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杏奈はその日、夢を見た。大好きな片桐の書斎に飾られるセックスドールとして、一生を送る自分がそこにいた。動くことが出来ない代わりに、片桐の愛情を一身に受けることの出来る存在になっていた。そして、片桐のセックスシンボルを受け止めようとした時に、アクティブパートの知らせが身体中を駆けめぐり、夢から醒めたのであった。
杏奈は昨日のことを思い出して、久しぶりに感じた性的快感、そして、何度も訪れたオーガニズムの絶頂に気を失う程の快感を覚えた瞬間を思い出して、充実感にひたっていた。
杏奈は、自分が、片桐にだけ愛されるような仕打ちを受けたことを後悔していない自分がいることに気が付いた。しかし、絶頂で気を失いかけると意識を戻すように体内のコンピューターに制御されたのには、困ったことであった。その瞬間、自分が、スペースフィットスーツを脱いだ姿での状態は、性処理のための人形でしかない現実を噛みしめないといけなかったのである。一方、そのような制御装置が搭載されているからこそ、いつ果てるともしれない性的絶頂を可能な限り持続できる自分を幸せに思えたのであった。
杏奈はスペースフィットスーツ装着者専用調整ベッドの脇にある拘束ベルトリリースボタンを押して、杏奈の身体の拘束を解き、スペースフィットスーツ装着者専用調整ベッドから起きあがった。
そして、キッチンへ行って、片桐の朝食の準備をした。準備だけをして、調理は片桐の朝のお世話を終えてからでも間に合う状態にすることから、片桐の生活パートナーとして、秘書としての一日が始まるのであった。
杏奈は、片桐の寝室に移動して、ベットで寝ている片桐を起こした。
「伸二さん。時間です。そろそろ起きませんと、会社に間に合いません」
杏奈がそう声をかけると、片桐は、嬉しそうな表情で起きあがった。
「杏奈、ありがとう。杏奈が声をかけてくれる朝は最高だ」
私がそう言うと、杏奈は、
「嬉しいです。伸二さん。それではサニタリースペースに移動してください」
杏奈はそう言うと、起きあがった私の手を引いて、サニタリースペースに私を誘導していった。
まず。私の肛門のアタッチメントバルブに洗腸機を取りつけた。
私の腸内に残る汚物を全て排泄する作業が終わると、尿道のバルブに排尿チューブを接続し、私の膀胱内の残留液を全て空にしてくれた。そして、バスルームに私を連れて行って、私の身体の隅々まで洗ってくれて、少し熱めのお湯をはってあるバスタブに私を導き入れてくれた。私の身体を温めながら、シェーバーで、私の顔を丁寧に剃ってくれた。そこまでが終わると、杏奈は、歯ブラシに歯磨き粉をつけたものと水の入ったコップを持ってきてくれて、バスタブ内の私に手渡した。
私は、歯をその場で磨いて、口を濯ぎ、杏奈に空のコップと使用済みの歯ブラシを渡して、再び顔をお湯で洗った。湯船から私が出るのを見計らって、杏奈は、バスタオルを持ってきてくれて、私の身体をくま無く丁寧に拭いてくれ、傍らにあるバスローブを私に着せてくれた。
「伸二さん。リビングの室温は適温になっています。朝食までおくつろぎください」
杏奈に言われるままに、私は、リビングに移動し、用意されている朝刊に目を通していると、杏奈から、
「伸二さん、朝食の準備が出来ましたのでこちらにおいでください」
という声が聞こえた。私は、その声に誘われてダイニングテーブルに座った。テーブルのうえには、私の好きな堅焼きになっている目玉焼きとベーコン、トースト、サラダ、紅茶が並んでいた。そして、向かいの杏奈が座れるような特注の専用椅子に、杏奈が座っていて、
「どうぞお召し上がりください。朝のお料理は、味加減がビジュアルで分かりますから、私が作っても大丈夫なものになっているはずです。ご安心ください。せめて、味が分かるようなセンサーが付いていればいいのにと思うのですが、私にとってそれは適わないことなので、味が分からなくて申し訳ありません」
杏奈は、そのように謝罪するが、スペースフィットスーツを着るためそして、私のセックスドールとして作りかえられた身体の杏奈にそのような機能をつける必要はないので、杏奈があやまる必要は何もないのだが、私というご主人への忠誠心から出ている言葉なので、私は、杏奈に対して愛おしさの感情が芽生えてしまうのであった。
「杏奈、気にするな」
私は、そう言う言葉しか杏奈にかける言葉が見つからなかった。
「伸二さん、ありがとうございます。でも、私は、伸二さんのお側に使えるものとして、伸二さんが喜べないものがあるということが情けないのです。お許しください」
杏奈は、私にさらに謝罪の言葉を言ってきた。私は、その杏奈の言葉を制するように、
「誰だって不得意があるんだ。それが人間なんだ。それに杏奈は料理をするために創られたサイボーグじゃないんだ。私の完璧な秘書業務と私の性癖を受け入れられるような処置を施したパートナーとスペースフィットスーツという最高で最新の商品の着用サンプルとしての使命を完璧にこなすためのサイボーグなんだ。だから、料理のことを悩まないでくれ。私は、今の状態の杏奈がいればそれが一番幸せだ」
「伸二さん。本当にありがとうございます。そのお言葉に甘えさせていただきます。あっ、そうだ。そろそろ、お召し上がりにならないと迎えの車が来てしまいます。新聞の方は、私が要点整理したものを今朝のニュース映像と共に処理して、社長車のディスプレイでご覧に入れます」
私は、杏奈が作ってくれた朝食を頬張りながら、杏奈の言葉を聞いていた。
杏奈は、秘書としての完璧主義のため、非人間的なところもあるが、任務に忠実で、手を抜かないし、仕えた重役に対して忠誠を誓う、秘書としての限りなく完璧に近いアビリティーを持っているという評価が人間であった時にされていたが、サイボーグになっても、その性格は変わらないものだと、私は、変な感心を心の中でしていた。もっとも、それは当たり前のことなのだ。何故なら、彼女は、サイボーグであり、ロボットにされたわけではないのだから、生体脳は完璧に残っていて、いくら、体内のサブコンピューターと協調関係にあっても、生体脳が身体全体を支配し、感情を司っている存在なのだから、当たり前のことなのだ。私は、一人で、思い出し笑いをしてしまった。
「伸二さん。なにか楽しそうですね」
「杏奈のことを思っていたら、幸せになってしまった」
「そうですか。ありがとうございます。光栄です。あっ。早く着替えをしていただかないと迎えの車が来てしまいます」
杏奈は、そう言うと、食べ終わった食器を食洗機の中に入れて、私をクローゼットに誘導し、私の着替えを手伝ってくれた。
着替えが終わり、私たちが再びリビングに戻ってくると、玄関のチャイムが鳴り、迎えの車の到着を知らせた。
私の杏奈から、私専用秘書杏奈に切り替わる時を迎えたのであった。
杏奈にとって、スペースフィットスーツを装着すると外からの刺激は直接触れられたという感触を
感じない世界に閉じこめられるということであり、秘書としては、このような外部刺激を感じないということは、たとえば、なにかを持っていても、持っているという事実を視覚で確認しているだけで、触覚としての情報が杏奈の脳に届かないという奇妙でアンバランスな世界にいるのであった。しかし、それが、片桐の杏奈に対して狙って望んだものであり、杏奈を片桐だけのものにするための処置なのだから、杏奈はそのことを甘んじて受け入れなければならなかった。杏奈は、そのアンバランスに最初は苦しんだが、今は楽しんでさえいたのであった。
私と杏奈は、専用エレベーターで、専用玄関の車寄せに降り立つと、杏奈は、私を車に誘導し、私を乗せた後、自分も乗り込み、秘書サイボーグ専用シートに座り、自らを車の一部にするために、シートに固定して、バックパックにある接続コネクターと車の接続システムを接続した。
「片桐社長。おはようございます。本社到着まで、今朝のニュースと朝刊のダイジェスト番をディスプレイに流しますのでお楽しみください。本社までの予定所要時間は、約20分です」
そして、私の専用車のナビシステムに、自分の身体のラン回線を通じて得た渋滞情報を入力し、
最適ルートを決定して、運転手への指示を開始した。私は、その光景を見て、杏奈が機械として、秘書サイボーグとして機能する瞬間を感じ、性衝動コントロール装置がなかったら、性的興奮から、ペニスが勃起して大変なことになっているのだろうと考えて、クスリと一人笑いをした。
会社に着くと、杏奈は、私の執務室に付随しているサニタリールームで、私の尿の処理をまず行ってくれた。
その後、私のスケジュールの調整とブリーフィングを行い、杏奈は、自分専用に作られた、社長室の隣にある社長秘書室の秘書サイボーグ専用シートに身体を固定すると、シートから出ているケーブル類と自動接続され、シートと一体となり、我が社のコンピューターシステムと一体の存在となった。
杏奈にとって、職場や社長専用車の中、片桐と暮らす住居の中、その他のサイバーヒューマン社が管理する施設の中に設置されている、サイボーグ専用のシートか、サイボーグ専用のメンテナンスベッドに繋がれることが、自分が機械と生体の中間的存在であると認識させられる瞬間であった。杏奈は、この時はいつも、『自分は機械じゃない。意志がある機械は存在しない。自分は人間なのだ』そう言い聞かせた。
しかし、自分が繋がれるサイボーグ専用調整ベッドが無いところで暮らすことは、命の長さを3600時間に制限されることになるのであった。スーパーサイボーグに杏奈がなるのであれば別だろうが、スペースフィットスーツを装着させられるためのサイボーグ改造手術を受けた杏奈にとっては、スペースフィットスーツのパフォーマンスが、全てなのである。スペースフィットスーツのパフォーマンスとしての連続したノーメンテナンス持続時間を超えることは不可能であった。いつも、命の期間の制限を受けた生活を強いられることの恐怖を味わうのであった。普段は感じないそんな漠然とした恐怖心が、スペースフィットスーツの専用シートに座った時に何故か思い浮かぶのであった。命を長らえた安心感が、そう言う恐怖心を甦らせることは、不思議な感情であった。それは、杏奈がいつも死と隣り合わせの生活を送っている証拠でもあった。
杏奈は、同じ酸素を呼吸している人間であるにもかかわらず、スペースフィットスーツから出ても、24時間しか生きることは出来ないし、スペースフィットスーツ装着状態でいても、3600時間が限界の命なのであった。もし、それ以上生きたいのなら、スペースフィットスーツを装着した状態で、定期的にメンテナンスシートに繋がれるしかないのである。
杏奈のスペースフィットスーツは、片桐か谷本以外には、脱がすことが出来ないのだ。もし脱がしたとしても、24時間以内にサイボーグ用のメンテナンスシートに座るしか生命維持が出来ないのだ。杏奈は、生涯をスペースフィットスーツの中で囚人生活を送るしかないのである。
しかし、それでも、杏奈は、幸せだった。何故なら、生涯この姿でいることが、片桐の側に仕えられることなのだからである。その幸せに比べれば、スペースフィットスーツの囚人になることや、この先に待ち受けている広告媒体としてのスペースフィットスーツ装着者として見せ物になることなど苦にはならなかった。杏奈にとって、片桐の従者であり、専用秘書であることは、何にもまして、幸せを感じることなのであった。
杏奈は、そのような恐怖心を乗り越え、充実感と幸福感に包まれながら、この日の秘書業務を開始したのであった。機械と一体化して状態での秘書業務だった。
杏奈に受付から、来客を知らせるコールが来た。
「水沢主任。社長にお客様です。F国大使がいらっしゃいました」
「わかりました。ご案内してください」
杏奈は、専用シートからリリースボタンにより、拘束を解除して、立ち上がった。杏奈は、社長室に入ってきて、F国大使が来訪したことを私に告げた。
「社長、F国大使のポール氏がお見えになりました。貴賓応接室にお通しします」
ロボットの抑揚のない声ではなく、杏奈本来のものに合成された声が聞こえる。この声はこの声でまた杏奈らしくて私は好きなのであった。
「わかった。ご案内してくれ。きっと君を見に来たんだよ。F国は、長期宇宙作業のミッションにご熱心だからね」
「それでは、ご案内した後、私とスペースフィットスーツの説明のため、宇宙開発担当役員の玉田常務と谷本ドクターにも同席するように手配いたします。それではお出迎えに行って参ります」
杏奈は、私の部屋を出て行った。
杏奈にとって、ボディーラインのハッキリ見えるスペースフィットスーツ姿をジロジロ見られるのは、いくら、作り物に近い身体になったとしても、恥ずかしいことだと思うが、わが社のために杏奈には耐えてもらわなくてはならないことなのだ。しかし、杏奈を見られるのはともかく、杏奈の身体に私以外の人間が触れるのは、私には辛いことだった。
杏奈は、社長室を出て、社長秘書専用執務室で宇宙開発担当役員と谷本に貴賓応接室に来てくれるように頼んでから、社長室のあるフロアのエレベーターホールに向かった。
ちょうど、F国大使を乗せたエレベーターが、フロアに着くところだった。
エレベーターのドアが開き、F国大使が出てきたのを確認して、杏奈は、F国大使に向かって、
「ようこそ、サイバーヒューマン社にお越し頂きましてありがとうございます。社長の桐島がお越しをお待ちしておりました。どうぞこちらへ、ご案内します」
杏奈をF大使のポールは見ると少し驚いたようなそぶりを見せたが、気を取り直したように平静を装い、杏奈の案内に従い、貴賓応接室に向かった。
貴賓応接室には、桐島と宇宙開発担当役員の玉田明子、そして、谷本が待っていた。
「ポール大使、お待ちしておりました。ようこそ。」
桐島がそう言って、ポールを迎えた。
「桐島社長。来てすぐに先制攻撃かね。私が見たかったものを見せるなんて。しかし、サイバーヒューマン社の傑作商品がまた出来たね」
「恐れ入ります。大使。でも、水沢君をお出迎えさせたのは演出でも何でもありませんよ。この女性は、私の秘書ですからね」
「スペースフィットスーツを着た、歩く広告塔の秘書とは考えたね」
「恐れ入ります。この、スペースフィットスーツのご説明をするために、宇宙開発担当役員の玉田と開発責任者の水沢を呼んでいます」
「宇宙開発担当役員の玉田です。よろしくお願いします」
「スペースフィットスーツ開発責任者の谷本です。よろしくお願いします」
「ほう。才色兼備の役員や幹部がサイバーヒューマン社には、多いと言われているが、二人とも素晴らしい。よろしく。F国大使のポールです」
「大使、どうぞお座りください。スペースフィットスーツをじっくりご説明します。どうぞ貴国での採用を是非ご検討ください」
「この二人と水沢さんが我が国に来てくれるのなら、考えようか」
「大使、また、そのようなことを言われて、困ります。でも、母国の大統領に説明が必要なら、私も一緒でしたら、この3人と貴国にお伺いします。私の専用機を使用しましょう。機内でのおもてなしをいたしますよ」
「片桐社長。本当かね。約束だよ。それでは、今日説明を聞いて、早速、本国に提案することにしよう。本国の宇宙開発に必要な技術なので採用間違いないと思う。早速、説明を聞こう」
片桐はポールが上機嫌になったのを見て、説明に入ろうとした。すると、杏奈が、他の秘書室のメンバーに指示していたポールの好きな紅茶が運ばれてきた。
「やはり、水沢秘書は気が利いているね。私の大好きな紅茶の銘柄を覚えていてくれたのだね。嬉しいよ。やっぱり、秘書としての技能も最高の秘書を持っていて、片桐社長が羨ましいよ。水沢さん。是非、我が国に来てくれ。思う存分我が国を楽しむつもりで来てくれ。美味しいものもいっぱいご馳走するよ」
「大使、ありがとうございます。でも、私は、このスペースフィットスーツから出ることは出来ないので、ご馳走は食べられませんが、F国の景色を満喫させていただきます」
杏奈の答えに、ポールがしまったという表情で、
「水沢さん、申し訳ない。長期装着型宇宙服であるスペースフィットスーツを着ていることを忘れていたよ。スペースフィットスーツは、装着したら脱ぐのが大変なんだったね。宇宙空間での作業性のため、脱ぐ自由を失うのを忘れていたよ。申し訳ない」
「大使、気にしないでください。私は、この姿で生涯を送ることに誇りを持っています。それより、お茶が冷めないうちにお飲みになってくつろぎながら、私の身体の説明を聞いてください」
杏奈に慰められた形になって、ポールは、応接ソファに座り、出された紅茶を飲んだ。頃合いを見計らって、私は、玉田に、スペースフィットスーツの説明を始めさせた。
「玉田君、我がサイバーヒューマン社の新製品のスペースフィットスーツの説明を始めてくれ」
「解りました。それでは、大使、わが社の新製品であるスペースフィットスーツの説明をいたします。F国の宇宙開発においてわが社のスペースフィットスーツが使用される光栄にあずかりますことを祈っております。水沢さん、映像システムの用意をしてください」
杏奈は、玉田の言葉を予測したように、玉田のリクエストの言葉が発せられた時は、もう既に映像システムの用意が完了していた。杏奈の秘書としての非凡さの賜である。この予期しての動きは、秘書サイボーグとして、計器類をいじることなくシステムを動かすことの出来る有利さと本来の人間として持っている勘の良さの複合したものであった。その意味においても、杏奈はサイボーグとしてのマン=マシン協調システムが順調に作動している証でもあった。
映像は、杏奈がスペースフィットスーツを装着できる身体に改造される映像とスペースフィットスーツを装着されている映像、そして、スペースフィットスーツの装着により宇宙作業がどの位有利になるかが視覚的に納められているものであった。
約30分間に納められたVTRが終わると玉田が、補足説明を開始した。
「以上が、スペースフィットスーツの全般的なPR映像です。水沢さん、こちらに来て」
玉田は、杏奈を近くに来るように手招きした。
杏奈は、その指示に従い、玉田の近くに移動した。
移動する時に、秘書サイボーグとしての社内ホストコンピューターとのオンライン回線接続用のケーブルが繋げられている為に、そのケーブルが外れないように注意しながらの移動になった。そのケーブルが外れると映像システムのコントロールなどの業務に影響が出てしまうので、杏奈は注意を払っての移動であった。
「このスペースフィットスーツは、バックパックによる恒久的生命維持システムにより、3600時間の間、宇宙空間での連続作業を可能にしています。循環液の交換やエネルギー供給システムの再整備により、装着時間は、永久的なものになっています。水沢さんは、わが社のモニター被験者のため、生涯、スペースフィットスーツを脱ぐことが出来ないように、スペースフィットスーツの着脱用のジッパーは、半永久的なロックシステムで、社長と谷本ドクター以外の人間が脱がせることが出来ないようになっています。水沢さんがスペースフィットスーツを出ることが出来るのは、この商品が生産中止になり、ユーザーが全ていなくなった時か、スペースフィットスーツの故障による緊急時のみになります。通常の装着者は、地球帰還時や宇宙ステーションでの作業時の許可された時には、スペースフィットスーツを脱いだ状態での生活を送ることが出来ます。ただし、スペースフィットスーツ未装着状態では、通常装着者の生命維持のためのルーティーンとして、240時間に一度、へその生命維持コネクター経由若しくは、装着者メンテナンスシートに横たわることにより、体内タンク内の循環液の交換と機械動力用蓄電池の充電を行わなくてはいけません。その他にも、サイボーグ体としてのメンテナンスの目的もあるため、240時間という時間が現時点での素体単体でのノーメンテナンスの限界になります」
ポールは溜息をつきながら、
「ということは、240時間は人間として、大気の感触を味わえるわけだ。しかし、そこまでの制約を持ってまで、スペースフィットスーツを装着したいと思うアストロノーツが、果たしてどの位いるのかね」
玉田は平然とした表情で答えた。
「世界中のアストロノーツを対象に無作為のアンケートをとったところ約40パーセントのアストロノーツが、身体の変更を伴っても長期に装着可能なスペーススーツを着用することを熱望しています。内訳的には、長期に宇宙空間での活動を行ったアストロノーツほど、身体の変更をして、脆弱な人間の身体を強化した上で、長期着用型の宇宙服の装着を希望しているという結果になっています」
「そう言うものかね。死と隣り合わせのアストロノーツの考えはわからないね。我が国のアストロノーツもアンケートに答えたのかね」
「はい。もちろん答えています」
「ところで、水沢君のスペースフィットスーツを脱がせた状態は生で見れないのかね」
「はい。申し訳ありません。大使。彼女は、秘書用サイボーグとしての機能も搭載したサイボーグアストロノーツなので、生命維持に関するタンクの容量が極端に小さいため、スペースフィットスーツ未装着状態での生命維持の時間がもの凄く短いのです。スペースフィットスーツの着脱だけでも、生命維持が出来ない程しか素体単体での生命維持が出来ない身体なのです。その為、スペースフィットスーツを脱げることがないような特殊加工を施しています。従いまして、スペースフィットスーツの未装着状態をお見せできません」
「水沢君は、そのような状態になることをよく納得したね」
杏奈は答えた。
「私は、わが社の為に、このような状態になっても悔いはありませんでした」
「本当に、水沢君は、忠誠心の固まりだな。秘書の鏡だ。私の秘書にも見習わせたいよ」
「よろしければ教育しますよ。大使」
杏奈が冗談を言うと、ポールは肩をすくめ、
「検討して、お願いしようとするかね」
といった。しかし、玉田にも知らせていない事実として、杏奈の未装着状態にすることは充分に可能なのだが、私のセックスドールとしての姿を見せたくない事と、杏奈を他人に触らせたくないという私の要望があることが理由なのである。杏奈は、スペースフィットスーツを脱げば、人形その物の姿をさらすことになるのである。
この事実を知るのは、わが社でも、杏奈自身と、杏奈の完全管理者である私と主治医の谷本の
3人だけなのである。極論すると杏奈のサイボーグ体の秘密を知るものは、世界中に3人しかいないのであった。
「秘書サイボーグか・・・。そちらの商品としての発注も真剣に考えることになるかもしれないな。瞬時にコンピューターネットワークとのやり取りが可能な秘書というのは、ものすごいものだしね。諸外国に先んじて我が国が導入を検討するかもしれない。もちろん。その時は、大統領に言って、私の秘書も秘書用サイボーグに改造してもらうがね」
「大使。ありがとうございます。水沢君のシステムの全てまで気に入ってもらい光栄です」
私は、思わぬ派生新製品の受注に対して、喜んでいいのかどうなのか分からなくなった。しかし、ポールは、真剣だった。
「片桐社長。本国にスペースフィットスーツと秘書サイボーグのプレゼンテーションをするためにすぐにでも予定を調整して欲しい。いつならスケジュールが会うのかすぐに答えて欲しい。我が国としては、積極的に採用に向かい、進んでいくつもりだ。本国の大統領と科学技術大臣からも、私がいいと判断すれば、サイバーヒューマン社の新製品のいくつかを導入に向けた商談を行っていいとの了解を取っている。つまり、白紙委任を受けている。是非ともよろしく頼む」
「ポール大使、ありがとうございます。スペースフィットスーツとその装着者についての資料はすぐに用意できますが、秘書サイボーグに関しては、商品としてのものではなく、たまたま、水沢君という、優秀な秘書をスペースフィットスーツ装着者の商品見本にした関係で、水沢君の秘書能力も温存しようとした結果としての副産物なのです。いわば、社内利用のみの試作品と同じなので、商品としてのプレゼンテーション資料が整っていません。その作成の時間が、どの位かかるのかを調べないと即答が出来ません」
私がそう答えていると、傍らで、杏奈が、
「社長。玉田常務。今、特殊人体開発部門との交信をしたところ、秘書サイボーグの商品提案としての資料作成の時間的余裕をやり取りしたところ、約一週間で、完璧な商品化した場合の資料とプレゼンテーションに必要な資料が、仕上げられるとの結果をもらいました」
杏奈の秘書サイボーグとしての機能をフルに使い、即座に結論がかえってきたのだ。玉田常務は、その実力の凄さに、目を丸くしていた。そして、ポール大使は、自分の目の確かさに、納得げになっていた。
「分かった。水沢君。それでは、私と玉田君、谷本君、それに、君のスケジュールが最短で取れる日をさがしてくれ」
すると、ポール大使がすかさず、
「我が本国の素晴らしさを皆さんに見てもらうことにしたいから、商談の時間と晩餐の時間、それにフリーの日を1日か2日とって欲しい」
「大使、分かりました。水沢君。最低4日でスケジューリングしてくれ」
私のリクエストに、杏奈は即座に答えた。
「土日というものを挟めば、来週の木曜日から、日曜日までなら、日程をとることが可能です」
私は、玉田常務と谷本ドクターに同意を求めると、二人とも、軽く首を縦に振り、同意してくれた。
「それでは、大使、来週の木曜日に本国へ向けて出発いたします。私の専用機で参りますので、大使と随行の方もご一緒にいかがですか?F国までの行き帰りの行程は、私どもでご接待いたします」
「片桐社長。それはいいアイデアだ。お願いするよ。水沢君。晩餐会では、君だけ食事を口に出来なくて、辛い思いをさせるかも知れんが、それ以外で、我が国を堪能してもらうよ。楽しみにしていてくれ」
ポール大使の言葉に杏奈は、
「お気遣いありがとうございます。私は、サイボーグとなってだいぶ経ちますから、経口の食事というものに対しての感情は、他の人が取っているのを見ていても何の抵抗感もありません。ご安心ください。むしろ、経口食を取れないということの代わりに、サイボーグでなくては、味わうことの出来ない素晴らしさもあります。その素晴らしいことの方が、食べ物を食べることが出来なくなったというサイボーグとなったことの代償よりも大きいので気にしていません。ご安心ください。それに、サイボーグとしての機能の素晴らしいところをもっとご覧に入れることが出来ると思います」
「それは、楽しみだ。片桐社長、来週の木曜日よろしく頼む」
「承知いたしました。大使。私たちも、F国の週末を楽しみにしております」
「ところで、スペースフィットスーツを他国は検討しているのかね。特に、お膝元のJ国は、採用する動きがあるのかね。」
「J国に関しては、もちろん、採用を検討していますが、大使もご存じの通り、スペースフィットスーツをもう一歩進めた惑星探査用スーパーサイボーグの商品化の方により興味を持っています。J国は、土星の衛星の有人探査に宇宙開発の重点を移していますからね。スペースフィットスーツよりも、惑星探査用スーパーサイボーグの我が社での商品化待ちといったところです。その他の国は、R国やA国、C国など数カ国が我が社のスペースフィットスーツに興味を持っていて、引き合いが来ています、しかし、プレゼンテーションをおこなうことになったのは、貴国が初めてです。たぶん。貴国がスペースフィットスーツの最初の採用国になると思われます。もっとも、R国は、E連合の宇宙開発連合加盟国なので、貴国が採用していただければ、R国も追随するものと思います。その点でも、貴国の引き合いが重要だと当社も心得ておりますので、誠心誠意のプレゼンテーションをさせていただきます」
「片桐社長。よろしく頼むよ。しかし、J国は、本来の人間の肉体のほとんどを機械と電子機器に置き換え、姿形も人間とはかけ離れたスーパーサイボーグにアストロノーツを改造してまで、土星の有人探査を実現しようとしているというのは凄いよ。我が国では、宗教上、スペースフィットスーツ装着者までのサイボーグ化が世論を納得させるぎりぎりかも知れないな。木星や土星や冥王星等の太陽系の外惑星を有人探査するには、スーパーサイボーグの実現しかないことは、分かっているんだがね。まだ、そこまでの決定を下すことは出来ないからね。月の共同開発と大型宇宙ステーションの建造を優先させるしかないと思っているよ。まあ、J国の土星探査用サイボーグが、我が国と協働運用する月面軌道ステーションで建造される宇宙船に搭乗するために、我が国の月面基地に立ち寄ることにはなると思うがね。それを楽しみにしていることにしよう。それでは失礼する」
ポール大使は、そう言うと、満足げな表情で貴賓応接室を出ると、我が社を後にしたのだった。