個性『RTA』があまりに無慈悲すぎるヒーローアカデミア   作:ばばばばば

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最速ヒーローRTA_113925時間24分51秒_Part6/11

 

 

 

 

 

 

「じゃあ今日は私が商談にいくから」

 

<……もう本体の私が向かうことに文句は言わないけど、ほんとに行くの?>

 

「うーん、彼らはある意味この個性社会で一番大きな敵だけど、ほっとくわけにはいかないでしょ? 一般人に被害を出さないために内に入って監視しなきゃ」

 

<だからってわざわざ敵陣を中央突破するような……、はぁ……、こんなの言っても無駄だよね……私だもん>

 

「幸い彼らは最低限の理屈が通じる。そのために仲も深めたんだし、ここで私という部外者を認めさせなきゃいけない」

 

<わかってる。……もう言わないよ>

 

 

 私は普段よりノリをきかせたシャツを着こみながら目的地へと向かう。

 

 場所は愛知県泥花市。

 

 デトネラット社のオフィスビルだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「思えば君との出会いはいつも刺激的だった」

 

 

 洗練されたオフィスビルの最上階。ガラス張りの部屋で私はある人物と対面している。

 

 

「えぇ、私も同じ思いです。四ツ橋さん、いえ、今はリ・デストロとお呼びした方が良いですか?」

 

 四ツ橋力也(よつばし りきや)

 

 国内トップシェアを誇るライフスタイルサポートメーカー「デトネラット社」代表取締役社長。

 

 その真の姿はかつて超常社会の歴史に大きく名を残した敵デストロの実の息子であり、10万人近い規模の構成員を擁するテロリスト集団『異能解放軍』の最高指導者である。

 

 

 私と彼の間に置かれた長い机、その両脇には険を帯びた目つきで私を見つめる幹部たちが勢ぞろいしていた。

 

 

「覚えているかい? 君と初めて出会った時のことを。君は強い味噌とタバコの匂いを振りまきながら堂々と私の目の前に現れた。私は何も言わないが、それを見て察した君が言い放った言葉が忘れられないよ」

 

「あれは……、私が悪かったですね。あれはそう……、ただ……」

 

「味噌煮込みうどんが美味しすぎて、車内でもう一つ食べてたら匂いが染みついたと君は臆面もなく言い切ったから、とんでもない奴が来たものだと思ったよ」

 

「いやそれは、その節は……、本当にすいませんでした……」

 

 

 紳士的な雰囲気で、和やかに昔話を楽しむ様子を見せるリ・デストロに私は昔を思い出しながら目を逸らす。

 

 

「今は笑い話さ。当時の君は頭角をあらわし始めた若き経営者。枯れた技術を使い、革新的な商品を生み出す新進気鋭の有望株だった」

 

「ただの野心的な若者でしたよ。自社で新たな技術を作れないのに個性のサポートアイテム業界に食い込もうと、どうしてもその分野に強いデトネラット社に一枚嚙みたかったんです」

 

「私も君の社の開発力を買っていた。新技術を生み出すだけじゃ世には還元できない。要はその使い方が上手い者が世界に利益をもたらす……。そういう意味で私の方が君に目をかけてたよ」

 

 

 彼ら異能解放軍の目的は誰でも個性を自由に使える社会、自身が持てる力を発揮して活躍する解放された世界だ。

 

 一見すれば、全くの理がないわけでもない主張であるが、彼らがその目的の為に現代の社会の破壊を画策しているとなれば無視できない。

 

 

 現代社会の平穏は人々の個性使用制限により成り立っている。

 

 

 個性黎明期、誰もが無秩序に個性を使用する社会がどれほど混沌とした状況であったかを考えれば、その主張による活動は余りにも急進的すぎると言わざるを得ない。

 

 

 彼らに近づいたのは金銭的な理由もそうだが、デトネラット社のヒーロー用品業界への進出を防ぐ目的もあった。

 

 このヒーロー用品産業への進出は彼らが公的な場での力を持つための布石であり、今現在も彼らは水面下で犯罪者に戦闘用サポートアイテムの横流しを行い、いずれ来る蜂起の時に備えていた。

 

 

「当時の私はただ後ろ盾が欲しかっただけですよ」

 

「ハハッ、矢面の前面に出しておいてよく言うよ。君が作ったウチの特許を組み合わせた商品は大ヒット! おまけに販路やマーケティングに堂々と口を出して、それが首をかしげるものであったとしてもこれが飛ぶように売れるんだ。いや、世に天才はいるなと感心したよ」

 

 

 未来の技術系統を参考にすれば、新技術も先取りして必要とあれば作れた。

 

 だがそれはそれを開発してきた技術者たちを踏みにじるものであるため、私の企業が開発する製品は、そんな彼らを妨げない、今ある技術の応用、燻った者達を引き合わせて生み出される新たな発想を組み合わせた新規事業にとどめている。

 

 

「いや、ウチの者達も最初は君を煙たがっていたが、開発部じゃ君の発想に全員ほれ込み、企画部の奴らは君のプレゼンに唸らされ、営業部は困ったら君に昼飯を奢って助言を求めていた始末だ」

 

「能力を褒められて悪い気はしませんね」

 

「人柄もだよ。君と話すのは楽しかった。経営者として話せば必ず得るものがあった。純粋な雑談でもユーモラスで、政治談議でも君は私に深い知見を与えてくれたよ。正直ね、君が小さな会社にいるうちに幹部として取り込めなかったことを悔やんでる。なんせ会うたび会うたびに君の会社は大きくなったからね。いまや商売敵と言えるほどに成長した」

 

 

 リ・デストロは想定以上に私を買ってくれていた。

 

 正直にいうなら、私自身が個性をフルに活用して会社を経営して結果を出すというのは疲れ以上の清々しさがあったのだから、私も彼らの思想を笑えない。

 

 

 

「サポートアイテムで稼いだ金でやることが新規事業の開拓、何をやるか聞いたら全くの別業種の食品製造業と言うんだ。聞いた時は思わずもう少し地盤を固めろと苦言を呈したら、あれがまた売れたねぇ……。正直ちょっと悔しかった。たしかにあれは売れる。しかも我が社ならもっと簡単に作れた。しかし思いつかなかった! あぁくやしい!」

 

 

 なにより、このリ・デストロという男は父の様に個性の開放を訴え、テロ染みた活動を行うようなことはせず、周到に公安の目を掻い潜り、自身の勢力と会社をここまで大きくしたカリスマ性を持つ。

 

 ビジネスパートナーという面だけで言うのなら、非の打ち所は一切ないほどの好人物というのが恐ろしい。

 

 

「ビックリ個性菓子シリーズのことですか? 個性由来のお菓子は認可が下りるまでが大変なのと職人の確保が難しいですが……、それを解析・転用して大量生産するのは私の得意分野ですから」

 

「僕の会社が超伸縮性強化ゴムや新型泡消火設備、CPU冷却用クーラーを作ってる横で、同じ技術をつかって100倍膨らむチューイングガムや吹けば綿菓子ができるシャボン液、溶けないのに冷たいアイスなんて作られたらセンスの差に思わず膝を突いちゃうだろ?」

 

 

 私は会話を続けながら横目で幹部たちを見る。

 

 年齢や服装もバラバラ。

 

 年若い子供から、妙齢の女性に、ひげを貯えた壮年の男性。

 

 共通するのはリ・デストロに対する尊敬の目で、彼らはリ・デストロと楽しそうに談笑する私を睨んですらいた。

 

 

「自分のセンスなんて信じられませんよ。アンコの開発に50億かけ、牛乳との相性を極限まで追求しつくした一番自信があった極みアンパンは売れませんでしたし」

 

「まぁまぁ。あのシリーズのお菓子、君が優先してウチに卸してくれたから、余ったあのパン、系列の福祉施設の子供たちに配ったけどすごい人気だったよ。それに有名アニメとコラボしたら飛ぶように売れて、ベビー用品の販路を広げたって聞いたよ」

 

「私はなぜ世の中のパン屋に並ぶ、あのキャラの名を冠したパンがアンパンではなくチョコパンなのか、昔から納得ができなくてですね……」

 

 

 リ・デストロは私の小言に吹き出しながら、愉快気に思い出話に花を咲かせる。

 

 

「ちょっと目を離せば飲食や保険、さらに広げて金融、挙句の果てには流通や建設まで手を伸ばして利益を上げてるなんて、君と知己を得た幸運に感謝したけど、大きくなった君の会社は私のライバル会社になった」

 

 

 デトラネットの表の商売は多岐に渡る。

 

 この個性社会において体の見た目どころか内臓の構造まで違う人々に、生活用品や衣類、住宅に保証、ありとあらゆるオーダーメイドを提供する総合企業。

 

 それは私の広げる企業とも多くかち合うこととなった。

 

 

「けど君は上手いね。正しい資本主義だ。君の会社はだれも歩かなかった場所を切り拓き、全く新しい市場を作り上げるくせに独占せず、全員が儲かるようにしているんだから憎みに憎み切れない」

 

 

 旧友と語り合う気安さを見せるリ・デストロ。

 

 彼はそこで言葉を切った後に懐に手を入れて一冊の本を取り出す。

 

 

「そんな君だが、……どうしても私と意見が分かれた話があったね」

 

 

 その本の名は「異能解放戦線」。

 

 リ・デストロの父が獄中で書き上げた自伝。

 

 彼ら異能解放軍にとっての聖書と言って差し支えないだろう。

 

 

「個性社会の未来について。これだ、これさえ一致してれば僕は君を同志……、右腕と呼ぶのに何のためらいもなかった」

 

 

 麗らかなトーンのまま、空気の温度が一段下がる。

 

 

「今日はね、本当なら心強い新たな同士の誕生を祝うはずのものだったんだがね……。期待してた。優秀で、気も合って、何より芯がある。だが君は先ほどこう答えた」

 

 

 彼の顔のシミと思われていた肌の黒ずみが額で蠢く。

 

 

「異能解放戦線の思想には同意できない……、私の開放コード、リ・デストロの名を出して君はそういったんだ」

 

 

 彼が異能解放戦線の著者、デストロの実子であることは当然秘密だ。

 

 私は当初ここに連れてこられた時、温かな歓迎を受けながら、彼の思想を頷きながら聞いていた。

 

 彼の思想に一定の共感を見せると、笑みを深める彼。

 

 満を持して彼が異能解放戦線への勧誘を行った時、私はその誘いを一刀両断で断った。

 

 

「全く残念だ。せめてその名を出さなければ、あるいはこんな衆目の中でなければまだ君と私はビジネスパートナーでいれたというのに……」

 

「貴方とはもう少し本音で深い仲になりたかっただけなんですがね」

 

「だったらもう少し、おべっかを覚えるべきだったね。私は君のそういうところが嫌いではなかったが」

 

 

 酷く名残惜しそうにこちらを見ながら彼は手元の本を自身の体の前で開く。

 

 

「君は私達の思想を否定した。君はこの本があまり好きじゃなかったかな?」

 

「いいえ、面白いと感じます。結局己の個性を秘して円滑に運営する社会とは聞こえがいいが無理がある。どこかで臨界点を迎えるでしょうね」

 

 

 私の言葉に満足げな顔をするリ・デストロが、ならばと言葉をつづける前に私は口を開く。

 

 

「だけど、今、無秩序に個性を解放した社会が上手く行くとも思えない。理想ではありますがまだ人類には早い」

 

 

 私の一言に部屋にいる幹部たちが殺気立つ。

 

 その中で一番年若い、フードを被った少年は机に足をかけ、机に置かれたペットボトルから、槍の様に尖らせ凍らせたジュースの切っ先をこちらに伸ばしかけていた。

 

 

「まちなさい、外典(げてん)、もう少し彼と話したい」

 

 

 その一言に悔しそうな顔を浮かべる少年はこちらを睨みつけながら椅子に座る。

 

 

「まだ人類には早い……、そうだね、それは事実だ。でも君の見る未来は相当遠い、いや、先を見すぎているのかな?」

 

 

 興味深そうにこちらを見るリ・デストロはこちらを諭すように話しかけてくる。

 

 

「人の個性に対する善性が成熟する前に、社会は臨界点を迎える。絶対に、その時真に求められる資質は立脚した個人だ。たとえ痛みを伴おうとも我々は備えなければならない」

 

 

 事実である。

 

 彼らの主張自体は一つの思想として間違っているわけではない。

 

 

「RTA、君が中立を気取るのは構わない。だがそのコウモリ主義は孤立するよ。最後のチャンスだ……。その時が来たら僕の傍に立て……。君の才能は切り捨てるには余りにも惜しすぎる」

 

「貴方の考えを否定はしません」

 

 

 だが、それでも私は彼の考えに賛同しなかった。

 

 

「私はこの社会の行く末の手綱を握ろうとは思わない。でも、その時に流れる血と涙は少なければいいし、笑顔は多い方がいい。私はただ商売を続けるだけです」

 

「まだバランサーを気取るつもりかい? 自分の日和見主義とその自惚れに気づいた方がいい」

 

 

 私の一言は、彼が会話に見切りをつけるに十分な答えだったのだろう。

 

 優しげな声から一転した冷徹な声に弾かれるように周囲の幹部たちが各々の個性で私に狙いをつけ始める。

 

 だが、私は動かない。ただ目の前の男を見て、静かに己の考えを述べた。

 

 

「バランサーなんてとんでもない。人が泣かない未来を夢見ているのです。私程に能動的で傲慢なプレイヤーはいませんよ」

 

 

 私はリ・デストロから不意を突くように目線を外し、この命がかかった場で悠長に置かれた本の表紙を眺める。

 

 

「異能解放戦線、考えさせられる本です」

 

「あぁ、私の揺るがない原点だ。人生で一番読みこんだ本だね」

 

「いえ、人の考えなんてちょっと視点を変えることで変わってしまいますよ」

 

 

 私の言葉に彼はまさかと言った顔で困ったように笑いながら、否定をする。

 

 それを聞いた私は片方だけ眉をあげて彼を見る。

 

 

「例えばその本、あなたが勧めてくれたのもありますが、もしかしたら私の人生で二番目に真剣に読み返した本かもしれません」

 

「へぇ、君みたいな人間が一番読む本は何だい? 気になるな、最後に教えてくれないか?」

 

 

 

 

「もちろん預金通帳です。あなたは違うんですか?」

 

 

 

 

 私の言葉に彼はピタリと体を止め、次第に震えだす。

 

 その振動はとうとう彼を瓦解させ、最後には大笑いを引き出した。

 

 

「な、なるほど! まいった! そうだね、私も一番はそれかもしれない! 君は筋金入りだな!」

 

 

 そんなリ・デストロの様子を見て、幹部たちは一向にかからない抹殺号令をしびれを切らしながら待っていると、

 

 

「いい、あぁ、もういいよ、やめよう……!」

 

 

 目に浮かぶ涙をこすりながらリ・デストロは部下に手を振る。

 

 

「こんなに気持ちよく言い負かされるとはね! ははっ、認めるよ。少なくとも君は敵じゃない。もちろん味方でもないが、得になる!」

 

 

 彼の冷静な判断は瞬時にこの場で見せしめで私を殺すことと、これから得る利益を天秤にかけ終えている様子だ。

 

 

「今はいい。少なくとも君は我々にとって大切なビジネスパートナーだ」

 

 

 私ではなく、困惑した様子である幹部たちに言い含めるように話すとリ・デストロはこちらを見る。

 

 

「すまんね、安心して帰るといい」

 

 

 柔和な紳士に戻った彼、しかし私は席を立たずに彼を見た。

 

 

「いえ、商談がまだです。実はそっちの特許を使って、新商品を作りたいんですが……」

 

「全くいかんな、君といるとストレスが溜まらない」

 

 

 苦笑する彼も椅子に座ると、私達は商談を再開した。

 

 

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