第8章 過去への迷宮

 ルシアン王女、クレイン伯爵そして国王ローム三世らを乗せた黒いリムジンはさらに山中奥へ疾走を続けていた。
 クレインは相変わらずまるで人形のように虚ろに宙を眺めている。
 どこへ連れて行かれるのか、国王や王女ルシアンに見当がつくはずもなく、二人は不安そうにその瞳を伏せることしかできなかった。
「父上。」
 ふと娘の問いかける声に国王は蒼白になった顔をわずかに持ち上げた。
「あの、機械でできた少女たちは一体・・・」
「う・・・うむ・・・」
 父王はなにかを知っていると、ルシアンはこのとき直感的に感じ取った。
しかしローム三世はそれ以上言葉を発しない。
「教えてさしあげましょうか?ルシアン王女。」
 突然車内に流れた声にルシアンも国王も全身を硬直させた。
 この冷たい刃のような印象を他者に与える声の持ち主は一人しかいない。
 今回の事件の張本人ガルディである。
「お、叔父上!これは一体なんの真似なのです!?」
 ルシアンは得体の知れない恐怖を振り払うようにスピーカに向けて一喝する。
しかし車内スピーカーから返ってきたのはガルディの低い嘲笑のみであった。
「全ての原因は国王陛下にあるのです。私の計画を邪魔なさろうとしたから。
そうでしょう?兄上。」
「が、ガルディ・・・おまえという男は・・・外道め・・・あの機械化された娘たちも貴様らが・・・」
「ハハハッ、いかがでしたか私の計画のほんの一端ではありましたが。サイボーグ兵士のすばらしさが少しはご理解いただけましたかな?」
「さ、サイボーグっ!?」
 ルシアンは思わずもよおした嘔吐感を必死に押さえ込んだ。
-あのような少女たちをサイボーグ化したというの!?
 ガルディの言葉に胸を押しつぶされそうになりながらルシアンは口を掌でふさぐ。
「我らをどうする気なのだ?」
 ローム三世は愛娘が苦しむ姿を見かねたのかスピーカーの向こうのガルディに叫ぶ。
「どうする?フフフ・・・ハハハ!」
 あまりに大きなガルディの笑い声に耐えかねて、ルシアンは両耳をふさぐ。
そして、その細い身体を小さく丸めた。
その肩は恐怖で小刻みに震えている。
「兄上、私は知っているのですよ。あなたが今までやってきたことを。」
「な、なにっ!?」
「人のことを外道だの、何だのと言えた義理ではないでしょう。」
 ルシアンは静かに瞳を開けた。恐怖と動揺が激しく揺らめいている瞳である。
「ど、どういうこと・・・なの?・・・お父様?」
 父の顔が驚愕に歪んでいるのがわかった。もちろん答えは戻っては来ない。
「ルシアンには後でたっぷりと私が教えて上げよう。たっぷりとね。」
「が、ガルディ!貴様、ルシアンをどうする気だ!?」
 このときばかりは国王も声を荒げた。
「ルシアン王女にはこれから私のために働いてもらわねばならないのでね。」
 ルシアンの瞳が絶望の色に変わる。無垢な少女たちを情け容赦なくサイボーグにしてしまうような男が自分に何をしようというのか、考えるのも恐ろしい事態にルシアンは耐えられずに絶叫していた。
「い、いやあああああっ!」
「ほらほら一国の王女とも有ろうものがみっともない。さて、そろそろですかな。」
 ガルディの声がとぎれるのとほぼ同時に暗い山道を走っていた車が突然止まった。
 ロックされていた扉が開かれる。見れば、その外には黒服の男たちが周囲を固めて待ち受けていた。
「ルシアン王女、降りて下さい。」
「え?」
 恐怖でこわばった身体が思うように動かない。
「い、嫌です!」
 男たちは嫌がるルシアンの細い腕を荒々しく掴むと強引に外に引きずり出した。
「い、痛いっ!お父様、助けて!」
「る、ルシアン!」
 後を追おうと車を降りようとしたローム三世は突き出された銃口の群に動きを封じられた。
「あなたは車の中で。」
 男の一人がそう言って再び車の扉を閉める。
 こうして車中には国王と錯乱し虚ろな笑いを漏らしているクレインのみが残されることになった。
 そのときである。突然クレインが胸をかきむしるように苦しみだしたのだ。あまりに突然のこと
でローム三世にはどうすることもできない。
「さあて、兄上。お別れです。」
「な、なに!?」
 スピーカーから再び流れてきたガルディの声は驚くほど冷静であった。
「そこのクレインの体内には液体爆薬が注入してありましてね。あ、もちろん私のサイボーグたちの仕業なのは言うまでもないでしょう。」
「!?」
「おさらばです、兄上。」
「ま、待て・・・」
 合図があったようにクレインがローム三世に抱きつく。
 閃光。
 ドオオオオオオン。
 車は粉みじんに吹き飛んだ。
 ルシアンはその爆音と炎が上がる光景を目前で確認していた。
「お、お父様?・・・お父様、お爺さまあああああっ!!」
 泣き崩れるルシアンの両腕を男たちは容赦なく掴み上げ拘束する。
それはもはや一国の王族に対する扱いではなかった。
 すでにルシアンの美しかったドレスは砂と泥で汚れてしまっている。
 そんなルシアンに男の一人が近寄ってきた。
ルシアンの顔が恐怖に固まる。
「ルシアン王女。少しおとなしくなっていただきましょうか。」
「な、何を・・・するのですか?」
 見れば男の腕には一本の注射器が鈍い光を放っている。
「そ、それは!?」
「命に関わることはありません。少々気持ちよくなっていただくだけです。」
 男の口が不気味な笑みを浮かべた。
 それを見たルシアンは首を左右に振って拒絶する。
 だが無駄な抵抗であった。ルシアンの両手は左右の男たちにしっかりと動きを封じられてしまっているのだ。
「いや!離して!離しなさい!」
 男は暴れるルシアンの手袋をはめた腕を掴みあげると容赦なく針を差し込んだ。
「あ、あうううううううっ!」

 
 通常とは違う激痛にルシアンは苦悶の声をあげる。しかし投与された薬品は即効性らしく、途端にルシアンは全身の力が抜けて男たちに支えられなければ立っていられないほどの状態になってしまったのである。
 その瞳からは光が失われ、半開きになった口元からは一筋の涎が伝い落ちる。
「は、・・・はう、はう・・・」 
ルシアンの声にならない声がもれる。
「おい見て見ろよ、お姫様の乳首が立ってきたぜ。」
「ガルディ様の命令で特上の媚薬も混ぜておいたからな。研究所に着くまでこのお姫様、イキっぱなしだぜ。ヒヒヒ」


 

男たちがいやらしい言葉を交わしている間にもルシアンの肌は赤く染まり、しっとりと汗が浮かび始めていた。ドレスの上からでもわかるほど直立し始めたルシアンの乳首を男の一人が思わずつまみ上げる。
「ひゃ!ひゃうううううっっ!!」
 ルシアンは陶酔の色を浮かべて激しくのけぞる。
 そして涙と愉悦の表情を浮かべたルシアンはそのまま意識を失った。
あまりの快感のためかその肉体がピクンピクンと小刻みに痙攣を繰り返している。
「おい、滅多なことはするな。王女の身体に傷でも付けて見ろ。俺たち全員ガルディ閣下に殺されるぞ。」
 リーダー格の男が乳首をつまんだ男を一喝した。
「も、申し訳有りません。」
「さあ、王女を運べ。急ぐんだ。」
「はっ」
 男たちが気絶したルシアンの上半身下半身をそれぞれ持ち上げる。
 そのとき男の一人が異様な臭いに口元を緩ませた。
「隊長、王女さま漏らしてますぜ。」
 男たちはルシアンのドレスの股間の当たりが湿っていることに気が付き、最後にもう一度、低く下卑た笑いを夜の闇に響かせた。


 叔父のガルディをルシアンは幼い頃から好きではなかった。
 何を考えているのかわからない冷たい瞳。
そして自分にだけ見せる妖しい視線をルシアンは幼いなりにしっかりと感じ取っていたのである。やがて成長してゆくのに比例してその視線は不気味なまでにさらに強くなっていく。
 夢の中に15歳のルシアンはいた。
 宮殿の花園で幼いフィオラと花を摘んでいる彼女の背後に、いつの間に近寄ったのかガルディが二人を見下ろすように立っている。
 ガルディの両手が細く柔らかいルシアンの両肩を背後から掴んだ。そのままガルディはルシアンの耳元に口を近づける。
「ルシアン、早く大きくなりなさい。そして母上のように美しい女性になりなさい。」
 ガルディの口がルシアンの耳たぶを噛む。ビクンと身体を振るわせたルシアンはその瞳に涙を浮かべてガルディの手を振り払った。ルシアンはフィオラをかばうように強く抱きしめる。
だが、フィオラの冷たさにルシアンは驚いて腕の中の妹に視線を向けた。
「ふぃ、フィオラ!?」
 ルシアンは悲鳴をあげた。
ルシアンの目の前にいるフィオラはいつの間にか人の形をした機械の固まりになっていたのだ。
そして自分の腕を見たときルシアンはあらためて絶叫していた。
彼女の腕もまた機械になっていたのである。
「キャアアアアアアアアッッッッッ!!」

 

  
 覚醒。
 ルシアンが見開いた瞳には天井の照明灯が映っていた。
「お目覚めかな?」
 その声の主をルシアンはすぐに認識した。ガルディである。間違えるはずがない。
 だがルシアンは思うように身体を動かすことができなかった。
なぜなら彼女の身体は黒く太いベルトによって椅子に拘束されていたからである。
 身につけていた衣服はそのままであった。ドレスも手袋もアクセサリーも、そして靴もはいたままである。
裸にされて何かをされた訳ではないことを確認してルシアンは一瞬安堵したが、すぐに股間の辺りが湿っていることに気が付いた。
 同時に山の中で自分が薬によって見せた痴態が脳裏によみがえってくる。
 ルシアンは例えようもない羞恥心で顔を真っ赤にして瞳をぎゅっと閉じた。
「その様子だと初めて絶頂感というのを体験したようだね、ルシアン?」
 ガルディの冷笑にルシアンの瞳から大粒の涙がこぼれる。
「叔父上、どうして、どうしてこんなひどいことを。」
「お前が欲しかったのだよ、ルシアン。そしてこの国もね。」
「わ、わたしが・・・?」
「そう、姉上・・・タニアの血を引くお前が。」
 ルシアンは息を飲んだ。
風の噂に聞いたことがある。
母タニアに最初に求婚したのはガルディだという。
しかし、タニアはガルディを拒絶し、ほどなくローム三世の目にとまり妃になったというのだ。
 当時のガルディはこのときから怪しげな研究に没頭しており、王族の地位を利用してかなりの数の人間を実験材料にしていたらしい。
 その研究がおそらくサイボーグ開発であったのだろう。
ルシアンはそれをこのとき悟った。
「ルシアン、これからお前はこのアイアス王国王女として私に協力をしてもらう。」
「な、何をバカな!父を・・・国王を殺した反逆者!死んでも嫌です!」
「死んでも?フフフ、死なせはしないよ。お前の意志は関係ないんだ。すぐにそうなる。」
 ガルディが低く笑いながら手に持ったブランデーをあおった。
「エリーシャ。」
 ガルディが秘書の名前を呼ぶ。
するとガルディの後ろに控えていた銀髪の美女・エリーシャが進み出て、壁際に設置された巨大なコンピュータを操作し始めた。
 やがて回線がつながる。
「グリエフ博士、選定は終了していますか?」
「ただいま終了しました。かなり優良なデータが出た娘が二人おります。
これならガルディ閣下にもご満足いただけるかと。」
 回線の奥から聞こえてくるグリエフの言葉にガルディは満足そうに頷いた。
「連れてこい。」
 エリーシャはガルディの言葉をそのまま伝える。
 ルシアンは何が起きるのか全く理解できず、ただ不安そうにガルディとエリーシャを見続けていた。
 数分が経過する。不意に部屋の外が騒がしくなった。
 扉が開かれ、白衣を着た男とルシアンを連れ去ってきた黒服の男たちが姿を現す。
「いやあっ離して!」
「お願いです!助けてください!」
 黒服の男たちが引き連れてきたのは二人の少女であった。
 一人は金色の長い髪と蒼い瞳を持ち、もう一人は赤毛のショートヘアと琥珀色の瞳を持つ少女である。
 ルシアンはその二人を見知っていた。
先の舞踏会の会場でも親しく会話を交わした娘たちで、年齢はルシアンよりも二歳年下のはずである。
 

  

金髪の少女はヘイルメッソ男爵の令嬢・セレナ。
 赤毛の少女はクロウス国務長官の令嬢・エルセア。
 二人は拉致されてきたときのドレス姿のままルシアンとガルディの目の前に引きずり出された。
 恐怖と絶望の涙で二人の瞳は赤く充血しているようであった。
 白衣の男が前に進み出る。誰有ろうグリエフ博士そのひとである。
 グリエフは椅子に拘束されているルシアンにうやうやしく一礼した。
「グリエフ、そいつらか。」
「御意。例の会場で捕らえた娘たち全員の身体データを採取し、分析した結果この二名が今度のサイボーグ体に多くの面で適合することが判明致しました。」
「例の改造プランをこの娘たちに施すということか。よかろう。」
 ガルディの言葉にグリエフは満足そうな笑みを浮かべた。しかし本人たちは違う。
「さ、サイボーグ!?い、いやあっ!助けて、いやああっ」
 セレナが長い髪を振り乱して絶叫する。
「る、ルシアンさま、助けて!助けてくださいいっ!お母様、たすけてえええっっ!」
 エルセアもしゃがみこんで泣き叫び、ルシアンにすがりつこうとする。
 ルシアンはその二人の姿を見ていられなかった。
「叔父上!やめてください!二人を解放してください!」
 ルシアンの言葉にガルディはフンと鼻で笑った。
「この二人は人間の身体を捨てて、あなたを守護する衛士として生まれ変わるのです。これはアイアスの貴族として名誉なことでなくて何だと言うのです。」
 蒼白になって声をあげ続ける二人の少女を黒服の男たちが押さえつけた。
 そしてグリエフが目で合図するのと同時に彼女たちを部屋の外に引きずり出して行く。
「いや!いや!サイボーグになるなんていやああっ!」
「助けて、お母様!お母様ああああっ!」
 扉は閉じられた。彼女たちの泣き叫ぶ声が遠ざかって行く。
「ところで閣下。捕らえてある他の娘たちはいかが致しましょうか?」
 グリエフがガルディに問いかけた。
「全員、改造工場に送って忠実なサイボーグ兵士に改造しろ。すぐに必要になる。」
「承知しました。ところであの二人の娘の改造については一任していただけますでしょうか。」
 そう言うガルディの好色そうな瞳の輝きをガルディは見抜いていた。
「好きだな、お前も。」
「閣下、お言葉ですが女をサイボーグ化する場合、性的興奮をその素体の肉体と精神に植え付けておくことによって、彼女たちはより強い機械体へと生まれ変わるのです。それについては過去のデータが実証しており・・・」
「わかった、わかった。博士に一任する。」
「ありがとうございます。」
 グリエフはそう言うと嬉々とした様子で部屋を退室した。
 部屋には再びルシアンとガルディ、エリーシャの三名が残される。
「・・・悪魔、あなたは悪魔だわ。」
 ルシアンが涙を流しながらガルディを睨み付けて言った。
「悪魔か。今更言われても何とも感じないですな。所詮、権力の上に立つ者は皆悪魔に魂を売るのがあたりまえです。」
 ガルディの視線がルシアンを捕らえる。
「もちろん、ルシアンお前もだ。その魂・・・悪魔に売り渡してもらうよ。」
「な、何を言っているのですか!?」
 動揺するルシアンに構わずガルディは傍らのエリーシャに何事か指示をする。
エリーシャは承知したと一礼すると再度コンピュータの回線を開いて黒服の男たちを呼び出す指令を送った。
 先ほどの男たちとは別の男たちがほどなくやってくる。
「ルシアン王女を特別研究室へ。」
 ガルディの指示に男たちは一瞬、動揺した。
 なぜなら地下最下層の特別研究室はガルディ専用の研究室であり、そこに入れるものはこの研究所でもほんの数名であったからだ。
 そこでどのような事が行われるのかはもちろん、何があるのか、どんな施設があるのかさえ知らされていないシークレットルームなのである。
 拘束を外されたルシアンの腕に手錠が架けられる。
両脇には男たちがルシアンの腕を支えて立ち、逃亡に備えた。
「ルシアン、教えて上げよう。君の父上、国王ローム三世もわたしと同じ悪魔に魂を売った者であることを。」
 先導するように部屋を出ていくガルディとエリーシャ。ルシアンはその後を連行されていくのだった。


 研究所の最下層、ガルディ専用特別研究室。
 長い長いエレベータが降り着いた場所は暗闇のなかでよくわからない巨大な機械装置が静かに駆動音を響かせている広く冷たい空間であった。
 不気味で巨大なパイプらしき物が床を埋め尽くし、それはさらに巨大装置の方へとつながってい
る。冷却装置から漏れ出た白い煙が霧のように空気を湿らせているようであった。
「・・・寒い。」
 白い息を吐きながらルシアンは思わずつぶやいた。
 ガルディはその言葉に関心を示さず、一同は奥の暑く閉ざされた扉の前に進んだ。
 その前に立ったところでガルディは男たちに戻るように命じる。
 ルシアンは男たちから解放されはしたが逃げるのは不可能であった。
この部屋を出るには今来たエレベータを使うしかないからである。
 男たちを乗せたエレベータの扉が閉まる。これでルシアンは完全に逃げ場を失ったのである。
 それを確認してガルディは奥の部屋の扉に付いたコンソールを操作する。
電子ロックの解除である。
無機質な電子音と共に扉が音もなく左右に開いた。
「さあ、ルシアン。ようこそ我が研究室へ。」
 ガルディに促されるままルシアンは進み出た。
どのような事態になっても歴史あるアイアス王国の王族として毅然とした態度でいよう、ルシアンはそう覚悟を決めたのである。
 三人が部屋に入るとそれを自動的に感知したのか扉が再び閉じられた。
 暗い。電子機器のランプが光っているぐらいでそこに何があるのか、ルシアンにはすぐに判別することができなかった。
「さて、お見せしようか。感動の再会だ、ルシアン。」
「え?」
 不意に天井のスポットライトが点灯し、その蒼い光はルシアンたちの目の前に巨大な物体を映し出した。
 照明により蒼く染められた透明なカプセルが二台。その二つを取り巻くように他にもいくつか小さいカプセルが見える。
その全ての中身は液体で満たされているのかゴボッと気泡が下から上に昇って行った。


「このカプセルは・・・なに?」
 ルシアンにはガルディの言葉の意味がまだ呑み込めなかった。
しかし言いしれぬ恐怖感を感じつつも彼女の足はゆっくりではあったが前へ出て行く。
 まるでアクアリウムの中にいるような光で照らし出されるカプセルから視線を外せないままルシアンの足がぴたりと止まった。
「あ、ああ・・・ああ」
 その瞳を大きく見開いたルシアンの唇が小刻みに震えだした。
 なんと左側のカプセルの中に女性の裸体が浮かんでいたのである。
 さらにその女性は下腹部から下が存在せず、冷たい機械部品が露出している。
そして、そこには無骨なパイプが繋がれていたのである。
 見れば女性の両腕も肘から先が無い。
胴体と同様に細い無数のパイプやチューブがそこから延びていた。
 ルシアンは恐る恐る顔をあげる。
 女性の頭部は胴体から切り離されていた。チューブが頭部と上半身を繋いでいる。
 そのカプセルの中に浮かぶ若い女性の顔を見たときルシアンは動けなくなった。
「わかるだろう?お前の母上・・・タニアだよ。」
 ガルディがさも愉快そうな口調で言った。
「そ、そんな・・・!?」
 カプセルの中の女性はどう見てもルシアンとうり二つであった。


 ルシアン自身、幼い頃の母の記憶しか残っていなかったが目の前の異様な姿にされた女性が母であることを確信していた。
 幼い頃に死別した母が目の前にいる。
それも人間とも機械とも判らない身体になってである。
 ルシアンは泣き叫んでいた。声にならない悲鳴をあげてルシアンはその場にうずくまる。
 ガルディとエリーシャはその様子を黙って見つめていた。



第8話/終

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