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  其の四十四












王子さま。
王子さま。


大好きよ。



窓から差し込む月明かり。
あなたは会う度に、豊かに大きくなられるようで。
横たえたわたくしに、口付けを。



遠慮がちにおずおずとしたそれだったり。
激情をぶつけるようなそれだったり。
だけど、今夜は包み込むような口付け。
わたくしはあなたの手の中で、転がされているようで。



大きくしなやかな手が、わたくしを包み込み。
さらさらと滑るように、薄物が解かれてゆく。
甘く浮かぶ笑みは、何も恐れることがないかのようで。
いつのまにかこうやって、あなたはわたくしを追い越してゆくのかしら。
わたくしは子供のように、あなたの首に縋りつく。





本当はそれどころではないのは分かっているの。
考えなくてはいけないことが、一杯あるわ。



だけど、いまは、もうだめね。
あなたの腕の中で、わたしは一人の女に戻ってしまう。
輝くような微笑と、深い知性を兼ね備え、
強く逞しく国を率いていくであろう、あなた。
限りない未来が開けつつあり、
そして、美しいお姫様方が引きもきらず。
ねえ、それでも、わたくしの側にいてくださるの。
ねえ、それでも、わたくしだけを愛してくださるの。













ああ、俺ってやっぱりだめだ。
どんなに格好つけたって、お義母さまの前だと本当に骨抜き。
幾ら口付けても足りなくて、幾ら抱きしめてももどかしくて。
ほっそりとしなやかなお身体が、いつかすり抜けてしまいそうで。



時折見せる、翳った眼差し。
ときたま覗く、拗ねたお顔。
俺のまだ知らない、たくさんの顔をもつお義母さま。
俺は身の程知らずで、欲張りで。
もっともっとお義母さまを知りたくて、欲しくて。


噛み付くほどに口付けても、
折れるほどに抱きしめても、
まだ足りないって気がしてくる。
だから必死で、ぎゅうぎゅう抱きしめて。
唇を押し付けて、こんな乱暴だったっけ、俺?



小さく息を吐く音がする。
「す・・すいません。」
慌てて俺は唇を離す。
こんなに華奢でたおやなかお義母さまなのに、
なんで加減が効かないんだよ、俺ってば。
「いいのよ、もっと・・・・抱きしめて。」
お義母さまの腕が俺を包み込む。




いつしか床に、纏っていた諸々は脱ぎ捨られ、
俺たちはもどかしく、抱きしめあい絡みあう。
どんなに焦って追いかけても、
するりするりとお義母さまはすり抜けてゆくようで。
俺は腕から離さないようにするのが精一杯。
俺のものとか、とてもおこがましいけれど、
でも月明かりを浴びた、この白い身体。
今だけは、俺のものでも許してくださるよね。


王子さまの唇は、今日は痛いほどで、
薄い早咲きの花弁のように、わたくしの身体を染めてゆく。
あなたの唇に染められてゆくわたくし。
たまらなく嬉しい気持ちで眺めている、自分がいる。


こんなにすべすべの肌なのに、
ちゃんと滑らかに波打つ曲線。
丸い胸に胸をあわせ、お互いの鼓動を重ねてみる。
どうしたの?というように不思議そうに、
そして嬉しそうに微笑まれるお義母さま。



「りかさまの、心の臓の音がする。」
「ええ、あなたの音が直接響いてくるみたい。」


それはあなたの心の音?
この音が続く限り、わたくしはあなたとこうやって寄り添っていたい。
いえ、音が尽きてしまったその時も。
ずっと、ずっと、いつまでも。


叶うのかしら、そんな夢みたいな話。









こうやって、ずっと心の音を重ねたい。
そんな二人になれたらいい。
この世にお互いしかいない、一対に。
いつかどちらかが倒れたとしても、
ずっと心に擁きつづけ。


どこまでも欲張りになってゆく、俺に苦笑する。



「どうしたの?笑ったりして。」
「りかさまだって、笑ってますよ。」
「それは・・・・」
お義母さま、ちょっと口篭もる。
「・・・・嬉しいからよ。」
「じゃあ、俺とおんなじです。」


細い腰に手をかけて、柔らかく柔らかく、
俺たちは一つになって。
なにもかもが、甘く柔らかなお義母さまが、
俺に身体をあずけてくれる。
眩暈しそうな快感にたゆたいながら、
俺はお義母さまとまどろむように揺れ続ける。






愛しています。


お義母さま。
お義母さま。












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