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花瓶から溢れそうに、芍薬が影を落とす。
その仄暗さが、憂鬱を包み込む。


「花、好きなんですか?」
「これだけ。あとは、嫌い。」


言葉とは関係など無いように、もがくように起きあがる。
舌が口腔を這いまわる、わたくしの野蛮な本能。
今だけ、下司を楽しんでみる。


碧のガラス瓶からひとつひとつ、彼の指を剥がす。
上目で覗きこみ、眸から目を離しはしない。
柔らかく指を絡め、囁くように口唇を寄せる。
軽くそれでもしっかりと押さえられた指は、震えている?
舌を尖らせて、人差し指に滑らせる。
身体が少し強張って、あなたはわたくしに捕らえられる。






「行儀、悪い。」


「悪いのは、嫌い?」



彼女の指が首筋を這上がるのを感じながら、微かに首を振る。



「きらい、じゃ、ない。」


「わたくしも。」





眸が閉じられて、口唇をゆっくりと重ねあう。
息を継ぐように口を離し、彼の手が頬を這うままにさせる。
眸を閉じたまま、啄ばむような彼を味わう。
音にならない、幾つもの言葉を交し合うように。


絡めた手を導いて、彼に身体を預けてみる。
縺れあい波打つ鼓動は、どちらのものなのか。
昂まってゆく動悸に突き動かされるように、腕を背に回す。
ストッキングを滑る手が、躊躇するように止まる。
戸惑いと酩酊の無い混ぜになった顔で、眸が探るように縺れあう。
遣る瀬無いように、耳に舌を流しこむ。






切ないくらい柔らかい、首筋だった。
細く浮いた動脈は、深く窪む鎖骨へ流れ込むよう。
髪に顔を埋め、首を重ねあう。
思いもかけぬほどに熱を持った口唇から、薄く舌が覗く。
赤い舌と白い歯が、なまめかしいコントラストを作る。







暗い海の彼方から、潮がうねる音が聞こえる。







薄く丸みを帯びた華奢な肩が、あえぐように揺れた。
蒼い紗がかかったような、乳白色の肌が吸いつく。
操られてもいるかのように、滑らかに手でくびれをなぞる。
とてつもなく均整のとれた身体が、
其れでいて折れてしまいそうな、心許なさを漂わせる。


「どうか、して?」
「ん、綺麗だな、と思って。」
「見とれたの。」
「ん。」


今度はこちらが言葉に詰まる番。
どうして返せばよいか、わからない。
だから、微笑もう。


「綺麗なものは、嫌い?」


答えのかわり、額を合わせて口付ける。
二人の重みを受けて、緩やかにソファが沈み、
もがくように、重なり絡みあう。











細い首から小さな肩に、そして端正な曲線を描く胸へとゆっくりと移動する。
上下する胸を含みながら、眠るように思いが飛ぶ。
沈む海の冷たさに、はじめて気がついたように彼女は小さく震えた。
ブラウスの釦にそっと指をかける。
ファスナーに指を走らせる。


零れ落ちる素肌は、吸い付くように指に纏わりつく。
しなやかな下肢が、求めるように身体に絡みつく。
息を詰まらせるほどの官能が、彼女の全身に匂い立ち。
鳩尾を抉るような衝動を、彼女の身体に流し込む。




漣のような口唇の温かさに、覆うものが融けてゆく。
剥き出しにされる身体は、どれほどに見苦しいのだろう。
息苦しい心で、突き上げる言葉を吐きかける。






「気持ち、いい?」

「気持ちいい。」

「すき?」

「すき。」







知らない言葉を覚えるように、口移しに言葉を繰り返す。
彼の言葉に晒される心が、穏やかに融けてゆく。
堪らなく、あなたがすき。





愛しているとは、お互いに言わない。





笑い顔は、泣き顔にとてもよく似ている。
抱き合う俺たちは、どちらの顔をしているのか。
ともすれば、立てそうになる歯や爪がどれだけ彼女が脆いのか教えてくれる。


震えながらもがきながら、理性の箍を脱ぎすてながら、
纏わりつく薄い絹越しに、彼の動きはわたくしをも昂めてゆく。
ネックレスの石が、さざめくように転がる。
無様に首にしがみつき、熱い息を絡めあい、鼓動をあわせる。
汗ばむような口付けを、爛れるほどに繰り返す。
枯れるように搾り出す、お互いの囁きはいつしか共鳴する。




のまれる波の間で、ひたすらに木霊する。








すき。

すき。















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