TPO   


















仄かに薄くライトアップした中庭が映る。
眩しいようなリネンにカトラリーが端正に並ぶ。
メニューには、流麗とも殴り書きともつかない文字が踊っている。
メニューの陰から、上目であの人を窺がう。
不意に目が合って、目を落とす。

「決まった?」
「んっ・・と。」

大急ぎで回る瞳を見て、あの人の唇が膨らむ。
口の中で笑うのは癖なのかな。
人差し指を軽く顎に持ってゆき、悪戯っぽそうに小首を傾げる。

「好き嫌いがあるの・・・・
 わたくしが選んでも。いい?」





彼女はシェリー俺はワインが、程よくまわる。
まわって寛いで、そして言葉が少なくなる。
気が置けない程に、沈黙が心地よい。
思い出したように、好きなことを漏らすだけの会話でいい。
心が融和するように、交わす言葉が淡く揺れる。
胸元の石が、深く開いた胸を緩くなぞる。



「お口に、あって?」
「うん、柔らかくて美味しい、この羊。」
「ちょっと仔牛、火、通り過ぎだわ。」
「取り替えます?」



時々、思い出したように敬語になるのね。
そんな反則をされると、面白くなる、いけない癖が出る。



「ううん。 ・・・でも、少しだけ頂こうかしら?」


皿をそのまま回すのもなんだしな、少し躊躇して、
そして繊細な縁取りを眺める。
ダウンライトの下、テーブルに肘を突くと胸元の石が光を散らす。

「あ、じゃあ、俺が切っちゃっていい?」

小首を傾げるように頷かれ、笑ってる。
嬉しいのか、面白いのか。
彼女の口にあうように、小さく一切れ皿を移す。
肘はついたまま、彼女の目尻に皺が寄る。
物凄い、悪だくみでも思いついたように、
艶やかな唇が綻びるように、囁く。





「  食べさせて。 」

ろくでもない、癖ね。

「・・・そのほうが、美味しいの。」






フォークの先にひっかかった肉片を、赤い舌で絡めとる。
瞳の裏まで探るような、眼差しで。


「なにを、笑ってるの。」
「JUNKOさんも、笑ってる。」
「美味しいからよ。あなたは?」
「美味しそうだから。」


ヒナに餌やってるみたいだ。




コースが進むにつれ、彼女の口は重くなる。
酔っているわけではないのは、目を見れば分かる。
真っ直ぐに、こちらの眸の裏を覗いてる。
心が鷲掴みにされるような、獰猛さが息付く眼差しで。
その息遣いの熱までも、心地よく人を引きつける。





「これ・・・くさい、かも。」
「山羊のはクセがあるかしら、こちらは・・?」
「 ・・・んん、ちょっと。」
「あら、この前のゴルゴンゾーラよ。」
「俺の分じゃ、なかったから。」


だれの、って聞かない。
ふつうならば耳にも残らない。
この子の言葉は耳に残る。
心の枷が緩んでゆく。
踏みこむ歩幅が広がってゆく。


ゆうひの眸は、澱む沼を一筋も乱さぬように静かに潜る。
この子の眸は、底の澱までも浚うかのようなゆらぎを予感させる。
浮き上がった澱のあとに、見えてくるものがあるのだろうか。
この安らかな閉塞からわたくしは逃れたいのか。
見せたい姿を映してくれる、彼の眸。
見せたくない姿を映しだす、あなたの眸。

悪い癖のせい。
忘れていた本能が、ざわめきだす。




デザートが溢れそうなワゴンが運ばれる。
色とりどりの欲望みたいね。
あれこれと我侭に選ぶ。
下らない我侭を通したい。



デザートの繊細な細工が、銀のナイフに滑らかに切り裂かれる。






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