その中心には大きな穴が開いていたのである。
 ほんのわずかな時間でただ一人になってしまったクレオはジープから転がり降りる。
 それをセレナとエルセアは愉快そうに見物していた。
 クレオはぎこちなく右足をひきずり、必死にその場から逃れようとする。
「クレオ・・・どこへ行くの?私を・・・置いていかないでちょうだい・・・ウフフ・・・」
 背後から自分を呼ぶ声にクレオはビクッと身体を振るわせた。そこでは無気味に瞳を発光させるミラーナが笑みを浮かべて自分へ手を差し伸べている。
「!?」
ミラーナがクレオに抱きつき、二人はそのまま地面に倒れこんだ。クレオはなんとか脱け出そうとするが、ミラーナの機械の体はびくともしない。
「バカな女よね。改造された時点でスパイだってこと全部筒抜けになっていることに気がつかないなんて。」
「改造手術の途中で逃亡できたのもこちらの目論み通り。全てはあらかじめ電子頭脳にインプットしておいた偽の情報をグルジエに掴ませるため・・・まったく、グリエフの考えそうな姑息な作戦よね。」
 クレオはセレナとエルセアのこの会話を聞いて全身が凍りついた。自分が先ほど基地に送った情報は父を罠にはめる偽情報だと聞かされては当然である。
「おい、そこの半端サイボーグ、ご苦労だったわね。」
 エルセアにそう言われたミラーナは機械的に首を回転させて二人に向け笑みを浮かべた。
「はい・・・お二人にお褒めいただき、光栄に存じます。これで私も研究所に戻り次第、完全なサイボーグに再改造していただき、ガルディ閣下のために働けるのですね。」
 クレオはミラーナの口からもれる信じられない言葉に耐えられず思わず瞳を閉じた。
 すでに彼女は以前のミラーナではなくなっている。つい先ほどまでクレオと親しく会話を交わしたミラーナはもう存在していなかった。
 そして、セレナとエルセアはミラーナの言葉に対して冷笑を浴びせ掛ける。
「完全なサイボーグですって?あんた自分で気がついていないの?」
「ピピッ・・・どういうことでしょうか?」
「そこに転がっているのが何かわからないの?って聞いているのよ」
ミラーナはセレナに促されるまま地面に転がっている液体にまみれた物を見つめる。それは言うまでもなく強制的に排出されたミラーナの生体脳の変わり果てた無残な姿であった。
「あんたの生体脳は用済みでとっくに処分されているのよ。今のあんたは電子頭脳のプログラムで動いているロボットにすぎないわ。それにあんたのその機械体が何でできているか知っているの?」
「生体脳が・・・無い?私の・・・機械体・・・?・・・理解不能です・・・ピピッ」
「あんたの身体は改造手術に耐えられなかった失敗作の部品を寄せ集めて造られてる。言ってしまえばおまえはその場限りのジャンク・サイボーグにしかすぎないのよ。それも特別粗悪品のね。」
 ミラーナの顔が呆然とセレナとエルセアを見つめる。
「そ、そんな・・・では・・・私は・・・私は・・・」
「あんたの電子頭脳のバッテリーもあと一時間程度で切れるわ。それがどういうことか聞かなくてもわかるわよね!うふふ・・・あははは!」
 エルセアの高笑いを聞きながらミラーナの顔が絶望に変わってゆくのをクレオは黙って見つめていた。
「そ、そんな、助けて・・・死ぬのは・・・いや・・・ピピピピピ!」
 バシュウッ!


 エルセアの乳房から赤いビームの閃光が迸りミラーナの頭を撃ち抜いていた。
「ぎいっ!?」
 吹き飛び、崩れ落ちたミラーナにさらにエルセアのビーム第二射が撃ちこまれる。
ボウンッ!!
それまでミラーナであった機械の塊は赤い炎に包まれた。
「生体脳を失った時点でもう死んだも同然なんだから今、楽にしてあげたわ。ご苦労様。」
 エルセアが冷たく笑って言った。
「さて、あとはこいつを始末するだけね。」
 セレナの右腕のレーザーナイフが淡い青色に輝き始めるのを見てクレオはミラーナから視線を戻した。
 その顔が炎に赤く照り出され恐怖に歪む。
 セレナが右腕を掲げたそのときである。
二人の脳に直接グリエフの指令が流れ込んできた。
「ちっ、なんだグリエフ!」
「もうすぐ任務は完了するわ、邪魔しないでちょうだい。」
 二人にはルシアン、ガルディ、そしてグリエフの命令には絶対服従しなければならないようにプログラム洗脳が施されている。いかに意に沿わぬ相手であろうとこのプログラムに逆らうことはできないのである。
―一連の経過はおまえたちの目に埋め込まれたカメラで見せてもらいました。
「ふん。」
セレナが忌々しげに瞳の義眼を駆動させる。
-その女はグルジエの娘です。まだ殺してしまうにはもったいない。連れて帰りなさい。
 なかば予想どおりの命令にエルセアは鼻を鳴らして笑った。
「また病気が出たわね。このマッドサイエンティストめ。」
 エルセアの悪態を眺めながらセレナはクレオに歩み寄りその正面にかがみこむ。
「よかったわね。あなたも選ばれたのよ。私たちと同じサイボーグに改造してもらえることを光栄に思いなさい。」
 クレオは蒼白になったまま傍らでスクラップとなったミラーナに視線を落とす。
 このときクレオは異様な昂揚感に包まれていた。
―わたしもサイボーグに・・・改造される?・・・いえ・・・改造してもらえる?
 セレナは微妙なクレオの表情の変化を見逃してはいなかった。その唇に冷たい笑みが浮かぶ。
「この娘・・・。うふふ、おもしろいサイボーグに生れ変わるかもしれないわね。グリエフの目も節穴ではないってことかしら。」
「クレオとか言ったわね。サイボーグに改造してもらえれば父親を殺すことも快感になるわ。私たちが現にそうだったから。ホントおもしろくなりそう。ルシアン女王陛下もきっとお喜びになられるわ!」
 もはや抵抗しないクレオを肩に担ぎセレナとエルセアは夜の山林の中へ消えていくのだった。
*
 フィオラが目覚めた時、周囲は薄暗い闇に包まれていた。
 今が何時なのか、自分がどれくらい意識を失っていたか皆目検討がつかない。
「ここは・・・どこ?」
 まだ朦朧とする意識の中でフィオラは、自分が冷たい金属の台の上で四肢を広げた姿で拘束されていることに気がついた。
「な、なに・・・これは?」


 フィオラは何とかしてその金属製ベルトの戒めを解こうと腕や足に力を込める。
 儚い抵抗の後、完全に動きを封じられている事実を認識したフィオラは自分の姿を確認しようと少しだけ頭をもたげ、視線を落とした。
 闇の中に見えるのはぼんやりとした自分の胸の小さなふくらみの影だけである。
 皮膚が外気に触れている感覚から現在、身に着けているのが下着だけであることをフィオラは覚醒してすぐにわかっていた。
「こ、ここは一体どこなの・・・リーファ・・・」
フィオラの唇の下でいつしか歯と歯が小刻みに音を奏で始めた。
周囲の空気は冷たい。しかし、その震えの原因は全裸に近い姿にされているゆえに感じる寒さからだけではなかった。
-ダメ!フィオラ、しっかりするのよ!きっとリーファや冴香さん達が助けに来てくれるから!負けちゃだめっ!!
 眉を寄せ、両目をぎゅっと強く閉じ念じるその言葉は自分自身への叱咤激励であった。
 とにかく今は、自分が置かれている状況を理解するのが先決である。
 フィオラの記憶はあの雪の森林でガルディ配下の女サイボーグたちに捕らえられた所で途絶えている。そこから思考するに今の自分はガルディによって囚われていると考えるのが自然な思考の流れであった。
 しかしそう思い至り、あることに気付いたフィオラはごくりと唾を飲み込んだ。
「もしもここがガルディの施設か何かなら・・・お姉さまに会えるかもかもしれない・・・。」
王女姉妹の二人、ルシアンとフィオラは異母姉妹である。
ルシアンの母タニア王妃が事故死した後、二人の父である国王ローム三世と後妻となったポーラ王妃との間に産まれたのがフィオラであった。しかしそのポーラ王妃もフィオラが産まれて間もなく病死し、フィオラにとってみれば姉のルシアンは母親代わりという存在でもあったのである。
 その姉ルシアンがすでにガルディによってサイボーグへ改造されてしまっているであろうことは冴香やリーファから聞かされていた。しかしフィオラ自身はあの優しい姉であれば例え改造され人間でなくなってしまっていたとしても、きっと自分をわかってくれると淡い希望を抱いていたのである。
とはいえ、その考えと同時にフィオラは言い知れぬ不安を感じてもいた。
これまでガルディに捕らえられた少女たちの多くがどのような扱いを受けていたのかということである。
 このときフィオラの脳裏にはあのクレイン伯爵邸で女サイボーグたちに拉致されそうになった時の記憶が甦ってきていた。
見るも恥ずかしい格好で縛り上げられ、さらに女サイボーグの乳首から薬品を飲まされた。思い出しただけでも羞恥心と恐怖で心臓の鼓動が早くなる。
しかし、彼女たちも元々は普通の女学生であり、彼女たちは主人の命令通りに任務を遂行する機械人形-サイボーグへと強制的に改造されていたのだ。
逃亡し身を潜めたリーファの屋敷の地下室でフィオラは冴香とリーファによって倒されたサイボーグ・レイナの無残に機械化された身体も目の当たりにしていた。
「ま・・・まさか・・・私も、か、改造される!?」
フィオラは最悪の展開を連想してしまった。
身体を切り刻まれ、内臓を取り除かれ、さらには冷たい機械を体内に埋め込まれる。そして、頭の中まで機械を詰め込まれてガルディの意のままに動く機械奴隷にされてしまう。
「い、いやよ!サイボーグにされるなんて、逃げないと!何とかしてここから逃げ出さないと!!」
 フィオラは激しく身体をよじりながら無理と知りつつも手足の拘束から脱しようともがき暴れる。
「外れてっ!外れてよおっ!!」
 ベルトが皮膚に食い込む痛みを感じる余裕もなく、身体を動かし続けていたフィオラであったが、微かに聞こえた音に反応して動きを止めた。
カツン。
足先の方向から靴音が響いてくる。
カツン。
「!?」
 その靴音はだんだん大きく近寄ってくる。
「そこまでにしておきなさい。奇麗なお肌が台無しになってしまうわよ。」
 それは女の声であった。フィオラは声の主を確かめようと暗闇の先に瞳をこらす。
緩やかな曲線を持つ肢体の影が近づいてきていた。
「照明をつけてちょうだい。」


女の指示に合わせてフィオラの真上に設置された巨大な照明に電源が入れられた。不意に暗い闇の世界からまばゆい白い世界に包まれたフィオラは思わず顔を横にそむける。
目が照明の光に慣れるのにさほど時間は要しなかった。
だが、次第にはっきりしてゆく周囲の様子を目の当たりにした時、フィオラの顔はみるみるうちに青ざめていった。
天井から自分を照らし出しているのはまさに手術室に設置される巨大な照明灯であり、フィオラの拘束されている台は手術用台座そのものであったからである。
ここは間違いなく人間をサイボーグへ改造する手術室であった。
「シスター、ベッドを少し起こしてちょうだい。話しにくくて仕方がないわ。」
「はい、お姉さま。」
 フィオラを拘束した手術台が低い駆動音を鳴らして起き上がり、およそ80度の角度で停止する。
 フィオラはそこで三人の人物と相対したのである。
 無気味な光沢を持つ黒い全身スーツに身を包み、黒いサングラスで顔を隠した女性。
その女性の横にくっつくようにこちらを観察している赤い髪の少女。
そして、その二人の奥には白衣を着た老人が立っていた。
「ようこそ、フィオラ王女。私はミス・クリムゾン。この娘はシスター。そしてこちらがロッド博士よ。」
 ミス・クリムゾンに紹介されたロッド博士はまるで骸骨のような風貌の持ち主であり、深い皺に顔を覆われた無気味な老人であった。しかしその瞳は獲物を狙う野生動物のようにぎらぎらと輝いている。
 ロッド博士がニタリと口を開けて笑った。すでに歯の殆どが抜け落ちていたがその奥から覗く唾液にまみれた舌がフィオラに悪寒を感じさせる。
「こ、ここはどこですか!私をガルディに・・・、あなたたちの主人であるガルディと会わせなさい!!」
 悪寒を振り払おうとして、フィオラは可能な限りの声で一喝した。
しかし手足の震えが止まっていない。今にも失神しそうな精神的重圧の中でフィオラは必死の思いで正面の三人をにらみつけていた。
「ふふっ、ガルディに会わせろですって?」
 ミス・クリムゾンは唇の端を吊り上げるようにして笑った。
 それに答えるように赤い髪の少女―シスターが手術台に磔状態となったフィオラへ歩み寄る。そしてサングラスを外し、無邪気な笑顔でフィオラに笑いかけたのである。
 その笑みを見た次の瞬間、彼女は息を飲んだ。
 カシャン!
「ひっ!?」
 笑顔のシスターのその眼球が異様な駆動音を発して収縮したのである。
「あ、あなたも・・・さ、サイボーグなの!?」
 冷たいシスターの赤い眼球がチリチリと点滅しているのが見える。
「・・・おい、おまえ。お姉さまに無礼な口を利くな。」
「えっ!?」
 いきなりシスターの小さな拳がフィオラの下腹に食い込んだ。たちまちフィオラの表情が硬直し、口から苦悶の声と異物を吐き出す。
「げはあっ!」
 苦しむフィオラの顔にシスターはさらに平手打ちを見舞う。たちまち唇が切れ、フィオラの口の端から鮮血が流れ落ちた。
「シスター、そこまでにしておきなさい。」
「はい。お姉さま。」
 シスターは明るく返事を返すと、軽快にステップを踏みながらミス・クリムゾンの横に戻ってゆく。
「フィオラ王女、あなたは勘違いしているわ。私たちはガルディの仲間なんかじゃないの。」
「!?」
 予想外の返答にフィオラは嘔吐を繰り返しながら動揺した。
「ど、どういうこと!?では、あなたたちは一体、何者だというの!?」
「あなたを助けてあげようというのよ、ガルディたちを倒す手助けをしてあげる。」
「ま、まさか・・・そんな・・・!?」
「嘘じゃないわ。そう、ガルディを・・・アイアス王国を手に入れようとしているあの悪魔たちをたった一人で皆殺しにできる“力”をあなたにさしあげようと言うの!」
「み、皆殺しですって!?」
「そのとおり!・・・あなたを我が組織の最先端技術を投入した最強の“戦闘サイボーグ”に改造してさしあげるわ!!」
 フィオラはミス・クリムゾンの宣言に凍りついた。
やはり彼女たちも味方などではない。ガルディと同類の悪魔たちである。
「わ、私を、サイボーグに・・・改造!?」
「そう、あなたの姉ルシアン王女と同等の能力・・・いえ、それ以上の能力を持つ戦闘マシンに改造してあげるわ。うふふ・・・感謝してちょうだい。」
この尋常ならざる宣告を受けてフィオラは奥歯を噛み締め、全身の震えに耐えた。
「じょ、冗談はやめてください!私は、サイボーグになんてなる気はありません!お断りします!!」
ミス・クリムゾンの傍らでこの言葉を聞いていたシスターがいきなり笑い出した。
「アハハハ・・・バカじゃないの、このお姫様は?あんたに選択権なんて最初からありはしないのよ。」
「そ、それは・・・」
 四肢の自由を奪われ、磔になっている己の現実を再認識したフィオラは言葉に詰まった。
「あなたがルシアンを倒せばこの国の支配者はあなた・・・。そう、アイアス王国女王として君臨することができるのよ!」
「わ、私は女王になる気なんて毛頭ありません!」
 ミス・クリムゾンの、サングラスの奥でその瞳が無気味な光を放った。
「おだまりっ!!貴様はルシアンを殺して、おとなしく女王になればいいのよ!私たちが欲しいのは組織の意のままに動く「女王様」という操り人形なのだから!」
「あ、操り人形ですって・・・!?」
「そうよ・・・でも、心配はいらないわ。これからこのロッド博士があなたに洗脳処理を施しますから・・・そうなればあなたは自分から組織のために働くサイボーグに改造してくださいってお願いするようになるわ。」
「そ、そんな!?」
「うふふ・・・当然、組織のサイボーグに改造されれば、以前の仲間でも、ましてや大好きなお姉さまでさえも躊躇無く殺すことができるようになるから心配はいらないわよ。」
 ミス・クリムゾンのその言葉を受けて、耐え切れなくなったフィオラの頬を一筋の涙が流れ落ちた。
「せ、洗脳処理ですって!?わ、私の脳をどうするって言うの・・・」
 洗脳されたらどうなってしまうのか。自分が自分でなくなってしまうという恐怖にフィオラの涙は次から次に溢れ出してくる。
-このままサイボーグに改造されてしまったら、リーファや冴香さんも平気で殺せるようになるって言っていた。そんな・・・それじゃただの殺人マシンじゃない!!いや、そんなマシンになるなんて絶対にいやっ!!
呆然自失になりかけているフィオラにそれまで黙って様子を観察していたロッド博士が歩み寄ってきた。そしてそのまま右手でフィオラの膨らみ始めたばかりの乳房を強引に鷲掴みにしたのである。
「きゃあっ!痛いっ!!」
 フィオラの口から悲鳴がもれる。
「イヒヒ・・・若い娘の肌はやはりいいのう。これはいじりがいがあるわい。」
「や、やめて、触ら・・・ないでっ!あ、あぐうっ!」
ロッド博士はフィオラの肉乳の感触を楽しみながら、突然の狼藉に対して羞恥心で顔を赤らめる王女の顔に下卑た笑いと息を浴びせ掛けた。
「ところでミス・クリムゾン。」
汚濁の感触を必死に絶えるフィオラの頬を長く伸びた舌で舐めあげながら、ロッド博士が口を開く。
「あんたから受け取った「ルシアン王女」のサイボーグ化計画書と設計図を見せてもらったが・・・あれと同じ改造手術をこのお嬢ちゃんに本気で施すというのか?」
「もちろんよ。」
「超高性能な機械体と素体を適合させるために、まずはその素体自身の肉体を強化改造する。このような無茶苦茶な改造手術など聞いたことがない。そのルシアン王女もよく手術に耐えられたものじゃ。普通の人間なら肉体強化の段階で死ぬか廃人となっておるわい。」
「・・・何が言いたいのかしら?」
「こんな小娘がそんな大改造手術に耐えられるのかのう?」
 ロッド博士は横目でミス・クリムゾンを見ながら、嫌がるフィオラに顎を掴み顔を近づけるとその小さな口の中に自分の舌をねじ込んだ。
「む、むふうっ!ううっ!!」
 口の中一杯に広がるロッドの口臭と唾液の味にフィオラは苦悶の涙を浮かべて抵抗する。
「うぐうっ!?」
 突然、ロッド博士が慌ててフィオラの唇から顔を離した。
両手で口を押さえる博士の手の隙間からは赤い血がみるみる溢れ出して床に流れ落ちる。
 うなだれたままフィオラはその口から何かを吐き捨てた。
 鮮血と唾液にまみれたそれはフィオラの口の中を辱めたロッドの舌であった。床に転がった自分の舌を見たロッドは言葉に鳴らない声を張り上げながら血に染まった拳でフィオラの顔を殴りつける。二発、三発と殴られ続けながらもフィオラはロッドへ向ける敵意に満ちた瞳を反らそうとはしなかった。
「わ、私は・・・アイアス王国王女フィオラです・・・。は、辱めは断じて・・・断じて受けません!!」
その言葉を聞きロッドは拳を止めた。
「ウヒヒヒ・・・なるほど。おもしろい素材であることは確かのようじゃな。」
フィオラは両目を見開いてロッド博士の顔を凝視した。なぜ今さきほど舌を噛み切られたロッド博士が平然と喋ることができるのか。
「よかろう・・・ミス・クリムゾン。この王女さまの生体強化改造、確かに引き受けた。」
そう言って笑うロッドの口の中から驚くべきことに噛み切られたはずの舌が姿を見せていた。
「フィオラ王女、ロッド博士は我が組織で生体改造・・・そう、生体兵器開発の権威なの。遺伝子改造やらも得意分野でしてね。研究熱心な方よ・・・そう、自分自身を実験台にしてしまうくらいに。うふふ。」
 ミス・クリムゾンはフィオラの表情を愉快そうに眺めながら言った。
「これだけ強い精神力はサイボーグだけでなく、別の生物の遺伝子を組み込み進化させる遺伝子改造にも必要な条件じゃ。イヒヒヒ・・・この若くみずみずしい身体をどのように作り変えてやろうかのう・・・」
 そうつぶやきながら再びフィオラの身体を撫で回し始めたロッドにミス・クリムゾンが釘を刺した。
「あくまでフィオラは全身を機械化改造し、戦闘兵器として再生させます。博士にはその下準備をおねがいします。何のためにあなたを今回のメンバーに加えているかよく理解しておいてください。」
「イヒヒヒ・・・、わかっておるわい。しかし、戦闘兵器に改造された実の姉妹を互いに戦わせ殺し合わせるとは・・・まこと美しい顔に似合わず恐ろしいことを企む女じゃ、おまえさんは。ヒヒヒ・・・」
 フィオラは口の中に広がる血の味に眉をひそめた。しかしこの温かい血も改造されれば失われてしまう。例えようも無い哀しみがフィオラの胸に広がっていった。
-お姉さまも改造される直前、こんな哀しい気持ちを味わったのかしら・・・。私・・・このまま人間でいたいよ・・・リーファ・・・。
うつむいていたフィオラの顔にそのときある決意が浮かんでいた。
顔をあげたフィオラのただならぬ様子にロッドは二、三歩後ずさる。
「いやです!改造されるなんて絶対にいやです!!私は人間のままでいたいの!!どうしても私をサイボーグに改造するというなら・・・この身体をあなたたちの玩具にされて弄ばれるらいなら・・・私は、私はここで舌を噛み切って死にます!!」
 これがフィオラの最後の決意であった。
「私は本気です!私が死ねば、もうどうすることもできないでしょう!!」
しかしこのフィオラの決死の覚悟もミス・クリムゾンたちには全くの無力であった。
ロッド博士はミス・クリムゾンに近寄り耳元に囁きかける。
「この娘の洗脳処理には骨が折れそうじゃのう・・・」
「方法はお任せするわ。時間があまり無いの。すぐに始めてちょうだい。」
 二人の会話を聞きながらフィオラは決死の覚悟がまるで通じていない事実に愕然となった。
「やってみなよ。」
 その声はシスターであった。いつのまにかフィオラの正面に腰を下ろし、フィオラの顔を見上げていたシスターは猫のように舌なめずりするとフィオラのブラジャーを指で引っ掛けて引き下ろす。
「きゃあっ!な、なにを!?」
「舌、・・・噛み切ってみなよ。」
シスターの舌が露になったフィオラの乳房の頂点で隆起する淡い赤色の苺をつつくように刺激する。
「く・・・や、やめ・・・ああっ」
「ほら、早く・・・さあ・・・」
シスターの左手がフィオラの左乳房を揉みあげ、さらにシスターの唇が右の乳首を愛撫し続ける。


「あ、あふ・・・や、やめ・・・やだ・・・」
シスターの外見年齢からは想像もできない行為にフィオラのまだ成熟しきっていない体がみるみるうちに上気し紅潮してゆく。シスターはふと乳首から唇を離した。
突然の感覚の消失によりフィオラはたまらずにシスターに視線を向ける。その潤んだ、何かを求めている瞳を見てシスターは満足そうに微笑を浮かべた。
「ふん・・・“死ぬ”なんて言ってるそばからこんなに興奮して・・・嫌らしいお姫様ね。」
「ああっ!?ち、違う、私は・・・私は・・・本気です!いやあっ!!」
 無意識に自分がシスターに行為を求めていたことを自覚してフィオラは慌ててそれを否定した。
「ふうん、じゃあ、これならどうかしら?」
「ひゃ、ひゃううっ!!」
フィオラはそのとき下半身から脳天に突き抜けるかのような電流にたまらず声を上げていた。シスターの指がフィオラの股間の狭間に埋もれている紅玉を下着越しにつまみあげたのである。


「やあっ!いやあっ!やだあっ!摘ままないでぇっ!」
「気持ちいいんでしょう!?そう言いなさいよ!改造されたらもう味わえない快楽なんだから今のうちに楽しみなさい。ほうら・・・もうこんなに濡れてきたわ。うふふ・・・」
「嘘!そんな・・・やだ!こんな状態で・・・こんな酷いことされているのに私・・・いやだよおっ。」
 今まで味わったことの無い性の快楽にフィオラは明らかに動揺していた。このような異常な状態で禁断とも言うべき感覚に溺れてしまいそうな自分が信じられなくなってゆくフィオラの顔が宙を仰ぐ。
「お姫様、どう?気持ちいいでしょう。そんなにうっとりしちゃって・・・うふふ、そうかお姫さま、自分が改造される光景を想像して興奮しているのね。そうでしょう?」
「ち、違いますっ!!そ、そんなこと・・・」
 シスターはフィオラの股間から引き抜いた粘液まみれの指をフィオラの鼻先に突きつけた。
「じゃあ、このいやらしい液体はなんなのかしら?恥ずかしがる必要はないわよ。私もお姉さまに改造してもらうときは興奮して興奮してたまらなかったですもの。これまで数え切れない数の男に抱かれてきたけれど、そのどんな男に抱かれても感じることの出来なかった初めての興奮を味わったのよ。さあ、あなたもさっさと覚悟を決めて改造手術を受けなさいよ。」
 シスターがその子供っぽい顔からは想像もつかない妖艶な微笑を浮かべた。フィオラは頬を上気させながらたまらず喉を鳴らす。
-このままではいけない!!
フィオラは一度だけ両目を硬く閉じ、そして瞼の裏に浮かんできた人たちに別れを告げた。
「私は、私は・・・アイアスの王女ですっ!!」
 大きく一声、叫んだフィオラは口を大きく開く。
次の瞬間、フィオラは舌を噛み切っていた。
いや、そのはずであった。
「あ、あが・・・あ、ああ・・・」
 フィオラは舌を噛み切ることができなかった。それだけではない。全身がまるでコンクリートで固められてしまったかのように動かなくなってしまったのである。
「ど、どう・・・いう・・・こと・・・!?」
 フィオラの乳房を撫で回していたシスターが嘲るような視線を向ける。
「あなた、さっきロッドに可愛がってもらってたじゃない。口の中をたっぷり。あいつの唾液は特別製なのよ、強力な媚薬と麻酔効果付きのね。おまけにあなた、それの分泌元を豪快に噛み切ってたわよね?バカねえ。」
「そ、そ・・・んなっ・・・!?」
 フィオラの舌が痺れ、もはや言葉を発することもできなくなる。
ミス・クリムゾンたちはこうなることがわかっていたからフィオラの決死の覚悟を聞いても平然としていたのである。
 絶望の悲鳴を喉の奥から搾り出してフィオラは両方の瞳から涙をこぼした。
「さて、始めるか。イヒヒヒ・・・」
声が出なくなったフィオラはそう言って近づいてくるロッドの手に握られたドリルを見て息を飲んだ。
「まずは洗脳用端子を頭に埋め込むぞ。この端子を通して脳に直接情報を送り込むのじゃ。」
 チョロチョロチョロ・・・。
 そのときシスターはフィオラの股間から透明な液体がこぼれ出したのを見て喝采をあげた。
「・・・うふふ、頭にドリルで穴を開けられる恐怖でおもらしするなんて、はしたない女。」
 高貴な美しさで誰からも慕われてきたフィオラ王女の精神は限界を超えようとしていた。
ギュイイイイインッ!
ロッドの手に握られたドリルが冷たく狂気を込めた音を鳴り響かせて回転を始める。
「ああっ!あああっ!!」
悲鳴にならない声を喉の奥から発しながらフィオラははかない抵抗を試みるように頭を左右に振る。
「おとなしくしなさい。額の頭蓋骨に穴を開けて金属端子を埋め込むだけよ。全身機械化改造されることを考えればまだ序の口よ。うふふふ・・・」
「ああっ!ああっ!」
シスターは恐怖でおののくフィオラの顔を両手で押さえつける。
「よし、シスター動かすなよ。」
高速回転するドリルの先端がフィオラの涙で歪む視界に迫ってくる。
絶叫-。
フィオラの泣き叫ぶ悲鳴、そしてドリルの駆動音に混じって肉と骨が飛び散る音が暗い手術室に響き渡った。
第15話/終

 


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