TPO
7
仄かに薄くライトアップした中庭が映る。
眩しいようなリネンにカトラリーが端正に並ぶ。
メニューには、流麗とも殴り書きともつかない文字が踊っている。
メニューの陰から、上目であの人を窺がう。
不意に目が合って、目を落とす。
「決まった?」
「んっ・・と。」
大急ぎで回る瞳を見て、あの人の唇が膨らむ。
口の中で笑うのは癖なのかな。
人差し指を軽く顎に持ってゆき、悪戯っぽそうに小首を傾げる。
「好き嫌いがあるの・・・・
わたくしが選んでも。いい?」
彼女はシェリー俺はワインが、程よくまわる。
まわって寛いで、そして言葉が少なくなる。
気が置けない程に、沈黙が心地よい。
思い出したように、好きなことを漏らすだけの会話でいい。
心が融和するように、交わす言葉が淡く揺れる。
胸元の石が、深く開いた胸を緩くなぞる。
「お口に、あって?」
「うん、柔らかくて美味しい、この羊。」
「ちょっと仔牛、火、通り過ぎだわ。」
「取り替えます?」
時々、思い出したように敬語になるのね。
そんな反則をされると、面白くなる、いけない癖が出る。
「ううん。 ・・・でも、少しだけ頂こうかしら?」
皿をそのまま回すのもなんだしな、少し躊躇して、
そして繊細な縁取りを眺める。
ダウンライトの下、テーブルに肘を突くと胸元の石が光を散らす。
「あ、じゃあ、俺が切っちゃっていい?」
小首を傾げるように頷かれ、笑ってる。
嬉しいのか、面白いのか。
彼女の口にあうように、小さく一切れ皿を移す。
肘はついたまま、彼女の目尻に皺が寄る。
物凄い、悪だくみでも思いついたように、
艶やかな唇が綻びるように、囁く。
「 食べさせて。 」
ろくでもない、癖ね。
「・・・そのほうが、美味しいの。」
フォークの先にひっかかった肉片を、赤い舌で絡めとる。
瞳の裏まで探るような、眼差しで。
「なにを、笑ってるの。」
「JUNKOさんも、笑ってる。」
「美味しいからよ。あなたは?」
「美味しそうだから。」
ヒナに餌やってるみたいだ。
コースが進むにつれ、彼女の口は重くなる。
酔っているわけではないのは、目を見れば分かる。
真っ直ぐに、こちらの眸の裏を覗いてる。
心が鷲掴みにされるような、獰猛さが息付く眼差しで。
その息遣いの熱までも、心地よく人を引きつける。
「これ・・・くさい、かも。」
「山羊のはクセがあるかしら、こちらは・・?」
「 ・・・んん、ちょっと。」
「あら、この前のゴルゴンゾーラよ。」
「俺の分じゃ、なかったから。」
だれの、って聞かない。
ふつうならば耳にも残らない。
この子の言葉は耳に残る。
心の枷が緩んでゆく。
踏みこむ歩幅が広がってゆく。
ゆうひの眸は、澱む沼を一筋も乱さぬように静かに潜る。
この子の眸は、底の澱までも浚うかのようなゆらぎを予感させる。
浮き上がった澱のあとに、見えてくるものがあるのだろうか。
この安らかな閉塞からわたくしは逃れたいのか。
見せたい姿を映してくれる、彼の眸。
見せたくない姿を映しだす、あなたの眸。
悪い癖のせい。
忘れていた本能が、ざわめきだす。
デザートが溢れそうなワゴンが運ばれる。
色とりどりの欲望みたいね。
あれこれと我侭に選ぶ。
下らない我侭を通したい。
デザートの繊細な細工が、銀のナイフに滑らかに切り裂かれる。
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