第10章 魔天使たちの覚醒 

  

「はう、はうう・・・」
 エルセアの小さな唇から甘い吐息が漏れる。
「ああ・・・もう・・・もう・・許して・・・あううっ!」
両腕を手術台に拘束されたまま、赤毛の美少女の頭が艶かしく上下を繰り返す。
「人工性器と神経中枢とのリンクは順調のようだな。」
 グリエフ博士がそうつぶやきながら、ゆっくりとエルセアの下半身から棒状のセンサーを引き抜いた。湿った粘液音がエルセアの下腹部から漏れる。
 ビクンと身体を震わせたエルセアの腰から下はこのときすでに完全に機械化改造が完了していた。しかし足はまだ取り付けられていない。この後、足が取り付けられる股関節部にぽっかりと空いた二つの穴から何十本もの調整用の電子コードが延びており、それは周辺機器に接続されていた。
 ビュル!
 突然エルセアの陰部が潮を吹いた。


「あああっ!いやああ!!」
エルセアが頬を真っ赤にして絶叫する。だがその表情とは正反対に彼女の下半身に埋め込まれた人工性器はまるで生き物のように収縮を繰り返し、人工愛液を分泌させ続けていた。
「なんだ。まだ欲しがっているのか?この性感センサーでは満足できないようだな。本当にエルセア、君は見かけとは大違いの淫乱女だ。ふふふ。」
 下卑たグリエフの問いかけにエルセアは両目を固く閉じながら、唇をかみ締める。しかしこれまで感じたことのない快感が改造された下半身から湧きあがってくるのである。
その快感に耐え切れずエルセアの唇が開く。
「ち、ちがう・・・わ、わたし・・・淫乱女じゃ・・ない・・・ああっ!!」
「何が違うのだ。いやらしい擬似愛液がこんなに分泌されているではないか。ほら見てみたまえ。」
グリエフはそう言って濡れそぼったセンサーをエルセアの頬に強く押し付ける。
エルセアの顔が苦痛に歪み、目の端にまたうっすらと涙が浮かんだ。
「そ、そんな・・・私の身体をどうしちゃったのよ・・・ひどいわ・・・うう・・」
「もともと淫乱だったおまえの性器をさらに快感を産み出す最新鋭の人工性器に改造してやったのだ。感謝こそされ、そんな恨めしそうに睨まれるとは心外だよ。」
 グイーン!


 センサーが不気味な音をあげて振動を始めた。グリエフの持つセンサーの先がエルセアの顔から首筋、胸元をなぞり、さらにまだ機械化されていない小振りな乳房を愛撫してゆく。
「う、うう!ああっ!」
微かに拒絶と快楽の声をもらすエルセアの顔を眺めながら、グリエフはすでに人工愛液で潤いきっているエルセアの人工性器に再びセンサーを荒々しく突き入れた。
「ぎゃ、あうううう!!」
言葉では形容しがたい激痛の電流パルスがエルセアの脳を串刺しにする。
だがグリエフは気づいていた。その苦痛とも快楽とも取れる感覚に悲鳴をあげながらも、エルセアの顔が羞恥に赤く燃え上がり快楽にほころび始めていることを。
「どうだ、気持ちいいだろう?生身の時よりも数倍の快楽を味わっているはずだぞ。ほら、どうだ?くくく」
「あ、は、はい!いい!ああん、き、気持ちイイ!もう、もうダメエ!!あああつ、ああーっ!!」
グリエフはセンサーを激しくエルセアに突き入れながら、彼女が悶え苦しむ様子を楽しげに観察する。
「どうだ?サイボーグになればもっともっと気持ちよくなるぞ。ほれほれ。」
「ああ!なる、なるわ!サイボーグになるわ!お願い、早く、早く私を改造してえっ!!ああっ!もっと気持ちよくしてえ!!」
悪魔に魂を売る言葉をエルセアやその口から発したとき、満足した様子でグリエフは背後の技師たちに目配せをした。
 技師たちは各々了解したと頷くとエルセアの頭を押さえつける。行動は素早かった。
「はあ、はあ、私は・・・私は・・・」
「さあ、エルセア嬢。お楽しみはとりあえずここまでだ。充分楽しんだだろう。君の望んだとおりここで人間の身体とは完全にお別れだ。」
 グリエフの言葉にエルセアは一瞬だけわれに帰った。
「お、お願い、やめて・・・」
 たっぷりと身体に注入された薬物で思うように声も出せないエルセアの表情が恐怖で強張る。
「始めろ。」
 それが合図となり、技師たちは天井から降りてきたレーザーメスを手に取ると何の躊躇もなくエルセアの額にメスを差し入れた。
「うあああっ、やあああっ!!」
 エルセアが絞り上げるような悲鳴をあげる。
 グリエフは頭を切り開かれるエルセアの身体の筋肉がビクンビクンと痙攣している様子を楽しみながら、残る上半身の改造手術に取り掛かった。
「ふぁ、ふわあああ・・・」
 ゴポッ。
 三十分もかからず、異様な声をあげるエルセアの脳細胞がゆっくりと摘出されようとしていた。エルセアの摘出された脳はそのまま技師たちの手で培養カプセルに移される。
この人知を超えた感覚に意識をまだ保っていたエルセアは白目をむきながら絶叫を喉の奥から搾り出そうとした。
「あ、頭が、私の頭が・・・へ、変なのっ、い、いやああ・・・あなたたち、私の頭が、頭が・・・痛いぃぃぃぃ!?いやああ!」
 エルセアの言葉に、ちょうど彼女の小振りな乳房を切除したところのグリエフの手が止まった。
「どうしますグリエフ博士?このままでは精神がダメになってしまう恐れがあります。意識覚醒下での改造手術はこの辺りが限界ではありませんか?」
 技師の問いかけにグリエフはしばし沈黙すると、手につかむ切除されたエルセアの乳房を用意されていた標本カプセルに放り込んだ。
「全くわがままな女だ。見せてやるがいい。教えてやれ、自分の脳がどうなっているか。」
 技師たちは息を飲んだ。こういうときのグリエフは例えようもなく恐ろしい表情を浮かべるのである。
「言ったはずだ。精神的衝撃を加えれば加えるほど改造体はより強いサイボーグとして生まれ変わるのだと。このぐらいで壊れてしまう精神ならそれでよい。もしそうなったら愛玩用セクサボーグに再改造して売り飛ばすだけだ。」
「わ、わかりました。」
 技師たちは黙ってグリエフのその指示に従った。
パクパクと無意味に口を開閉押させているエルセアの脇のモニターが点灯する。
そこに映し出された映像の中にはエルセア自身がいた。
映像はエルセアの改造後に付けられるであろうコード番号の表示から始まり改造設計図がエルセアの全身写真と照らしあわすように写される。そして今先ほどまで行われてきた改造手術の光景が流れてゆき、完全に機械化された下半身、今まさに切り開かれている上半身の映像が映し出されて行った。


「ひ!?」
やがて映像がエルセア自身の顔をアップで映し出したときエルセアはわが目を疑った。
エルセアは言葉を発することができない。
目をそむけようにも、それをすることができないほどその光景はエルセアの精神を激しく打ち壊していたのである。
そこには額から上をそっくり切り取られた人形のような少女がいた。
それまで脳があったはずの位置には冷たい機械がのぞいており、そこに三本のチューブがつながれているだけなのである。
エルセアはこれで自分が生きているということ自体が信じられなかった。
いや、信じたくは無かったのである。その映像に映し出された姿はもはや人間とは思えない姿であったからだ。
「ああ、ああ、ああああああっ!」
エルセアは絶叫していた。そしてそれが全てのように彼女は体を一度だけ大きく震わせると静かになった。
「失神しました。」
 技師の言葉にグリエフはフンと鼻を鳴らした。
「たまらんな。若い娘の狂気に飲み込まれる悲鳴は。ふふ」
静かに笑いながらグリエフはエルセアの胸部に最新型バストウェポンを装着させていた。
技師たちも黙々と改造作業を続行する。
内臓器官の全摘出と人工器官の移植調整。さらに人工脊髄への神経接続とエルセアに残されていたわずかな生体組織もまたセレナと同様に着実に機械化されていくのだった。
完全に機械化された胴体には特殊コーティングされた人工皮膚が貼られてゆく。その様子をグリエフは好色そうに見つめていた。
身体の左右半分、皮膚の貼られた部分と機械体の露出部分をさらけ出すエルセアの哀れな身体に技師たちはただ機械的に処理を続行する。


「美しいな。こうして機械の身体に改造される美女たちの姿・・・何度見てもたまらぬ。ふふふ。」
こうして、二つ並べられた手術台の上の少女たちは暖かく血の通った人間から冷たい機械の身体へ生まれ変わっていった。彼女たちの意思はもちろん無視されてはいたが。
彼女たちが再び覚醒したとき、彼女たちを目覚めさせるのは朝の陽光でも小鳥のさえずりでもない。彼女たちにとってこれからは、それはもはやセンサーの電子情報でしかないのだ。その代わりとなるのは電気回路の電子パルスである。そして新生のときは間もなくに迫っていた。
*
 カプセルのなかで美女の唇が静かにほころんだ。その口の隙間からいくつかの気泡が漏れ出る。
 巨大かつ透明なカプセルのなかは淡い碧色の液体で満たされていた。
 その中には両膝を抱えるように体を丸めた美女が眠るように浮かんでいる。
 美女の姿は変わり果てていた。
かつて白く美しかったその肌はまるで爬虫類を連想させる不気味な紫に変色しており、頭部には無数の太いパイプが髪の毛の代わりとでも言うかのように接続されているのだ。そして彼女の細い首筋にも酸素供給のためであろうか、無骨な太いパイプが二本つながれていた。
それだけではない。彼女の腹部や股間、さらに背中にも同様にパイプやケーブルがつながれているのである。
ゴポツ。


 まるでギリシア神話に登場する怪物メデゥーサのように頭部のパイプが命を持つ蛇のように妖しく脈動する。
 ゴボッ。
ひときわ大きな気泡が美女の口から漏れ出る。
「お目覚めかな、女王陛下。」
 カプセルのなかを外から見つめる男がいた。ガルディである。
 その言葉が証明していた。
カプセルに浮かぶ異形の美女はかつてアイアス王国の国民の誰からも愛されていたルシアン王女の変わり果てた姿なのである。
「意識は・・・あってないような状況ではありますが・・・ルシアン王女とタニア王妃の精神融合は順調に進んでおります。」
 エリーシャの報告にガルディは軽く頷いて見せただけである。
「タニア王妃の自我とルシアン王女の自我は波のように相互が激しく入れ替わりを繰り返しています。こうして徐々に融合が行われるはずですが完全な融合は難しいかと。」
「どちらの自我が相手を押さえ込むかということだな。ま、ルシアンが消えることになるだろうが。」
 ガルディは自信があった。
 兄であるアイアス王国国王ローム三世が自分の執政の地位を奪ったときの顔が思い出される。人体実験によるサイボーグ開発を悪辣非道だと罵り、己を辱めた兄の顔をガルディは思い出して皮肉な笑みを浮かべた。
 ガルディは知っていたのである。アイアス王国の陰部を。
大戦末に王国に逃げ込んできた多くのナチス科学者を保護したのは先代の国王、すなわちガルディらの父である。ローム三世もガルディも王家の者としてその闇の遺産を確かに受け継いだのだ。
ローム三世は人間の生体組織の強化を目指した強化人間の研究に強い関心を持ち、ガルディはそれとは対極の機械化人間の研究に関心を持ったのである。
やがて順当に兄であるローム三世が王位を継承した。ところが、極秘裏の研究のトラブルがローム三世側で発生してしまったのである。
このとき政府の秘密組織に強化兵士の実験体として選定され、拉致された一人の少女がいた。
彼女までの間にすでに志願、拉致による強化人間化手術及び実験は行われており、それまで数体の成功例を出してはいたが、国王を始め研究者たちはさらに強力な、兵器としての強化生体の創造を求めたのである。
そしてそれに見合うだけの潜在的能力を秘めた存在として、その少女は選定されたのだった。
なんと少女はまだ10代前半の子供であったが知能指数、運動能力ともに平均を大きく上回る逸材であった。こうしてまだ成熟していない肉体を少女は生体兵器強化手術の実験台にされることになる。
だがこの今までとはレベルの違う強力な生体強化改造を施された少女は突如、精神暴走を引き起こしてしまう。結果、彼女は精神暴走を引き起こしたまま研究所を脱走した。だが生体組織の強化改造だけでなく、飛躍的に戦闘能力および武装を施されたその少女を止める手段は無かった。研究所は大パニックとなり国王は遂に苦渋の決断をくだす。
研究所の完全破壊と消滅。中にいる職員、研究材料、また生体実験用に囚われていた人々も含めてローム三世は施設の自爆スイッチを押したのだった。
このときローム三世は平静を失っていた。
そのような研究開発が行われている研究所とは露ほども知らない愛妻のタニア王妃が施設見学のため、そこを訪れていることを失念してしまったのである。
タニアに護衛兵として従っていた数少ない強化改造に成功した者たちも、このとき王妃と共に研究所の爆発の中に消えた。こうしてローム三世の研究とその計画は完全に消滅してしまったのである。
その後、ガルディの研究チームがさりげなく国の研究機関を占領していったことは言うまでもあるまい。ガルディは愛するタニアを奪われたがその交換に権力と地位を手に入れたのである。
「バラバラになったタニアをここまで復元できたのはグリエフとドルークの力もある。まあ二人には好きに人間を改造させてやるさ。狂気に魅入られたあいつらはそれで充分満足だそうだからな。」
エリーシャはつぶやくガルディを黙って見つめていた。
ガルディはそれだけで満足するはずがない。エリーシャはわかっていた。この男の次に狙うのはこのアイアス王国そのものである。サイボーグ開発技術を確立させたアイアス王国の次に進む道は、サイボーグ兵士の大量生産による軍備増強と世界各国の極秘情報の取得、これにより世界を裏から手に入れ操る。
その野望のためにはアイアスの国民全てをサイボーグ兵士化することもガルディはためらわないであろう。
エリーシャの表情はそれでも変化しない。冷静に眼前の狂気の支配者を観察し続けていたのである。
そのときである。
突然カプセルの中でルシアンの表情が苦悶に歪んだ。
「ぐ、ぐぶっ!」
 彼女の口や、身体に挿入されたコードやパイプの付け根からおびただしい量の気泡が溢れ出し、カプセルの中を埋め尽くす。
「エリーシャ!どうした!?」
ガルディの怒声に慌てたエリーシャがコンピュータに駆け寄りコンソールを叩く。
それに合わせてエリーシャの頭に繋がれたパイプが激しく脈動をはじめた。ルシアンは苦しそうに両手でパイプだらけの頭を抱える。
「ぎ、ぎいい・・・」
 ルシアンの唇が歪む。苦しみから歯を食いしばるルシアンの口元からはそれまで無かった犬歯のような牙が姿を覗かせていた。ルシアンの瞳が開かれる。その眼球は血の様に赤く猫のように縦長に変化していた。
「生態強化DNA濃度をマイナス10%。急げ!」
「わかりました。」
ガルディの指示に従ったエリーシャの処置でルシアンは間もなく平静を取り戻した。
「落ち着かれたようですね。」
「ふむ。生体組織の改造は私の専門ではないからな。そのデータのほとんどはあの爆発で失われてしまった。私が極秘に入手させていた資料だけが頼りとは不満でもあるが・・・私の開発したサイボーグシステムは普通の人間ではとても改造手術に耐えられん。まずは素体の生体強化、これが必須だ。ふふふ・・・残念ながら気が抜けんよ、エリーシャ。」
 ガルディはそう言うと傍らのエリーシャの肩を引き寄せる。
「それにしてもたいした女だ、おまえは。つくづくそう思うよ。私の秘密を知ったときはさっさと改造手術の実験台に使ってしまおうと思っていたのだが・・・。まさか進んで協力するようになるとはな。」
「か、閣下。このようなところで・・・あん。」
 ガルディの左手がエリーシャの乳房を揉みしだく。


「エリーシャ、おまえの望みはなんだ?」
「そ、そんなことより・・・あ、あふ・・・閣下・・・そんな強く、揉まないで・・・痛い。先ほどまで・・・ルシアン王女を・・・自分の姪の肉体をさんざんもてあそんでいらしたのに・・・ひどい人・・・」
「ふふふ。いや、見てみろエリーシャ。」
「え?」
 エリーシャは見た。
蛇のように赤い瞳が自分たちに向けられている。カプセルの奥のルシアンが笑っていたのだ。妖艶な笑みと口元に鋭い牙を除かせながらルシアンは欲情するようにガルディとエリーシャの情事を眺めていたのである。


二人の情事に欲情しているかのように彼女の股間に繋がれたパイプから間断なく気泡と濁った液体がカプセル内に溶け出していた。
「ふん、女王陛下が欲情しておられる。ルシアンの精神改造も順調ということだ。わかるな?エリーシャ。」
「は、はい・・・あふ・・・」
 エリーシャはそう答えつつガルディの舌に自分の舌を激しく絡みつかせていた。
*
手術室に並んだ二つのベッドの上に冷たくも美しい裸体を横たえる少女たちの姿がある。
かつて人であったときはセレナとエルセアの名を持っていた少女たちである。


「これより新型戦闘サイボーグWCA-CB2、WCA-CB3の起動テストを執り行う。」
 部屋に響いたその声はグリエフである。
 その声に従うように彼女たちの身体に接続されたケーブルの先の装置が低い唸りを発しながら起動を開始する。
 チュイーン!
 セレナの身体から機械の駆動音が微かに漏れる。それはエルセアも同様であった。
 やがて、まずは不意にセレナの瞳が見開かれた。彼女のアイスブルーの瞳が焦点を合わせるように稼動するのがわかる。そして無言で天井に設置されている手術用の照明灯を見つめていたセレナがゆっくりと上半身を起こし始めた。各関節の駆動部が無粋な機械音をたてる。


 セレナは気だるそうに起こした己の身体の感触を味わっているのか、ぎごちなく自分の両手を見つめた。
 指の関節ひとつひとつが機械的駆動音を響かせる。
 周囲の人間には殆ど聞こえないレベルの音ではあるが自分の体内から聞こえる音は敏感に感じるものである。セレナは無表情のまま自分の手から視線をはずすと、正面に群がるようにして自分を眺めている男たちの姿に気がついた。
 グリエフを始めとする彼女たちを改造した技師たちである。
「どうかね、新しく生まれ変わった気分は、WCA-CB2?」
 技師の一人がいやらしげに問い掛ける。その問いかけにセレナの顔つきが初めて変化を見せた。
「・・・最悪の気分だわ。」
 そう答えつつセレナは以前より大きさも形も美しく造形されなおされたふたつの乳房を両腕で覆い隠す。その表情は嫌悪で苦々しく歪んでいた。
「なぜ?我々は君を人間の頃とは比べ物にならないほど美しく改造してあげたじゃないか?」
 卑屈な笑みを浮かべてしゃべる技師は両手を左右に広げてセレナに歩み寄る。
 ビシュ!!
 一瞬の後、鮮血が部屋に飛び散っていた。


 肩から上を失った技師の身体がゆっくりと崩れ落ちる。
 その先にはアイスブルーの瞳を不気味に明滅させているセレナがいた。その瞳の光は彼女がもはや人間ではない証拠でもあった。
彼女が迷わず横に一閃した左手の指先が蒼く輝いている。だがその光はすぐに消滅し、細くしなやかな指と爪はもとに戻っていた。
「気をつけたまえ諸君、彼女の指先には高出力レーザー装置が埋め込まれている。迂闊なことをするとその肉隗と同じ目にあうぞ。」
グリエフがおもしろおかしく忠告を与える。それをセレナは上目遣いににらみ付けていた。その顔つきはもはや以前の貴族令嬢のものではない。冷たい機械となった少女の顔であった。
「汚らわしい者たち・・・。わたしの身体をさんざん斬り刻み、弄び、冷たい機械に造り替えて・・・」
うつむきながらつぶやくセレナが少しだけ哀しげな表情を浮かべたかと見えた。が、それはすぐに彼女の含み笑いで打ち消されたのである。
「うふ・・・うふふ・・・素晴らしいわ、この新しい機械の身体!人間のように下等な生物に固執していた自分が愚かでしたわ。うふふふ。美しい・・・この身体・・・美しいわ・・・うふふふ。」
セレナは自分の新しい肌の感触を確かめながら肩を震わせて笑い続けた。
そして再び視線を眼前のグリエフたちに戻すと今度は彼らを見下すように瞳を輝かせたのである。
「お聞きなさい!私とWCA-CB3の身体を好きにすることが許されるのは我らの主人ルシアン女王とガルディ閣下だけです!それ以外の者が我らを辱めようものなら・・・こうですわ。」
 そう言ってセレナは床に転がる技師のもの言わぬ頭を荒々しく踏みつけた。
 沈黙が部屋を包み込む。それを打ち破ったのはグリエフの喝采であった。
「ハハハ!最高だ!二体の新型サイボーグは完璧に改造手術成功だよ!」
 グリエフは手を打って喜びの声をあげる。
「君たちはルシアン女王の親衛隊として栄誉あるサイボーグ素体に選定され改造された。その忠誠心はルシアン女王そしてガルディ閣下にのみ向けられていればよいのだ。そう脳改造してあるのだからな。」
「わかっているようね。ふん、私を改造した張本人だから当たり前か。それよりも早く着る物をいただけないかしら。」
「ふふふ、それは失礼を。」
 そう言ってグリエフは後ろの技師から特殊素材でできていると見える銀色の衣装をセレナに投げ渡した。
 それを見たセレナが眉をひそめる。
「こんなものを着ろというの?」
「気に入らないか?ほら靴も用意してある。」
 そう言ってグリエフは服よりもやや厚めの素材で作られたロングブーツをセレナの足元に放った。
「これからの君たちの任務には最高の衣装だと思うがね。」
 セレナは不満そうであったが、考えをまとめたのかその服に袖を通し始めた。
「こ、これは・・・」
 その特殊素材の服はセレナの全身を包み込むように彼女の体型と肌にフィットしていた。流麗なプロポーションを浮き立たせるその姿はエロティシズムに溢れ、冷たい機械を連想させる。セレナはブーツに足を通し、ゆっくりとジッパーをあげてその感触も確かめた。


 やや高めのヒールが子気味よい音をたてる。
「どうだい?その服もブーツも特別製だ。気持ち・・・イイだろう?」
「え、ええ・・・気持ち・・・いいわ。」
 そう言ってセレナは熱い吐息を漏らした。明らかに牝の顔になっている。
「その服とブーツは君の人工の皮膚との間に特殊な磁場を発生させて密着している。その磁場により君の体の各内蔵機能系はさらにそのポテンシャルが向上されることになる。まあそれだけではないがね。」
 グリエフはニヤリと笑ったがセレナはそれを見てはいなかった。
「さてエルセア嬢は随分お寝坊さんのようだな。」
 セレナの改造後の様子に満足したグリエフの関心はまだ手術台に横たわったままのかつてエルセアと呼ばれた少女に向けられていた。
「システムの起動は確認しているのか?」
「順調に起動しています。」
 グリエフは首をかしげた。それならば何故彼女は目を覚まさないのか。
 そのときである。
 不意に部屋の外が騒がしくなった。複数の男の怒声がこの部屋にも聞こえてくる。
「どうした?」
 グリエフが言う間もなく、そのとき二人の初老の紳士が部屋に飛び込んできた。
 その二人を確認したグリエフは苦々しく口元を歪める。
「ぐ、グリエフ!私の娘は、エルセアはどこだ!?」
「セレナ!パパだ、助けにきたよ!!」
 二人の紳士は口々に声をあげる。誰あろうこの二人はセレナとエルセアの父親であるヘイルメッソ男爵とクロウス国務長官であった。
二人はガルディ派に属する要人であり、これまでもガルディの計画には協力を惜しんでこなかった人間である。しかしこの二人は絶対行ってはならないと忠告しておいたはずのあの舞踏会にまさか自分の愛娘たちが出席していようとは夢にも思っていなかったのだ。
「お二人とも落ち着いてください。あなたがたのご息女たちは名誉あるルシアン女王の親衛隊に選ばれたのです。」
「ふ、ふざけるな!!」
 顔を真っ赤にしたヘイルメッソがグリエフに掴み掛かる。
「自分の娘がまさかサイボーグなんぞにされると知って、黙っていられるか!!」
 しかしそのときヘイルメッソの視界にとびこんできた少女に彼は言葉を失った。
「せ、セレナ・・・!?」
 人間であった頃の名を呼ばれた金髪の少女は氷のように冷たい視線を父に投げつける。
「私はルシアン女王の忠実なる部下、WCA-CB2ですわ。」
 ヘイルメッソもクラウスも言葉を失った。
「まさか・・・!?もう改造手術されてしまったのか!?さ、サイボーグに・・・機械人形にされてしまったというのか、あの優しいセレナが・・・おおお・・・ガルディ閣下、なんというひどい事を・・・」
 ヘイルメッソは呆然としながらセレナに歩み寄る。悲嘆にくれる父をすでにサイボーグへと生まれ変わったセレナは無感情に受け止めた。
「え、エルセア!!」
 その間にクロウスも手術台で横になっている娘に駆け寄っていた。
 その様子をグリエフは愉快そうに見つめている。
「お気をつけなさい。彼女たちはもうあなたたちの娘ではないのですよ。ふふふ。」
 そのつぶやきが聞こえるはずもなく、ヘイルメッソはセレナを抱きしめていた。
「おおセレナ・・・こんな冷たい機械の身体にされてしまうなんて・・・これがこれまで忠誠を誓ってきた私に対する閣下の仕打ちだというのか・・・」
 そのときセレナの瞳が不気味に輝いた。
「うぐっ!?」
 ヘイルメッソはいきなり腹部を襲った激痛に我が目を疑った。そこには自分の腹部を貫くセレナの腕があったのだ。
「ガルディ閣下への疑念はルシアン女王への反逆と解します。反乱分子は即刻処分します。」
 セレナの赤い唇が妖艶な笑みを浮かべた。
「さようなら。」
 セレナは静かにヘイルメッソに唇を重ねた。死の接吻。娘から父に与えられたのは即効性の毒薬を含んだ娘の唾液であった。
 クロウスの命もほぼ同時に終わっていた。
「エルセア!!」
 全裸のエルセアはまだ改造を免れているのかもしれない。というクロウスの微かな希望は儚く消えることになった。
 手術台に眠るように横たわっているエルセアをクロウスは抱き起こす。
「うう!?」
クロウスはうめいた。エルセアの身体の重さにクロウスは青ざめる。と同時に娘の以前とは比べ物にならないほど大きく美しく造形された乳房に息を呑んだ。


「どう、私の胸は。ガルディ閣下にサイボーグに改造していただいたおかげでこんなに美しい体になったのよ。」
クロウスは声を発せられなかった。エルセアの瞳が開き、いきなりそう告げたからである。


「エルセア!?おまえは、もう・・・!?」
「そうよパパ。私は生まれ変わったのよ。うふ。」
そう言いながらエルセアは父の手を取り自分の豊満な乳房に押し付ける。
「あふう。感度も抜群。ああん。パパ、揉んで!あなたの娘の新しい身体で楽しませてあげるわ!」
クロウスはめまいを覚えていた。娘の放つ媚薬のような色香に意識が混濁してゆく。そして誘われるようにクロウスは愛娘の乳房に顔を埋めていた。
そして直立する乳首に舌を這わせようとしたそのとき、クロウスの目の前が白く染まる。それが最後の光であった。
エルセアの乳首が内部に陥没し、金属の穴がぽっかりと口を開ける。
バシュウウ!


一瞬の出来事である。エルセアの乳房から発射された高出力ビームがクラウスの頭どころか上半身を蒸発させていたのである。
「・・・ふん。スケベ親父め。いい気味だわ、アハハ。」
 エルセアがケラケラと笑いながら上体を起こす。
「なんだ、すでに起動完了しているではないか。なぜ起き上がらなかった?」
 その様子をみながらグリエフが問いかけた。
「あんたが近づいてきたら、こいつのようにしてやろうと思っていたのよ。うふふふ。」
 そう言ってエルセアはニヤリと笑った。その表情は小悪魔のように無邪気でありかつ恐ろしい印象を周囲に与える。
「WCA-CB3、あなたも早くこれを着なさいよ。」
 セレナがエルセアに言うのと同時に例の衣装が彼女に渡された。
 ちなみにエルセアに渡されたのはセレナと同タイプの黒い服である。
「ふうん。スケベなグリエフが好きそうな服よね。」
 エルセアがクククと笑った。
 改造手術を終えた二人の少女の変貌振りをグリエフは満足そうに眺めている。
「あとはルシアン女王の改造手術が終わるのを待つだけだ。そうそう、二人に言っておくが・・・」
「なにかしら?」
「なによ?」


 セレナとルシアンの鋭い眼光にグリエフは一向にひるまなかった。
「私を憎むのは結構。ただ、セーフティ機能で私を殺害することはできないからな、あしからず。」
 今度はグリエフが意地悪な笑みを彼女たちに返す番であった。
第10話/終

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