個性『RTA』があまりに無慈悲すぎるヒーローアカデミア 作:ばばばばば
<えっ? 今? ごめん大体共有してるけどキツイって! 人手が足りないから送ってっていわれても……!>
「施設もとりあえず作り終わったから、この際それっぽい人立たせれば……」
<いや、事業拡大はいいけど忙しすぎるでしょ……! 流石に医療とか福祉とかはさぁ! お金で人を引っ張ってきて、ハコ作ってそこに入れて終わりじゃないんだからねっ!>
「役所の申請は今こっちで進めてるから! お願い! 明日までには人を手配して!」
<くっ、今そっちが大変なのも分かるから愚痴も言いづらい……!>
私は私に謝り倒しながらも、目の前で鳴った電話を一本取る。
「はいこちらRTAカウンセリングルーム! えぇ!! お任せください、そういった個性の特殊事例にも対応しておりますよ! えぇ! はい! 明日も休みではないんで任せてください!!」
そうして私は人っ子一人いないビルの一室で営業中の看板を立てかけた。
「とにかく! おかしいんです! 普通じゃない!! 血に執着して……!!」
「なるほどぉ! そういうことですね! えぇえぇ! 任せてください この凄腕カウンセラーにお任せさせてくれれば問題ありません。私はヒーローもやってましてね、個性に対する対応も頭に入っておりますよ!!」
綺麗な方だったのだろう。
だがその目にはクマが浮き、髪は跳ね、落ち着かないその様子は精神の衰弱が伺える。
ヒステリックに話すその女性を宥めながら、私は横目でその母に爪が食い込むほど肩を掴まれた少女を見た。
「お母さんもお疲れのようだ。ウチは待合室にアロマテラピストやエステティシャンもいるからね! 少しそちらで休まれるといいですよ! 診察は私が済ませますから!」
「カウンセリングルームってこういう雰囲気って珍しいですね……? 前に行ったところと随分違ってます……」
「そりゃもちろんウチは特別ですから! ゆっくりしていってくださいね!」
ハリボテの施設に数合わせで呼び寄せたこの混沌とした施設の待合室。彼女は明らかな不信感を感じながらも私の強い勧めで別室へと連れていかれる。
私は改めて、目の前の少女を前に笑顔を張り付けたが、彼女はただ俯きながら椅子に座っていた。
「私はヒーロー! RTAさんとよんでね。さてなにか飲む? ウチは結構なんでも置いててね、カルピスだって原液でも出せるよ!」
冷蔵庫を開いて見せる私に、チラリと目だけを走らせる彼女は直ぐにさきほどまでと同じく下を向いて呟く。
「その……、先生が飲んでるのでいいです」
「あっこれ? これビール」
「えっ……!?」
「いわゆる子供ビールって奴ね。バッチリ冷えてリンゴ味のシュワシュワだよ」
「びっくりした……」
「はい、バッチリ冷えてるよ!」
私が小さなコップにジュースを注いで手渡すと、彼女は一口だけ飲むと、そのまま両手でコップを包み込み、また黙り込んでしまう。
分かりやすく心を閉ざしている少女。カウンセリングの基本として、本来であるならばまずは関係性を構築することが必要になるが、残念ながら私はそこまで気が長くない。
「
「……はい、先生」
彼女のお母さんが書きなぐった問診票を見ながら私はそこに書かれていた言葉を慎重に抜き出しながら読み上げる。
「ふんふん、なるほど、個性『変身』ね! なんか吸血衝動みたいなのもある感じなんだ。それで家に落ちたスズメから血を吸ったと……、へーこれは……」
ピクリと不安そうに肩が揺れる。
小さな口がパクパクと開きながらこちらを伺う。
「……ヘン? わたしびょうき?」
「いや全然。なんか道端に咲いてる花の蜜吸うみたいなことしてんねぇ! 私もやったことあるけど、今思えばバッチィから直吸いはNGだ! 個性であって病気ではないってはっきり分かんだね」
私の言葉に少女は少しだけホッとした様子を見せるので、出来る限り優しく話しかけて、彼女の普段の話を聞く。
普段見ているアニメや好きなこと、ちょっと気になる異性のあの子など
初めはポツポツと話す彼女だが、次第に自分の好きな話題なら笑顔を見せて話す姿も見せてくれる。
「あー、それでまさかの展開でテレビは終わっちゃったんだよね。続きは映画館でやってたなー」
「えっ、映画で続きやるの?」
「つ、つぎのお休みでね? まだ正式に広告に出てないけど先生の知り合いが映画関係者で言ってたんだ! だからまだみんなに言っちゃダメだよ?」
会話の内容はバッチリ合う。何故なら彼女のハマったアニメや好きだったことは同じ世代の私に直撃していた話題だからだ。
そんな風な雑談で盛り上がっていると、時折彼女は表情を曇らせる。
それは家族のこと、学校のこと、不意に何かを思い出したかのように彼女は言いにくそうに言葉を吐き出した。
「たまに……、耐えられなくなるんです」
「うん?」
そんなことが何度かあり、一度すこし長い沈黙が訪れた時、彼女は意を決したように口を開く。
「学校に仲がいい子がいるんです。カアイくて……、その子が転んだ時、膝から流れる血に目が離せなくて……、傷を治すためって嘘ついて舐めたんです」
「唾つけときゃ治るとか男らしいっすねトガちゃん」
「えへへ、すごく、すごくチウチウしちゃいました」
その時のことを思い出したのか恍惚とした表情を浮かべた後、彼女はそんな自分の顔に触れて顔を歪めた。
「なんでもない人より、よく知ったカアイイ人の血の方がチウチウしたくて……、でも……、きっとそれはダメなんですよね……?」
自分の本能から来る悦びの表情とそれを理性で留める苦悶の表情。
その姿は年若い少女が背負うには余りにも痛ましい。
「……トガちゃん、人を殴りたくてしょうがなかったらどうすればいいと思う?」
「え?」
「暴力がダメだと言われても、時と場合によっては違う。それは表現の仕方の差でしかない」
私がそう言うと、彼女は赤い頬っぺたに指をあてて考え込み、しばらくしてから顔をあげる。
「うぅん……、ボクサーになるとか……、悪い人にケンカを仕掛けるとか?」
「そうそう! いいねぇ、分かりやすいねぇ! じゃあさ、好きな人の血を吸ってもいい場所ってどこだと思う?」
「それは……、そんな所、あったら私がしりたいです」
私は俯く少女の前で勢い良く立ちあがると親指で体を指して胸を張る。
「ヒーローだよ、ヒーロー!! 君の個性は素晴らしい!」
呆気にとられた彼女の顔がこちらを見上げてくる。
「吸血! 暴力! 接敵! 吸って戦いさらにカワイイ! 吸血ヒーロー!! いいじゃないか君ヒーローに向いてるよ!!」
「そ、そんな都合のいい……」
「いいよ! 来てよ!! 」
「で、でも私、受け入れてもらえるか……」
「実は今この辺にぃ、ヒーローの学校作っててさ! 面白いヤツ集めてるんだけど君も来ない?」
「え……」
「大丈夫だって安心しろよ~。ヘーキヘーキ、ヘーキだから! みんな君みたいな面白い人たちが集まる予定だから絶対気に入るよ!」
「まだトガちゃんは小学生だけど、中学にあがったら寮もある! これパンフね! じゃあお母さんも呼んで話そうか!!」
乱暴どころではない勧誘。
私は詐欺染みた口八丁でトガちゃんのお母さんを口説き落とすと、彼女を連れてクリニックを飛び出す。
「お母さんとお父さんへのカウンセリングの予約も取ったし! 運転手さん車出して!」
「了解ボス。……あーあ、またこんな無垢な子をかどわかしてやがる」
「あのさぁ……、言わな……、書かなかった? 車でアメスピ吸うなって言ったよね?」
「あの禁煙の札か? さっきコースター替わりに使ってたけど邪魔だから捨てた。……嬢ちゃん、コイツに騙されるとズルズルと、とんでもねぇとこまで連れてかれるぞ」
そんな私達のやり取りを見てトガちゃんはくすくすと笑う。
「RTAチャンとはもっと仲良くなりたいから、行ってみたいです」
「コイツがちゃんってガラかよ……」
「女の子にそんなこと言っちゃダメです」
私と分倍河原さんは一瞬だけ呆気にとられる。
私は今、ヒーローコスチュームに白衣という、非常に胡散臭い出で立ちである。
もちろん私の性別を指し示すものは見た目に一切出ていない。
「えへへ、RTAチャン、好きな人のこと話すときカアイイかったです」
「コイツはとんでもねぇ感覚派だな……」
「も、申し訳ないが女の子説はNGだ」
私はトガちゃんにこのことは秘密にしてもらうよう説明しながら、車に揺られた。