第14章 歪んだ父娘
怖いくらい青い光を放つ大きな満月。その光を浴びながら黒い一台のワゴンが林道を走り抜けてゆく。
木々の隙間から断続的に差し込む月光が暗い車内に乗る人間の姿を照らし出していた。
車を運転しているのは黒いスーツを着た女性である。
助手席にもまた同じ服装の別の女性が乗っている。異様なのは深夜だというのに彼女たちはサングラスを着用していることである。唇は感情を映し出すこともなく閉じられており、ただ正面に顔を向けて微動だにしない。
ワゴンはやがて林道を抜けると小高い丘への一本道を登って行った。その先の丘には人気の無い洋館が一軒だけ寂しく建っており、ワゴンはそのままその洋館の門をくぐった。
キキッ。
やや甲高いブレーキ音を鳴らせてワゴンは玄関前で停車した。同時に助手席の女性が素早く車を降りると後部座席のドアを開き、静かに頭をさげる。
ゆっくりと丸みを帯びた影が後部座席から姿を見せた。
その初老の男は頭を下げている女性を一瞥すると、声をかけるでもなくステッキを片手に玄関扉への階段を上る。
「ドルーク様のお帰りです。」
感情のこもらない口調で女性が屋敷内へ告げると、その豪奢な木製の扉はゆっくりと開かれた。
ドルークは黙って屋敷内に歩を進める。
屋敷内は薄暗く明かりといえば燭台に灯された蝋燭の明かりだけである。
「早く“あれ”を研究室に運び込め。」
ドルークは外で待機している例の二人の女性にそう告げると奥の部屋へと姿を消した。
この屋敷は「聖タニア女学院」学長ドルーク・ガバナスの居宅であった。この屋敷でドルークは一人娘セリカ、そして三人のメイドと生活している。
しかし屋敷内に人間の生活臭といった物は何も無かった。ただ無機質な冷たい空気が漂っている。
ドルークが自室に入ると同時に部屋の奥から小柄な人影が近寄ってきた。その影は主人を部屋で待っていたのだ。ドルークの前で立ち止まった人影が頭を下げる。
「お帰りなさいませ、ご主人様。」
それはまだ二十歳に満たないであろう少女であった。紺色のワンピースとレースの飾りのついたエプロンというシンプルなメイド服を着ている。暗い室内に差し込む月光に照らしだされた少女の顔は雪のように白く、光の加減では蝋人形に見えるほどである。
カシャン。
そのときメイド少女の瞳が一瞬大きく見開かれ、レンズの焦点を合わせるように微妙に動いた。暗い室内に彼女の瞳が赤く発光する。
言うまでもなかろう、この少女はサイボーグである。この屋敷にいる、残る二人のメイドはあのワゴンに同乗していた黒服の二人であり、彼女たちもまたサイボーグであった。
ドルークは奨学金制度から洩れた少女たちに学費援助を行っている。これは表向きには彼の名声を高めることになったが、その真意は全く別の所にあるのだ。彼女たちは学院の卒業後ドルークの屋敷もしくは斡旋された先で働くことを学費援助の条件にされており、言うまでもなくその先に待っているのはサイボーグ開発の実験材料という末路だったのである。
この屋敷の三人も卒業の後、屋敷の住み込みで働きに来た結果、ドルークのサイボーグ開発の哀れな実験材料にされてしまったことは紛れも無い事実である。
学長としてのドルークはこういう実験材料を供給する面でもガルディに協力を続けていたのだ。
「むう?義眼の調子が悪いのか、DMS-03。」
「はい。少しセンサーの具合が・・・しかし問題はございません。」
形式番号で呼ばれた少女は瞬きもせずにドルークに答えた。無表情のまま答える少女にドルークはすぐに関心を向けるのをやめる。そしてスーツの上着を脱ぐと無造作に彼女に投げ渡した。
「それでセリカはどうしている?」
「お嬢様はいつもとお変わりありません。静かに眠っておられます。」
それを聞いたドルークは口元に無気味な笑みを浮かべた。そのまま少女が用意した白衣に袖を通す。
「では愛する我が娘に会いに行くとするか。おまえもついて来い。」
「かしこまりました、御主人様。」
少女はそのまま部屋を出てゆくドルークの背中に深く一礼し、主人の後ろに従った。
ドルークの屋敷地下にはお約束とも言うべき彼専用の研究室が造られている。
この研究室でドルークは長年サイボーグ兵士の開発を進めてきたのである。一体これまでにどれだけの罪なき人々が、学院の女生徒たちがここに連れ込まれて実験材料にされてきたのであろうか。
「グリエフの奴に比べれば些細な数だ。」
もしも質問されたとすればドルークはそう答えたであろう。彼が学長を勤める聖タニア学院の女生徒たちがその些細な数の大多数を占めていることは疑いなかった。
軍人や旅行者などを実験材料にしていたグリエフと比べてみれば、男性よりひ弱な女性を改造する技術の研究はグリエフよりもドルークに一日の長があったのである。しかし結果的に初の女性型サイボーグの開発を成功させたのはグリエフであった。
彼自身このところのグリエフの増長ぶりにかなり憤懣を募らせている。
グリエフという男は言わば「技術者」ではなく「芸術家」であった。ゆえに一体の女性を徹底的に改造することで自分の作品として生れ変わらせるのを喜びとしている。すみれやセレナ、エルセアといった彼女たちがそれを証明していた。
ドルークはその反対である。彼の目的はサイボーグ兵士の大量生産技術の確立であった。いかに短い時間、コストで人間をサイボーグに改造できるか、戦いを勝利に導くのは物量である。彼の改造工場はその理念の象徴といってよかった。
-最後にガルディ閣下のお役に立てるのはこのドルークだ。
そう自分に言い聞かせつつも、このところのルシアン女王改造手術成功後のガルディとグリエフの接近ぶりを端で観察しながらドルークの腹にはどす黒い物が溜まり始めていたのである。
暗い沈黙の世界へ通じる階段をドルークが一段一段降りてゆく。するとそこには車に同乗していた黒スーツ姿の女性二人がすでに主人を待ち受けていた。
「問題はないな?」
ドルークの問いに二人は同時に答える。
「問題ございません、御主人様。」
「問題ございません、御主人様。」
「そうか、ご苦労だった。」
ドルークは嬉々とした表情を浮かべると大きな白いシーツのかけられた手術台へ歩み寄った。白いシーツの膨らみは若い女性の姿を形作っている。
「ようこそ、エイツ・ビー嬢。」
そう囁きかけながら覆いのシーツを取り去ろうとしたドルークだったが、不意に前方に感じた気配に反応してその動きを止めた。
顔をあげたドルークの視線の先には、さほど広くはない研究室の片隅に置かれた少女の胸像がある。
その胸像がただの胸像でないことは一目瞭然であった。少女は生きているのである。
赤いクロスのかけられた円形の台座に載せられたその少女は長く透き通る金髪を持っており、パールホワイトの光沢を放つシルクのブラウスを着せられていた。しかしその姿は四肢がなく、腰から下は台座に埋まっている無残としか言いようの無い姿であった。
ひときわ目を引くのは首の裏に繋げられた三本のチューブである。また、その曇ったガラス玉のような瞳には光なく、ただ正面の空間に向けられているのみであった。
「セリカ・・・今日も美しいな。」
ドルークはまるで女神を眺めるようにそのリアルな胸像を見つめる。
「セリカお嬢様は機動停止されております。」
その単調な言葉はドルークに部屋からつき従ってきた少女のものであった。
「わかっておる!」
あからさまに不快な顔をしたドルークは背後の少女を一瞥した。
ドルークはひとまずシーツを置き、薬棚から薬品を選び取り出す。そしてそれを注射器に採ると胸像の少女のもとへ歩み寄った。
「お目覚めの時間だよ。」
ドルークは彼女の首から伸びるチューブの一本に薬品を注入する。
ゴポッ。
ガラス球のようだった少女の瞳が薬を注入されたためか静かに光を灯し始める。その薄いピンクの唇がわずかに震えたかと思うと、その胸が大きく上下した。
「あ・・・はあ・・・」
白い肌にやや赤味がさし、少女はまるで生命を吹き込まれたかのように動き出した。二度、三度と瞬きを繰り返し、うつむき加減であった顔をあげた彼女はドルークの姿を確認して哀しげに瞳を伏せる。
「気分はどうかね、セリカ?」
ドルークは実の娘にそう問い掛けた。
そう、この女性の名はセリカと言う。ドルーク・ガバナスの正真正銘の一人娘だった。
「お・・・父さま・・・」
「セリカ、目が覚めたようだね。どうだい気分は?」
「・・・・・・いいわけ・・・ないわ。」
セリカはドルークから視線を外すように顔をそむけた。その様子に終始笑みをたたえていたドルークの顔が途端に厳しく変化する。
「父がおまえのために手に入れた物を見せてやる。」
「私のため?私をこんな身体に造り替えておいて私のためですって!?」
「黙れっ!!」
ドルークは顔を紅潮させて娘を怒鳴りつけた。その鬼気迫る表情にセリカはたまらずに言葉を飲み込む。そして下唇をかみ締めながらその瞳から涙をこぼした。
「私はおまえの汚れた身体を奇麗にしてやろうというのだ。父の愛がわからないのか!!」
「違うわ、お父様は自分の意のままに動くサイボーグを作りたいだけ。そのために母様や・・・メイドのルーラやティア、シンシアまで実験材料にしてしまった・・・」
短い悲鳴があがり、豪快な音をあげてセリカは床に倒れこんだ。ドルークの平手が彼女の頬を打ったのである。両手両足の無いセリカはその一撃に身体を支えることが出来ず自分を備え付けている台座から転げ落ちたのである。
「くうっ!」
セリカは苦しそうに床に転がった。彼女と台座の間を結ぶ無粋で醜悪なケーブルやチューブが露出する。
ドルークはその中の特に太い、恐らくは脊髄などの神経組織を収納したチューブを掴んだ。セリカの顔が激痛に歪む。
「うああああああっつっ!!」
「おまえの、おまえの母は・・・あの女は私を裏切って他の男と通じていたのだ!そのような穢れた女に残された償いの方法は私の崇高なる研究の実験台になることだけだったのだ!!何故それがわからんのだ!!」
荒れ狂う嵐のようにドルークはわめき散らし、握ったセリカの脊髄チューブを引きちぎらんばかりに握り閉める。その形相はガルディたちの前では見せたことの無い一面であった。
「そしておまえもだ!あのような下賎な講師の小僧などと通じおって・・・」
「私とダンは本気で愛し合っていたのに・・・お父様は・・・」
「そうだ!だからわしはあいつの精液で穢れてしまったおまえの身体を全て新しく造り替えてやったのだ!永久に老いること無い最高の機械の身体にだ!!」
そこまでまくし立ててドルークは勝ち誇ったように鼻で笑った。
「現にあの男はおまえのその姿を見た途端、逃げ出したではないか。所詮、その程度の男だったのだ。」
「いやあああっ!!」
忌まわしい過去を思い出したかのようにセリカは両目を閉じてドルークの言葉をさえぎった。その過去に何が起きたか、この親子だけが知っているのである。
セリカは泣いていた。声こそ出しはしなかったが床に転がったまま小刻みに身体を震わせて嗚咽をもらしている。ドルークはその姿を見て気が済んだのか立ち上がり、もといた手術台へ戻っていった。
「うっ、ううっ・・・」
黒服の女性の一人が苦しみと哀しみで声を漏らすセリカに歩み寄った。彼女は黙ってセリカを抱きかかえると台座のもとの位置に戻す。
「ティア・・・ありがとう・・・」
カシャ。
ティアと呼ばれた女性の眼球のレンズが稼動する。無表情な彼女からは感情の欠片も感じ取ることができなかったが、セリカはかつてティアと言う名前であった友人に感謝した。
「DMS-2、セリカはもういい。DMS-1とこちらへ来い。」
ドルークの命令に黒服の二人の女性は手術台のようなベッドの脇に待機する。ドルークは気を取り直すと手にしたシーツを取り去る。
「く、くくく・・・」
思わず漏れたドルークのふくみ笑いを三人のサイボーグ少女たちは無表情で見つめている。
シーツを取り払われた手術台の上には一人の女性、いや女性の形をしていた物が寝かされていた。
「ひっ!」
セリカの小さな悲鳴があがる。
徹底的に破壊されたサイボーグの残骸、廃棄処分されたエイツ・ビーこと九条すみれの変わり果てた姿がそこにあった。
四肢はちぎれ、上半身と下半身も切断されており、頭部に至ってはサイボーグの命とも言うべき生体脳を収めるカプセルが露出してしまっている。
瞳は開いたまま、何かを訴えるかのように口も僅かに開いていた。全身の皮膚は引き裂け、焼けただれ、そして絹のように滑らかであった肌もオイルや擬似体液により黒く薄汚れている。
これがあの妖艶な色香を漂わせていた美女であったのか、ドルークは一瞬だけ疑いの感情をもつほどであった。破壊された彼女が手続きを経てドルークに下げ渡されるまでにもかなり粗末な扱いを受けたのであろう。ドルークが知らない破損部分がかなりの箇所に及んでいる。
「では、始めようか。すでにばらばらにされてはいるが手間が省けてよい。この女を完全に分解してデータを採取するのだ。特に人工性器の部分は念入りにな。」
ドルークは背後の三人の女サイボーグたちにそう告げると無骨なドリルを手に取った。
「お、お父様・・・一体なにをされるの?」
気を失いそうな恐怖を感じながらセリカは父に問い掛ける。
「なぜわしがおまえをそのような姿にせざるをえなかったか判るか?」
セリカは無言で首を横に振る。
「わしの当事の技術では完全な人工性器を作ることができなかった。また機械体と生体脳の接続も不完全だった。ゆえにほれ、こいつら三人は動き回ることができるが生体脳はその80%を機械化している。結果、単なる自動機械人形になってしまった。」
そういって無表情に作業を続ける三人の少女をドルークは顎で指し示した。
「全くもって不本意ではあるがこの技術はグリエフが確立させおった。父はおまえのために恥を偲んで奴の技術を利用することにしたのだ。永遠の乙女の身体を与えてやるためにだ。」
セリカは一人自己陶酔に浸っている父を哀しげに見つめていた。恐らく父は自分を完全なサイボーグに改造したとき、その人工性器をこの実の娘たる自分の身体で楽しむに違いない。その倒錯的な予想は自分をこんな姿に改造していたとき、父が浮かべていた愉悦の表情を覚えていたセリカには容易に想像がつく現実であった。
*
ドルーク邸の前に一台のトラックが停車した。
音も立てずにその荷台から全身黒装束の男たちが地面に飛び降りてくる。その数は五人。
最後に荷台から姿を現したのは小柄な少女である。
左右に髪を結い上げ、メタリックなレオタード調のスーツを着ている。外気温は軽く0度を下回っているにも係らず、その少女は平然と歩き出した。
その鋭い眉と小悪魔的な笑み。彼女はフィオラ捕獲作戦中に謎の一団によって連れ去られたあの「ワルキューレ隊」サイボーグのカタリナであった。
男の一人が扉に向かって歩いて行くカタリナのレオタードの下で揺れる臀部を眺めながらつぶやく。
「アイアス王国のセクサボーグと言えばかなりの逸品だと聞いていたが、“あれ”はたいしたこと無かったなあ。」
「ああ。まああれは戦闘用に特化して改造されているみたいだからな。用途が違うってことだろうよ。」
「ふん。おまえはロリ趣味が入っていればそれで満足なんだろう?あれの中に出した回数はおまえがダントツだぞ。」
「ほざけ、じゃあ口の中に出したのはおまえが一番だってこと言いふらしてもいいのか?」
男たちの小声で交わされる、下卑た会話が聞こえたのかカタリナは石段に片足をかけたところでその動きを止めて振り返った。
「勝手なことを言わないで欲しいわね。自分のお粗末ぶりを棚に上げてよく言えたものだわ。言っておきますけれど私の人工性器は極上品よ!」
カタリナはそう言って唾を吐き捨てた。
いや、それは唾ではなく先ほど荷台の中で口の中に注ぎ込まれた男たちの精液の残りであった。
「まったく物足りないわ!」
その幼い容貌からは想像できない言葉をつぶやきながら、カタリナは段を上り、扉の前に立った。
男たちは気を取り直すとその手にマシンガンを携えて扉の両脇に隠れる。
トラックの助手席で一人の女が無気味な笑みを浮かべた。言うまでもないこの謎の一団を束ねる全身黒装束に身を包んだ謎の女である。
女は小型の無線機にその唯一露出した赤い唇を近づける。
「作戦開始。」
カタリナの内蔵された電子頭脳に女の命令が伝達される。
「了解しました。」
カタリナは右手をあげてドンドンと扉を叩く。サイボーグの力であればこのような扉を叩き破ることは容易ではあったがカタリナは扉を叩き続けた。
「御主人様、外に誰かがおみえになったようです。」
メイド姿の少女が取り外したすみれの人工心臓を手に取りながらドルークにそう告げた。
「客だと?こんな時間にか!?」
DMS-03の電子頭脳は屋敷のセキュリティシステムとリンクさせてあるため、この地下研究室にいてもその情報を得ることができるのである。
「データが送られてきます。」
少女の頭脳から電子音が鳴り響く。
「照合結果出ました。“ワルキューレ009”と判明。」
「なんだと?」
ドルークはさすがにその手を止めて答えた。その手にはすみれの人工性器がしっかりと握られている。
「もしかするとガルディ閣下の急なお呼び出しかもしれん。DMS-03行って来い。」
「かしこまりました。」
少女サイボーグは深く一礼すると階段を上って行った。
「それにしても・・・やはり芸術家だよ、グリエフは。」
嬉々としながらドルークは両手で人工性器を掲げて喝采をあげた。
「喜びなさいセリカ、これと同じ・・・いや、それ以上の物をおまえに取り付けてやろう。」
セリカはドルークの手にした人工器官を見て顔をそむけた。
そして薄く開いた彼女の瞳にすみれの顔が映る。
「お父様、もう・・・やめて、その女の人が可哀想よ。お願い・・・」
「可哀想だと?これは単なるスクラップだ。馬鹿なことを言う物ではない。」
「その人も人間だったんでしょう!?そして私たちと同じように無理矢理改造されたのでしょう!?」
「そうとも、“グリエフ”がな。私はスクラップにされた彼女に最後の花道を作ってやっているのだ。セリカ、おまえのパーツになるという花道をだ。ふははははは!!」
「お、お父様は・・・狂っています・・・」
セリカは泣きながら笑っていた。あまりにも滑稽な父の姿に彼女がとった、せめてもの反抗の証であった。
ガチャーンッ!!
突然であった。
研究室の上、ドルークの頭上をボールのような物体が飛びぬけて薬品棚へ突っ込んだのである。
「な、なんだっ!!?」
騒然となる研究室内で、黒服のDMS-01が薬品棚に駆け寄り、投げ込まれた物を残骸の中から取り出す。
ドルークもセリカも息を飲んだ。
それは先ほど玄関へ上がって行ったDMS-03の首だったのである。ひきちぎられたのか首からはコードが露出しショートの火花を発している。その唇からは哀れにも黒い液体がこぼれ出ていた。
「いやああっ!シンシアァッ!!」
そのセリカの叫びを打ち消すように大きな笑い声が階段の方向から響いてくる。
カツンカツン。
石造りの階段にヒール音を鳴らしながら彼女-カタリナは現れた。
「お、おまえは!?」
ドルークはもちろんカタリナを知っている。彼女たちワルキューレ隊は彼が選別し、改造工場で改造したサイボーグ少女なのである。
そのカタリナがなぜ産みの親とも言うべき自分の屋敷に押し入ってくるのか理由がわからなかった。それ以前に彼女を始めとするサイボーグたちには全てガルディ、グリエフそしてドルークに対する服従回路が埋め込まれているのである。そもそも反乱など考えもつかない事であった。
しかし現にカタリナは自分に敵意を向けて現れている。彼女に破壊されたかつてシンシアと呼ばれた少女はすでに生体脳が死亡しているであろう。
「ど、どういうことだ。なぜおまえがわしを襲う!?」
カタリナは答えなかった。ただ無邪気な笑みを浮かべたまま両腕を突き出す。
「ひいっ!?」
ドルークは恐怖で転倒した。同時にカタリナの手首が折れ曲がりカノン砲の銃口が姿を現す。
ガガーン!ガガーン!!」
その砲撃は二体の少女サイボーグを粉砕していた。
一体はドルークを。もう一体は動けないセリカをかばってカタリナの砲撃を受け、四散したのである。
黒いスーツ姿の少女たちはその残骸をドルーク親子の前にぶちまけて絶命した。いや、サイボーグに改造された時点で彼女たちは死んでいたと言えるかもしれなかったが。
「ああ・・・あああ・・・る、ルーラ・・・ティア・・・あああ・・・」
セリカとは対照的にドルークは恐怖で言葉を発することができなかった。そのドルークにカタリナの銃口が向けられる。
そのときである。
「そこまで。おやめなさい、カタリナ。」
「はい、ママ。」
カタリナは手首を元に戻して腕を腰にあてる。
ドルークは呆然としながら新たな声のした方向に顔を向けた。
そこにはあの謎の女が立っている。
その無気味な姿にさすがのドルークも息を飲んだ。
「こ、これは一体、何の真似だ!・・・おまえたちは一体!?」
「ドルーク博士、今宵は博士にお願いに参りました。」
「お、お願いだとっ!?これがそのお願いをする態度だというのか!?」
「博士には私たちに協力していただきたい。」
「わ、わしはガルディ閣下に仕える身だ!そのような申し出には答える事はできん!」
予想していた通りの答えが返ってきたためか、女はくっくっと低い笑いを漏らした。
「あなたがなぜガルディのような男に忠誠を誓っているのか。単に非人道的なサイボーグ開発に協力してくれているからでしょう?このような鎖国同然の国にいては仕方がないでしょうがこの地球にはサイボーグ開発を進めている組織は無数に存在しています。我々はあなたに今以上に充実した研究環境をご提供できます。」
「な、何を言っている!?」
ドルークは激しく動揺していた。眼前の女の言うことが本当であればカタリナが彼らの支配化に置かれていることも説明がつくではないか。
「正直、このアイアス王国のサイボーグ技術は世界トップクラスです。特にあなたのサイボーグ兵士を大量生産する技術に我々は大いに注目しているのです。」
不意にドルークの口元に笑みが浮かんだ。得体の知れない相手とはいえガルディよりも彼らは自分の技術を評価してくれていると感じたからである。
「そ、それで、わしに何をしろというのだ。」
女はしめたと言わんばかりに姿勢を正した。
「一人の娘をこれから我らのために忠実に働く戦闘サイボーグへ改造します。その手伝いをしていただきたい。」
「一人の娘?」
「そう、このアイアス王国第二王女フィオラ・ド・アイアス様をサイボーグに改造するのです。」
「な、なんじゃとっ!?」
セリカは事態が大きすぎて理解することができなかった。父に身動きできない身体に改造されてからずっとこの研究室に閉じ込められてきた彼女には父がどのような組織に身を置き、何をしているのか詳しく知る術がなかったのだ。
「お父様は・・・どんなことを・・・私たちだけでなく・・・」
セリカのつぶやきをドルークは聞いていなかった。彼の頭はこのとき激しく活動を続けていたのである。
「考えても御覧なさい。このままガルディがこの国を支配してもあなたはグリエフの下で終わるのは間違いないわ。理由は簡単、あの二人は同類だから。でも、ここで我が組織のサイボーグになったフィオラが王位に就けばこの国は我が組織の物も同然。必然的にあなたがアイアス王国のサイボーグ開発の頂点に立てる。どう、私たちに賭けてみる気はないかしら?」
女の言葉は逐一、ドルークのガルディへの忠誠心を撃ち砕いた。彼女の言葉は正鵠を射て外していないのである。
「わ、わしは・・・閣下を・・・裏切れん・・・」
それは彼の持つ最後の忠誠心の欠片が発した言葉だった。
女はそれを聞いたとき腰から拳銃を抜く。そのまま銃口を台座の上の少女に向ける。
ガーン!
ガーン!
「ぎゃっ!」
短い悲鳴であった。銃弾を避けることもできずセリカは眉間に二発の弾丸を撃ち込まれて動きを停止する。
ガーン!
ガーン!
さらに銃声が響き、セリカの右胸に弾丸が二つの真紅の薔薇を描きだした。
断末魔の声はない。セリカは身体を二、三度痙攣させて今度こそ完全に動かなくなった。
額から流れ出る血がセリカの見開かれた瞳のガラスを赤く染め上げる。
「あら、この娘は完全に機械化してなかったみたいね。血がいっぱい。」
「ほーんとだわ、ママ。古臭いサイボーグね。私とは大違い。」
女とカタリナは笑った。
「・・・・・!?」
ドルークは動かなくなった娘を数秒間黙って見つめていた。やがて狂った獣のような声を張り上げて立ち上がる。
「貴様らあああっ!!」
丸く肥え太った身体を震わせてドルークは女に飛びかかろうとする。しかしそれはカタリナによって防がれてしまった。カタリナに胸倉を掴まれたドルークの巨体は宙を舞って床に叩きつけられる。
「落ち着きなさい、ドルーク博士。」
女は嘲るように口を開いた。
「あなたもサイボーグ技術者でしょう?あなたの愛娘、まだ蘇生は可能よ。」
「!?」
「もちろんそれなりの施設での手術は必要ね、私たちに協力するならその施設を提供するわ。どう?」
ドルークは大きく肩で息を続ける。
「それでも協力できないというなら、仕方ないわ。娘と一緒にここで死になさい。」
ドルークは女の背後に銃を構えている男たちの姿を見とめて絶句した。逃げ場はない。
「・・・う・・・わ、わかった・・・協力する・・・」
「ありがとう。それじゃあ、カタリナ、あそこの台座のお嬢さんを運んであげて。」
「はい!ママ。」
カタリナはひょいひょいとサイボーグ少女たちの残骸を飛び越えるとセリカを抱きかかえる。
「面倒くさいなあ。」
カタリナはセリカと台座をつなぐチューブとコードを無造作に引きちぎった。しかしセリカはピクリとも動かない。
ドルークはその様子を見る間もなく男たちの銃に押されるように階段を上がって行った。
「さて、これで準備はできたわ。・・・ところで。」
女は手術台の分解されていた女性サイボーグに近寄る。
「廃棄処分にされたってのは本当だったみたいね。」
女はそうつぶやきながら腰から小型の計測器を取り出す。そのコードでつながったセンサーを露出している生体脳カプセルの回路に繋げた。
ピッ!ピーッ!!
計測器が動き始めると、女はやや驚きの表情を浮かべる。
「驚いた、この娘の生体脳はまだ生きているわ。生きる執念って奴かしら。苛めて苛めて苛め抜かれて改造されたサイボーグはより強いサイボーグとして生れ変わるって聞いていたけど、本当の話のようね。」
女は先ほどまで行っていたドルークの解析データを採取確認する。
「可哀想にねえ。生体脳が死んでいると思ったんでしょう。痛覚遮断がされていないわ。この娘、意識があるまま解剖されていたも同然よ。」
そうつぶやく女の言葉には哀れみよりも喜悦の方が多く含まれているようであった。
「試してみようか?」
女は計測器を繋いだままの生体脳カプセルの回路に信号を打ち込んでみる。
そのとき様相は変わった。
スクラップのすみれの唇がかすかに動き出したのである。
「なあに?なにが言いたいの?」
女は愉快そうにすみれの口元に耳を近づける。
「・・・こ・・・わいよ・・・死・・・たく・・・ないよ・・・帰り・・・たいよう・・・」
女は顔をあげた。
「わかったわ。」
そうつぶやいて女は計測器のコードを引き抜く。
結果、すみれはすぐにもとのスクラップへと戻ってしまった。
「さんざん嬲り者にされたあげくがこれ・・・あなた、私に似ているわ。」
女は自嘲気味に笑ったがそこまでであった。
「カタリナを呼び戻して頂戴。このスクラップも一緒に運ぶわ。・・・まだ使えるわよ、この娘は。」
後ろで待機していた男にそう命令を下すと、女は物言わぬすみれの唇に優しく接吻した。
ドルーク父娘、そしてスクラップのすみれを乗せたトラックは森の中へと消えてゆく。
悲劇の王女フィオラに運命の刻が刻一刻と迫っていた。
*
「姉さま!シルフィア姉さま!!」
赤い髪を短く切りそろえた幼い女の子が泣きながら走ってくる。小さな手を差し出して彼女が追い求める先には複数の白衣の男たちと彼らが運ぶ大きなカプセルがあった。
透明なカプセルの中は淡いブルーの液体で満たされており、その中には長く美しい赤毛の少女が全裸の姿で浮かび眠らされている。
「あっ!」
女の子の手が空しく宙を掴み、その小さな身体が地面に転がる。
「シルフィア姉さまを連れて行かないでぇっ!!」
彼女の願いを無視して男たちとカプセルは闇の中に消えてゆく。
「姉さまあああっ!!」
顔を涙と砂でぐしゃぐしゃにして少女は泣き叫んだ。そんな少女を太く大きな手が優しく抱き起こす。
顔をあげてしゃくりあげる少女の目の前には優しげな老執事がいた。
「バフマン、バフマン、姉さまが、シルフィア姉さまが連れて行かれちゃったよう・・・」
老執事は少女の哀しみと苦しみを痛いほど理解していた。それゆえに幼い女の子にかける言葉がすぐには見つからなかったのである。
「リーファお嬢様・・・お屋敷に戻りましょう。」
「いや!リーファは姉さまをここで待っている!」
老執事はリーファを抱きかかえて立ち上がった。
「あっ!?」
「リーファお嬢様・・・お屋敷へ・・・戻りましょう。」
リーファは必死に抵抗するが、このときばかりは老執事の腕から脱け出すことはできなかった。バフマンは小さな拳に頭を打たれながら歩き続ける。
「やだ!いやだあ!姉さま!!リーファを置いていかないでぇっ!!」
世界が白一色に染まった。
ここのところ昔の、それも心の奥底に封じ込めた記憶をよく夢に見る。リーファはそういう自分が恨めしく思えて仕方がなかった。
リーファが目覚めたのはある施設の一室である。雰囲気は病院の個室に近い。
まず周囲に人の気配が無いことを確認してリーファは自分の身体を調べた。
彼女は雪原において女サイボーグ部隊「ワルキューレ」と戦闘を交え、谷底へ転落したのである。記憶がそこで途絶えているためそれ以上自分が今置かれている状況が判断できない。
「手当て・・・されている。」
リーファは自分が裸にされているのと同時に全身に手当てが施され、包帯が巻かれていることを知った。
「骨折は・・・修復完了しているようだ。」
左腕と右腿の感触を確かめながらリーファは、ひとまず安堵した。
意識がはっきりとしてくるのに従って彼女は静かに周囲の様子を伺う。
ガタン。
そのとき扉が不意に開いた。リーファは反射的に瞳を閉じる。
人の気配はひとつだけ。足音からして若い女性である。だがその足音はどこかぎこちない。
女性は無言のままリーファに近寄ってくる。
「!?」
女性がリーファの顔を覗き込もうとしたそのとき、リーファの両腕が彼女の両肩を掴みベッドの上に引き倒した。
上下が逆になった形で押し倒した女性の上に跨ったリーファは彼女の首もとを押さえ込み動きを封じる。
「あなた・・・誰?」
目の前の女性はまだ若く二十歳になったかならないかぐらいである。その紫かかった髪は男っぽく短く刈り上げてはいたが、身に纏っている迷彩の軍服と合わせると違和感はなく、むしろ色気を感じさせた。
リーファに押さえつけられながらも女兵士はその視線で抵抗している。
「教えてくれないかしら、ここはどこ?」
女兵士は答えなかった。リーファの眉が少しだけ吊りあがったが、そのとき彼女は背中に新たな気配を感じて身構える。
「娘を離してくれないか。」
それは低く太い、しかし語気のはっきりした男の声であった。
「あ、あなたは!?」
その男の顔を見たときリーファは驚きのあまり一瞬口を大きく開けてしまった。
迷彩調の軍服を着たその初老の軍人の左目は眼帯で覆われており、右頬には大きな傷がある。銀色に染まったその髪は獅子のたてがみのように荒々しい。
まさに歴戦の勇士を思わせる精悍な風貌であった。
「あなたはグルジエ大佐!?」
「いかにも私はグルジエだ。」
リーファはふと気付いて自分の真下で苦しがっている女兵士の上から身をどかした。
「申し送れました、私は・・・」
「リーファイス・リイアネイル・・・知っている。」
リーファは息を飲んだ。どうして自分のフルネームを初対面のこのグルジエ大佐が知っているのか。
「憶えていないのも無理は無い。君はまだ幼かったからな、それに君は・・・お姉さんによく似ている。」
「!?」
言葉が続かないリーファを横目に女兵士がつらそうに身を起こした。
大佐の視線がその女兵士に向けられる。
「どうした?」
女兵士は押さえつけられていた手首を不意にひねる。カチッと金属音が洩れ、次の瞬間には彼女の右手首はベッドの上に落ちていた。彼女の腕は義手だったのである。
「む・・・神経接続コードが断線したようだな。」
大佐の言葉に女兵士は黙って頷く。そのまま外れた右手を小脇に抱え、女兵士は立ち上がったが今度は右ひざから床にしゃがみこんでしまった。
リーファは慌てて彼女の身体を後ろから支える。
ギギッ!
女兵士の右ひざから奇妙な駆動音が聞こえた。
「!!」
この音を聞かれたことが女兵士の心を刺激したのであろうか。彼女は頬を紅潮させると唇をかみ締めながら自分を支えるリーファをにらみつけた。
「あ、あの。ごめんなさい。」
リーファの謝罪に女兵士は無言で顔をそむける。そのまま続けて駆け寄った大佐の部下たちに身体を支えられて彼女は部屋を出て行った。
「リーファ、気にしないでくれたまえ。あれは私の娘でね、クレオという。」
「まさか、彼女は・・・サイボーグ?」
その言葉を聞いた大佐の顔が苦笑を浮かべた。
「サイボーグか・・・あの回収した人型の残骸はやはりサイボーグにされた人間ということか。」
大佐の言っているのはドミやアンナたちの残骸であろうことは用意に推察できる。
「いや、娘はサイボーグなどではない。国境付近での戦闘で負傷してね。右腕と右足、あと声を失ってしまったのだ。義手と義足でひとまず後方任務は問題ないのでいまだ軍属のままということだよ。」
「声までも?」
それを聞いたリーファは彼女が一言も喋らない、さらには悲鳴さえもあげなかった理由を理解した。
「怪我はもう大丈夫かね。こちらに運び込まれたときはもう助からないと思っていたのだが・・・それだけ動けるとは、」
大佐の視線が悲しみに彩られていることにリーファは気付いていた。自分が見透かされている。そのような感覚に襲われて彼女は大佐の視線から己の視線を外した。
「どこまで私のことを知っておられますか?」
「君のことは知らない。・・・だが君のお姉さんについては少しだが知っている。それだけだ。」
ギリッ。
リーファが奥歯をかみ締める音だった。この所の過去の夢はこういう事態が訪れる予兆だったのであろうか。しかしリーファはすぐに動揺を心の奥底に放り込んだ。
彼女にはやらねばならないことがあったからだ。
「大佐、フィオラ様は、フィオラ様はこちらで保護していただけているのでしょうか!?」
「フィオラ様だと!?ご一緒されていたのか!?」
その大佐の答えはリーファを絶望のドン底に送り込むのに充分な威力を有していた。
「フィオラさま!リーファが、リーファが今参ります!!」
それまで冷静に行動しているかのように見えたリーファが突然、自制心を失い部屋を飛び出していこうとするのを見て大佐とその部下たちは慌てて彼女を制した。
「待て、外は今、猛吹雪だ。フィオラ様の捜索は我々に任せたまえ!!」
「でも大佐!私は!私は!フィオラ様をお守りするために!ただそれだけのために!フィオラ様になにかあっては・・・私は!私は!!」
不意に太い大佐の腕がリーファの頭を抱き寄せるとそのまま彼女の身体を強く抱きしめた。
「!?」
その腕は太く固かったがなぜか抱きしめる大佐の身体は温かかった。
「わかっている。おまえたち姉妹がその一族ゆえにどれだけつらい目にあってきたか・・・。とにかく今は我らに任せておけ。」
リーファは大佐の腕が夢で感じたバフマンの腕に似ているような気がした。
「・・・大佐・・・」
「ん?」
「ありがとうございます。」
兵士たちには厳しくも優しいであろうその強面を僅かに崩しながらグルジエ大佐はリーファを抱きしめる腕を緩めた。
「落ち着いたなら私の自室に来てもらえるかな。まずは情報が欲しい。君の持っている情報が。」
「はい。」
「フィオラ様の捜索隊を至急編成のうえ出発させよ!」
大佐の命令一喝、周囲に待機していた兵士たちが敬礼して散ってゆく。
リーファは頼もしくその様子を見つめていた。
「それとリーファ・・・」
再び声をかけられてリーファは姿勢を正す。
「その・・・すぐに服を用意させる。」
リーファは自分が全裸に近い状態であることを思い出した。
彼女は小さな悲鳴をあげ慌ててしゃがみこんでしまうのだった。
基地の奥にある倉庫に人影がある。
ここは通常使われている倉庫とは違い、今は倉庫の中に人の気配はなかった。
扉が開かれスウッと倉庫の奥に人影が伸びてゆく。
ギイッ。
ギイッ。
鈍い音を立てながらその人影は倉庫の奥の台に積まれた残骸の前まで来て立ち止まった。
その影はあのグルジエ大佐の娘クレオであった。そしてクレオの前に積まれた残骸はあのワルキューレ隊の女サイボーグたちの無残な残骸だったのである。
クレオは緊張した面持ちでそれに左手を伸ばし残骸の中から機械仕掛けの腕を拾い出した。
「・・・・・・。」
その腕をまるで宝物を見るかのような羨望の眼差しで見つめるクレオの口が何かをつぶやこうとして動いていた。
第14章/終