意識が戻った。私の目の中に文字情報が浮かんでいる。その文字が時間であることが確認できた。表示が0Y450D00H00M51Sとなっている。
  火星探査・開発用サイボーグへの改造手術が始まった日から20日が経っていた。ものすごく長い間身体をいじられ、徐々に機械人間へとの変更がされてきたのだと実感した。そして、改めて、自分の身体を見るとラバーフィットスーツを装着されていたときより二回りぐらい大きく身体がなっていて、しかも、少しごつごつした感じになっていた。濃い緑色をした人工皮膚は、ゴムの感覚と鈍く光る金属光沢を併せ持いた。これが私の新しい皮膚なのだ、もう、ラバーフィットスーツのように脱ぐことは出来ないのだった。
  胸の部分には、識別のために、MARS1 HARUKA KISARAGIという文字が書かれていた。文字の下にリーダーとしての赤いラインが引かれていた。同じ文字が、バックパックの部分にも大きく書かれていて、誰なのかがすぐに判るようになっていた。みんなほぼ同じ姿になるということなのだ。
  そして、音が今までより多くのものが大きく聞こえるようになっていた。人工聴覚システムのためであろう。しかし、心臓の鼓動がやはり聞こえることはなかった。やはり、人工心肺がロータリーポンプに変わっているためであることがわかる。
  よく見ると、処置室の光量が最低に抑えられていることに気が付く、私の視覚は、暗いところでもものが見えるようになっていることを実感した瞬間であった。
「お姉ちゃん、これから二日ぐらいで徐々に新しい身体に慣れてもらうからね。それで、処置台を離れて普通に活動できるようになってもらうからね。いいわね」
  えりかの声が聞こえる。
「感覚剥奪処置を徐々に解いていきます。それに部屋の明かりを徐々に強くしていきます。徐々に慣れていってもらいますよ。はるかさん」
  まりなさんの声が聞こえる。
「これから2日間かかって、サイボーグとしての人工器官が正確に作動するかをテストしていくわよ。いいわね」
  佐藤ドクターの指示が聞こえる。
「本当にわずかになったけど生体部分の機能が維持されているか、機械部分と協調が順調かを調べていきます。いいですね」
  前田ドクターの声が聞こえた。
「わかりました。みんな、私のまわりで作業しているんですね。早く、起きあがりたいです」
  あれ?私の声が機械的で抑揚が無くなっている。
「何か、私の声が変なんですが・・・」
「如月大佐は、今、発声用外部スピーカーにより声を出しているのです。火星で外部に対し緊急時に音声を発すること意外に使うことがないので、音声の抑揚なんて必要ないの。普段の会話はコミュニケーションサポートシステムでおこなえばいいしね。でも、発声用外部スピーカーの使い方も知っておいてもらいたかったから、音声システムを発声用外部スピーカーに切り替えておいたの。コミュニケーションサポートシステムに切り替えたいと思ったら、その様に脳が思うことによって切り換えが出来るはずよ。やってみていてくれない。感覚剥奪処置を解くのに少し時間がかかるから、その間音声システム切り替えのシステムの使い方を覚えておくのよ」
  佐藤ドクターが、指示を出した。
「はい。わかりました。システムを使いこなせるようにやってみます」
「ほら、如月大佐、切り替えられたでしょ。呑み込みがやっぱりいいわね。さすがにサイボーグになるために生まれてきた試験体ね」
  前田ドクターに褒められているのか何かわからない言葉を投げられた。
  でも、今度は確かに私の声で抑揚のある声で話せていた。コミュニケーションサポートシステムを使って会話をしている証拠である。その後何度か切り換えの経験をして、使いこなせるようになってきた。でも、私としては、普段は、抑揚のある私の声を使いたいから、コミュニケーションサポートシステムを使って会話をすることをおもに考えていこうと思った。
  そうこうしている内に、普通の明るい処置室の室内の光度になってきた。
  私の人工視覚システムもこの明るさになれてきた。まりなさんが、
「感覚剥奪処置が完全にとけました」
  と報告を入れる。
  佐藤ドクターが、
「部屋の明かりを地球赤道標準晴天光度に上げてください。これから、人工皮膚のエネルギー及び酸素生成システムの起動状態のテストです。サイボーグ個体内のエネルギーが不足しているので、作動テストの前に、エネルギー補給も必要なのです。今現在は、セーブモードで何とか各器官が活動している状態ですから、充分に動けないと思いますが、これからの作動テストは、通常に近い作動モードで行いたいですからね。そうじゃないと意味もないし、如月大佐だってはやく自由に動き回ることが出来るようになりたいでしょうから」
「了解しました。部屋の光度を地球赤道標準晴天光度に上げていきます」
  えりかが処置室の照明コントロールシステムを操作した。処置室がどんどん明るくなっていった。そして、私は、赤道上の真昼を思わせる照明の中で、6時間かけて、身体のエネルギー貯蔵量をフルパワー状態にすることが出来た。
「もともとの生体の皮膚だったら、火ぶくれ状態の日焼けだったのに、今は、強い太陽光に当たることが何ともないどころか必要なことっていうの、どういう心境?」
  えりかに質問され、
「心境としては、複雑だけど、最高に気持ちいいし、エネルギー貯蔵インジケーターがどんどんフルに向かっていくのが楽しく思えちゃう。」
「それは、私にとっても複雑かな?だって、お姉ちゃんがどんどん機械の身体に馴化していることだもん。悲しいのと嬉しいのが半々だよ」
  そう言って悲しい声になるえりか。えりかに悲しまれるのを見ることが私にとって拷問のようにつらい。妹の悲しむ姿を見る方が、自分の悲しみより悲しいものなのだ。
  エネルギーがフルになると今まで身動きがとれなかったが嘘のように身体中にパワーがみなぎるように思えた。実際には、生体の感覚とは違うので錯覚なのかもしれないと思った。しかし、佐藤ドクターの言葉でそれが錯覚ではないことがわかった。
「身体中にパワーがみなぎったような感覚があるでしょ。それは、脳に補助コンピューターを通して、機械部分の器官の状態を感覚的に送信するシステムが正常に作動しているからです。決して錯覚ではないのよ。機械と生体がうまく協調しだしている証拠よ。喜ばしいことです」
  私の身体が順調に機械と生体の共生システムが順調に私の生命活動を支配してきていることの証であった。
「さあ、サイボーグシステムが順調に作動しているかのチェックから始めましょうか。前提として、視覚と聴覚、コミュニケーションサポートシステムが作動していますね」
  佐藤ドクターの問いかけに私は、「ハイと答えた」
「よしよし、それらの部分はOKだね。みんなも今の如月大佐の声が聞こえたね」
  みんなが「OKです」と答えた。佐藤ドクターが、動作確認を続けた。
「それじゃあ、まず手からいきます。指を握ることから始めましょうか。握ってみて」
  最初はぎこちなかったけれど二回三回とおこなう内にスムースになってきた。
「優秀優秀。すぐに機械の身体に対応したようね。さすがに特に今回のプロジェクトの被験者として選抜された素体だわね。卵を握ったり、鉄の玉をつぶしたりという力加減の違いに慣れることは第二段階だから、後でじっくり訓練していきましょう」
  壊れやすいものを持つ対応から、強い力を使うための対応といったパワーの使用程度の使い分けを意識せずに行うまでには、まだまだ訓練が必要なことだし、それができるまでは厳しい訓練が行われるはずであった。
「如月大佐たちの場合は、そんなに苦労はしないはずよ。機械との強調適正が並はずれて高い人たちが今回のプロジェクトで選ばれた人たちなんだし、その中でもずば抜けて適性が高い被験者の一人が如月大佐なんだから」
  前田ドクターが勇気づけるような言葉を発した。
  そして、指の次は腕、脚の関節、首、その他関節を動かし、身体が私の本来の生体脳によってコントロールされていて、私の意志で作動することがチェックされ確認された。そのときの生体部分のストレスや負荷などが、前田ドクターによってチェックされ、多くのデータを採られていった。
  一通りの身体の部分が自分の意志でコントロールできることがわかって、私としては一安心していた。
「この程度でホッとしている場合じゃないんだよ、お姉ちゃん」
「そうですよ、はるかさん」
  二人から叱咤が飛ぶ。
「サポートヘルパー二人は。如月大佐の性格をより熟知しているから手厳しいわね」
  前田ドクターが冷やかしてきた。
  本当に二人とも人には厳しいんだから。
「それじゃ、如月大佐にホッとさせる余裕を与えないためにも、次の動作チェックを始めましょうか。如月大佐、処置台から上半身だけ起こしてみましょうか」
「わかりました。トライしてみます」
「はるかさん、ゆっくり動作を起こしてね」
  まりなさんの声に押されるようにして、動作にチャレンジした。
  非常にスムーズに上半身を起こすことができた。今までの身体に比べて、より簡単にこの動作を行うことができた。関節に取り付けられた稼働補助用関節倍力モーターや、人工筋肉により、私の身体を起こすことぐらいは、それほどの負荷を必要としない作業になってしまったのであろう。上半身を起こす動作が自分の持っていた感覚より楽に行えることに私自身新鮮な衝撃を受けた。
「どうしたの。生体部分も順調に機能しているし、サイボーグ器官の動作も正常だし、マンマシンシステムも負荷なく強調しているけど、何か変わったことでもあるの」
  前田ドクターの質問に私は、
「何か、今までより楽に動作できるのでかえって面食らった状態なんです」
  私の答えに、佐藤ドクターが、
「それが、あなたの新しい身体の能力のほんの一部なのです。慣れてしまうと様々な行動の可能性が広がって楽しくなるはずよ。サイボーグの身体の能力をこれから余すところなく身につけていってね。何も面食らう必要はないし、新鮮な衝撃を当たり前のように受け止めていくこと。これからもそんな衝撃の連続になるはずだから」
「わかりました。そんな心の持ち方で、これから望んでいきます」
  これだけ機械だらけの身体になって、「こころ」は、どこにあるのだろうかとも思ったが、脳がオリジナルで残っている限り、私の意志がある限り、「こころ」があるのだと私は思い直した。本当に新鮮な驚きと衝撃が次々に私をおそった。


「次は、処置台を離れて立ち上がってみようか」
  佐藤ドクターに促され、私は処置台から上半身を再び起こし、身体の方向を変え、処置台から、脚を床に移し、立ち上がった。本当にスムーズに驚くほど軽々と動くことができた。サイボーグの身体の力強さを感じた。今までに行った動作は、サイボーグの身体の能力の本当の氷山の一角でしかない。今まで教育訓練で学んだ能力を自分のものにすれば、とてつもない超人になることができるのだ、その能力を発揮できるということは、人間という範疇ではなくなることになるかもしれないのだ。
「次は処置台のまわりを歩いてみて」
  私は、佐藤ドクターの支持するままに行動をした。
「次に人工皮膚の動作チェックを行います」
「人工皮膚になったら、人間の時のような痛いとか冷たいといった感覚がなくなってしまっているのではないんですか」
「訓練教育中の時は、そういう説明を受けたかもしれないけど、少し、改良されて、通常感じている感覚は、データとして、蓄積されると同時に人工眼球に外部刺激データとして、表示されるようになり、サイボーグとしての許容値を超えると視覚と聴覚にアラームが出されると同時に直接感覚として、人間と同様の痛みだとか熱さといった皮膚感覚を感じることができるようなシステムに改良が加えられ、装備されています。今後も、どんどんハードウェアやソフトウェアの更新があったら、最新版に変えていくことになります。常に最新のサイボーグ体の状態で火星に送り出しますから、安心して任務を遂行してください。火星に送り出した後でも、できる限り最新版の身体に更新していくことも約束します。皮膚感覚というのも重要な判断データの一つです。未知の世界でなにも感じない、何もデータがとれないと言うこと自体が、危険であるという判断を下からです。如月大佐は、痛みもなにも感じないロボットではなく、あらゆる感覚が存在するマンマシンシステムの発展系であるサイボーグになったのです」
  そして、佐藤ドクターにより皮膚を叩かれたり、火を押しつけられたり、冷凍液をかけられたりして、皮膚感覚の動作を確認された。もちろん、生身の人間であったときより着ようかされた皮膚なので、限界値が高いため、熱いとか冷たいとかといった感覚は、人間だったときよりはるかに大きなレベルでないと感じることが出来ないが、それまでの間は、皮膚への負荷データとして、補助コンピューターで処理され、人工眼球にディスプレーされていた。そして、データベースとしてハードディスクに蓄積されると共に、プロジェクト本部のメインシステムに逐次送信されるようになっていた。
「よし、よし、感覚器官も順調に作動するわね。それから、如月大佐、重要な機能を試してみてもらうことを忘れていたわ。目のスイッチをOFFにしてみて、目を閉じると言うことなんだけど、目を閉じるようとしてみてもらえば起動するはずよ」
  佐藤ドクターに言われて、その動作を試みた。何回か試みて、やっと出来るようになった。
「よし、ここまでで、動作異常はなし。如月大佐のサイボーグ体への適応性はものすごいわ。高橋さん、如月大佐のバックパックと外部生命維持管理システムの切り離しを行います。ケーブルをバックパックからはずしてあげてください」
「了解しました」
  そう言うと、まりなさんが私の背中のバックパックに繋がっているケーブルをはずしてくれた。
「如月大佐、これで、あなたは、完全に外部支援なしでどの様な環境でも永久に活動できる存在となりました。あなたとのデータ交換は、通常、マイクロウェーブ無線システムにより行われますので、これからは、何の制約もなく行動できるようになります。おめでとう、手術は成功です。火星探査・開発用サイボーグ「MARS1」の誕生です。これからは、この名前で呼ばれることも多くなりますのでこの呼び方にも慣れておいてください」
  佐藤ドクターがいった。そして、
「久しぶりに居住エリアに戻って休息してもらいます。処置台から起きあがるのにまるまる2日かかってしまったわね。明日からに備えて、休息すること。いいわね」
「わかりました。佐藤ドクター」
  気が付くと人工眼球内の時間表示が、0Y452D15H00M51Sになっていた。いつの間に、時間がめまぐるしく過ぎていく。
  前田ドクターの指示が飛ぶ。
「高橋さんと如月中尉は、如月大佐を洗浄室に連れて行って、ボディーの洗浄をしてください。その後で、居住エリアで休息をとらせることにしてください。如月中尉、居住エリアに火星探査・開発用サイボーグ「MARS1」用のメンテナンスチェアの用意をしてくれていますか」
「了解しました」
  まりなさんが答える。
「了解です。それから、火星探査・開発用サイボーグ「MARS1」用メンテナンスチェアの運び込みは完了していて、セッティングも完了しています。如月大佐が休息をとる用意が完了しています」
  えりかが答えた。
「了解です。それでは明日は、0時に如月大佐の居住エリアに集合です。それではお願いします。如月大佐、MARS1の身体の使い心地を楽しんでね」
  そして、まりなさんのエスコートで、洗浄室に行き、新しい身体を万遍なく洗浄してもらい。まりなさんとえりかが、メンテナンスウエスで身体を拭いてくれた。そして、居住エリアに移動し、私は、メンテナンスチェアに落ち着いた。
「この2日間、やっと動けるようになったけど、新しい身体のアビリティーの高さに驚かされてしまうわ。早くこの身体に慣れなきゃいけないね。そうしないと、任務に就いたときに100%の実力を発揮できないよね」
「はるかさん、その通りです。明日からまた頑張りましょう」
  まりなさんがそう言い終わった頃、私の身体の中でチャイムが聞こえた。レストパートの始まりのチャイムだった。レストモードへの身体の切り換えは、マニュアルで行うため、私は、腕に取り付けられたコントロールパネルのモード切替をレストモードに切り替えた。そうすると徐々に眠くなっていき、自然に休息睡眠状態になっていった。


 アクティブモードに自動で切り替わった。0Y453D00H00M00Sの時刻表示が人工眼球に浮かぶ、メンテナンスチェアから起きあがる。居住エリアには、前田ドクター、佐藤ドクター、まりなさん、
えりかが集まっていた。
「皆さんおはようございます。さあ、行きますよ。」
前田ドクターに促されて、ブリーフィングルームに移動した。そこには、私と同じ姿をした火星探査・開発用サイボーグが3体待っていた。胸の番号の「MARS2」が七海、「MARS3」が浩、「MARS4」が未来であった。
  私が話し始めた。
「みんな、サイボーグ手術が成功したんだね。よかったね。でも、これからが本当の試練が数多く待ってるのだから、みんなで頑張ろうね」
「そうだな、我々4名が力を合わせて、このプロジェクトを成功させることが、自分たちの生きていくことになるんだからな」
  浩の言葉が力強く感じた。
  そこに、木村局長、長田部長、水谷ドクターの3人がやってきた。
  木村局長が、
「みんな久しぶりね。何事もなく手術が完了したようで安心しました。これから、第1次火星探査チームと、緊急補充用バックアップチームとして4人には、慣熟訓練を行ってもらうことになります。このプロジェクトの今後が皆さんの肩に掛かっていると思って、気を更に引き締めて任務に当たってください。人間とは少し違った立場になったことによる戸惑いやプレスリリース後の好奇の目に晒されることになると思いますが、プロジェクトにかかわっている我々全員で、あなた達を守ります。決して、孤独感に陥ることがないようにしてください。あなた達は、我が国を救うために作り替えられた英雄に
なるんだという自負のもとに生きて、任務を全うしてください」


 アクティブモードに自動で切り替わった。0Y453D00H00M00Sの時刻表示が人工眼球に浮かぶ、メンテナンスチェアから起きあがる。居住エリアには、前田ドクター、佐藤ドクター、まりなさん、えりかが集まっていた。
「皆さんおはようございます。さあ、行きますよ」
  水谷ドクターが言葉を続ける。
「みんな、新しい身体の使い勝手はどう?戸惑いや使いにくいところがあったら遠慮なくスタッフにいうこと。遠慮して対処が遅れると致命傷になりかねないからね。でも、よく出来上がっているわね。人間機械化工学の専門家としては、満足しています。なにせ、私の研究材料であり、私の将来の姿なのだから、何かのトラブルがあったら困るのよ。でも、手術が成功してよかった。あと二人の手術がこれから行われるから、それが成功して初めて、私たち技術者はホッと一安心というところなんだけれど」
  長田部長が続けた。
「あなた達4人に集まってもらったのは、サイボーグ手術が成功したことを受けて、木村局長に報告したかったこともあるし、今後は、火星環境標準室やその他の訓練施設があるサイボーグ訓練エリアから出ることが出来なくなると、低圧馴化室や殺菌処置室やセキュリティーロックを抜けるなど、環境管理が今いるエリアより更に厳しくなって、いくら、ラバーフィットスーツを装着していても、簡単に直接あえなくなるから、その前にあっておきたかったからなの。
  それから、もう一つ今後のスケジュールについて指示があったかになの。今後のことに対との指示というのは、あなた達が訓練に入る前に、美々津みさき少佐と橋場望少佐の手術に立ち会ってもらいたいということです。あなた方も知っているとおり、この二人に施されるサイボーグ手術は、あなた達と少し違い、惑星探査宇宙船操縦用サイボーグという形態にする手術になります。彼女たちは、宇宙船内でのサポートは、宇宙船内の機械とあなた達がしてあげなくてはいけません。決して、どんな些細なことでも、あの二人が自分で行うことが不可能な身体にしてしまうことは理解してくれていますよね。だから、彼女たちの身体の構造を訓練教育だけではなく、実際の手術に立ち会ってもらって、熟知してもらうことなのです。
  ただし、望月七海中佐と望月未来中佐には、手術室控え室で、観察と手術の後方バックアップを行ってもらいます。如月大佐と渥美大佐には、手術室で手術に直接参加してもらいます。彼女たちの故障に的確に対応してもらうための対応です。プロジェクトのオペレーションの進行途中で彼女たちに万が一のことがあったら、火星にみんな行くことが出来ないのですから、真剣に彼女たちの構造を理解してもらうための処置なのです。そして、いついかなる時にでも対処できるようにしてもらうためなのです。
  それに、あなた達サイボーグは、休息の必要がほとんど実際には必要ないから、連続作業の時に、絶対必要な存在なの。彼女たちは、あなた達以上に電子機器を取り付けることになるから、集中力を手術チームが切らすことが出来ないのよ。その為にも、サイボーグ体が有利というわけなの」
  長田部長の言われることは充分にわかるし、そうする必要があると私も同意できる。しかし、心情的に仲間の機械人間にされる手術に荷担することがいやなのである。でも、命令と必要性に逆らうことが出来ない。
  私は答えた。
「はい、了解しました。どの様に行動すればよいでしょうか?」
  水谷ドクターが解説した。
「実は、あなた方が、サイボーグ手術を完了した日に、ラバーフィットスーツを脱がせる処置をしました。そして、橋場少佐の手脚を切除する処置をあなた達がサイボーグ体の動作テストをしている間に完了しています。そして、今、二人は、それぞれの処置室で身体の組織安定のために処置台に拘束されています。もっとも、二人は、自分で動かせるのは、首ぐらいだから首の部分を固定しておけば、あとは拘束しなくても、ぴくりとも動けないんだけどね。皆さんには、彼女たちが機械化のためのサイボーグ手術を受ける前の段階の介護される姿も見ておいてもらいます」
  介護と言っても、導尿も何もかも自動だし、チューブやケーブルが付いているから、ただ見ていればいいとこの時は思ってたかを括っていた。
「それでは、如月大佐と望月七海中佐は、美々津少佐の処置室に、渥美大佐と望月未来中佐は、
橋場少佐の処置室に行って下さい」
「わかりました。」
  そう言って私たちは、それぞれの惑星探査宇宙船操縦用サイボーグの処置室に分かれて入った。


  私が入った時、みさきの処置室でのみさきの人間としての姿は、私の時の状態とはかなり違っていた。
  みさきの身体はもちろん全裸で寝かされていた、そして、胸部が透明のハローベストを着せられ首を完全に固定されていた。唯一動かすことの出来る首の自由も完全に剥奪されていた。
  彼女はサイボーグになっても首を動かす機能は付いていない。つまり、身体を自由に動かすことは、これからも与えられていないのだ、私たちのように外観が違っても、いろいろと普通の人間並みに動かすことが出来るサイボーグ体とは明らかに違うのだ。
  そして、液体呼吸液の吸排出チューブが生命維持装置と繋がれ、自動的に呼吸管理されいいること、ケーブル類で脳や身体の大部分がコントロールされていること、ゴーグルがはずされずに装着されたままになっていることなどは、私たちのつかの間の人間生活体験の時と変わらなかった。
  でも、もちろん手脚がないことは違いとしてもちろんあるのだが、液体栄養液供給管、排尿管、排泄物処理管、性器カバーが生命維持システムと繋がれていないことが大きな違いであった。つまり、彼女は、栄養供給と排泄処理がマニュアル処理となっているのであった。
  これは、二人からの要望で、最後に自分のリクエストによる処理を希望したのだそうである。手脚が使えないが、人間らしく、機械に支配されないことを楽しみたいという希望を宇宙開発事業局が聞き入れたのであった。しかし、組織が安定するのが、二人とも、私たちより長く、7日ぐらいはかかると言うことなので、その間は、世話をしないといけないのだった。大変なわけである。
  その他の違いというと、切断面のケーブル接続コネクターにケーブルが接続されていることだった。これだけでも四肢の切断面で処置台に固定されているのと同じ状態になっていた。もう既に完全に機械の一部になっているような状態だった。これでは、栄養補給と排泄は、せめて最後はマニュアルにしたいという気持ちも充分に理解できた。
  処置室には、薄い桃色のラバーフィットスーツを装着された清水美雪ドクター、薄い黄色のラバーフィットスーツを装着された徳永あゆみドクターとサポートヘルパーの白いラバーフィットスーツを装着されている清川渚さん、薄い緑色のラバーフィットスーツを装着された山田クリス少尉が立っていた。そして、その横には、えりかもいた。
「えりかが何でここにいるの」
「私も、美々津少佐の処置のお手伝いとお姉ちゃんと望月七海中佐のサポートヘルパーとしての仕事の二つの命令を受けています。まりなさんはじめサポートヘルパーはみんな待機しているのよ。お姉ちゃんと望月七海中佐に何かあったときの対処のため」
  そうだったのか、まだ私たちも慣熟訓練を受けていないのだから、まだ完璧にこの身体に慣れたわけじゃないものね。もしも万一の時は、大事な実験材料がいなくなることだから、それは、このプロジェクトにとっての痛手だもの。そうならないために万全の体制を引いているわけなのだ。
  さすがに重点国家プロジェクトの中心試験体になってのを実感せざるを得なかった。
  清水ドクターに、
「如月大佐、望月七海少佐よろしくお願いします。美々津少佐の世話も処置も大変なものになると思いますが、力を合わせて頑張りましょう」
「わかりました」
  そう言ってから、みさきに話しかけた。
「みさき、私も全力でサポートするから、頑張ろうね。私は、一足先に機械の身体であるサイボーグになったからね。みさきも頑張るんだよ」
「ありがとう。はるか、私、頑張る、でも我が侭言うかもしれないし、迷惑翔かもしれないからよろしくね」
  私は答えた。
「そんなこと気にしないで、私と七海は、みさきと一緒に火星に行くためのチームだよ。とことんサポートするからね」
「そうだよ、みさき、私とはるかがあなたの処置で、サポートしていくからね」
「ありがとう。はるか、七海」
  みさきが答えた。それからみさきが恥ずかしそうに清川さんを呼んだ。
「清川さん、処理をお願いしたいんですが」
「みさきさん、サポートするメンバーがふえてまだ要領がわからない人がいるのだから、具体的にいうようにして。恥ずかしいのはわかるけど、そうしなければならないのよ。いいわね」
  みさきは、恥ずかしそうに、消え入りそうに言った。
「排泄処理をして下さい。膀胱が、パンパンなんです。それに、排泄バルブを開けて、排泄物を処理して、洗腸をして下さい。人工肛門の方も我慢できません。よろしくお願いします」
  そして、さらに、
「はるか、お願い助けて!」
  私は、自分がえりかにラバーフィットスーツの装着時に性器と人工肛門の洗浄をされたのを思い出し、みさきの恥ずかしさが痛いほど伝わってきた。
「今、楽にしてあげるからね」
  ゴーグルの中からすがるような視線が私に突き刺さる。私は、清川さんに教えてもらいながら、みさきの下半身の処置を開始した。排尿カテーテルの先のバルブに排尿パックを接続しバルブを開ける。
  排尿パックがみるみるうちに満杯になる。排尿パックを取り替えた。そのパックも満杯になった。限界以上まで排尿を我慢させていたようである。そして、人工肛門の接続バルブに洗腸機のパイプを取り付け、洗腸を開始した。排泄促進剤を流動食に入れられ、腸洗浄を促進する処置を行われているため、腸洗浄機におびただしい量の排泄物が流れ出た。これだけのものを貯めていたのだったら苦しんで当然だ。我慢していたのが不思議なくらいだった。
  なぜこのような状態になったのかというと、みさきの羞恥心がこの状態まで我慢させていたと言うことがわかった。自分でも、同じ立場なら、少しでも、恥ずかしい処置を先送りにしたいから、みさきと同じようにしたに違いなかった。
  でも、結果的に恥ずかしいのに変わりないのである。私たちの置かれた立場では、恥ずかしいなどという言葉はないに等しかった。私は、もうサイボーグにされてしまったため、恥ずかしいだとか、悲しいだとかという感覚を封印してしまっていた。
「みさき、楽になった?」
「ええ。楽になったわ」
「みさき、一つだけアドバイスがあるの。それは、私たちには、実験用ドナーとしての立場しか生きる道がなくなっているの。だから、もう、恥ずかしいとか、悲しいとか、ネガティブな感情を表現することが許されていないし、ここにいるのは、その立場を共有する仲間とその立場を考えてくれる人しかいないから、何でも我慢せずに言うのよ、絶対に機械の身体になっても生き抜いて自分がここにいる意味をこのプロジェクトに参加した意味を残しておきたいの。みさきも一緒にこの考え方で生きていって欲しいの。私たちは、仲間だよ。いいわね」
「はるか、ありがとう。忠告に従うわ。これから遠慮しないからサポートよろしくお願いします」
「こちらこそ、困ったことがあったら何でもみんなに言うのよ、みさきは、感覚剥奪処置を受ける前でも、動くことが出来ないような身体にされているんだから、私たちが手脚になってあげる以外生きる道がないんだからね。」
「はるかの言うことは充分わかっているつもりよ。私を託します。リーダーよろしくお願いします。そして、七海隊員よろしくお願いします」
「どういたしまして。世話の焼けるみさきちゃん」
  七海がおどけてみせる。
  私たちが動くことの不可能なみさきを介護してのみさきの人間としての最後の7日間が終了した。


  0Y460D00H00M00S。
  みさきにも運命の日がやってくる。
  私たちは、彼女がアクティブパートになる前に事前に処置室に移し、サイボーグ手術処置用処置台に移し終えていた。サイボーグ手術処置用処置台は、彼女を中空に固定するようになっていた。私たちの処置に使われたものと基本的には同じなのだが、全体の長さが短くなっていたし、中空固定を行うワイヤー類が非常に少なくなっていた。身体の自重が軽いからなのか使われるワイヤーが少なくてすむようである。
「美々津少佐、気が付きましたね」
  清水ドクターがみさきに声をかける。
「今日は、サイボーグになり、性器のない身体になる前に、再度、採卵を行います」
  私と一緒の処置である。
「みさき、覚悟はいい?」
  私のかけた言葉に
「もちろん」
  みさきの力強い答えが返ってきた。
「それでは、排卵促進用特殊ホルモン投与開始します」
  清川さんが操作パネルに向かって操作を開始した。
みさきが30分に一度の生理に耐え、小刻みに身体が震え、苦しみと快感に必死に耐えているのがわかった。
  この処置を24時間受けた後で、洗浄室で、私と七海、クリス、えりかの4人で丁寧にみさきの身体をウェスで拭いてあげた。心を込めて丁寧にじっくりと拭いた。これが最後の人間としての身体洗浄になるからだ。
「気持ちよかったよ、ありがとう」
  みさきが何度も言った。私と七海も一緒の気持ちだったよ。クリスやえりかも自分の時のことを考えて感慨にふけっていた。
「明日から、もっとつらい目に遭うと思うけどがんばるんだよ。私と七海も通った道だから、何でも相談してね」
「ありがとう、はるか、七海」
  七海が清水ドクターに切り出した。
「私も控え室でのサポートではなく、処置室でみさきの手術のサポートをさせてもらえませんか?」
「本当にいいのですか。私と徳永ドクターとしては、サイボーグが二人いると非常に集中力を要する作業が続くから楽なんだけど。疲れることが少なくなった身体の人のサポートは、非常に心強いのです。よろしくお願いいたします」
  清水ドクターは、快諾した。
「ありがとうございます。みさき、私も直接サポートするからよろしくね」
「私は、これでとっても安心よ。ありがとう七海」
  みさきが安心しきって、レストモードに入っていった。


  0Y461D00H00M00S。
  みさきの身体に身体感覚除去処置が清川さんによって施されていく。
  身体の感覚が徐々になくなっていく不思議な処置で視覚、聴覚、コミュニケーションサポートシステムは、生きているのである。
「何か不思議な感覚だわ。身体の感覚で視覚と聴覚だけ生きていて、話もこうやってできるのに、それ以外の感覚が全くないなんて」
  みさきの言葉に、清川さんが、
「変な感じでしょうね。私には、がんばってと言うしかないけど、はるかさんと七海さという経験者がいてくれるから心強いわ」
「いいえ、前川さんの献身的サポートがあったからここまでみさきはこれたと思うの。前川さんとみさきのサポートができれば私たちは光栄です」
「ありがとうございます。如月大佐。あなたは、火星で生きるため本来の身体を廃棄され、大部分を機械にされた身体になってつらい思いをしているのに私にまで思いやりを持ってもらうなんてうれしいことです。是非ともみさきさんの手術の成功に向けてご協力よろしくお願いします」
  私と、七海、クリス、えりか、前川さんそして、清水ドクターと徳永ドクターの7人は誓いを新たにした。
  清水ドクターが指示を出す。美々津みさきのサイボーグへの本格的な第一歩であった。
「それでは、惑星探査宇宙船操縦用サイボーグへの美々津みさき少佐の改造手術処置を開始します。みんな、本当に長時間の手術でしかも気を抜くことができない手術になりますが、精神を集中しきって処置にあたってください。決して失敗は許されない手術だと言うことを改めて認識しての手術をお願いします」
「了解しています」
  みんなが答えた。
  徳永ドクターが、清水ドクターに、
「美雪、美々津少佐の身体の切開をお願いします」
「歩、了解よ」
「前川さん、メスを用意して」
「清水ドクター、メスの用意ができました」
  前川さんから、メスを渡されると清水ドクターは、流れるようなメスさばきでみさきの身体を正確に躊躇なく切り開く。前田ドクターといい、清水ドクターといい、この宇宙開発事業局の医療チームのドクターの技術の高さには本当に感心する。
「如月大佐と望月七海中佐の時は、骨の処置をしてから身体を切開しましたが、美々津少佐における処置では、骨の変化する状態を確認してもらうため、身体の切開を先にしています。火星探査・開発用サイボーグの手術でみんなの体力が、身体を切開解放された状態がもう少し長くても大丈夫だと分かったから、確認しやすい状態で骨格の処置をさせてもらいます」
  清水ドクターはそういいながら、切り開いた皮膚と筋肉を処置台に止めていった。
  みさきの開き状態のできあがりである。
  クリスが
「みさきさん、とってもセクシーですね。」
  と冷やかすとみさきが、
「宇宙飛行士のヌード写真集として売れるかしら?」
  とおどけて見せた。
  少し、みさきの心にみんながサポートしているという安心感による心の余裕が出てきた証拠であろう。これぐらい余裕があれば、サイボーグ手術の処置を乗り切れるよ。がんばれ!!
「さて、美々津少佐のこつ組織に、金属成分置換装置を接続してください」
  徳永ドクターの指示に、
「了解です」
  と答え、私とクリスが金属成分弛緩装置のコードをみさきの骨組織に接続していった。
  そして、前川さんが金属成分弛緩装置操作パネルを操作する。えりかが、コードの接続を再確認して、そして、みさきの骨格の主成分が、カルシウムからシリコンチタニウムファイバーに変わっていった。
  シリコンチタニウムファイパーは、チタンとシリコンの高密度複合体で、そこそこの強度を持っていながら、かなりの軽量であるという特性を持っている。私たち火星探査・開発用サイボーグは、強度が優先されるが、惑星探査船操縦用サイボーグは、重量の軽量化が優先されるため、置換金属が私たちとは違っているのである。
  そして、絶縁処置がなされていることが特徴である。これは、彼女たちの身体が電子機器の中に組み込まれると言うことの使用目的及び環境によるもので、新しい身体の各所に絶縁処置が施されていた。電子機器と共に共生するため、殊の外、配慮されている機能であった。
  実際はものすごい苦痛を伴う処置なのであろう。その証拠に、みさきの身体が小刻みに震えているが、体を解放された状態で固定されているため、処置台から動くことはなかった。
  それから、心臓の心拍数が高くなっており、身体への負荷があるのも確認できた。
  みさきの骨組織は、18時間に渡って変わり続けた。金属元素交換が順調にすすんでいるのが、骨組織の色が白から黒に近い色に徐々に変わっていくことで確認できた。そして、シリコンの特性を持つ樹脂光沢を持つようになった。ちなみに私たちの骨組織は、チタンの色であるグレーで金属特有の光沢があるそうである。
「骨組織変化率が100%に達しました。処置は成功です」
  前川さんの報告にみんながホッとしているように感じた。私や、七海は、もう感情を表現することがコミュニケーションサポートシステムを通じての言葉でしか表現できないし、ほかの5人もフェースプレート越しにわずかな顔の表現しかできないから、ホッとした表情と判断できるのかは疑問が残るのだが・・・。少なくとも、みさきはホッとしているはずである。
「みんなご苦労様。美々津少佐よく頑張りました。それでは、次の処置まで休憩に入ります。如月大佐、望月七海中佐、あなた達も休息をとるのよ、いくらサイボーグだと言っても基本的には、脳の休息は人並にとることが大事ですから。火星に打ち上げられる前にストレスを貯めることは禁止されていますから。休息をとるのよいいわね。それでは6時間後に集合。それまで解散にします
  清水ドクターの指示にみんな従って、みさきの栄養液補充パックと排尿処理パック、排泄物処理パックの交換を前川さんと私が行い、みんなで休憩エリアに引き上げて、ラバーフィツトスーツ装着者専用リクライニングチェアと私と七海それぞれの専用のサイボーグ用メンテナンスチェアに収まった。
  そして、私は、自分の身体をレストモードに切り替え、アクティブモード復帰を5時間30分後にセットして、休息に入った。機械部分の管理により、正確なレストモードの状態が5時間30分続くのである。


  0Y461D23H30M00S。
  みさきがアクティブモードになる前に処置室に向かう。
  処置室には、魚の開き状態のみさきが意識なく横たわっている。あと30分もすれば、アクティブモードに生命維持管理システムによって切り替えられるはずである。私たちの睡眠サイクルは、完全に機械に支配されているのである。
  清水ドクター、徳永ドクター、前川さん、七海、クリスそして、えりかも処置室に入ってきた。
  0Y462D00H00M00Sにみさきの意識がアクティブモードに切り替わった。
「みさきさん、目覚めは如何ですか?」
  えりかの質問に、みさきは、
「うーん。残念ながらいつも通り、身体の感覚がないのをのぞいては」
  そう言っているみさきの身体に取り付けられた栄養液補充パックと排尿処理パック、排泄物処理パックの交換を手際よくクリスがおこなった。
「自分の栄養補給も、排泄処理も自分では出来ないのだから嫌になるわ」
  みさきの言葉に、七海が、
「自分の身体に起こるすべてを素直に受け入れなきゃって言ってるでしょ」
  とお説教をしている。
「はい、先生」
  とおどけながら、みさきがその言葉を忠実に受け入れていた。いいチームワークが出来そうである。
「今日は、心肺システムの機械化を行います。清水ドクターは、美々津少佐の生体のチェック、如月大佐と望月七海中佐は、バックパックのチェックと充電を、如月中尉と山田少尉は、外部据え置き型人工心肺の動作チェック、清川さんは、私と人工心肺システムのチェックをおこなって下さい。それから、如月中尉と山田少尉は、人工血液のパックの用意もお願いします。それでは作業に取りかかって下さい」
  しばらくして、全ての人工機械器官の部品や生体部分のチェックが終わり、みさきに対する惑星探査宇宙船操縦用サイボーグ手術が再開された。
  まず、心臓に繋がる動脈と静脈が外部据え置き型人工心肺に繋ぎ変えられて、その間に人工血液への血液の入れ替え作業も行われた。程なくするとみさきの身体を流れる血液が白い人工血液に全て入れ替えられた。
  そして、生体肺や生体心臓が切除され、人工心肺システムを胸に納められ、バックパックからロータリーポンプ型人工心臓に直接チューブが繋げられ、人工血液が呼吸液の役割を果たし、直接酸素と二酸化炭素のガス交換が行われるようになっている。
  人工心肺システムの基本的なところは、私の身体と変わりがないのだが、酸素発生装置や二酸化炭素除去再生装置は、定期的に、システム内の触媒や処理しきれない二酸化炭素排気体回収カプセルを惑星探査宇宙船内では、宇宙船のハードウエアが自動処理再生し、地球上では、カートリッジごと交換しなくてはいけないようになっており、酸素発生装置の触媒カートリッジも宇宙船内は、自動処理再生を宇宙船のシステムで行い、地球上では、定期的なカートリッジの交換が必要であり、完全に周囲から独立した存在になっていないことが大きな違いであった。
  宇宙船から離れると自分一人で生きることが出来ないことを認識させるということで、宇宙船に組み込まれ、繋がれることが自分の生きる意義なのであることを認識させる意味を持っているのだそうである。宇宙船から降ろされたら、完全にサポートヘルパーなしには生きていけないようになっているのである。
  私たちのように完全に環境から切り離されて半永久的に生き続けなければならないのも残酷なことではあるが、惑星探査宇宙船操縦用サイボーグのように、宇宙船から降ろされての休養期間は、誰かに四六時中世話されなければ生きることが出来ないというのも残酷なことであると思えた。
  首の部分は、食道も気道も取り除かれ、脳や首筋に設けられたバックパックの補助コンピュータやその他のハードウェアと胴体部分のコンピュータやハードウェア、そして、生体脳を繋ぐためのケーブル類や脳や神経システムを最大限に機能させるために、人工血液を大量に送るための通常より太めの人工血管、神経システムと神経システム強化補助装置といった、彼女の存在意義とも言える生体脳電子頭脳協調システム、宇宙船操作管理システムのケーブル類が数多く通るように首の太さの全てをケーブルが通るためのケーブル防護管にされた。そして、簡単には切断できないように防護管の外部にも強化保護管が取り付けられた。生体コンピュータシステムとしての彼女の重要部分となるのだ。
  私たちに取り付けられた外部発声用スピーカーシステムなどというものは必要なかった。会話は、コミュニケーションサポートシステムだけで充分と言うことであった。
「さあ。呼吸システムのサイボーグ手術が終了したわ。40時間の長い手術に美々津少佐はよく耐えてくれたわね。お疲れ様。そして、みんなも、ご苦労様。8時間の休憩に入りましょう」
「ハイ。了解しました」
  徳永ドクターの声に、みんなが声を合わせて答えた。
「それでは解散にします」
  徳永ドクターはそう言って処置室を出て行った、清水ドクターもそれにつづいて出て行った。
「呼吸器官がサイボーグ化されたわね。これで宇宙空間でも生きれる身体になったということよ。山場は過ぎたわ。今日はゆっくり休んでね。みさき」
  そう言って、七海とクリスが出て行った。
  清川さんは、生命維持管理装置のパネルを操作して、彼女をレストモードにする操作をしてから出て行った。
  私とえりかは、みさきの顔を見て声をかけた。
「みさき、つらいことばかりだと思う。でも、私もついこの間このつらさを経験してきたばかりなの。もうこの事態を受け入れるしか私たちには、残された選択がないの、一緒に頑張ろうね」
「うん、ありがとう」
  みさきが答えた。
  えりかが、
「私もお姉ちゃんやみさきさんに続くことになると思います。どう考えても、私のサイボーグ化手術の順位は、かなり高いんだもの。この気持ちを大事に持って、サイボーグ化手術に望むつもりです。だから、みさきさんのことを精一杯思って、サポートします。頑張って下さい」
「あら、はるか、妹の方が、しっかりしているかも」
「みさき、冗談を言わないで、この子のどこがしっかりしているのよ」
「だって、姉を探すため、自分もこの処置を受けることを決意したなんて相当の覚悟よ」
「えりかは、無鉄砲なだけよ」
「はるか、感謝しなきゃだめよ、こんな姉思いの妹を持って」
「みさきさん、私、みさきさんも、私の姉と思ってサポートします。頑張って下さい」
  そう言って、えりかが出て行った。
  そして、私だけ残された。
  私は、みさきと見つめ合い、言葉には出さないが、一緒にこのミッションを成功させようという意志を交わしあった。もう後戻りできない立場にあるのだ。


  0Y462D00H00M00S。
  次の処置が始まる時がきた。
  徳永ドクターが、今日の術式の説明を開始する。
「今日は、入ります。まず機材のチェックを行ってもらいます。
  如月はるか大佐と如月えりか中尉は、体内埋め込み型補助コンピューターと体内埋め込み型ハードディスク、周辺機器、腹部取り付け外部操作用補助操作パネルといった美々津少佐に取り付ける電子機器類すべての動作チェックと初期化作業を行ってください。宇宙船の制御機器類の最重要機材の一部ですから、入念に行ってください。
  望月七海中佐と山田少尉は、フロントパックのチェックと調整。人工老廃物除去サポートシステムの部品のチェック、人工肝臓システムの部品チェックをお願いします。
  清水ドクターは、ドナーである美々津みさき少佐の生体部分の処理手術をお願いします。
  前川さんは、清水ドクターのサポートにまわってください。
  私は、その間に、女性ホルモン分泌システムの動作チェックと、両手両脚切断面に新たに取り付けられる外部機器接続用ケーブルコネクターの動作チェックを行います。各自の作業を開始しましょう」
  徳永ドクターの指示で各自が指定の仕事に着く。
  清水ドクターがみさきの身体の処置手術に取りかかった。傍らで前川さんが、臓器保存液の入ったパックを用意したり、外部据え置き型老廃物除去装置のチェックを行っていた。そして、清水ドクターが、メスの用意を前川さんに指示した。
  清水ドクターは、ものの見事に、次々と内蔵を切除していった。
  胃や小腸、大腸といった消化関係臓器が切除され、移植臓器として、臓器保存パックに丁寧に封入された。そして、肝臓や膵臓、胆嚢といった臓器が、肝臓周辺臓器代替システムの生体部品として、徳永ドクターに渡され、人工臓器の一部としての生体部品という存在でシステムに組み込まれ、移植作業を待つ状態にされた。
  次に腎臓や膀胱、ょうどうが除去され、移植用に運び出されていった。そして、外部据え置き型老廃物除去装置に血管がつながれた。
  そして、性器の除去が行われた。卵巣、子宮、膣などの女性器が取り除かれた。私自身の処置を含め、この処置を見るのは二回目になるが、何回見てもいやなものだった。人間の大切な部分がなくなってしまうのはとてもつらいことである。みさきが、悲鳴なのだろうが、コミュニケーションサポートシステムを通して異音を出しているのが分かった。
  清水ドクターは、それでも淡々と手術を進めていた。もちろん、前川さんも何事もないようにサボートを続けた。そして、みさきの性器も前川さんの手により、素早く液体窒素に漬け込まれ、冷凍保存された。
  そして、切り開かれた胸の中央部の位置に外部装置接続バルブが取り付けられ、そこにチューブが接続され、チューブのもう一方が、人工心肺システムに直接接続された。この手術により、酸素の供給、二酸化炭素の除去、高濃度栄養液の供給が、ロータリーポンプ型人工心臓の働きにより、直接おこなわれるような人工心肺システムが完成した。
「心拍音がしないので静かに感じますね。それに、内臓の空隙ってこんなに大きかったんだ。実際に体験するとわかっていても驚くことばかりね」
  みさきがそういうと、徳永ドクターが、
「そうだと思うわ。でもこれからもあきれるほど驚くことの連続よ。ね。そうだったでしょ、如月大佐も
望月七海中佐も」
  私とみさきは、思わず同時に、
「本当にそうだった。辛さを通り越して、呆れるぐらい驚きっぱなしだったわ。みさきがんばって」
  そう、励ましていた。
  そんな中でも、清水ドクターと徳永ドクターの手が休まることはなく、次の処置を二人でおこなっていた。
  外部据え置き型老廃物除去装置を取り外し、肝臓周辺臓器代替システムと老廃物除去システムを所定の位置に取り付け血管を人工血管に取り替えた上で、肝臓周辺臓器代替システム、老廃物除去システムにつないでいった。そして、老廃物除去システムからでているチューブをへその部分に開けられたバルブ弁に取り付けた。そして、高濃度栄養液供給用バルブと老廃物除去用バルブにフロントパックから伸び出したチューブを接続した。そうすると、老廃物貯留カートリッジに老廃物が流れ出した。
  そして、次に性器のあった空間に女性ホルモン分泌システムの金属の箱型のユニットが取り付けられた。
  そして、大きく空いた内臓を除去した空間に体内埋め込み型補助コンピューターと体内埋め込み型ハードディスク、周辺機器といった電子機器がセッティングされ、そして、補助エネルギー貯蔵供給装置が取り付けられ、電子機器とケーブル接続された。そして、それぞれの電子機器が背中の部分から、バックパックの補助コンピューターに接続されたり、生体脳と接続するためのケーブルが首を通ってケーブルでつなげられた。そして、腹部取り付け外部操作用補助操作パネルとケーブルで接続された。
  また、補助エネルギー貯蔵供給装置とバックパックの機械部分駆動用蓄電池とケーブルでつなげられた。
  しばらくすると電子機器類が作動を開始した。
  これで、みさきの胴体部分に納められるべき人工器官や電子機器類は、すべて納められた。
  そして、股間の部分のカバーが取り外され、エネルギー外部供給用および、受給用コネクターとデータ管理保存用ハードディスクと外部コンピュータを接続するためのコネクターが取り付けられ、金属カバーで覆われた。みさきの股間のコネクターは、私たちとの情報データ交換にも使うことができるし、地球上で許可されたときには、バーチャルセックスの感覚コネクターとしても使用できる機能がついている。ただし、ミッション中は、この機能が使用されることは禁止されているし、元々、性欲自体を我々は、バックパックから供給される薬物やホルモンで抑制されているので、残念ながら使う機会は当分ないのである。
  ひょっとしたら、機能チェックで感覚を少し味わえるかもしれないという程度だし、その感覚に浸るような意識は剥奪されているサイボーグの我々にとっては、股間がもぞもぞするぐらいにしか脳が感じないのであった。
「さあ、これで、胴体を閉じるわよ。あじの開き状態おしまい」
  清水ドクターがそういって戯けながら、みさきの胴体を生体接着剤と特殊縫合糸を使って元のようにとじ合わせていった。
  そして、徳永ドクターにより、腹部に腹部取り付け外部操作用補助操作パネルが仮付けされた。
  続いて、両手両脚の切断面に今まで取り付けられていた外部機器接続用ケーブルコネクターを取り除いた上で、新たな外部機器接続用ケーブルコネクターが取り付けられた。
  今までの外部機器接続用ケーブルコネクターよりも新しい外部機器接続用ケーブルコネクターは、接続端子が5倍以上になっていた。取り付ける前に、内部からの神経やケーブルが無数に内側に接続されていた。いよいよ、本格的な接続端子が機能するようになるのである。
「これでやっと終わったわね。美々津少佐の状態もここまでは順調だし、無事に胴体部分の処置が完了といったところかしら。皆さん、72時間の連続処置ご苦労様でした。美々津少佐、よく頑張ったわね。それでは、美々津少佐の表面組織が落ち着く時間もあるから。24時間の休息に入りましょう。それでは解散」
  清水ドクターの指示により解散して、処置室をでようとして振り返るともうみさきは、前川さんの手でフロントパネルを操作され、レストモードに入って、意識を失っていた。
「ゆっくり休むんだよ、みさき」
  そう声をかけて処置室を後にした。


  0Y466D00H00M00S。
  24時間ぶりの処置の開始の時間である。今日は頭部のサイボーグ改造手術を行う予定である。
「みさき、気分はどう?」
  私の問いに、みさきは、
「気分というか、やっぱり最悪だよ。胴体部分には、私が生まれたときからのものがなんにもなくなっているんだもん。本当に機械だけといった感じだし、自分一人では生きることさえ許されないんだから。常に外部からの支援を受けて生きることになるのは、自分の意志がままならないところがジレンマを感じてしまって悲しい気分になったわ」
「私たちがサポートする。頑張って」
  七海が、フロントパックの高濃度栄養液供給用カートリッジと老廃物貯留カートリッジの交換を行いながら激励した。
「うん。はるかと七海がこれから一緒だから頑張れると思う」
  みさきは、そう言って気をたかめていた。
「さあ、今日は頭部の処置を行います。頑張っていきましょう」
  徳永ドクターがみんなに声をかけた。
「それでは、清水ドクター切開処置をお願いします。その間に、補助サポートコンピューター、人工眼球、永久型補助エネルギー作成供給装置、内蔵タイプコミュニケーションサポートシステム、船内船外集音システムの作動チェックを残りのメンバーで行います。それでは作業にかかりましょう。ここまで機械になってしまうと美々津少佐を人間としてみる感覚が麻痺してしまいますが、れっきとした人間という生ものであるのは事実です。失敗しないように正確に迅速にサイボーグ手術を進めましょう」
「私は、人間だよ。決して機械やロボットじゃないよ」
  みさきの言葉が、私たちのコミュニケーションサポートシステムに響いた。
「その通りだよ。みさき、私や七海も人間だという自負を持ってるよ。たとえ、みんなが機械仕掛けの人形としか見てくれなくても、私や七海はあなたを人間として扱う。私たちも、みさきは人間として扱ってね」
「ありがとう、はるか」
「お姉ちゃんの言うとおりです。私やクリスもみさきさんを人間と思っています」
「ありがとう。えりかさん」
  清水ドクターが、
「感傷に浸る閑はないよ。如月大佐、サポートよろしく」
「了解」
  という私の言葉を待ちきれないように清水ドクターは、みさきの頭部のサイボーグ手術を開始した。
  頭皮カバーを取り外し、頭蓋骨を上半分取り外す。金属を切る甲高い音が響き渡る。骨組織が金属になっている証拠である。
  そして、生体脳がむき出しになった。
「補助サポートコンピューターを取り付けます」
  補助サポートコンピューターは、脳にそのまま被せられるような形をしていた。そして、脳と接する部分に無数の電極が取り付けられていて、生体脳と直接接続できようになっていた。
  補助サポートコンピューターを生体脳と接続し、補助サポートコンピューターを固定できる人工頭蓋骨が補助サポートコンピューターの上に被せられ、頭蓋骨の下半分に特殊金属ボルトで固定された。後頭部に空いた穴から、胴体の電子機器やバックパックの補助コンピューターと接続するケーブルが出ていて、それぞれと接続された。ケーブルは、カバーが取り付けられ防護した。
  補助コンピューターの駆動動力となる永久型補助エネルギー作成供給装置が、口腔部に設置され、補助サポートコンピューターと接続された。そして、ゴーグルがはずされ、人工眼球が視神経と繋げられ、顔面前部の大部分を占める位置に取り付けられた。
  そして、側頭部の耳だった穴のところに、内蔵タイプコミュニケーションサポートシステム、船内船外集音システムと、宇宙空間対応型人工三半規管が、取り付けられた。宇宙空間対応型人工三半規管に三半規管が取り替えられることにより、宇宙空間での自分の位置が正確に把握できるようになる。
  そして、目の下には、宇宙船外部観察システムと船内観察システムとの接続コネクターが取り付けられた。
  非常にデリケートな部分の手術は、思いの外時間を要し、60時間の時間を費やした。
  徳永ドクターが12時間の休憩を指示した。これによって、みさきの身体は全てサイボーグ体機械生体協調システムに置き換えられたことになる。私たちの身体も凄まじいほどの機械化状態だが、みさきの身体は私たちを遙かに上回った機械化状態である。みさきがふさぎ込みたくなるのもわかる。しかし、私や七海、みさきには、ふさぎ込むことも許されていない。考え込んでいる時間はないのである。火星探査のためのプロジェクトのために私たちの時間は、全てを捧げざるを得ないのであった。
「がんばれ、みさき、そして、がんばれ、プロジェクトの全サイボーグ手術候補者たち」
  そう心の中で私はつぶやいた。


  0Y469D00H00M00S。
「きょうは、皮膚の改造をおこないます。美々津少佐の人工皮膚のチェックをみんなでして下さい」
  徳永ドクターが指示を出す。
  私たちは、みんなでみさきの新しい皮膚を異常はないかと入念にチェックした。
  そして、みさきの身体から、腹部取り付け外部操作用補助操作パネルがはずされ、みさきの身体に丁寧に人工皮膚完全融合用深部溶解型接着剤が塗布された。そして、金属の光沢を持った人工皮膚であるメタルスキンにも人工皮膚完全融合用深部溶解型接着剤がまんべんなく塗られていった。
  みさきの皮膚になるメタルスキンは、シリコンとチタンとラバーの複合体で、ラバー的な質感のする金属光沢で鈍く光る人工皮膚で、人工皮膚完全融合用深部溶解型接着剤により、表皮から筋肉組織にいたるまでの部分を融合させた皮膚組織となるようになっており、ちょうど甲虫類の堅い外皮のような構造になるようになっていた。その為、胸の部分や腹部の腹部取り付け外部操作用補助操作パネルの取り付けられる部分の下、首、頬、腰部などに点検用の開閉式パネルが開けられることになっている。手脚のない身体が金属製の鎧の中に入れられたような感覚なのである。
  外骨格形式人工皮膚にみさきがなるのは、内部の電子機器や生体脳という惑星探査宇宙船にとっての航行をコントロールする重要な機材であるためである。
「メタルスキンは、慎重にしっかりと生体に取り付けてね」
  徳永ドクターからの注意がとんだ。
「了解です」
  みんなが答え、二人ずつになって、パーツごとになっているメタルスキンをみさきに取り付けていった。
  頭部のメタルスキンは、ヘルメットのようになっていて、より強度があるようになっていた。
  チタン独特の鈍く光る金属光沢にみさきの身体がなった。そして、腹部取り付け外部操作用補助操作パネルやバックパック、フロントパックが取り付けられて、みさきが完全に、惑星探査宇宙船操縦用サイボーグに生まれ変わった瞬間だった。
  胸には、「SHIP.OP1 MISAKI MIMITSU」という文字が書かれていた。もちろんバックパックにも同じように書かれている。
「おめでとう。惑星探査宇宙船操縦用サイボーグ SHIP.OP1の誕生です。この呼び方にも慣れておくこと、コードネームで呼ばれることもかなりの機会であると思って下さい。40時間かかっての処置がすみましたので、8時間の休息の後、新しい身体が正常に機能するかをチェックします。そして、先に改造手術を受けた、火星探査開発用サイボーグの4人と共に慣熟訓練に入ります。今日から2日間は、皮膚の定着のため、意識をレストモードに保ちます。清川さん、美々津少佐のレストモードへのモード変更をお願いします」
  清水ドクターが指示を出した。前川さんが、みさきの腹部の腹部取り付け外部操作用補助操作パネルを操作するとみさきの意識が突然なくなった。レストモードへ移行したのだ。
「それでは、0Y473D00H00M00Sまで解散します。各自ゆっくり休息をとって下さい」
  清水ドクターが続けた。
「それでは失礼します」
  そう言って、徳永ドクターと清水ドクターが処置室を出て行った。
  私、清川さん、七海、えりか、クリスの5人は、SF映画に出てくるアンドロイドのように金属光沢を放つみさきの皮膚を触って、感傷に浸って、処置室を一人ずつ出て行った。


  0Y473D00H00M00S。
  みさきがアクティブモードになった。それを確認して、彼女のサイボーグ体の動作テストに入る。
  私は、毎日の日課となっている、みさきのフロントパックの高濃度栄養液供給用カートリッジと老廃物貯留カートリッジの交換を行う。この作業は、モードの変わり目に必ず行う処置である。そして、バックパックの酸素発生装置の触媒カートリッジと二酸化炭素排気体回収カプセルの交換をおこなった。
  この処置は、1日1回の日課となっている。そして、バックパックに接続してあるケーブル類、チューブ類の接続の確認を行った。サイボーグ体の動作チェックが終われば、これらのチューブやケーブル類は、地球上にいるときは、レストモードに入るときに接続し、アクティブモードが始まるときに外してあげるようになる。
  もちろんこれらの日課は、宇宙船内では、宇宙船に繋がれているので、これらの日課は自動的に宇宙船のコンピューターが維持管理してくれるので、手動ですることがなくなるのだが、みさきが地球上にいるときは、常に必要とされるようになるのである。
  徳永ドクターが指示を出した。
「みんな、おはようございます。美々津少佐、本当に辛かったでしょうけれど、よく頑張ったわね。サイボーグ手術の処置自体は成功しました。ただし、これから行う、サイボーグ体の機能動作チェックで異常がないことが確認されて、初めて完全に成功ということにはなりません。もうすこし我慢してね」
「ハイ、わかっています。正常に私のサイボーグになった身体が機能して、如月大佐や望月七海中佐たちと一緒に火星探査のための完熟訓練に入れることを望んでいます。もう、後戻りできない道を歩いているのですから、早く前に向かって歩き出していきたいです。といっても、歩く脚が私にはないのか」
  気丈な答えの中に悪戯っぽいジョークを入れてみさきが答える。
「わかりました。それでは、清川さん、山田少尉美々津少佐の感覚剥奪処置の解除に入ってください。清水ドクター、彼女の生体部分と機械部分のデータの取得と管理をお願いします。如月大佐は、私と一緒に、如月大佐は、前川さんのアシスト、望月七海中佐は、清水ドクターのアシストにまわってください。それでは、行動を開始します。みんな、気を引き締めて、頑張りましょう。分かっているとは思うけど、ここまで来ると感覚が鈍ることがあるから、あえて忠告するけど、私たちが扱っているものは、生体部分がほんのわずかで、標準体とは違いますが、私たちと同じ人間であることを忘れないでください。機械とは違うのよ」
  徳永ドクターの言葉にみんな心の中で頷いた。私たちは、ラバーフィットスーツ装着者とサイボーグ体となったものだけなので、首を実際に動かして頷くという行為のできるものは誰もいないのだった。そういう意味では、みさきを機械として扱うという行為は、自分自身の人間としての存在を否定する行為なので、誰も、間違っても、みさきに対してそのような感覚で接しようというものはここにはいるはずがないことは確実であった。でも、あえて、徳永ドクターは、自分たちが研究材料という目を持ってしまうことへの自戒を含めていることは充分に理解できた。
  前川さんが、その感傷による沈黙を破るように、
「感覚剥奪処置の解除処置を開始します」
そう言うと腹部取り付け外部操作用補助操作パネルと外部生命維持管理システムの操作パネルをクリスと二人で操作し始めた。
「美々津少佐、徐々に感覚が戻ってくるはずです。その間に身体データを取り始めます」
  清水ドクターがそう言って、操作パネルでみさきの身体を分析し始めた。
  徳永ドクターが、みさきに話しかける。
「私の声が聞こえますね」
「ハイ、聞こえます。でも感覚が元に戻ると言ってもそういった実感がないのですが?」
  みさきの言葉に、徳永ドクターが答える。
「コミュニケーションサポートシステムは、順調のようね。それじゃ、感覚剥奪処置が完全に解除されるのをまって、船内船外集音システム、宇宙船外部観察システムへの接続、船内観察システムとの接続といったシステムが正常にコネクティングされるかをチェックします。皮膚の感覚に関しては、美々津少佐の場合、今、どの様な負荷がかかっているかが、人工眼球に視覚的に示されると同時に、データとして、生体脳と生体脳を中心とする補助コンピュータ群や、船内コンピュータに送られ、適正な処置をされるようになっています。また、データ自体は、宇宙開発事業局のメインコンピュータシステムに転送されるようになっています。そう言う意味では、もう元の生身の身体のような感覚を味わうことは、美々津少佐には、不可能になります。もっとも、美々津少佐自体の身体の直接感覚は、宇宙船内では、もう必要ないと言うことも出来るのです。逆にバックパックを通して、宇宙船の内外の情報が、感覚として、脳や人工眼球に情報が伝えられ、視覚情報として、人工眼球内に表示されるし、宇宙船内外の事態の異常が、美々津少佐の場合、痛いとか、熱いとか、寒いとか言った具体的な人間の感覚情報として、限界情報として、生体脳に伝えられるようになっています。そのシステムの動作チェックも後ほど行います」
  前川さんが報告した。
「感覚剥奪処置が完全解除になりました」
  徳永ドクターがみさきに向けて質問をした。
「人工眼球内のディスプレイ情報に感覚情報が表示されるようになっていない?」
  徳永ドクターの質問にみさきが答える。
「ハイ、感覚情報が表示されました。0Y473D07H00M00Sという時刻表示の他に、体外情報として室温22℃、湿度23%なんていう文字が表示されています」
「感覚剥奪処置が完全に解除された証拠です。本格的な惑星探査宇宙船操縦用サイボーグSHIP.OP1 MISAKI MIMITSUの動作確認を開始します」
  徳永ドクターがいった。
  私たちは、徳永ドクターと清水ドクターを中心にみさきのサイボーグになってしまった身体の動作確認にかかった。まず、感覚器官がチェックしていく。船内船外集音システム、宇宙船外部観察システム、船内観察システムとの接続動作チェック、ケーブルから伝達される感覚が確実にディスプレーされているか、脳などにデータとして送られているかがチェックされていった。
  そして、皮膚感覚が、データの伝達が正確に行われるのか。そして、宇宙船内外の状況の感覚化システムの作動が正確に行われているのかといった動作確認が行われていった。みさきの動作確認は、動きの確認ではなく、情報が正確に伝わるのかどうかというものを確認していく、どちらかというと地味な動作チェックだけである。
  そして、最後に、手脚のコネクターの作動を確認して、2日間にわたる動作の確認作業を終えたのである。
「美々津少佐、お疲れ様。あなたの身体は正確に作動しています。安心して下さい。これを持って、惑星探査宇宙船操縦用サイボーグSHIP.OP1 MISAKI MIMITSUの完成ということになります。24時間の休息をとった後、いよいよ、火星への探査飛行に向け、慣熟訓練に入ります。如月大佐も望月七海中佐も力を合わせてミッションを成功させて下さい。一人も欠けることなく、生き続けて、順調にミッションの消化をすることを期待しています。そして、如月中尉と山田少尉は、先輩のサイボーグの出発を見送った後、あなた達も手術の準備にはいることになると思います。先輩たちの生き様をしっかり頭にとどめておいて下さい。それでは、これで解散します。ご苦労様でした」
  徳永ドクターの言葉に全員が、ご苦労様と口々に言うと共に、私や、七海、そして、みさきに「がんばれ!」という言葉を掛けてくれた。
  清水ドクター、徳永ドクター、清川さん、本当にありがとうございます。
  そして、みさきのケーブルやチューブ類をバックパックから外し、七海と二人で、みさきを洗浄室に運んで、3人で身体を洗浄した。
  そして、みさきの居住エリアのみさき用に作られたメンテナンスチェアにみさきを清川さんと一緒に寝かせ、バックパックにケーブルやチューブ類を接続した。そして、フロントパックの高濃度栄養液供給用カートリッジと老廃物貯留カートリッジの交換、バックパックの酸素発生装置の触媒カートリッジと二酸化炭素排気体回収カプセルの交換という日課のサポートを行った。
「ありがとう、はるか」
「何を遠慮しているの、ここにいるのは、みんな、火星に行くためのサイボーグへの改造手術を受けた人間か手術を待つ人間しかいないんだよ。変な気を遣うのはやめようよ」
  私の言葉に、七海もえりかもクリスも同意した。
「ありがとう、みんな。でも、前から、自分では何も出来ない身体になっていたけど、それに加えて、こんな金属の皮膚で、しかも、その中身は、脳とごく一部の臓器が残っているだけで、それ以外は、全てが機械や電子機器になっちゃったんだから、ため息しか出ないね。その上、サポートヘルパーに世話してもらうか、宇宙船のオペレーター生命維持管理システムの世話にならなかったら、生命維持の基本活動も出来ないなんてね。人間だった頃の私だったら、涙が止まらなかったよね。でも、こんな強化樹脂ガラスのゴーグルのような人工眼球に変えられて涙も出ないしね」
「でも、みさきは、両脚のコネクターと接続して、自分の意志で自由に動き回れる台車や両腕のコネクターに接続できる義手のようなものを宇宙開発事業局に作ってもらうことで、自分での行動が可能になるんじゃないかな」
  私の提案に、みさきが、
「私もそう思って、長田部長に話したことがあるんだけど、地球に待機している状態の時は、自分の意志で動けるようにしておいて、万一施設から逃走されるという場合を想定して、その様な台車や義手は貸与せず、サポートヘルパーによるサポートを必要としなければならない状態にしておくんだって。私たちは、もう、国家予算を使用して作り替えられたサイボーグだから、帰属は、国家や宇宙開発事業局のものになるんだって。私たちは、国家財産であることを認識しないといけないといわれたの。
  もちろん、はるかや七海も同じなんだと説明された。だからハルカや七海たちには、地球上では、このエリアを出るときには、常時追尾システムが付けられて、何かあれば、サイボーグ体のコントロールを宇宙開発事業局が行えるシステムが取り付けられているそうよ。ラバーフィットスーツ装着者もラバーフィットスーツ自体も、それを装着するために受けた処置で取り付けられた機材も含めて国家予算が使用されているため、ラバーフィットスーツを脱がない限り、この施設からは特別なことがない限り、木村局長や長田部長も含めて二度と出ることが出来ないんだって。私たちみんな、
行動が完全に制限されていることを認識して欲しいと言われたわ」
  みさきの言葉が私たちに重くのしかかった。囚人のように行動を完全に制限されていかなければならないなんて。
  しかし、このプロジェクトが火星に私たちが旅立てる状態になるまでは、極秘扱いになっているから仕方ないし、その後もどの様な人間がかかわっているのか、私たちの身体の技術、その他の技術が他国に流出してしまうことはあってはならないことだった。まして、私たちが、不用意に外に出て、他国に連れ去られたら、分解されて、命を失う可能性だってあるのだ。火星を植民地化するためのプロジェクトは情報に置いて慎重に進められなければならないのだ。私たちは、存在自体が国家機密であるということであった。
「みさき、わかったわ。あなたの手脚を私たちがしてあげるからね」
  七海がいった。
「ありがとう」
  みさきが答える。
  えりかが、
「そろそろ休んだ方がいいと思います。みさきさん、レストモードに切り替えさせて下さい」
  そう言って、腹部取り付け外部操作用補助操作パネルを操作した。
「みさきさん、ゆっくり休んでください」
  クリスがそう言って出て行った。そして、私たちも出て行った。
  私と七海も、明日から、火星に行くための本格的な訓練が始まる。身体を休めておく必要があるので、それぞれの居住エリアに戻っていった。
  私は、えりかと一緒に、私の居住エリアに戻った。この居住エリアで私が迎える最後のレストパートになるのである。私は、メンテナンスチェアに収まり、自分の身体を腕の操作装置をいじり、レストモードにした。
「えりか、お休み」
  そう言って、私の意識は、遠のいていった。


  0Y475D00H00M00S
「おはようございます。はるかさん」
  まりなさんの声が聞こえる。
「いよいよ、火星へ行く、本格的な訓練が始まるんだね」
  えりかの声だ。
「おはよう。まりなさん。えりか。本当にいよいよだね。火星の地を踏む人類第一号になってみせるわ。若干は補正改訂版の人類だけどね。これからも二人の協力をお願いします」
「私もえりかさんもはるかさんのサポートをより一層力を入れて行います。任せてください」
「私は、お姉ちゃんが訓練している間、自分の訓練も入ってくるようだから、まりなさんほどは協力できないけど、お姉ちゃんのために一生懸命サポートをしていくつもりです」
  まりなさんとえりかの答えが力強く聞こえる。これからの不安を補うサポートが得られそうだ。私の心に火星の探査に絶対行くんだという強い決意がみなぎった。
「はるかさん、そろそろ、ブリーフィングルームに行く時間です。木村局長と長田部長が待っています」
  そう言うまりなさんに対し、
「それでは、行きましょうか」
  私は力強く答えた。
  ブリーフィングルームには、もう浩、七海と未来が集まっていた。
「はるか、遅いぞ」
  浩の声だ。
「浩、未来、久しぶりだね。望の処置は順調に終わったの?」
  私の問いに、未来が答える。
「順調に終わったわ。望も、元気だよ。みさきはどうだった」
  七海が答える。
「みさきも順調だよ。申し分なく、惑星探査宇宙船操縦用サイボーグへの改造手術の処置が終了したわ。私たち、2チームのすべてのメンバーがサイボーグとして、これから活動を開始するということになるのね」
  そんな話をしているところへ、みさきと望が、サポートヘルパーの前川さんと望のサポートヘルパーの田中恵さんが惑星探査宇宙船操縦用サイボーグ専用移動台車付きスタンドに固定されてやってきた。
  二人の姿は、本当にアンドロイドのようだった。みさきの手術に立ち会い、見慣れているものの、金属光沢を持った全身は、機械の身体という表現がまさに正しかった。私たちの姿のラバー光沢を持った全身をラバーのキャットスーツに覆われたようなラバーフィットスーツに覆われた身体のイメージとは明らかに違っていた。
「おはよう、みさき、望、サイボーグ手術の処置を受けて初めての処置室以外の場所の感想は?」
  私の問いかけに望が答えた。
「ひさびさの違う風景で新鮮に映ったわ。いつも処置室の内部風景だけの視覚データだけだったからね。気持ちいいわ。」
  視覚データという言葉を望は使って自分が惑星探査宇宙船用サイボーグという機械人間になったことを精一杯の表現で表したのだろう。望なりの前向きの表現なのだった。
「望と同様にとても新鮮よ。任務に向かうのに迷いなしと行ったところね」
  みさきが続ける。望もみさきも二人とも、強い意志を感じる言葉だった。
  そんな会話をしていると、木村局長と長田部長がブリーフィングルームに入ってきた。
「みんな、決められたブリーフィングチェアに座ってください」
  前列には、向かって右から、MRAS1、MARS2、SHIP.OP1という名札がブリーフィングデスクに置いてある。そして、その後に、右から、MRAS3、MARS4、SHIP.OP2という名札が並んでいる。私たちは、指定されたところのブリーフィングチェアに向かった。よく見ると、いつの間にか、私たちのサイボーグ体がそれぞれ座りやすいように加工されたブリーフィングチェアに交換されていた。さすがに私たちを火星に送り込むための施設といった感じである。
  みんなが所定のブリーフィングチェアに着くと木村局長が話を始めた。
「皆さん。おはようございます。やっと、6人の火星探査のために生まれ変わったサイボーグアストロノーツが揃いましたね。みんなの手術が成功したことをうれしく思います。これからは、火星探査・開発用サイボーグと惑星探査宇宙船操縦用サイボーグという特殊任務用サイボーグアストロノーツとして、慣熟訓練に耐えて、第一次火星探査飛行を成功させることを願っています。前列の3名が第一次火星探査の正規チーム、そして、後列の3名が緊急補充用バックアップ要員となります。常に横の3名のチームワークを意識すると同時に6名のチームワークも正規チームに万が一の時に備えて、確立しておくこと、我々にとって、皆さんの身体は、データのない初体験の実験であるのです。残念ながら何が起きるか予測がつきません。あなた達の生態がそのままデータとなるのです。みんなが何が起こっても正規チームの代わりになるようにしておくことです。もちろん、地上バックアップメンバーも第一次火星探査チーム、緊急補充用バックアップチームに何かがあったときは、すぐにサイボーグに生まれ変わるための手術を受けなければならないので、心の準備をしての待機を命じてあります。しかし、ここにいる6名が欠けることなく、そして、正規チームの3名が、火星に飛び立てることを、そして、探査活動を終えて無事に帰還できることを願うと共に、その為のバックアップを宇宙開発事業局の全てを懸けておこなっていくつもりです。私たちも全力を尽くします。ここにいる、サイボーグになった皆さんも頑張ってくれることを願っています」
  木村局長の言葉の中の意味を私は考えた。私たちが火星に行けないということは、今の身体の構造からして、体調を崩してバックアップメンバーと入れ替わることは考えられないから、生体脳の停止、つまり死亡することを意味することなのだ、サイボーグアストロノーツに改造されたのが、私たちが初めてなため、私たちが生きていること以外のデータはないのだから、何かが起きても、それが初めての経験データになるのだ。
  私たちの存在は、データ的に全て手探りの状態なのであった。そう言う意味で、常に死と隣り合わせの存在になってしまったことを木村局長の言葉は物語っていた。でも、覚悟は出来ている。この身体で生き延びて、火星探査を成功させ、再び、この地球の大地を踏みしめてやるのだ。たとえ、身体は、普通の血が通った生身の人間に戻れなくても、地球上で再び生活できるまで生き延びてやるのだ。私は、そう心に誓った。
  長田部長が、木村局長の言葉を受けて、
「これから、ここに集まってもらった6名には、下層階の訓練エリアに移動してもらい。訓練をおこなってもらいます。それから、出発の日にちが決まりました。1Y000D00H00M00S。ちょうどに打ち上げとなります。190日余りの訓練期間を持ってもらうことになります。慣熟訓練期間としては充分な時間があります。火星への飛行が恙ないものにしてください。それでは、下層階に移動してください。健闘を祈ります」
  私たちは、長田部長の言葉を受けて立ち上がり、部屋を出た。
  私がみさきの台車を押し、浩は、望の台車を押した。部屋の外には、美紀、はるみ、ルミ、直樹の4名が待っていた。
  美紀が、
「頑張ってね。私たちもバックアップとして、サポートするからね」
  そう言って励ましてくれた。


  私たちが、訓練エリアの下層階に到着すると白いラバーフィットスーツを着た、サイボーグ訓練担当の白井節子課長が待っていた。
「私が、皆さんサイボーグの訓練全般を管理運営していく、サイボーグ訓練課の課長の白井節子です。よろしくお願いします。皆さんが、今度のミッションを滞りなく行えるように導くためのお手伝い係と思ってください。皆さん、頑張りましょう」
  そして、訓練全般をサポートするために清川さんやまりなさん達が待っていた。サポートヘルパー全員集合といったところである。その中には、えりかやクリスがいた。
「お待ちしていました。火星標準環境室内部以外では、基本的に私たちが、サポートさせていただきます」
  まりなさんが代表して答えた。
「私が、代表して応じた。よろしくお願いします。このミッションを必ず成功させて見せます。その為に力を貸してください」
  まりなさんが、
「それでは、惑星探査宇宙船のシミュレーターに美々津少佐と橋場少佐のふたりを接続します。ふたりは、惑星探査宇宙船を自由に動かすためと接続された状態に長期間慣れるように、今から、接続して訓練をおこなってもらいます。今から、模擬惑星探査宇宙船の管理下に生命維持システムの全てがおかれます」
  そう言うと清川さんやクリス達が、みさきと望を台車から降ろし、惑星探査宇宙船のシミュレーターに運んでいった。
  シミュレーターには、薄い黄色のラバーフィットスーツを装着された技術スタッフが数名ずつ待機していて、みさきと望をそれぞれのシミュレーターの中に運び込んでいき、私たちにもシミュレーターに入るように指示をした。
  私たちがそれぞれのシミュレーターの中に入っていた。
  私が入ったシミュレーターでは、薄い黄色のラバーフィットスーツを装着されている技術スタッフの中川主任が、みさきをシミュレーターに接続する前に説明をしてくれた。
「これから、美々津少佐を惑星探査宇宙船のシミュレーターに据え付け固定します。順調にいけば、出発時に操縦スペースに据え付け固定されて、帰還までそのままの状態となりますが、大きな故障が発生した場合、如月大佐と望月七海中佐は、美々津少佐を操縦スペースから取り外して、故障箇所の修理と身体の調整をおこなってあげないといけないこともあるので、その時のために接続手順を実際に見ておいてもらうことにしました。もちろん、慣熟訓練の訓練項目に惑星探査宇宙船操縦用サイボーグの操縦スペースからの取り外し及び、再据え付け処置の実習訓練がありますので、実地の訓練は後でしてもらいますが、その時に困らないように見ていてください」
  そう言うと、みさきを彼女の形に作られた斜めになっている操縦席に据え付けた。そして、シートベルトで、みさきの身体をがんじがらめに拘束した。まるで縄に拘束されている光景を見ているようだった。それから、両脚、両手の切断面のコネクターに無数のケーブルを20のコネクターセクションになったものを脚に各10グループ、手に各5グループを慣れた手つきで接続していった。
  コードケーブルが接続するたびにみさきは、
「あーん」
  というような喘ぎ声を出した。
  中川主任が、
「このコネクターは、各接続グループごとに色分けしてあって、違った場所に差し込むことが出来ないようにコネクター形状が全てのグループごとに微妙に違っています。だから、誤接続はないと思いますが、たまたま何かの拍子で、誤接続された場合、腹部の腹部取り付け外部操作用補助操作パネルの、コネクター接続状況のランプが赤く点滅し、誤接続があった場所が、腹部取り付け外部操作用補助操作パネルに示されると同時に警報ブザーが鳴るようになっています」
  私が質問した。
「みさきが喘ぎ声を出しているのはなぜですか」
  中川主任が答えた。
「コネクターにケーブルが差し込まれることは、体内に何かが挿入されることになります。従って、性的行為をとれないサイボーグに性的刺激を与えてあげようと言うことになりました。それが、惑星探査宇宙船操縦用サイボーグのストレス軽減になるという研究結果が出たため装備されたシステムです。彼女は、自分から興味の示すものに対する行動をとることが出来ないから、このぐらいのことはしてあげたいという技術者の気持ちです」
  そう言いながら、股間の部分のコネクターに太いケーブルが差し込まれ、接続時防護カバーがその部分を覆うように取り付けられたときであった。
  みさきが、突然、
「ああーーん。イヤーーん」
  という喘ぎ声を出した。
「この股間の部分のコネクターも同じような構造になっていて、ここに外部コンピュータと内臓ハードディスクとの接続ケーブルを差し込んだり、エネルギー外部供給用および、受給用コネクターにケーブルを差し込むと快感が得られることになります。このシステムは、如月大佐と望月七海中佐の股間も同じような構造になっていますが、ふたりは、快感を感じるシステムをオフにしてロックしてあるので、感じることはないし、ふたりは、完全に性欲中枢の機能を停止させていて、性的快感システムは地球帰還後でないと作動させないことになっています。地球帰還後に股間のコネクターを感じるようにして、快感中枢の機能回復もおこなうから、それまでは我慢してください。といっても、もう、ラバーフィットスーツ装着から、性欲は機能しないようにされているから、性的快感と言うこと自体、もう、みんなにとって死語のようなものですね」
  みさきは四肢を失ったことと引き替えに少し別の人間性を持たせてもらったと言うことなのだった。何だか少し寂しい話かもしれないと私は思った。
  そんなことを考えているうちにケーブルの接続が全て終了していた。そして、バックパックやフロントパックに生命維持系統やエネルギー供給系統のチューブやケーブルが次々と接続されていった。そして、頭部のコネクターにケーブルが次々に接続された。
  そしてついに、みさきは、シミュレーターの中央部に据え付けられ、シミュレーターの一部になってしまったのである。
  もちろん、実際の惑星探査宇宙船においては、みさきは、この状態になることにより、宇宙船の最重要の制御システムのなっていくのである。
「とうとう、訓練が始まって、惑星探査宇宙船の一部になっていっちゃうんだよ。何かわくわくする自分と不安な自分が同居してる。二人が火星に無事にいけるように訓練を私、頑張るから」
  みさきの声に、私が応える。
「惑星探査宇宙船のコントロールは任せたわ。私たちは、火星探査用の訓練を行ってミッションが成功するようにするから」
  これから、彼女たちの孤独でつらい、神経をすり減らすような訓練が始まっていくのであった。
  中川主任が、
「如月大佐と望月七海少佐も今日は、惑星探査宇宙船の中で、大部分の時間を過ごしてもらう、
火星探査・開発用サイボーグ搬送用保護カプセルに入る体験をしてもらおうと思っています」
  と言った。
  私たちは、中川主任の指示に従い、私たちは、みさきが据え付けられた操縦スペースの両脇におかれた、私たちの身体に寸分違わない寸法に作られた内部を持つ火星探査・開発用サイボーグ搬送用保護カプセルに横たわった。薄い黄色のラバーフィットスーツを着た技術スタッフが、私たちの身体を固定用ベルトで固定していった。
「この状態で火星に向けての旅が始まります。カプセルの右の壁には、固定ベルトをリリースしたり、セットしたりするためのスイッチがあります。惑星間飛行中は、美々津少佐の故障を修理しなければいけないときやその他必要に応じてカプセルを離れてもいいことになっています。ただし、出発や帰還、火星への着陸、発進時は、火星探査・開発用サイボーグという一番貴重な機材を保護するため、火星探査・開発用サイボーグ搬送用保護カプセルに入っていなければなりません。万一、あなた方が故障したり破損した場合、ミッションのスケジュールに及ぼす被害を考えてのことなのです。今日は、この状態で、訓練を終了してもらいます。火星探査・開発用サイボーグ搬送用保護カプセルに少し慣れてください。それでは、オートの時間管理システムを作動させ、今日の訓練はお終いです」
  私たちは、時間管理システムをオートにした。こうすると一日のアクティブパートが0時に始まり、16時に終わるのに合わせ、0時には、アクティブモードになり、16時には、レストモードにモードチェンジが自動的におこなわれるようになっている。私たちの意志でそのリズムを崩す必要がある場合は、マニュアルモードに切り替えればいいようになっているし、緊急事態の判断が本部で下された場合は、本部からの強制制御が出来るようになっていた。いずれにしても、睡眠や覚醒が、機械部分に管理されていることに変わりはないのである。
  私たちは、アクティブパートの残りの1時間を3人のコミュニケーションに使った。
「みさき、気分はどう?」
  私の答えに、みさきが答える。
「今は、機械に据え付けられているだけだけど、明日から訓練に入れば、宇宙船の制御システムの一部になってふたりを安全に火星に運び着陸させて、地球に戻ることに全力を尽くすために何をするのかを身を以て学ぶことになるわ」
「みさき、よろしくお願いね。私とはるかは、みさきがミッションをおこなう星に運んでもらうことになるから、そこで、ミスのないように出来る限りの任務を遂行するようにしないといけないよね」
「そうだね。必ず、成功のうちにたくさんの情報をこのプロジェクト本部に持ち帰るのよ」
「みんなで誓おうね」
  私が言うと。ふたりが、
「隊長よろしくお願いします」
  そう答えた。私たちは、その後も自分たちの置かれた立場を3人で話し合い、みんなの考え方の方向性が一つになっていくような気がした。
  みさきは、明日から、常に、視界は、24分割の違った映像を同時に見ることが出来るし、その中で1つからいくつかの画像に集中することも出来るようになるし、宇宙船内の全ての機器を動かすことが出来るようにもなるし、いろいろな場所の音の情報を分析できるようになるのであった。そして、それを加工して、宇宙船の運航に必要な情報として活用できるようになる訓練を受けのであった。もちろん、宇宙船の動力を自由にコントロールし、宇宙船を自由に操ることも可能になる訓練も
受けることになるのであった。
  みさきは、孤独な訓練を受け続けることになる。ただ、火星着陸訓練と、火星での待機状況訓練をのぞいて、ほとんど一人での訓練が続くのであった。


  0Y476D00H00M00S。
  火星への出発予定日まであと194日になった。
  私と七海が、本格的に火星探査・開発用サイボーグとして、余すところなく、機能を発揮させて行くことが出来るようになるための訓練が始まった。
  もう慣れてしまったのだが、機械部分の制御によって、時間通りに意識が戻り、アクティブモードになる。私のアクティブパートの生活が始まるのである。自分が機械との共生システム体になってしまったことを痛感する瞬間の一つであった。
  私たちは、火星探査・開発用サイボーグ搬送用保護カプセルの右の壁の手が動く位置にある、拘束リリースボタンを押した。すると、固定用シートベルトがみるみるうちに、火星探査・開発用サイボーグ搬送用保護カプセルの内側に格納されていき、私たちは自由になった。
  私と七海は、みさきに、
「おはよう。みさき、私たちも今日から頑張るね」
  と声を掛け、惑星探査宇宙船シミュレーターをでた。訓練エリアに降りると浩と未来がやはり、惑星探査宇宙船シミュレーターから出てきていた。
  白井課長が、薄い黄色のラバーフィットスーツを装着された技術スタッフを連れて、やってきて、
「今日から、皆さんにサイボーグとして、火星探査計画用サイボーグアストロノーツとして生きていく上で困ることのないように、また、ミッションが滞りなく実行できるようにするための訓練を受けてもらうことになります。ここにいる4体の火星探査・開発用サイボーグの皆さんには、一人にもし万が一の事態が発生した場合を想定し、ロケットに搭載されるまでは、チームの隔たりなく、全て同じ条件で、行動してもらいます。そして、皆さんの訓練を担当するのは、私の隣にいる中島友恵主任が担当します。中島主任どうぞ」
  課長にそう言われ、中島主任が話を続けた。
「火星探査・開発用サイボーグの皆さん。始めまして。私が、皆さんの訓練を担当する中島です。皆さんの真の力を引き出すような訓練をおこないます。皆さんにとっては、肉体的につらいという感覚はもうないものと思っているでしょうが、警告領域ギリギリまでか、それを超えた、皆さんの新しい身体の限界を知ってもらうことも大事だと思いますので、皆さんに付与されている警告のための疑似肉体身体感覚が働くことが多くなりますから、覚悟してください。とはいえ、精神的に辛いということは、日常茶飯事なのだと思います。頑張ってください。それではよろしくお願いします」
  もう、4体とか疑似身体感覚とか、機械人形であるといわれているような言葉に抵抗がある。そんな私の心とは関係なく、中島主任の説明が続く。
「まず、皆さんにおこなってもらう訓練は、自分の身体になれることです。例えば、柔らかなものをつぶすことなく掴んだすぐあとにものすごく堅いものをつぶすというようなことや、ジャンプの高さの調節、力仕事のあとで生身の人間と握手といった微妙なパワーコントロールなど、人間と機械が協調している身体の無限の可能性や使い方を自分のものにしてもらうことです。現在は、サイボーグ改造手術前のデータを元に生身の肉体だった当時の普通の生活が送れるだけのパワーしかでないようにパワーセーブリミッターを作動させているのが皆さんの現状です。もっとも、そこまでも今は自分の火星探査・開発用サイボーグとしてのボディーを使いこなせていないのも事実なのです。そこで、今からパワーセーブリミッターを完全に解除しますから、早く新しい身体に慣れ、十二分に使いこなせるようにするための訓練を開始します。サポートヘルパーのみんなは、サイボーグのパワーセーブリミッターを外してください」
  いつの間にか、私のところにまりなさんがやってきて、バックパックにあるパワーセーブリミッターのコントロール装置を操作してくれた。
「はるかさんなら、すぐにサイボーグとしての能力を全て自分のものに出来るはずです。頑張ってくださいね」
  そう声を掛けられた。4人に付いていたサポートヘルパーが操作を完了し私たちから離れた。
  中島主任の声がコミュニケーションサポートシステムを通して聞こえてきた。
「これでみんなはサイボーグとしての持てる機能を全て出し切ることが出来ますが、一方で、その能力をコントロールすることを覚えておかないと、大変な事態を引き起こすこともあるのです。例えば、普通の人間と握手したりすると相手の腕を簡単にへし折ってしまったりなんていうこともあり得るのです。だから、サイボーグとしての機能を完璧にコントロールできるようになることが、機械の身体を与えられたあなた達にとって最初にして、大きな課題となるのです。この課題を克服しなければ、安全な状態で皆さんは新しく生まれ変わったサイボーグの身体を使いこなすことが出来ないのです」
  中島主任はそう言って私たちの身体の正しい使い方を徹底的に私たちに教えることを始めた。
  まず、ものをつかむことから始められた。卵をつかんだり、テニスボールをつぶしたりといった、手の力の入れ方などの手や腕の使い方を教えられた。そして、つぎに歩くことや走ること、跳ぶことといった脚の使い方。そして、人工眼球の使い方。暗いところから急に明るいところに連れて行かれたり、その逆のこと、遠くのものを見たと思えば、ごく近くのものを見せられたり、いろいろな形や色、材質の分析や解析を行ったりもした。
  そして、人工聴覚の使い方、人工嗅覚の使い方といったことを次から次へと教えられた。そして、私たちは、自分の火星探査・開発用サイボーグの身体の機能をフルに自分の意識化や無意識のうちに使えるようになるまで、訓練を続けられたのであった。
  これによって、歩いているときに急に時速120㎞の速さで走ることが出来るようになったし、その状態から、急激に止まることも可能になった。また、5トンのものを持ち上げたあと、卵を不意に優しく持つことも出来るようになったし、10メートルのジャンプも飛べるようになった。
  私たちは、このような基礎的にして最も重要な訓練を30日間に渡って受け続けた。単調で辛い訓練の日々を過ごしたのである。
  私たち4人は、お互いを励まし合い、この基本訓練期間とも言うべき訓練期間を耐え続けていった。そして、誰一人、落ちこぼれることなく、サイボーグとしての身体の機能を発揮できるようになった。そして、私たちは、ついに火星探査・開発用サイボーグとして本当に活動できるようになることが出来たのであった。


  0Y500D00H00M00S。
  私たちが火星に旅立つ日まで170日となっていた。
  この日から、火星標準環境室で火星での探査活動の訓練や宇宙空間再現用シミュレーションプールでの宇宙空間における作業の訓練に入っていくことになる。
 「3日間の休息はどうでしたか?たぶん、皆さんは、身体の使い方の復習で気分転換をする閑がなかったと思います。この30日間でものすごい量のマニュアルの訓練をしたことになりますからね。そして、今日から、宇宙空間や火星表面での活動習熟訓練には入ります。いよいよ、火星探査・開発用サイボーグの本来の目的の為の訓練を行ってもらいます」
  中島主任の言葉にみんながこれからいよいよなんだという感情を持っているに違いなかった。
  でも、みんな、もう表情に表すことも肯くという行為を起こすことも出来ない身体になっていた。サイボーグという機械の身体で、首を動かす必要がないと言うより、首を稼働させることによっての電子機器と電子機器や生体脳を結ぶ重要なケーブル類を守ることを守るためだからしょうがないのだ。
「みさきと望の訓練は順調なんでしょうか?」
  私の質問に中島主任が答える。
「順調に進んでいるという報告を受けています。惑星探査宇宙船の操作や、彼女たちの身体と惑星探査宇宙船との連携の取り方などを順調に訓練をこなして、順調に操船技術を身につけていますし、惑星探査宇宙船操縦用サイボーグとしての身体の使い方も充分に覚えているようです。もうすぐに、合同訓練を行うことも可能になるでしょう。みんなの訓練の消化次第といったところですが、みんなの方が遅れ気味かもしれないから、気を引き締めて訓練に当たってください」
「わかりました。とにかく頑張ります」
  私が代表して答える。
「それでは、まず、プールを使用して、宇宙空間での作業訓練から初めて、それから、火星標準環境室に移って、本番の火星探査訓練を行うというスケジュールで訓練を行っていきます」
  中島主任の指示に従って、超微粒子樹脂が入れられたプールでの惑星探査宇宙船の外部での緊急作業の訓練から始められた。
  私たちのバックパック部分に命綱を付けての作業を実際には行うことになる。惑星探査宇宙船の補修の方法を訓練によって学んだ。この訓練に30日の日数を費やした。惑星探査宇宙船に何かがあった場合は、私たちは永遠に火星に行くことが出来ないどころか地球に帰還することも不可能になるから、いろいろなことを想定した訓練が行われた。
  ここまでは順調に訓練が進んでいったのであった。私は、七海とみさきと3人で火星に行けると思っていた。信じて疑わないほどに。

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