13
細い指が手品のように取り出したのは、一葉の写真。
掠れかけたセピアに封じ込められた、少女。
「誰?」
「知らない。」
しゃちこばったセーラー服、生真面目そうな面差し。
来るべき果てない未来への期待が不安を凌駕する、真っ直ぐな眸。
一点の媚びも見出せない、その凛々しい輝きが初々しい。
褪せた粒子を通して、その煌きが胸を刺し貫く。
「いたの。」
「え?」
「この本に、隠れていたの。」
指で少女像をなぞる。
この上もなくいとおしそうに。
すこし短めの、形のよい鼻梁を、
噛み締めたような、小さな口唇を。
その動きは、愛撫にも似て。
「この子が。」
目が甘く細まる。
こんなふうに、どのくらい眺めていたのだろう。
彼女の中で、少女は確かに息衝いているのだ。
「それからね、ずうっと、待ってるの。」
できることは、ずうっと待つこと。
やり過ごす日々を、それなりに楽しく演じつづける。
だけど、もう囚われてしまった。
一目見たその時から、この子に憑りつかれてしまった。
「なにを言っているのかしら。」
「すっごく大事なんだ。」
「ん。」
写真の裏に、細いインクが滲む。
「ええ・・と、
『・・・・・帝國ホ・・・テル、 寫、眞室 にて 』、かな。
『 大正 じゅ・・う、 』
と、読めない。 」
「でしょう。 名前すら、わからないなんて、
ひどいわ。」
そういって、笑った。
笑い顔は泣き顔に、とてもよく似ている。
「 ・・・・ひどいわ。 」
後れ毛に顔を埋めて、後ろから抱き締める。
すごく、柔らかくて、
すごく、温かい。
とても、繊細で、
とても、綺麗だ。
すごく、すき、だよ。
彼の肩越しに、あの子の写真に見つめられながら昂まるなんて。
何処かからいつも見つめていた自分の眼差しが、徐々に薄れてゆく。
ほどかれた心が、少しずつ軽やかになってくる。
夜が明けるまで、浮き上がるのに手を貸して。
もう少し、このままいて。
この温もりの、残るあいだ。
「明日、送るわ。」
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