個性『RTA』があまりに無慈悲すぎるヒーローアカデミア   作:ばばばばば

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最速ヒーローRTA_113925時間24分51秒_Part4/11

 

 

 

 

 

「そっちはどう? 会社の方を任せてる私はとりあえずは大丈夫そうだって。今度は食品製造業に手を出したんだって。たしかこの先で売れる商品を見つけたらしいよ」

 

<う~んこっちはあんまり……、もう何回も接触してるけど難しいね。分かってるとは思うけど。明日やってみる。最悪切り捨てられるかもだけど出たとこ勝負って感じ。いざとなったらやっぱりお縄になってもらうしかないかな……>

 

「私がいければよかったんだけど……」

 

<そっちも大変だったんでしょ? 体は休めないと!>

 

「とりあえず車と装備は明日に間に合わせるから!」

 

<おっけー、まかせて!>

 

 

 

 

 

 

 

 ある広場の一角、様々な人々が行きかうそこに、一人の男がお立ち台の上でこぶしを握り締めていた。

 

 

「このままでは駄目だ!! いずれ社会は腐敗して……、いや既に腐敗している!! 拝金主義の芯が伴わないヒーローもどき共を野放しにしたままではいけない!!」

 

 

 演説には熱が入っている。

 

 だが、その言葉に対して人は少しの関心も寄せずに通り過ぎていく。

 

 

「ヒーローとは結果としての名でなくてはいけない!! その行為! 信念がヒーローを形作る!! この虚飾を認めれば取り返しのつかないことになるだろう! まず我々がそれに気づかなければヒーローもどきは増長し続ける!!」

 

 

 赤黒血染(あかぐろ ちぞめ)は焦っていた。

 

 自身がこのまま何も為せなければ人々は今まで見過ごしてきた問題に直面し、取り返しのつかないことになる。 

 

 だからこそ人々を啓蒙するために、彼はまがい物しかいないヒーロー科を中退し、より多くの人に訴え掛けるため、この場所に連日訪れ、社会の変革を訴えた。

 

 

「わーすごーい!」

 

「……」

 

 

 だというのに、その成果はこれだ。

 

 ここ最近彼を見かけると話を聞く幼子は、手をパチパチと叩いて喜んだ。

 

 恐らく自分の話す意味は分かっていないのだろうと考え、彼は頭を振る。

 

 

「もうおはなしおわりなの?」

 

「あぁ……」

 

 

 彼にニコニコと話しかけてくる少女。話も分からず面白半分で見ている幼子しか話を聞いてくれていないという現実に情けなさを感じながら、その場を後にしようと片づけを始める。

 

 

「今のままじゃ駄目だ……」

 

 

 忸怩たる思いで呟く彼は人々に絶望しかけていた。

 

 もはや言葉での変革は望めない。ならば行動を起こすしかない。

 

 やはり世に溢れる贋作共を直接修正しなければ世界は変わらないのか。

 

 

「だれも分かってないんだ……」

 

 

 そんな彼の妄執に言葉を返すものがいる。

 

 

「分かるよ?」

 

 

 振り返った彼が見たのは膝を抱えながら此方を見上げる少女。

 

 

「ヒーローとは見返りを求めてはならない。自己犠牲の果てに得うる称号でなければならないってことでしょ? 何度も言ってたから覚えたよー」

 

 

 彼はその言葉を聞いて目を瞬かせる。

 

 

「お兄さんが言うヒーローはヒーロー黎明期の自警的な形で生まれたヒーローに近いけど、つまり言いたいことはもっと進んだ……、自己犠牲の崇高な使命をもったヒーロー、“本物”こそが世界に必要で、今の金銭や名誉を望む職業ヒーローが増えれば、結果的に民衆がヒーローをエンターテイメント的に消費してさらなる増長がおき、お兄さんの言う偽物はさらに増え、それに倣う人々により社会全体の腐敗を招いてしまうってことが言いたいんでしょ?」

 

「……最近の子供は勉強熱心だな。いや、幼すぎる。……君の個性かい?」

 

 

 およその話を要約され、彼は自身の言葉が決して無為ではなかったことを思うが、それよりも目の前の少女の常軌を逸した理解度に感服する。

 

 

「悪かった。君は俺の話に耳を傾けてくれた聴衆だ。年のせいと軽んじていたことをここに謝らせてくれ」

 

「ふふーん」

 

 

 目の前の少女は語るに値する英知を持ちうる人物だと認め、ならばさらに語らなければならぬと、台に腰を置いて少女を見る。

 

 

「改めて話させてくれ。”ヒーローとは見返りを求めてはならず、自己犠牲の果てに得うる称号でなければならない”。この考えでみれば今の世の中はあまりにも惨い」

 

「うんうん」

 

「本物のヒーローが人を救うという行為を”目的”としているというのに、贋作共は金銭や地位、栄誉を得るための“手段”としている」

 

 

 自身の言葉を真剣に聞く者の前で彼は奮った。

 

 

「偽善でも救われればよいという安易な考えでは駄目だ。名声や富のみ求めるヒーローが増えれば何が起きる? 奴らは心の底では人を助けたいわけではない。このような社会が大きな問題にぶつかった時に一体何が起きるのか」

 

「メチャクチャになっちゃう?」

 

「そうだ。大崩壊だ。真に憂い立つ者もおらず、強者に媚びるだけの力、その刃は少ない光を刈り取り、人民へと降り注ぐ。彼らは必ず下のモノを切り捨て見捨てる」

 

 

 小気味良い合いの手を受けて彼の演説にさらに熱が入った。

 

 

「今、そのような贋作共に憧れる人々も問題だ。彼らはその正義に憧れるわけではない。彼らの成功や富を崇める。人々の象徴たるヒーローに人々は倣う。このままでは人々も早晩自分で立つ力を失うだろう」

 

「たしかに、じぶんの弱さをまかせちゃうかも……」

 

「そうだ!! だからこそ贋物を許してはならない! 今こそヒーローから紛い物を排除し、人は正しき道に戻らなければならないのだ!!」

 

 

 言葉を言い切った彼は大きく息を吐き、目の前の少女が自身の考えに共感することを望んだ。

 

 この1年、いくら世間に訴えかけても、何の成果もなかった。

 

 しかしそれでも、彼の弁舌が一人の心を動かせたなら、あるいは……、

 

 彼が手を下しかけた世に蔓延る贋物を、己が外道に落ちたとしてもこの手で取り除くしかないという結論。

 

 それを果たさずとも道があるのではないか、と彼は心の奥底で考えた。

 

 

「ハイ!」

 

 

 元気に手を挙げる少女に彼は目線で発言を促す。

 

 

「ねぇ、じゃあなんでお兄さんがそのヒーローにならないの」

 

 

 しかし、帰ってきたのは質問。

 

 それもある種彼の持論の核心を突くような言葉。

 

 子供故の純粋な質問でありながら、彼は目の前の少女の知性を考えれば冷徹な指摘にも思えた。

 

 

「……考えたことはある。だが……、効率の問題だ。俺一人が変わるだけじゃ駄目なんだ。世の中を変えるにはもっと大きな流れを変えなければいけない。絶対的な象徴が必要なんだ」

 

「オールマイトみたいな?」

 

「あぁ、そうだ。まさに彼のような存在こそがヒーローだ」

 

 

 しかし、彼も己の思考と長年向き合ってきたという自負がある。

 

 彼は質問に対する返答を澱みなく答えた。

 

 

「お兄さんはオールマイトみたいなヒーローにならないの?」

 

 

 だが、少女の質問は続く。彼は一瞬どう答えるのが正解か悩み、少し間をおいて口を開く。

 

 

「オールマイトになる…………、のは難しいだろう。純粋な意志もそうだが実力も。あれは限られた頂にいる存在だ。だが、人々はオールマイトに憧れる。誰もが幼き日に口々に言うだろう“オールマイトの様になりたい”と。あの光にあてられ人々が彼に近づこうとする。だからこそ象徴、だからこそ英雄。分かるか? それが汚されるということがどれほど危険か」

 

 

 彼の言葉に今度は少女が唸った後、口を開く。

 

 

「うーん? じゃあ、お兄さんのいうヒーローって特別な人じゃなきゃなれないの? 私やお兄さんじゃヒーローになれない?」

 

 

 やはりこの子は聡い子だ。

 

 そう思いながら彼はほんの少しだけ目を細め、彼女の頭に手を置く。

 

 

「それは違う。正しき光に導かれ、正しき行いをする。その結果、象徴としての光が次代に引き継がれ守られていく。一人一人がその灯を守り、その意志を貫けば君もまた英雄になりうる素質を持てるはずだ」

 

 

 少女はくすぐったそうな顔をすると、彼の話に聞き入り、今までの問答を反芻するかのように考え込んだ。

 

 

 そしてとうとう彼女は顔をあげる。

 

 

「じゃあ、最後にいい?」

 

「なんだ?」

 

 

「なんでお兄さんはヒーローにならないの?」

 

「だからそれは……」

 

「うーんとね、そうじゃなくてね」

 

 

 この質問は最初からしている質問。だがこの質問は最初の話を分からなかったうえでのものではない。

 

 彼に問いかけ、その言葉を聞いたうえでの疑問。

 

 

「お兄さんは、なんで私がヒーローになれるか聞いた時、いつも誤魔化すの?」

 

「誤魔化す?」

 

 

 彼の脳は一瞬その単語の意味を思い出すのに時間がかかった。

 

 誤魔化す? そんな唾棄すべき避けていた行為を自分がしていた?

 

 そのような頭の混乱の中、彼は何とか言葉を紡ぐ。

 

 

「いや、すまんな。話の中で君の頭の中で、ヒーローとオールマイトが混ざっている。俺が言いたいのは、人は正しき光を信じるヒーローになれる。だが、オールマイトのような絶対的な力と正義を併せ持つヒーローになるのはやはり難しいという話なんだ」

 

 

 理論の補強。正しい筋道。彼女と自分に言い含める言葉はしかし、彼女の澄んだガラス玉のような目からは逃れられなかった。

 

 

「ねぇ気づいてる?」

 

 

 彼女の目をみて、一瞬だけ彼は瞼がピクリと揺れる。

 

 

「私はお兄さんがヒーローにならないのか聞いてるのに、お兄さんはずっとそれに答えてくれてないんだよ?」

 

 

 ねぇお兄さん。

 

 

 その言葉に赤黒血染はほんの少し喉が渇いた。

 

 目の前の少女は賢い。だがそれは自分の愚かな勘違いだったのではないか?

 

 この子はひょっとして自分よりもっと……、

 

 

「なんでお兄さんがヒーローにならないの?」

 

「それは……、だから、なんども言うが、それじゃ駄目だからだ。今のままでは変わらない、悪い方向へと……」

 

「ううん、ちがうよ?」

 

 

 口をついた理論は、同じ盾で、それは彼女の弁舌にはあまりにも脆いものだった。

 

 

 

「おにいさんは信じてないんだよね?」

 

「なっ……、に?」

 

 

 子供の純真さに武装された理論、その口撃に彼の防壁は崩れ落ちる。

 

 

「あこがれてるけど、自分がそれを信じ切れない。だから疑う。疑うのはいいよ。でもねお兄さんは信じなかった」

 

「……ッ!!」

 

 

 子供相手に彼は大声がでそうになる。

 

 それを僅か一切れ残された理性で押しとどめる。

 

 

「疑うことで止まって信じることを止めちゃったんだよね? だって一番大変な道だから。たぶんねお兄さんは……」

 

 

 やめろと叫ぼうとする心。

 

 顔と腹が熱い。吐き出したいというのに喉は詰まってその熱が体を破裂寸前まで押し広げる。

 

 少女は涼やかだ。

 

 目元も口から流れる言葉も、こちらの動きを分かって吹き付けてくる。

 

 

 自身の矮小さを感じながら彼は一つの断罪を受けた。

 

 

 

「おにいさんは妥協したんだよ」

 

 

 その最後の一撃に、赤黒血染の体は静止した。

 

 凝り固まる前のまだ柔軟な10代の思考が強かに打ち据えられ、叫びのような音をあげながら歪んでしまう。

 

 

「だとしたら……、なんだ?」

 

 

 腹の底から響く、憎しみすら含んだ低い声を男は少女へ向け、続けて吐き出す。

 

 

「君の言う通り人の心を最後まで信じられない人間はどうすればいい? それでも英雄に憧れるようなヤツは……!」

 

 

 心の内を吐き出す彼に、やはり少女は動じない。

 

 

「私はね、選ばれた人しかなれないならヒーローなんていらないと思うんだ」

 

「聞くに堪えない言葉遊びだ……。俺はそんな話をしたいわけじゃない」

 

 

 彼はそんな少女の言葉を鼻で笑うが、それを見た少女も可笑しそうに笑いながら語る。

 

 

「自分のことしか考えられず、人を嫉み、小さな虚栄心しか守れない、そんな人間がヒーローになれるはずないって?」

 

「そこまで言っては……、はっ……、いや、そうだ。そんな話だ」

 

 

 もはやここまで幼子に罵倒されていることに彼は可笑しさを感じ、思わず乾いた笑いが出てしまう。

 

 

「なれるよ」

 

 

 だが、やはりこの少女は男を真正面から否定した。

 

 そもそも少女の話す罵倒は彼に向けたものではない。

 

 

「だって私がそうだから。でもね、私はそれでもヒーローを目指す」

 

 

 座り込んでいた彼女が立ち上がると、いつの間にか路端につけていた車がゆるゆると、だらしなく近づいてくる。

 

 

 運転席からは面倒そうに仕立ての良いシャツとネクタイの襟元に指を差しこんでうっとおしそうに広げる男がいた。

 

 

「あっ、また車でタバコ吸ってる。あっちの私に言うよ?」

 

「俺しか乗ってねぇんだからいいだろ。こっちはわざわざとんぼ返りしてきたんだぞ、もっとねぎらえって。ファブリーズぐらいかけてやる」

 

「というか伝わるから意味ないよ。で荷物は……」

 

「後ろ、途中で拾ってきた」

 

 

 明らかに値段の張る高級車。その後部ドアに飛びつくように少女がドアボタンを押すとそのまま自動で開くが、軽い体はドアに張り付いたまま間抜けにスライドしていく。

 

 

「手伝おうか?」

 

「やる前に何も言わず手伝うのがいい男なんだよ?」

 

「いい女ならそこは見逃して、貞淑に振舞うんだぜガキンチョ」

 

 

 ため息をつきながら運転手の男はやけに重装備な成人男性サイズのマネキンのようなものを取り出して地面に立たせる。

 

 

「よっと」

 

 

 そのマネキンの背後は着ぐるみの様に開かれており、彼女はぴょんとそこに飛び入った。

 

 

「あーあーあー、おー、やりますねぇ! 分かっていたけどこう動くんだ。でもやっぱ動かしにくい……。あと自動変声機能にAIついてるって話だけどなんか翻訳がおかしい……、おかしくない?」

 

 

 突然、声が合成音に切り替わり、明らかに内部に届いていないはずの手足は全くの違和感なく稼働している。

 

 そのような一連の光景を見せつけられた彼は、事態を呑み込めずただ見ていることしかできない。

 

 

「次の被害者はコイツか? まぁこいつもクセが強そうだぜ……」

 

「そういうの冗談でも言って欲しくないなぁ……」

 

「被害者……?」

 

 

 彼が呟くと、コスチュームに身を包んだ少女が今度は逆に台に座る男を見下ろした。

 

 

「赤黒血染、贋作がヒーローになる姿を見せてやる。お前がその思想で己の責務を果たそうとした時、まずお前は私を切るんだ」

 

 

 座り込んだ男は茫然としながら、その姿を見上げる。

 

 

「信念も覚悟もない偽物が、救える人間は全部救ってやる姿、見たけりゃ見せてやるよ」

 

「なにを……、言っている?」

 

 

 差し出された腕、しかし、彼はその手を見つめるだけで動かないでいた。

 

 それを見ていた彼女は痺れを切らしたのか無理やりその手を握り込む。

 

 

「どうせやることもないんでしょ? つべこべ言わずに来いホラ、新しく作ったヒーロー事務所に行くよ!」

 

 

 思ったより強い力に彼はつんのめりながらよろけるが、お構いなしに車の座席へと引き込む彼女に抵抗するように立ち止まる。

 

 

「お前のことは信じられない。贋作が……、ヒーローなどと……」

 

「というかお兄さんヒーロー、ヒーロー言ってたけど免許持ってんの? ヒーロー免許みせろよ」

 

「あんなものは虚飾だ」

 

「あのさぁ……、こんなところで燻ってる前に仕事なり勉強なりするべきだよね? お兄さんニートのクセにあんなに偉そうにしてたの? 親の扶養も抜けてないのに?」

 

「なんだと……!」

 

「クルルァについてこい!」

 

 

 最後は問答無用の力技で彼を車に投げ込むと、扉をバァン!と閉めて車は発進する。

 

 

「ここから出せ!」

 

「暴れんなよ……、暴れんな……」

 

「く、クソ、何だこの馬鹿力!? パワードスーツか?」

 

 

 

 あまりに理解の範疇を超えた出来事の連続。暴れようとしても巧妙に抑えてくる少女に勝てず、男はとうとう諦めて目を瞑って車に揺られた。

 

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