第2章

 数日が経過していた。
 ガルディの執政罷免は議会において審議が続けられている。
 もちろん議会には彼の息のかかった者が多くを占めているため国王の意向はなかなか進展をみせなかった。
 その間、ガルディは自らの屋敷で見せかけの謹慎をおこなっていた。
「九条すみれ・・・か。」
 ガルディは自分の邸宅の地下に造られた執務室においてグリエフ博士から渡された次に改造手術実験を行う予定の一人である日本人少女のデータに目を通していた。
 そのデータに記された彼女の名前を見ていたガルディの眉がピクリと動く。
「九条?」
 国の政策を一手にしきるガルディの心に引っかかったのは日本の有力財閥・九条コンツェルンの存在であった。
「おい。」
 ガルディがパチンと指を鳴らす。すると紫色のスーツに身を固めた銀髪の美女が静かに入室してきた。
「お呼びでございますか。」
 美女はアイスブルーの瞳をガルディに向けて言った。
 彼女の名はエリーシャ・コットン。
 ガルディの忠実な秘書であり、愛人でもあると噂されている女性である。
「日本の九条コンツェルンの一族にこの娘の名があるか調査してくれ。」
「かしこまりました。」
 エリーシャは書類を受け取ると部屋の周囲を埋め尽くすコンピュータのひとつの椅子に腰をおろす。
 そしておもむろにキーボードをたたき始めた。
 モニターに膨大な量のデータが表示されては消えて行く。

  

 その様子を眺めつつブランデーを口に運んでいたガルディの前に再びエリーシャが書類を差し出してくるのにグラス一杯を飲み干す時間もかからなかった。
「相変わらず早いな。」
「恐れ入ります。」
 機械的に頭をさげるエリーシャから書類を受け取ると、ガルディはその書類に目を落とす。
 案の定ガルディの予感は当たっていた。
 九条すみれ。
 九条コンツェルン会長・九条有朋の末孫娘である。
 現在はイギリスに留学中であり、東欧史の研究をしているという。
「なるほど東欧でも異彩の国だからな、我がアイアス王国は。興味を持ってもおかしくはないか。」
「よろしいのですか?」
 エリーシャの問いかけにガルディは顔を上げた。
「よいとは?」
「その娘を実験に使用すれば何かと問題があるのではありませんか。」
「確かに。」
 ガルディは口元を歪めて笑った。
「大事な孫娘が行方不明になったとなればコンツェルンは全力でその行方を捜すであろうからな。」
 しかし今更、彼女を解放するなどできるはずもなかった。
 彼女はアイアス王国のサイボーグ改造実験の事実をすでに知ってしまっているからである。
「やむをえまい。可愛そうだがやはり彼女には我々の役に立ってもらうとしよう。」
 ガルディが可愛そうなどとは微塵も思っていないことを見透かしているようにエリーシャの瞳が僅かにゆらめく。
「彼女は我らの技術の粋を集めた最新鋭サイボーグとして新しく生まれ変わってもらおう。万が一、手術が失敗したときは・・・いつもの通り処理をしておけばよい。」
「・・・はい。」
 エリーシャが無表情で答えた。
 ガルディの言葉どおり改造実験で死亡した者の多くは研究所で分解、または解剖されて次の実験のサンプルとされるのが通例であった。
 このとき成功不成功を問わず、手術で摘出し不要となった臓器や身体の一部をもって、その人間が狼を始めとする野生動物に襲われたなどという理由を付けて一般に公表するのである。
 これはもちろん国家機関の正式発表となるので、それに異論を唱えるものは殆どいない。
「それではグリエフ博士に手術の許可を申し伝えてよろしいでしょうか。」
「うむ。念入りに改造してやれ。」
「かしこまりました。ところで閣下。」
「なんだ?」
「閣下の行動を陛下に伝えた者の正体がが判明致しました。」
 そのときガルディの瞳が刃のように鋭く輝く。
「誰だ?」
「アンドレ・クレイン伯爵。故タニア王妃のお父上でございます。」
 その名を聞いたときガルディはククッと笑った。
「そうかやはりあの老人か。それで奴はどこまで掴んでいる?」
「政界から引退されてからかなりになります。たいした情報を得ているとは思えません。」
「姉上・・・いや王妃のことについては?」
 そこまで言ってガルディは自分の質問が愚問であることを察して苦笑をもらした。
「あれが知れていれば罷免どころですむはずがないか。」
 そのつぶやきをエリーシャは黙って聞いている。
 しばらくの沈黙の後、ガルディは何か思い至ったらしくエリーシャに告げた。
「グリエフ博士への指令に追加だ。九条すみれはAタイプサイボーグへ改造するように、とな。」
「Aタイプ!?あれはまだプロトタイプ段階です。危険ではありませんか?」
「ふむ。もう一人の娘、そう・・・フィオラ王女に面影の似たイギリスの娘が残っていたな。その娘で改造実験を行いデータを採取させろ。プロトタイプ技術の確立はほとんど達成されているはずだからな。それで充分であろう。」
「しかし、それではその娘はおそらく助かりません・・・。」
「かまわん。九条すみれの改造手術を成功させることを最優先させろ。」
 エリーシャが一瞬、言葉を失ったのはその捨て石のように改造される少女、またはAタイプサイボーグへ改造される九条すみれの運命を哀れんでのことであろうか。
 普通に暮らしていれば大財閥の孫娘として幸せな一生を送ることができたであろう少女も数日後には王立科学研究所地下の手術台で機械の身体へと改造されることになるのである。
 だがエリーシャの感情はすぐに元の氷のような冷たさを取り戻していた。
「ではただちにグリエフ博士に伝えます。」
 退室しようとする、細く引き締まったエリーシャの腰を眺めながらガルディはグラスに残ったブランデーをグッと飲み干した。
 グリエフ博士は現在、王立科学研究所の所長の地位を務めている。
 彼の父はナチスの科学者であり、大戦終戦時にこのアイアス王国に逃亡してきた。
 父の研究は言うまでもなく改造兵士の製造であった。
 グリエフもまた父の研究を引き継ぎ、大学時代に当時、同じ講義に出席していたガルディと出会うことになるのである。
 ガルディとの仲はその当時から始まっているのである。
 そのグリエフはガルディからの連絡を待ちかねていた。

 ピッ。
 そのとき机の上に置かれたコンピュータが通信の入ったことを伝える。
 グリエフが回線を開くとそのモニタに銀髪をショートに切りそろえた美女エリーシャが顔を出した。



「グリエフ博士、閣下から許可が下りました。閣下の指示と今回の改造仕様データを送りますので、ただちに改造手術に取りかかって下さい。」
 冷淡に告げるエリーシャにグリエフは喜色を浮かべた。
「お待ちしてました。すでに研究員たちは待機させてあります。2時間後には手術を開始いたしますと閣下にお伝え下さい。」
「わかりました。あと実験体「九条すみれ」はAタイプサイボーグに改造するようにというご指示です。」
「Aタイプサイボーグ?しかしあれはまだ・・・」
「もう一人の娘を使って技術を確立させた上で、とのことです。九条すみれの改造の成功は絶対条件です。我々には時間がないことをお忘れ無く。」
 淡々と伝えるエリーシャを舐めるように見つめながらグリエフは伝言を承諾した。
「承知しました。日本人の娘の改造は後日ということで。では2時間後に。」
 そう言って回線は切れた。
 エリーシャが時間を確認したのには理由がある。
 ガルディは毎回、改造手術をモニター回線を通じて観察するのが常であった。
 それが性癖からか、または科学者としての研究欲からの物なのかはわからない。
 グリエフは別回線を開き待機している研究者達に指示を出し、自分もまた白衣をまとうと部屋を出て地下の研究施設に向かった。
「それにしてもAタイプサイボーグとは。ふふふ、腕によりをかけて改造してやらねばな。」
 独り言をつぶやきながらグリエフは地下施設へ通じる秘密エレベータに乗り込んだ。

 ガルディ指揮下のアイアス王国情報組織である国家秘密情報機構によって拉致された人間は例外なくこの研究施設の地下に収容されている。
 九条すみれは大学のゼミの同級生リンダと一年後輩のディーナと一緒にこの地下の一室に監禁されていた。
 しかし身体検査をされた後、リンダだけが黒服の男達に無理矢理に連れて行かれ、彼女の泣き叫ぶ悲鳴が厚い扉の閉じられる音と共に消えたのが最後となっていた。
「すみれ先輩、私たち一体どうなっちゃうの?」
 ディーナは語学に堪能であった。
 そこで彼女は自分たちより先にこの地下室に収容されていた少女達から情報を得ようと試みる。
 そしてそこで聞いたことは彼女たちをパニックに陥れるのに十分な内容であった。
「すみれ先輩、どうしよう、どうしよう、私たち・・・実験材料に・・殺されちゃうよ。」
 小柄で丸顔のディーナの金色の髪をなでつつ、すみれは彼女を強く抱きしめる。
 自分も恐怖で誰かを抱きしめていなければ耐えられなかったのだ。

  

 そのとき厚い金属のドアがゆっくりと音をたてながら開かれた。
 壁に身を寄せていた少女達が全員小さく悲鳴をもらし、身体を丸くこわばらせる。
 次は一体誰が連れて行かれ実験材料にされるのか、彼女たちの瞳が恐怖に染まっていた。
 部屋に入ってきたのは黒服サングラスの男三名と白衣を着た男が一人である。
 男の一人が手に持った資料の写真と少女たちを見比べながら周囲を見回す。
 次の実験材料に決まった少女を捜しているのだ。
 そしてその視線は二人身を寄せ会うすみれとディーナの所で止まった。
「そこの金髪の娘だ。手術室へ連れてゆけ。」
 二人の悲鳴と黒服の男達がディーナの腕を掴み、取り押さえるのは同時であった。
「ディーナ!ディーナ!」
「いやあ!助けて、先輩ーっ!!いやよおおっ!!」
 泣き叫ぶディーナは容赦なく外にひきずり出された。
 そしてそこに待機していた研究者達によって用意されていた手術台に乗せられるとベルトで拘束される。
「早く手術室へ運びたまえ。」
「いやあーっ!!助けて、助けてぇぇぇっ!!」
 白衣の男が淡々と指示を下し、ディーナは泣き声と悲鳴を残して運ばれていった。
「ディーナァァッ!!」
 すみれは助けを求めるディーナの後を追いかけようと部屋を飛び出そうとしたがそれを部屋に残っていた例の白衣の男が押しとどめた。
「ほう君が例の日本人の娘か。」
 にやりと笑ったこの男こそグリエル博士本人であった。
「おい、この娘をSルームへ連れてゆけ。」
 そう言われた黒服の男は下卑た笑いを浮かべた。
 その部屋で行われることは誰もが知っていたからである。

 Sルームは病院で使われているような簡素なベッドが置かれているだけの無機質な部屋であった。
 ただひとつ普通と違ったのは左の壁がガラス張りになっていることである。
「あっ!!」
 部屋に押し込められたすみれは窓の向こうの部屋を見て息を飲んだ。
 そこには全裸にされたディーナが麻酔マスクを付けられた姿で手術台に拘束され、寝かされていたのである。
「ディーナ!?」
 すみれはその壁窓に駆け寄り必死にディーナに呼びかけるが、当然、彼女の声が届くはずもない。
 やがて白衣を着た男達がディーナの寝かされた手術台の周りに集まり始めた。
 そして周囲に設置された機材の準備を始める。
 そして寝かされたディーナを真上から照らし出す、天井の巨大な手術ライトが点灯された。
 手術開始の合図である。
「ディーナァァァッ!!」



 そのとき、すみれは背後から突然、抱きすくめられ慌てて声を飲み込んだ。
 そこにいたのはなんとグリエフであった。
 グリエフはすみれを強引にベッドに押し倒すと、口元を緩ませながら彼女の耳元にささやきかけた。
「よく見ておけ。今度は君があの手術台に乗ることになるのだからな。」
「ひっ!」
 蒼白になったすみれは恐怖で歯をガチガチ鳴らす。
 そのすみれの顎を掴んだグリエフは愉快そうにディーナのいる隣の部屋に彼女の顔を向けさせた。
「!!」
 そこでは信じられない光景が展開されようとしていた。
 身体の至る所にチューブやコードを差し込まれたディーナがレーザーメスを持つ男達によって腹部胸部を始めとする身体の各所を切り開かれ、こから臓器を摘出されているのである。
 そして彼女の両手両足が容赦なく切断されたとき、激しく飛び散ったおびただしい鮮血がそれを目の当たりにしたすみれの瞳を貫いた。
 意識が遠のいてゆく。

  

  

 果たしてどれくらい気を失っていたのであろうか。
 意識が戻ったとき彼女の下半身に鈍い痛みが走った。
「痛・・・。」
 痛みによりかろうじて覚醒した、すみれの目の前にはワイシャツをまとっているグリエフの姿があった。
 そのとき自分の置かれた状況を思い出したすみれはベッドから跳ね起きる。
「い、痛いっ!」
 下腹部の痛みが再びすみれを襲った。
 見れば自分は全裸であり、股間には異様な液体がこびりついている。
 何よりもすみれが自分が気を失っている間にされた行為を認識させられたのは股間から流れ出て白いシーツの上にひろがっている赤い血の跡によってであった。
「ううっ」
 すみれの瞳から涙が溢れ出てくる。
 すると身を起こそうとしたすみれの胎内に注ぎ込まれていた白濁の液が赤い物と混じってドロリと溢れ出てきた。
 初体験のその異様な感触に呆然とするすみれをグリエフは舌なめずりしながら眺めている。
「私は幸せだよ。君にとって人間の女性としての最初で最後の男になれたのだからね。」
 にやにやと笑いながらグリエフはネクタイを締める。



「君も美しいが、お友達も美しい身体になっているよ。」
 グリエフの言葉にすみれはベッドから這うように横の窓に飛びつき、その奥をのぞき込んだ。
「そ、そんな!?あれが・・・ディーナ、ディーナなの!?」
 ディーナの改造手術はまだ続けられていた。
 そしてもはや彼女の人としての肉体はそこには無かったのである。
 手術台に横たわっていたのは冷たい無機質な金属の骨格や電子部品で造り上げられた一人の少女の姿であった。
 かつてディーナと呼ばれた少女の頭部も鼻から上はもはや無く、それに代わる顔の形を整えるための金属骨格と特殊レンズの義眼が機械的にキョロキョロと動き続けている。

    

 ディーナの頭部にはコードが接続されており、その先には摘出された彼女の脳が透明なカプセルに納められ液体の中で浮かんでいた。
 もはや数時間前までお互いに身を寄せ合い、震えていた暖かい人間のディーナはそこにはいなかったのである。
 窓に両手を付き呆然とするすみれの眼前でなおも改造手術は続けられた。
 手術を行っている男達は無感情に彼女の身体に部品を埋め込み、配線をつなぎ合わせて行く。
 ディーナの緑色のレンズで造られた、むき出しの義眼が周りを認識しているのであろうか、なおも盛んに動き続けていた。

-なに?私、何をされているの!?助けて!!

 そう訴えかけてくるようなその義眼の輝きを目にしたとき、すみれは遂に耐えきれなくなり悲鳴をあげた。
「いやああっ!あ、ああ、ううっ、でぃ、でぃーなああっ!!」
 すみれはぐったりと崩れ落ち、嘔吐していた。
「う、うう・・・」
 すみれの嗚咽がもれる。可愛い後輩のディーナの無惨な姿を目の前で見ながらどうすることもできない自分が許せなかったのか。
「ん、どうした?」
 手術の様子を観察していたグリエフの言葉にすみれは顔をあげた。
 手術室のなかの男達が慌ただしく動き回り始め、ディーナの首筋に注射器で薬品を注入する者や計測器のコンソールボタンを激しく打ち込む者、それぞれがディーナの機械化された箇所だけでなく生身で残された部分に手を加え始めたのである。
 何かが起きたことは間違いなかった。

  

「ディーナ!どうしたのディーナ!?」
 すみれの声が聞こえたのであろうか。
 なんとディーナの上半分を完全に機械化された顔がぎこちなくすみれのいる方向に向いたのである。
 そして義眼が照準を合わせるように動いて彼女の姿を捉えた。
 すみれとディーナの視線が交錯する。
「でぃ、ディーナ、私がわかるの・・・?」
 ディーナのわずかに残された生身の小さな唇がわななくのが見える。
 そして、肘から先の部分には人工皮膚が張られているがすでに機械化されているディーナの左腕が震えながら宙を掴むように空しく弱々しく、駆動音をあげながらぎこちなく上がり始めた。
 もちろんその指の先にはすみれがいる。
「ディーナ!?」
「ほう珍しいこともありますね、脳を摘出された状態で覚醒するとは。これは良いデータが採取できそうだ。」
 横から顔を出したグリエフが単調につぶやく。
 すみれは変わり果てたディーナの唇がなおもかすかに動いていることに気が付いた。

  

「何?何か言いたいの?」
 すみれは必死にその言葉を読みとろうとする。
「・・・ま・・・マ・マ・・・ママ?・・・・・・ディーナ、お母さんを呼んでるの?」
 すみれの瞳から幾筋も涙が伝い落ちる。
「あっ!?」
 そのときディーナの機械化された胸部の回路など機械体のあちらこちらがバチリとショートし、大きな火花が飛び散ったかと思うと、ディーナの機械の身体がエビのように一度だけ跳ねた。
 ディーナの機械の腕が一瞬、硬直し、パタリと落ちる。
 手術台を滑り落ちた金属の腕にさらに火花が走った。
「グリエフ博士。」
 部屋に声が響く。
「死亡しました。あと一歩でしたが・・・申し訳有りません。」
「原因は?」
「記憶消去行程による脳の拒絶反応が強かったようで、人工神経中枢組織が負荷に耐えられず焼き切れた模様です。」
「次までに改善する方法を検討したまえ。」
「わかりました。」
 すみれは呆然と立ちつくしていた。
 物言わぬ機械人形となったディーナが手術室から運び出されて行く。
 その様子を見送るすみれの耳元に再びグリエルが近づきささやきかけてきた。
「大丈夫、次は成功させるさ。君には彼女以上に美しい身体をプレゼントしてあげるよ。」
 そう言ってグリエルはヒヒッと笑うと部屋を出ていった。
 入れ替わりに黒服の男達が入ってくる。
 すみれは服を着せられると再び監禁室へ連れて行かれた。
「ディーナは、ディーナはどうなるの?」
 すみれは下腹部の痛みと腿を伝い落ちる白濁液の不快感に耐えながら黒服の男に問いただす。
「そうだな、標本室のサンプルか、脳味噌を全部機械に改造してセクサロイドにされるかのどちらかかな。」
「セクサロイド?」
 男は下卑た笑みをすみれに向けた。
「性処理専門のアンドロイドだよ。この国のセクサロイドは結構、世界の偉いさんに人気があるんだぜ?」
「そ、そんな、ひどい・・・」
「ま、脳を全部機械にされちゃ、ロボットとかわらねえからな。あんたも立派なサイボーグになれるように神様にお祈りしておくんだな。ロボットになんかなりたくないだろう?」
 男はヒヒヒと笑うとすみれを個室に放り込んだ。

 最初の複数の娘達が捕らえられていた部屋とは違う部屋である。
 次に手術台に乗せられるのは自分だと、すみれは絶望で床にへたりこんだ。
 あれから一週間がたっている。
 すみれの手術はすぐには行われなかった。
 彼女の部屋の外の廊下を毎日何人かの少女達の泣き声が通り過ぎていったのは確かである。
 彼女たちもディーナと同じ運命をたどったであろうことは予想できた。
 そして遂に監禁室のドアが開かれると、すみれの前にグリエフが姿を見せた。
「九条すみれ君。待たせたね、かなり脳神経の改造技術の確立に手こずってね。実験材料を使いきってしまったよ、ハハハ。君は我々のこれまでの成果の集大成として、今からわたし自らの手で手術させてもらうよ。そして我々のために働いてもらわなければならない、いいね。フフフ。」
 すみれは狂喜の笑みを浮かべるグリエフへの恐怖で壁際に後ずさる。
「・・・お母様・・・お父様・・・おじいさま・・・助けて・・・」
 彼女の祈りは届くはずもなかった。
 黒服の男に両腕を抱えられたすみれは引きずられるように監禁室から連れ出されるのだった。
第二章/終


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