11
「雨、降ってきた・・・?」
ガラスを打つ乾いた音に、ブランケットから顔だけ覗かせる。
台風に怯える、小さな子供のように。
繋がった身体をもつ、双生児のように。
灰色の紗幕に閉ざされて、世界に二人きり取り残されたように。
男の人は、みんな、本当は、とても優しい。
優しさにつけこむのは、得意なのよ。
優しさのなかで、焦燥が増幅するだけなのだけれど。
「あなたは、優しいの?」
柔らかい膨らみで縁取られた口を、人差し指でなぞる。
「 おれ?
う・・・・ん、たぶん、違うと思う。」
「どこらへんが?」
瞳が上を向いて片眉が上がる、真面目に考えてる。
「 え、と。うまく云えないけど・・・・・」
「じゃあ、下手に云ってみて。」
唐突な問いかけ、からかうような口元。
時折垣間見せる、寄る辺無い少女のような真剣な眼差し。
幾つもの顔を、彼女はとても不器用に使い分ける。
彼をブランケットに引き摺りこむ。
抱き締めて、口元に耳を寄せる。
「んと、大事なものと、それ以外が本当はあるのにないふりしてるとこ。」
「云えてるわね。」
シンパシーの揺らぎが、少しだけ伝わる。
でも、この子はなにか確固としたものがある。
風貌に似つかわしくないその逞しさに、
わたしは縋りつきたいのかもしれない。
そして、また縋りついて、彼の肩に歯を立てて。
子供のように身体中で求め、鼓動に包まれたまどろみの中、
彼方の波に浚われる。
彼女の柔らかい髪が、鼻腔をくすぐる。
彼女の穏やかな呼吸が、胸に寄り添う。
うつらうつら、意識は遠のいたり戻ったり。
乾いた咽喉を潤そうとベッドサイドのミネラルウォーターに手を伸ばす。
置きっ放しの携帯に指が触れる。
ぼんやりと絡めとり、画面を眺める。
着信はない、発信もしてない。
端からみたら、最低。
連絡くらいするもんだよな。
被った波が大きすぎて、そんな余裕なかった。
言訳まがいの話なんてしたくない。
詮索まがいの話なんてしたくない。
そんな話の方が、最低。
そういう自分勝手は、多分あの人も同じ。
そしておそらく、この人もそういう人種。
だから、漂流し続ける。
ベッドサイドに携帯を戻した。
雨音は強くなる。
又、夜が来る。
いつのまに、寝てしまったのかしら。
ドアを叩き続ける音が、遠くから聞える。
放っておきたい、五月蝿いのよ。
適当にシャツを羽織り、ドアに向かう。
白熱灯がもう灯る廊下に、ゆうひが立つ。
「なあに、急ね。」
「昨日っから全然連絡取れなかった。」
電話もなにもかも忘れていたの、只それだけ。
「車で通ったら、電気ついてるじゃない。
一応顔だけ、見よっかなあと思って。」
「凄い顔よ。」
「具合悪かった?」
もしかしたら、本当に心配しているの。
部屋で、彼が起きる気配がする。
どうして、こんなことを云ってしまうのだろう。
なんて、厭な女だろう。
「入ってく?」
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