第7章 機械少女の涙
サイボーグ少女たちの一斉射撃はすぐに終わった。。
広間には無数の死体が横たわっている。
そして、かろうじて外に逃げられたであろう人々の気配も感じられなかった。
捕らえられたか、それとも殺されたか、どちらかなのは確かであった。
「信じられないけど・・・」
このときホールの隅に身を隠した冴香はじっと様子を伺っていた。
広間の奥にはまだ、国王とルシアン王女、そしてクレイン伯爵の姿が見えたが、間もなく三人はひきずられるように別の扉から連れ出されて行く。
「どこかへ連れ去るようね。とんでもないことになったわ。どうするか・・・。」
思案を巡らす冴香。
が、そのとき反射的に彼女は目の前の床に飛び出していた。
ガツッ!ガツッ!
彼女がいまそこまでいた場所に二本の鋭い鋼鉄のニードルが突き立つ。
「見つかった!?」
冴香は受け身を取りながら転がり起きると、さらに素早くその場から跳躍し反対の壁に飛びつく。
「くっ!」
咄嗟に振り向き、身構えた冴香の目の前に黒いドレスをまとった女性が妖艶な笑みを口元にたたえて立ちふさがっていた。
冴香の補助電子頭脳が瞬時にデータをはじき出す。
「パーティー出席者に該当なし?それじゃあ。」
次の瞬間、冴香は凍りついた。
「そ、そんな・・・あなたは・・・九条すみれ・・・さん?」
彼女の頭脳からはじき出されたデータは九条すみれの物であった。
しかし、そのデータと目の前にいる女性のデータが完全に一致しないのである。
体型・骨格等のデータが明らかに一致していないのだ。
しかし彼女の補助電子頭脳は目の前の黒いドレスの美女が行方不明の「九条すみれ」だと断定していた。
「そんな、こんなことがありえるのは・・・。」
冴香の瞳が悲しみに染まった。
「そう・・・あなたは、もう私と同じ・・・人間ではなくなってしまっているのね・・・」
「何を独り言をつぶやいていらっしゃるの。」
すみれが赤い唇を不気味に歪めて笑う。
「あなたでしたのね。体温感知センサーを使っていたのは。」
「す、すみれさん!」
冴香は思わず横に飛びすさった。
すみれの右腕から飛び出したニードルが冴香の足下に突き立つ。
「誰かは知らないけれど、邪魔者には死んでもらうわ。」
冴香は息を飲んだ。
速い。
すみれは右腕から突き出たニードルをレイピアのように冴香に向かって突き出す。
「くっ!」
紙一重でその突きを避ける冴香だったが衣服がちぎれ飛び、冴香はじりじりと壁際に追いつめられて行く。
「お姉さま!こいつは私が!」
不意に冴香の横に近寄っていたサイボーグ少女が瞳のレーザー発射口を開く。
このとき冴香の表情が硬直した。
「ごめんなさい!」
爆音と炸裂音が轟き、サイボーグ少女の頭部の右上半分が吹き飛ぶ。
何が起きたかわからない様子のサイボーグ少女の残る左目が目の前の冴香を見つめていた。
「な、なに?」
冴香は全裸であった。
いやドレスが弾け飛んだのだ。
そして彼女の露出した乳房からたちこめる硝煙がその理由を物語っていた。
これこそ冴香のサイボーグとしての武装兵器バストマシンガンであった。
もちろん装填されている弾丸も特別仕様の強力な物である。
例え強化改造されたサイボーグといえどもまともにくらってはひとたまりもあるまい。
「お、おねえ・・・さま・・・」
頭を吹き飛ばされた少女が倒れ、動かなくなる。
その残った瞳から黒い液体が涙のように一筋伝い落ちた。
普通の女学生が己の意志でサイボーグになるはずがない。
彼女たちは無理矢理改造された被害者であることは冴香にはよくわかっていた。
しかし彼女はここで死ぬことは赦されなかったのだ。
冴香は悲しげに動かなくなった少女をに視線を落とした。
しかし、それもわずかの時間である。
ドシュッ!
冴香の左肩をすみれのニードルが貫く。
「きゃああっ!」
目の前に迫ったすみれの顔はまさに憤怒の形相であった。
「貴様あっ!殺す!殺す!殺してやるぅぅぅぅっ!!」
「うわあああっ!」
冴香を貫いたニードルから凄まじい高圧電流が注ぎ込まれる。
並の人間なら一瞬で黒コゲである。
機械体の冴香でも相当なダメージが加えられているのは明白であった。
「よくも私の妹を!!」
電流によりすみれの黒いドレスも弾け飛ぶ。
ハイヒールを残し全裸になったすみれは冴香を貫いたまま軽々と宙に持ち上げると激しく床にたたきつける。
「ぐはあっ」
大理石の床に大きくひびが入るほどの力で叩き付けられた冴香の口から苦悶の声が漏れる。
「お前たちは手を出さないで!わたしがこいつを分解してやる!」
すみれが女学生サイボーグに指示を出す。
「くっ!」
冴香のバストマシンガンが咆吼する。
だがすみれの動きは蜂のように俊敏であった。
その弾丸は壁を打ち崩すのみである。
「速すぎる!当たらない!」
空中に飛び上がったすみれはアームレイピアで冴香の頭部を狙って飛び込んでくる。
「死ね!死ねぇ!!」
レイピアが冴香の頬をかすめ、疑似血液が冴香の頬を鮮血に染める。
「すみれさん!」
冴香はすみれの右腕を掴み、動きを拘束する。
この至近距離なら冴香の攻撃も当たるはずであった。
だが不意に顔を近づけてきたすみれが悲しそうに冴香にささやきかけてくる。
「私は・・・すみれ?・・・お願い・・・助けて・・・」
「すみれさん!?あなた記憶が!?」
だがそれはすみれの狡猾な罠であった。
表情が一転したすみれの瞳が真紅に染まり、不気味な笑みが再び浮かび上がる。
「とんだ甘えん坊さんなのね、あなた。アハハハ!」
「きゃああっ!」
ほんの僅かな躊躇が冴香の攻撃を遅らせた。
苦痛の声をあげたのはすみれではなく冴香である。
冴香のみぞおちにすみれのひざが食い込み、その膝から突き出たニードルが冴香を貫いたのだ。
さらに電流が冴香を襲う。
「うわああっ!」
冴香が苦悶しながら片膝をつく。
苦悶する冴香を見つめるすみれの表情を愉悦の色が支配する。
その一瞬の隙を冴香は狙った。
冴香の右腕には先ほどすみれから発射され、床に突き立っていたニードルが握られていたのである。
彼女は攻撃を受けつつも反撃の機会を見逃さなかったのだ。
「ぐあっ!」
次に顔を苦痛に歪めたのはすみれであった。
冴香が握ったニードルですみれを突き刺したのだ。
これにより、すみれのはなつ電流は、めぐり巡ってすみれに戻ってくる。
バリバリバリッ!
「きゃあああああっ」
すみれはたまらず冴香を突き放そうとするが冴香も掴んだすみれの右腕を離そうとはしない。
そこにいたのは修羅場をくぐり抜けてきた戦士の顔の冴香がいた。
「やはり身体の内部までは絶縁組織ではないようね。」
「お、おのれえっ、く、ひいいいいっ!」
冴香がバストマシンガンを発射しようとする。
だがそれよりも速くすみれの右肩の放電用電源が大爆発を引き起こした。
両者はその爆発に飲み込まれ、二人は相反する方向に吹き飛ばされる。
冴香は壁を突き破り、すみれは広間の奥に放り出された。
右肩から先を失い、全身の各所から破損した機械部を露出させるすみれに女学生サイボーグが近寄ってくる。
「あの・・・女サイボーグはどうした?」
「反応が消えました。おそらく吹き飛んでしまったのでしょう。」
すみれは苦しそうに身体を起こそうとするが身体の各部が破損、ショートして動くことができなかった。
「ルシアン王女と・・・国王、クレインは・・・?」
「手はず通り、連行いたしました。」
「わかった・・・わ。フィオラ王女は?」
「間もなく連行します。」
「急ぎなさい!!」
すみれの一喝を受けて女学生の一人が駆け出して行く。
「・・・まあいいわ。お前たち、私を運んでちょうだい。ドルーク博士と・・・合流します。」
「はい!」
女学生たちはすみれを抱きかかえると広間を後にするのだった。
*
「そこをおどきなさい。」
何か異変が起きたことはリーファにもよく判っていた。
ルシアン王女に頼まれた彼女はフィオラの様子を伺いに一人、二階のクレイン伯爵の私室に急いでいたのである。
そのリーファの前に二人の女学生が道を塞ぐようにして立っていた。
いつもは温厚なリーファもこのときはその細いが凛と引き締まった眉をつり上げて道を空けるよう促す。
リーファは目の前の女学生の顔を見知っていた。
だが、今の彼女たちはリーファの知っている彼女たちではない。
それをリーファは確信していた。
女学生たちは無機質な笑みを浮かべる。
「どうする?この女。」
「指令事項6。若い男女は可能な限り殺害せず、捕獲せよ。
いずれも捕獲の後、ただちに改造手術を施し我らの同志とする。」
「そうだったわ。この女、きっと立派なサイボーグに生まれ変わるわ。お姉さまが喜ぶ。」
ぶつぶつと会話を交わす二人を見つめながらリーファは咄嗟に身を翻す。
しかしそれよりも先に女学生の一人がリーファの手首を掴んでいた。
「逃げるな。」
女学生の平手がリーファの頬を打つ。拳で打てば頬骨が砕けていたであろう。
リーファの身体は打たれた反動で数秒間空中を舞い、ドレスの裾が引きちぎれるほど激しく転がった。
リーファの眼鏡が女学生の足下に転がる。
「うふふ。私たちと同じサイボーグになればもう眼鏡なんていらないわよ。」
そう言って彼女は眼鏡を踏み砕いた。
「さあ、行きましょう。」
二人の女学生が倒れ伏すリーファの両腕を掴み上げようとしたときである。
ヒュンッ!
短く空気を引き裂く音がした。
「?」
リーファの腕を掴んでいた女学生の腕が手首から切断されて床に落ちる。
わずかな空白の時間。
女学生たちがそこに見たのは左腿のガーターベルトから引き抜いた淡い光を放つ小型のアーミーナイフを手に、身をかがめて構えるリーファの姿であった。
その瞳は先ほどまでのあどけない少女の物ではない。
鋭利な刃のような冷たい光をたたえる瞳であった。
「おまえ!?」
女学生が両目のレーザー発射口を開く。
そのときピンクの蝶が舞いあがった。
リーファのピンクのドレスの裾が縦に引き裂かれ、リーファは右腿のガーターベルトに仕込まれた銃を引き抜く。
チュインッ!
金属を引き裂くような音が走る。
ゴトリと鈍い音をたてて一人の女学生の首が床に落ちる。
残った女学生には首から上を失った仲間に驚く暇はなかった。
赤い髪の少女がその小さな身体を回転させながら自分の懐に飛び込んできているのだ。
彼女には眼球レーザーの照準を合わせる暇もない。
リーファの動きは躊躇がなかった。
女学生の顎に銃口を突きつけたリーファはためらいなく引き金を引く。
特別製の弾丸が女学生の脳髄を撃ち抜くのをリーファはその銃身の反動から確認した。
「ぎゃ・・・ぴ・・・」
意味不明な言葉をもらしながら女学生は崩れ落ちた。
リーファはボロボロになったドレスの裾をナイフで短く切り裂く。
ガーターベルトストッキングに包まれた足を露わにした姿で立つリーファのこの姿は
明らかにこれまでのリーファではなかった。
そのリーファの感覚が背後に現れた新たな気配に機敏に反応する。
振り返りざまに向けた銃口の先にはリーファを少なからず驚かせる人物の姿があった。
「驚いた・・・ただの貴族のお嬢さん・・・ではなかったのね。」
「冴香さんこそ。そのあちこちから火花吹いてみえる身体・・・あなたも敵?」
氷のように冷たい口調で問いかけるリーファに対する冴香の顔が苦悶に歪む。
先ほどのすみれとの戦闘でかなりのダメージを受けているのは明らかであった。
「敵ではないわ。信じろと言っても無理かも知れないけど・・・驚かすつもりもなかったのよ。」
リーファはしばし冴香の表情を観察すると銃を引いた。
「信じて・・・くれたわけ?」
「そうね。少なくとも敵ではないでしょう。この娘たちの仲間にしか見えないけど・・・
だとしたら、その傷・・・というか破損の説明がつきませんわ。」
「あなた本当にあのリーファさん?」
苦笑いを浮かべながら、冴香は辛辣な言葉を投げかけるリーファに答える。
「私はこれからフィオラ様の救出に行かなければなりませんの。
どうなされるかしら?」「もちろんご一緒致しますわ。」
冴香の言葉に眉ひとつ動かさずリーファは奥へ走り出した。
*
フィオラはいまだクレイン伯爵のベッドの上に拘束されたままであった。
彼女たちの第一の標的である国王とルシアン王女はすでに連行されたとの通信が彼女たちの脳に埋め込まれた受信機が傍受していた。
残るはここに薬で意識を失っているフィオラのみである。
しかしフィオラの拘束を解こうとしたとき、彼女たちのセンサーが二人の仲間の反応の消滅を確認した。
「CGM-09、確認した?」
そう問われたのはレイナという名前だった少女である。
「はい、CGM-03。07と08の反応が消えました。」
青い髪の女学生に答えながらレイナの身体が小刻みにブルリと震えた。
「どうしたの?」
03の問いにレイナは小さく首を振った。サイボーグになった彼女たちには恐怖心と
いった感情はないはずである。しかしレイナにも判らない範囲で彼女の身体は震えたの
だ。
彼女たちのセンサーは扉に近づいてくる二つの反応を感知していた。
「CGM-09、砲撃戦モードに変形しなさい。」
「い、いや・・・です。こわ・・・い」
青い髪の女学生の表情が険しくなる。「恐怖」を感じているレイナへの苛立ちが彼女
の冷静な機械に覆われた感情をあふれ出させたのだ。
「変形なさい!!」
03は苛立つようにレイナの頬を打つとメイド服を引き裂く。
そして全裸になった彼女の頭を押さえつけるように床に跪かせた。
「わ、わたし、なぜ?わからない!この震えはなに?」
うわごとのようにつぶやくレイナを無視して03はレイナの首筋の小さなくぼみを軽く圧した。
「あがあっ!」
するとふたが開くように皮膚が開き、内蔵された赤と青の小さなボタンが姿を現す。
03は続けて赤いボタンを押した。
「がはああっ!」
レイナがバネが弾けるように両腕をひきつらせると苦悶の声をあげながら弓のように身体をのけぞらせる。
「ぎ、ぎひいいいいっ!」
次の瞬間、レイナの身体は腰の部分がぽっきりと折れ曲がる。
そして露出した胴体内部機械の中から一門の砲塔が伸張し、彼女は人間砲台へと変貌したのである。
この間にも部屋の外の二つの反応は迫っていた。
CGM-03も両腕から機関砲を露出させる。
「ピ・・・目標・扉の向こうに固定・・・ロックオン。」
変形したレイナの瞳が明滅し、感知データを分析するとこれを機械的に唱和する。
「撃てっ!」
瞬く間に部屋は爆音と轟音、そして白い噴煙に包まれた。
扉だけでなく壁も一緒に粉みじんに吹き飛び、あたりは砂埃で何も見えなくなる。
「あ、あうう・・・」
火砲発射の衝撃に苦しそうなうめきをもらすレイナの腰部から突き出た砲身の先から白い硝煙が立ち上っていた。
「吹き飛んでしまったか?」
03がセンサーを全開にしようとしたときである。
二つの影が部屋に飛び込んできたのだ。
「ああっ!」
03の声はそこで止まった。
常人とは思えない動きで跳躍した影は冴香である。
彼女が冴香の姿を砂埃の向こうに確認したとき、すでに冴香のバストマシンガンの照準は03の頭部を捉えていた。
ガガガガガーン!
03の頭部が吹き飛ぶ。
彼女の両腕の機関砲が空しく天井を撃ち抜いた。
もう一つの影はリーファである。
リーファは一直線に人間砲台へ飛びかかった。
「ひ、ひいいいっ!」
半狂乱のレイナの火砲が火を噴く。
リーファは弾道の下を滑り込むようにレイナに組み付くと、右腕のナイフを振り上げ
た。が、そこで動きが停まる。
「れ、レイナ。やはり・・・あなたまで・・・」
「・・・こ、怖いっ・・・ピ・・・指令3、邪魔者は抹殺せよ・・ピ・・・いや・・・」
レイナの言葉は命令と感情が混在しているようであった。
「その娘、記憶操作が完全じゃないようだわ。」
冴香がその様子を見て言った。
「どういうこと・・・」
「見たところその娘・・・普通ならサイボーグ改造手術に耐えられる年齢ではないわ。」
冴香の言葉にリーファは理解した。
他の女学生たちに比べてレイナだけが下の学年の生徒であったのだ。
「おおかた人数合わせで改造されたか、たまたま秘密を知ってしまい口封じの意味で改造されてしまったか・・・」
冴香のつぶやきにリーファの手にしたナイフがわずかに震えているのを彼女は見逃さなかった。
「ピ・・・邪魔者は・・・抹殺せよ!」
「うっ!?」
不意にレイナの右目からレーザーが発射される。
リーファは素早くとびのいてこれをかわした。
ガガガーン!
すかさず冴香のバストマシンガンが轟音を発し、レイナの胴体が弾け飛ぶ。
「レイナッ!」
ひきちぎれたレイナの上半身にリーファが近寄ろうとするが、冴香が一喝してこれを押さえた。
下半身を失ったレイナがうつぶせに倒れている。
「れ、レイナ・・・」
リーファの呼びかけに答えるでもなくレイナがゆっくりと顔を上げた。
その表情は先ほどまでとは違い機械的な冷たさは消えている。
瞳も柔らかな光を取り戻していた。
「わ、わたし・・・どうした・・・の?」
困惑した様子のレイナは起きあがろうとするが腹部から下はひきちぎれた動力パイプ
らしき物を覗かせる機械がむきだしになっており、その腕も肘の辺りでショートしていた。
起きあがることができず倒れ込むレイナをリーファはたまりかねて抱きかかえる。
今度は冴香も停めなかった。
レイナが自我を取り戻したことを冴香なりに感じ取っていたからである。
「り、リーファ・・・先輩?わたし?」
「レイナ、なぜあなたがこんなことに?」
「私・・・先輩たちが・・・学院裏の倉庫に・・・連れて行かれるのを・・・見ていて」
「倉庫?」
「いきなり黒い服の男に・・・取り押さえられて・・・」
そこまで喋ったレイナの顔がみるみる恐怖に歪んで行く。
「怖い、工場・・・先輩たちの悲鳴・・・泣き声・・・みんなカプセルに・・・入れられて・・・」
冴香は耳を塞ぎたかった。その身体を機械に改造されてゆく女学生たちの姿を自分の
身体と重ね合わせてしまったからかもしれない。
「わたしも・・・そこに連れて行かれて・・・学長が・・・」
「学長?ドルーク学長!?」
リーファは聖タニア女学院の学長ドルークの名を聴いて驚いた。
あの温厚な風貌の学長がこんな恐ろしい計画に加わっているとは。
「私を・・・カプセルに入れろって、男たちに命令して・・・あううっ」
突然、苦悶の声をあげてレイナが激しく痙攣を始めた。
腰のひきちぎれたパイプから黒い液体が噴き出す。
「リーファさん・・・この娘はもう・・・」
冴香が悲しげにつぶやくと冴香もまた苦痛に顔を歪めて膝をつく。
すみれとの戦いのダメージは予想以上らしいことは確かであった。
「リーファ先輩・・・私どうして・・・こんな目に・・・」
レイナの瞳から黒い涙が流れる。そしてレイナは動かない人形になった。
リーファはレイナを横たえると跪いている冴香に近寄る。
「冴香さん、あなたの身体・・・修理が必要よね。あのレイナの身体・・・使って頂戴。」
「り、リーファさん!?」
「この国にあなたを直すのに必要な部品はないわ。使える物は利用しなさい。」
そう言ってリーファはベッドに拘束されたフィオラの元に歩み寄っていく。
冴香はゆっくりと立ち上がってレイナを見つめた。
非情ではあるがリーファの指示は間違っていないと彼女もわかっている。
この破損では草薙博士のいない現在、おのずと彼女がとらざるをえない行動も限られてくるからだ。
「御免なさい。あなたの身体、使わせてもらうわ・・・」
冴香は物言わぬレイナにささやきかけるのだった。
「フィオラさま!フィオラさま!」
リーファの呼びかけにフィオラは答えなかった。
「相当、強い薬品を投与されているようだわ。このままでは・・・」
ナイフを手にしたリーファはフィオラの両手足の拘束を断ち切ると軽々と抱きかかえる。
「ほんと、あなたには驚かされっぱなしだわ。」
同じようにレイナを抱きかかえた冴香がそう声をかける。
当のリーファはそれには答えず、平然と窓から飛び降りた。
「ちょ、ちょっと!」
この部屋は二階であるうえ、フィオラを抱えてである。冴香は慌てて窓に駆け寄る。
ところがその真下には何事もなかったようにリーファがフィオラを抱えて直立していた。
「あなた・・・本当に人間なの?」
「そうよ。行くわよ、早く降りてらっしゃい。」
冴香はそう言うリーファを見ると一度だけ深いため息をつき、彼女の跡に続いた。
第7章/終