14
「何処に送りましょうか?」
「JUNKOさんの都合いいとこ。」
通りが広がる毎に、車が増えてゆく。
車が流れる毎に、時間が戻ってゆく。
お互いが出会う前に、ゆっくりと遡る。
「あなたが、すきよ。」
言葉にするのは、多分、此れが最後。
「ん、俺も。」
言葉にせずに、此のまま、胸に埋める。
信号待ちで、微笑みあって。
柔らかい麻のノースリーブから、細い腕はすんなりと伸びる。
金のバングルが、軽く揺れた。
陽の光がボンネットで、力強く弾ける。
お堀端の緑は、生命力をあふれさせ、
世界の色合いが、鮮やかさを取り戻す。
都会の僅かな緑が凝縮したような、一角が見えてくる。
公園側の通りから、ホテルに入る。
車寄せをやり過ごし、裏の入り口に寄せる。
「ここで、いい?」
サングラスをはずし、悪戯っぽく笑う。
「ここかあ。」
「ん、一寸ね。
上で、景色をね、見たいの。」
見詰め合う眸が、緩やかに重なり、
口紅が移らないほどに軽く、口唇を重ねる。
「じゃあさ、行くね。」
「ん。」
「あ、と、ごちそうさま。」
「いいえ、付き合ってもらったのですもの。」
自動ドアに向かいかけて、忘れ物でもしたようにふりかえる。
「大事なもの・・・・見つかるといいね。」
そしてドアは音も無く滑り、車は地下に吸い込まれる。
どうしたことかしら。
囚われている自分を、現実の中で掴みたくなかった。
夢の中で偽りたかった、畏れていた、閉じ込めた。
今、あの子の見たかもしれない景色を見てみたい。
乖離していたわたくしの時間が、緩やかに密やかに重なりはじめる。
囚われた心はそのままに、でも、とても、幸せ。
車のキーを抜く。
あ、携帯。
戻った時間を確認するように、取り出した。
「あ、俺。」
「うん、今?帝国ホテルってとこ。」
「一階・・
正面ロビー、うん待ってる。」
何も聞かない、だけど呼び出し音は一回だけ。
足元がまだ覚束ないように、薄暗い廊下を抜けてゆく。
セピアがかったロビーで、片隅の椅子に腰を下ろす。
コマ送りのように行き交う人々を、ぼうっと眺める。
自動ドアが開く度毎に、光が転がりセピアのロビーに吸い込まれる。
陳腐だけれど夢でもみてた、そんな浮遊感を徐々に抜いてゆく。
夢の名残の最後の一欠片が、まだ網膜の何処かに残っている。
自動ドアが、又開く。
眩しい光の渦を纏う、しなやかなシルエット。
緩くウエーブのかかった髪を、逆光が金に透かす。
軽やかな白いワイドパンツに、長いストライド。
細い鎖骨を縁取る、深いVネック。
滑らかな肢体が服の下で泳ぐように浮き上がる。
光は徐々に散ってゆき、セピアがかったライトの中、
彼女が通り過ぎる。
「 あのっ ・・・ 」
ゆっくりとコマが送られ、彼女は振り向いた。
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