■6月29日 「スクイズじゃ、ゲームは、なかなか決まんないです。スクイズで取った1点で決まるなら、どのチームも毎日やると思うんですけど」。阪神・藤川球児監督の5月の発言だ。1点がほしい場面で「SQUEEZE」。現代野球は「SAFETY」が加わる。直訳すれば安全に絞り出す。不思議な作戦だ。
打者はボール球なら見送るから、バッテリーが外しても意味はない。白球が転がっても、三走がスタートするとはかぎらない。メリットは多々ある。一か八か。両チームの判断が試合を決する瞬間をファンは楽しんだ。喜びと嘆きが交差するのがスクイズだったはず。役目は大きく変わった。
22日のソフトバンク戦(甲子園)の1点を追う七回1死一、三塁。藤川監督のサインはセーフティースクイズ。坂本誠志郎がバントを決めたが、三走は自身の判断で動かなかった。阪神に限らず、平成から令和にかけて知らない間に主流となった戦術を見て、故・西本幸雄氏を思い出した。
日本シリーズ8戦8敗の「悲運の名将」の人生はスクイズがつきまとう。近鉄を率いた1979年の広島との頂上対決。「江夏の21球」の19球目はスクイズ。外されて、三走は挟殺プレーもなく、憤死した。60年の決戦もスクイズ失敗で勝機を逸して、4連敗を喫した。
西本氏は2011年、多数の教え子を残して、91歳で他界した。「あの時のスクイズに後悔はない」と言い続け、インタビューでは「幸運の凡将」と冗談交じりに胸を張って答えた名伯楽も、時代が違えば、安全策を選択していたのか。今はスクイズにまで〝保険〟をかける。世の流れで、最新の野球とわかっていても、虫がよすぎると思うのは私だけだろうか…。(稲見誠)