図書館の蔵書検索で、「スリランカ」で出てきた本。スリランカ関連書籍36冊目。庄野護サン『スリランカ学の冒険』*1に、どこの国でも、現地に行く前に関連書籍 / 論文を百個嫁とあったので、スリランカに行く予定はまったくありませんが、読み進んでます。
1980年文春から単行本。読んだのはその二刷。1983年文春文庫。
画像検索で、文庫ではちがう絵だけれど、装幀が同じ長尾みのるサンという人であること、帯の煽り文句が同じであることが分かります。
十二の短編、ショートショートを収めた本。SFとホラーが多いです。なぜ検索ワードスリランカでこの本が出るかというと、二話目が『スリランカ気質』というタイトルで、最近の図書館の電子書誌目録は収録話タイトルやら章立てやら出版社が刊行時つけた内容紹介やらを出来る限り書誌明細に入れてくれてるので、それで出てくるです。どこかでまとめて入力作業をして、それを全国に配本すれば大幅な人月の削減になるのですが、そうはしてなくて、あっちこっちの自治体でバラバラに入力作業を発注したのかもしれません。分からない。きちんとチェックしてれば、年金問題みたいのはそうそう起こらないと思いますし、影響もいちぢるしく限定的なのは火を見るより明らかなのですが。旧ジャニ本などいくつかの地雷だけ記載ミスに異様に注意すればよい。今からそんなこと民主党のように「仕分け」しようとしても、どこの図書館もだいたい電子化2.0 or 3.5くらいにはバージョンアップして作業完了してるだろうし、過去のことなので、いまさらという。国会図書館もしくはWebCatのデータを全国津々浦々の図書館が引っ張ってきて統一データになっていることを祈ります。
『スリランカ気質』"Sri Lankan temperament" 「小説新潮」1979年11月号掲載
ある初秋のにっちょびの朝、目をさました主人公は、ふと、脳裏に"serendipity"という単語が浮かんでいるのに気づく。まったく心当たりはない。手元のポケットサイズの英和辞典には載ってない単語。
私はこれだけでもうお話として成立しているので、これでいいと思ってしまうのですが、阿刀田気質もしくは新潮社編集気質ではこれはだめだったのか、いろいろゴテゴテ修飾してます。気になりながらもお茶を淹れて飲んだり、洗濯物を干したり、ねこをかまったりしながら秋の日をすごして、赤とんぼが飛んで、ふと、あっ、そういうことかと気づく話でよかったのに。主人公を妻帯者にして、パートナーとの会話もいれこめばさらにgood。でもそういう話ではないです。でもセレンディピティの名に恥じないくらいには、あったかい終わり方をする話。
恋人だと思ってた女性に電話で「もう会えない」と言われ、会って理由を聞きたいと言っても「とにかくダメ」と言われる経験は私もしたことがありますが、私の場合は別に恋人にもなっていなかったのでそれはそれでしょうがなくて、しかしその後いろんな人が集まる会合でその人と顔をあわさなければならず、それが蛇足でした。相手はサングラスをしてきて、なんだかなあと思って私はいろいろ投げ出してどっかに行ってしまった。
『スリランカ気質』というタイトルですが、当時はまだスリランカが自殺大国ということは知られていなかったようなので、そういう話ではないです。で、これが二話目。
左は表紙(部分)刺激が強すぎたのか、文庫の表紙は木箱に一ダースのガイコツが入ってわーきゃーやってる絵になってます。
『妖虫』"Demonic insects." 「月刊プレイボーイ」1980年3月号掲載
これはSFに寄せた話。分解不能なプラスチックなどを主食とする突然変異の昆虫を発見した主人公が一攫千金をもくろむ話。どうとでも転べるネタだと思うのですが、天下国家は揺るがされず、ドメスなオチを迎えます。当時すでにショートショートといえば星新一サンの名声が確立されており、誰がどうやっても真似は出来ないので、SF畑に持ってきた時点で、阿刀田サン苦しい勝負だったと思います。
当時は活字でオナヌーの読者が多くいたのか、全般的に本書収録作品はサービス描写、濡れ場があります。たいしたことはないですが、入れないと読者アンケートが不安だったのかもしれない。パンチラ程度で同じ効果が期待出来たまんがに比べ、小説は「秘部にそっと指をはわせると、女は喘ぎ声をもらして、そこは熱く」くらいは書かねばいけないので、テンプレがあればそれを書き写してたのだろうなと。今だとAI代筆フランス書院文庫などもそろそろ出て来そうですが、アンモラルを意識しないAIへの教育は当然として、実現不可能な体位などがバンバン出て来て頭痛いなどがゲラ段階でたくさんあるのかなあ。
左は巻末の文春書籍広告その一。赤川次郎、小松左京、栗本薫、田中小実昌(いとこと結婚)笹沢佐保。どの題名も読んだことないです…
『 友を裏切るなかれ』"Don't betray your friends."「別冊小説宝石」1979年薫風号掲載
これは安直に、宝くじにあたるというお題で書いた話。既婚者が主人公。
『 進化論ブルース』"Evolutionary blues."「小説現代」1979年12月号掲載
進化論を否定する女。といってもエヴァンジェリスト、福音教会とかではなく。諸星大二郎『子供の遊び』も楽しい話でしたが、これもそうかな。
『 結婚嫌い』"I hate marriage."「別冊文藝春秋」1979年秋季号掲載
本書の傾向としてもう一つ著しいのが、恋愛結婚です。当然のごとく恋愛結婚ばっかり出る。恋愛したら結婚する。そしてその恋愛は、何となく大して好きでなくても性欲とかがあるので結婚にまで至る恋愛。こういう小説が花ざかりでも、現実はそうはいかなかったので、どんどん日本人は結婚しなくなって出生率も低下したんでしょう。この頃はまだ見合い結婚が多かったと思うのですが、いろいろと釣り書きだけでは問題が多かったのか、娯楽小説ではとにかく見合い結婚推奨ですと。今は結婚が契機の問題も激減して、激減しても対応は大変ですが、それを除けば孤独死の問題くらいしか残らない、のかな。
巻末広告その二。かんべむさし、北杜夫、筒井康隆、田中光二、小林信彦。田中光二以外全部読んでます…
『 湖畔の女』"A woman by the lake."「月刊小説」1977年9月号掲載
ここからホラー。阿刀田高サンは阿久悠サンと間違われることがあったのかなかったのか、この話は作詞家として成功した主人公が邯鄲の枕ホラーバージョンだったという話。でも明大卒ではないので、阿久悠サンじゃないかな。じゃー誰だろう。ギターのうまい女性が実は… というビジュアルが新機軸(昭和ですが)だと思いました。
『 閉じた窓』"Closed window."「月刊小説」1977年2月号掲載
これもホラー。たけのこのこのここしたんたん♪
『 雪うぶめ』"The Snow-capped woman giving birth."「週刊小説」1979年4月19日号掲載
これもホラー。角川映画で、湖面から両足がにょきっと突き出た金田一耕助ものがあったと思いますが、それとサル中学生と雪の夜。
『 格子模様の夜』"Lattice pattern night."「小説現代」1980年2月号掲載
原稿用紙のマス目の格子です。原稿に濡れ場を入れねばならないという、具体的な編集とのやりとりがリアルです。また、原稿を読んだ編集者が直しを電話で依頼、作家が頭に浮かんだ直しの文章を声で読み上げ、電話の向こうの編集者がメモに書き留めるやりとりが昭和でよかったです。
『 女難』"Troubles with women."「オール讀物」1980年1月号掲載
第二次性徴を迎えるか迎えないかの頃に童貞の花を散らして以来、えんえんスーザンアントン子のような女子にこまされ続けるなよなよ男子の話。
そういう女子もやっぱり頼りがいのあるたくましい二の腕の太い、厚い胸の男子のほうがいいの、という展開にはなりません。さようなら。
奥付(部分)二刷は一ヶ月後。
『 背後の女』"The woman behind me."「週刊小説」1979年12月21日号掲載
これもホラー。で、唯一見合い結婚が出ます。もちろん気立てのいい見合い女性は悪霊の祟りで不審死を遂げます。こわいこわい。
『 青い瞳の恨み(青い瞳)』"Blue eyes."「素敵な女性」1980年1月号掲載
むかし、京都の嵯峨野かどっかでしたか、観光中の女子大生が、性犯罪目的であとをつけてきた浮浪者にころされる事件があって、山道とはいえ人通りがそんな絶えるわけでもないところでもそんなことが起こるんだ、ほんと気をつけないとと思ったことを思い出しました。戦後闇市隠された秘宝がメインの話で、それとは何の関係もない地元の性犯罪者ガーという展開。ちょっとジョン・プアマン「脱出」テイストでもあります。
奥付(部分)著者検印廃止がねたのパロディのつもりではないかと。どの指の指紋でしょうか。
各話扉に酒瓶の絵があります。
話が増えるごとに酒瓶の数も増えます。
空き瓶の数が十二本になりました。
中表紙。むかし、吉行淳之介編集『酔っぱらい読本』の七巻で、「正義の味方 下戸仮面」なる座談会があったのを思い出しました。大西信行・小沢昭一・西村晃・黛敏郎・山藤章二・矢崎泰久といったそうそうたる下戸のめんめんが酒害について並べ立てていて、中でも急進的断酒主義者黛敏郎の怪気炎はものすごかったです。笑った。本書収録『湖畔の女』の主人公モデルはマユズミサンだろうかと思ったりもします。
stantsiya-iriya.hatenablog.com
以上