個性『RTA』があまりに無慈悲すぎるヒーローアカデミア   作:ばばばばば

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最速ヒーローRTA_113925時間24分51秒_Part8/11

 

 

 

 

 

<それでね、ヒーロー事務所の基盤はできた。他の企業への根もかなり広がった。裏の方の伝手だって。……でも、やっぱり公権力は厳しいね。全然攻略が進んでない>

 

「なんせ、私達ヤクザと繋がってるからね。正直公安を舐めてた。もうこっちをマークしてるみたい」

 

<今の公安のトップを追い落とすには正攻法じゃ時間が足りない。けどさぁ、この作戦で大丈夫かな? もう少し慎重に動いても……>

 

「それじゃ遅いでしょ? どうせバレるなら早めにバレてしまえばいい。そっちの方が都合がいいよ」

 

 

 私はしばらく話し込んだ後に電話を切り、肩を回す。

 

 

「テメェ……、一体何を企んでやがる」

 

 

 わたしと共に治崎少年は膨大な事務仕事を手際よく捌きながら私を睨む。

 

 

「なにって、お仕事の電話だね。私のおかげで業務は2倍、仕事は4倍、忙しさは100倍。全く若いのに音を上げないね君は。そういうひた向きなところは好きだよ」

 

「誤魔化すな。公安に目を付けられただと? 次はなにを仕出かすつもりだ。もし組に被害が出るようなら……」

 

 

 彼は私にすごんで見せる。

 

 彼の忠義は組に向けられており、こちらに一切の信を置いていない。

 

 私を測るような目線をヘラヘラと笑って逸らすが、それが彼の怒りをさらに増大させているのが手に取るようにわかってしまう。

 

 

「わかったわかった、教えるよ。ちょっと休憩しよう。応接のソファに座って」

 

 

 窓の前に向かい合って置かれたソファーに私は座り、彼へ休むように促す。

 

 彼も流石に疲れが来ていたようで、渋々ながらも私の前に座った。

 

 

「裏の方にも手を伸ばして、表の顔もそれなりに有名になった。客観的に見て私は力を持った個人ともいえる」

 

「傲慢だな。全てを手に入れたつもりか?」

 

「まさか! これだけ金や人手を使えても自由に何でもできるわけじゃない。結局は裏のヤクザ商売も国の中の隙間に住まわせてもらってるだけ。表のヒーローや会社も法の中で許されてる」

 

「なら次は政治家にでもなるつもりか? お前みたいな奴が上に立つと思うとぞっとしないがな」

 

「今でも案外、なるのは簡単だよ? 私はお金持ちで知り合いも多いから。でもね、どうせ今政治家になっても誰かの支配の枠組みの中でしか動けない」

 

「……この国の支配者にでもなるような言い草だ」

 

 

 冗談めいた口調であったが、彼は案外私がそういう野望を持っているのではないかと疑っているようで、そんな見当違いの警戒に思わず笑みをこぼす。

 

 

「何もかも支配できる王になんて、誰もなれないよ。そういうことを考える奴はきっと誰かに足元をすくわれる」

 

 

 いくら説明しても彼は疑うばかりでこちらを信じていないので、私は実際の現実を見せることにする。

 

 

「例えばだけど、ヒーローのくせに裏と繋がってコソコソ何かを企てているような奴がいるとする。しかも会社を興して瞬く間にいろんな場所にはいりこんで権力を求め始めた。こんな奴をこの国の上の人たちは一体どう思う?」

 

「闇のフィクサーか?」

 

「えっ、なにそのダサい呼び名は……」

 

 

 私が素で反応してしまうと、彼は不機嫌そうに目を逸らす。

 

 

「まぁ呼び名はともかく、危険視するよね。それでどういうことをしてくるかというとだね……、治崎君、自分の靴紐を見てごらん」 

 

「なに?」

 

 

 彼が頭を下げた瞬間、私の真後ろにある窓は弾け、私の鼻から上が吹き飛ぶ。

 

 脳と脳漿に偽装した脂肪の塊とオイル、解剖学的に配置されたゴム製の眼球。

 

 それらをまき散らしながら私は前へ倒れ込む。

 

 私の後頭部を突き抜けた飛翔体は、先ほどまで彼の頭があった空間を通り過ぎると部屋の壁を破壊した。

 

 

「頭を下げたまま隠れてて。標的は私。相手は率先して子供も殺したいほど冷酷じゃない。しばらくすれば引き上げるよ」

 

「はっ? おまえ……、はぁッ……!?」

 

 

 今回のスーツの頭部は欺瞞の為に載せてる飾りだ。

 

 発声機能に問題はない。

 

 

 しばらく経って、体を起こした私は戸棚に隠した取り換え用の頭部を装着する。

 

 接続を確認するために顎先を撫でると、頭部に組み込まれた通信機で周波数を合わし、フリーハンド機能をオンにする。

 

 

<標的は無力化したが部屋にいたもう一人は撃ちもらした>

 

<二人とも始末しろと言ったはずだが?>

 

<隠れてこちらからではもう狙えない。他の応援も呼んだ可能性もある。突入して消すには懸念事項が多い>

 

<……まぁいい目的は達した。状況終了、帰投しろ>

 

 

「まぁ、お上の方が敵に回られると個人なんてこんなもんだよね」

 

 

 私の頭部の着色されたオイルを被り、地面に伏せる彼はおもむろに立ち上がると、転がっていた目玉を掴んで全力で私に投げつける。

 

 

「お風呂に入っておいで。着替えは新品があるよ」

 

「汚ねぇ……、最悪だ。最悪だよ、全身汚物まみれじゃねぇか……」

 

 

 潔癖症の彼は、体に付いた私の一部を汚物の様に拭いながら風呂場へと向かう。

 

 そんな彼を見送りながら、私は部屋の掃除をしながら出かけるための身支度を整えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レディ・ナガンは狙撃ポイントから撤収した後、何食わぬ顔で堂々とビルから出て、自身の巣に戻る。

 

 その道すがら、彼女は暗い目で道を歩きながら考える。

 

 

 

 この個性社会はどうして成り立っている?

 

 個人が制御しきれない異能を当たり前のように持つこの超常社会。

 

 その規範を紙一重で守ったのはかつて混乱する社会を自警団(ヴィジランテ)が治め、人々の信頼を集めて英雄視されたからだ。

 

 自警団(ヴィジランテ)は国による保証の元、ヒーローと名前と立場を変えた。

 

 この危うい社会の土台は”ヒーローへの信頼”によって成り立ってる。

 

 これを揺るがすことは国家の基盤を揺るがす悪事であり、決して起こってはいけないものである。

 

 

 だから今日も彼女は殺した。

 

 

 ヒーローへのテロを計画していたあるグループ。

 

 敵組織と癒着し名声と金を得ていたヒーローチーム。

 

 ……あるいは敵や企業、公権力、ありとあらゆる権力と結びつき、公安にとって不都合な力を持ち過ぎた個人。

 

 

 病巣を除去する歯車として世に出てはいけない者達を消して回る。

 

 作られた社会(ハリボテ)を維持するために殺して、殺して、殺し続けた。

 

 

 彼女は考える。

 

 

 この行為に意味などあるか?

 

 こんな薄く脆い虚像を偽り続けて何になるのだろうか。

 

 

「レディー!! ファンです!!」

 

「あ、握手してください……!」

 

「……おーう、特別だぞ――」

 

 

 ……せめて、この目の前の笑顔を守るだけの価値が私にはあるのか……?

 

 表と裏、どちらも物事には必要だと言われた。

 

 だから従って殺した。殺して殺し続けた。

 

 

 伸ばしかけた手が空中で固まる。

 

 

「ぁ……」

 

 

 子供たちに差し伸べる手、その手は殺した者の返り血で塗れていた。

 

 

 幻覚だ。

 

 もちろん彼女は理解してる。

 

 敵の返り血は自分の2000メートル先の出来事で、この手が物理的に汚れるわけがない。

 

 彼女もそんなことは分かっているが思わずにはいられない。

 

 

 だが、この手は余りにも人を殺し過ぎた。

 

 

 

「す、すまないね、実は急ぎで――」

 

「すまんねチミたちィ! レディ・ナガンはこれから仕事でね!! 申し訳ないが私の特性ステッカーで勘弁してくれたまえ!」

 

 

 突然脇から出てきた奴の顔を見て、私は驚愕する。

 

 

「いらない……」

 

「えー誰だよコイツ」

 

「プロヒーローRTA。修行やってます。いつの日か世界を救うと信じて……」

 

「きいてもわかんない!」

 

「いずれ高額納税者に名を連ね……、あっ、たった今連ねちゃった……。まぁとにかくこの有名プロヒーローを煽てておいて損はない……、具体的に言うと将来就職に有利になるぞ!」

 

「ナガンと話したい!」

 

「うーん子供受けが弱い……。じゃあ、我が社のお菓子あげるから……」

 

「えっ、これ最近売り出した個性菓子だ!」

 

「わーい!」

 

 

 つい30分ほど前に頭をはじき飛ばした男が目の前にいる。

 

 目の前の事実を呑み込む前にそのヒーローがこちらに顔を向けてきた。

 

 

「私の顔をダメにされたんだ。ちょっと顔を貸してくれるね、レディ・ナガン」

 

「お前っ……」

 

「それとも()()()話すかい?」

 

 

 構えかける私の前に笑顔で子供を抱きかかえ、笑みを見せる男に彼女は従うしかなかった。

 

 

 

 場所を変え、付いてこいと言った男は一区画程度しか離れていない程度の距離にあった客のいないカフェの中に入るとそのまま座る。

 

 人気のない場所に出たらすぐに仕掛けるつもりであった彼女は機先を制され、促されるままに席に座る。

 

 

「ここはコーヒーが美味いと有名な店だが、実際にはココアの方が美味い。一杯頼むといい、奢るよ」

 

「どうして生きてる」

 

「そんな話で良いのかい?」

 

 

 男は首を取り外し、首の断面に空いた食道と思われる穴へ器用にココアを流す。

 

 その光景は過行く周囲の人々、店員たちの隙をついて一瞬のうちに鮮やかに行われた。

 

 

「……ブホォッ! ゴボッ!? ゴホッゴホッ!! オ゛ェ!」

 

 

 そしてむせ返る男は頭を首に収める。

 

 

「熱いものはストローで飲んではいけないね……!」

 

 

 切なそうにココアの入ったカップを置く男を彼女は冷ややかな目で見る。

 

 

「そういう仕組みか……」

 

「これで私は質問に一つ答えた。ならこちらも話を聞く権利があるのかな?」

 

「アンタが標的になった理由かい? 身に覚えがないとでも?」

 

「ありますねぇ!」

 

 

 男は薄く笑う。癇に障る軽薄な笑みだった。

 

 

「確たる証拠はないが、私の明らかに胡散臭い活動を危険視したとか……、そこらへんだろうね。ヒーローが大きな会社をもって敵組織と繋がってるんだ。まぁ直接的な証拠を掴ませないようには極力努力はしてたけど、そのせいで焦らし過ぎて公安に安直な手段をとらせてしまった。……私の落ち度だよ。だけどね、言っとくけど本当に非合法な悪事はやってなかったんだよ?」

 

「よくいう……。ヤクザを始め、様々な敵組織と繋がってるのを公安は既に把握している。お前はヒーローの身分で敵と繋がろうと――」

 

「興味ないね」

 

 

 男はつまらなそうにカップに息を吹きかける。

 

 その態度に彼女は眉を顰めながら髪をかき上げ、右ひじのライフルを密かに動かす。

 

 手に絡まった幾つかの髪を変質させ低威力の散弾に調整した。

 

 

 

「そんな分かり切ったどうでもいい話を聞く程、私は暇じゃない」

 

 

 この男の本体はおそらく胴体に潜んでいる。

 

 貫通しないが失神は間違いなくするだろう散弾によるショック攻撃によりコイツを捕えようと彼女は考える。

 

 

「私が聞きたいのはもっと別のことだよ」

 

 

 彼女の後ろには組織がある。

 

 一度身柄を押さえてしまえばコイツが消えてしまう理由はいくらでもでっち上げられた。

 

 彼女は銃弾を装填しようとし、

 

 

 

「貴女はさっき、なぜ子供の握手に応じなかったのですか?」

 

「……ッ!」

 

 

 

 その弾丸を取り落とした。

 

 

 

「どうしてファンの握手に応えなかったんでしょうか? ヒーローとしては応えてあげるのが筋だと思いますが?」 

 

「……そんなどうでも良い質問」

 

「いいや、どうでもよくない。大切なことです」

 

 

 男は再度、あの薄笑いを浮かべながら滔々と語る。

 

 

「貴女の仕事は立派です。世に蔓延る裁けない悪党どもを裁く、表の手段に囚われるヒーローじゃ出来ない正義だ。この個性社会を維持するための必要な役割といっていいでしょう」

 

「……違う」

 

「それが繕いだとしても私は認めます。ヒーローは正しくなければいけない、自己犠牲の果てにある英雄でなければいけないなんて話をする人もいるかもしれません。その点貴女はどうです? 己が泥を被ることを厭わないヒーロー! 素晴らしいじゃないですか」

 

「……黙れ」

 

「違わない。貴女のその手は汚れてる? だから子供たちには触れない? いいえ、誇ってくださいレディ・ナガン。貴女ほどヒーローを実践しているヒーローはそうそういない。自信をもって手を握ればいい。あの純真無垢な子供たちの未来を守ったその腕で、彼らの期待に応えてやるといい」

 

「やめて!」

 

 

 喉が裂けるような痛みを伴う悲鳴は、自身でも驚くほどの弱弱しい声しか出ない。

 

 

「もう……、やめてくれ……」

 

 

 心の傷口に無遠慮に手をつき入れられるような行為に彼女はもう限界だった。

 

 

「……分かってるんでしょう、レディ・ナガン」

 

 

 迫る様に男はこちらを見つめる。

 

 

「あなたは罪を感じられる真っ当な人間です。例え貴女がその罪に問われなくても、あなたは耐え切れない」

 

「お前なんかに……、なにがッ……!」

 

 

 自分の意志を殺し、歯車として生かされた私の苦悩を目の前のふざけた男にさらけ出されて彼女はもう限界だった。

 

 知ったような口を利く、目の前の若造を睨みつける。

 

 

 

「その役目、私にやらせて欲しい」

 

 

 だが、予想外だったのは、目の前の男も同じように怒りを滲ませていたことだ。

 

 

「この病んだ世界で誰かを腐ってると切り捨て、それを続けて残った世界を綺麗だという。私はね、そんな現実が大っ嫌いなんですよ」

 

 

 血を吐くような、切なる願い。私は目の前の男の怒りが作り物でないことが分かってしまう。

 

 

「世界の隅っこで声をあげても誰も気づかない、気づいてくれない。誰もが失って……、大切なものが壊れてから気付く。遅いんです」

 

 

 目の前の男は何かを失い続けた人間だ。

 

 何もかも手遅れで、全てを失って、それでも立っている人間。

 

 

「ヒーローが遅れてやってくるなら、私はヒーローになんてならない」

 

 

 目の前の人物の熱を測りかねた私は問いかける。

 

 

「お前の目的は……、一体なんだ?」

 

「誰よりも早く、私が全部救ってやる」

 

 

 目的はシンプル。

 

 だが、その目標は余りにも果てしない。

 

 

「お前は……、誰だ……?」

 

「私は最速のヒーロー「RTA」だ 」

 

 

 途方もない大望を望む、目の前の白痴者。

 

 だが、どうもそれは私にとって本物に見えてしまった。

 

 

「レディ・ナガン、いえ、筒美火伊那(つつみ かいな)、私は貴女をこのクソみたいな仕組みから助けます。だから私を助けてください」

 

 

 そもそも全てに嫌気がさしていた。

 

 きっと私は近いうちに歯車として砕けていただろう。

 

 

「なんだその情けない誘い文句……」

 

 

 差し出された腕をみて、少し考える。

 

 目の前の標的の妄言を聞くということは公安への裏切りだ。

 

 だが、もうそんな義理も感じず、限界に近かった彼女は、ただ疲れ切った体を椅子に沈める。

 

 

「だけど、話だけは聞くよ。ココアを一杯貰えるかい?」

 

 

 握手を交わすようなことはせず、多分な疑いの目をもって。

 

 まずは目の前の男の真意を測ることにしたのだ。

 

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