個性『RTA』があまりに無慈悲すぎるヒーローアカデミア 作:ばばばばば
「そっちは上手く行ってる“私”?」
<仮免の方はちょっと無理しちゃったけど、なんとか許可もとった、……というか個性のおかげでお互いの動向が分かる私達が連絡とる必要ある?>
「直接話すのはやっぱり大事だよ。あと分倍河原さんが仕事に慣れたかなって思って」
<運転手さんのこと? 喜んで献身的に働いて……、あっ、急にブレーキかけないでよもう。今のわざとでしょ!>
「まぁ、とりあえず計画の要である彼の協力は不可欠だからね。何か追加で要望とかない?」
<えぇー、賃金上げ過ぎてもどっかに行っちゃうんじゃない? ねぇ、本体の私が特別に待遇改善してもいいって、……えぇ。嫌だよ匂いついちゃうじゃん>
「彼は何て?」
<仕事中にタバコ吸わせろだって>
「うーん……、車の中じゃなきゃいいかな……」
<私がいない所だったらいいよ。いや、だからって別に今からドライブスルーに寄らなくても……、名産特濃味噌煮込みうどん……!? い、いや今から人に会うのに……、限定品……? ……ちょ、ちょっとだけね、トイレ休憩だけだから>
今、分倍河原さんはもう一人の私の運転手として、方々を駆けまわっているだろう。
話を聞くと割と上手くやっているようだ。
私一人では世界を変えられない。だから分倍河原さんの個性「二倍」で数を増やして現在は計画を進めている。
<というかそっちは?>
「ヒーロースーツを加工できる会社は押さえてたけど、肝心の素材がないって話してたよね? アレなんとか用意できてね、今着てるよ。なんとか大きさ出すためとはいえ、流石に動かしにくいね」
<だよねぇ……、早く体の方が追い付くといいけど。他の私達は?>
「要注意人物達の勧誘に向かってる。上手く行くといいけど……」
<自分は一番危ないとこ選んでよく言うよ。気持ちは分かるけど、いいの“私”? 分身に家族とすごさせて。本当だったら本体の私がそこにいても私達は別に……>
「それこそ、そんなの私なんだから言わなくても分かるでしょ?」
<……自分に何を言っても無駄か、まぁそっちも頑張ってね>
「ううん、毎日報告貰ってる。今日は皆でお花見なんだって……!」
<そう……、それは……、よかった。私も頑張らないと!>
「じゃあそろそろ切るね」
<そっちもね>
私は電話を切ると伸びをする。
「私も頑張ってるし私も頑張らないと……!」
「ウ゛オ”ォ”ォ”ォ”ォ”ォ”ォ”ォ”ォ!!!!!」
雷雲轟く悪天候、その中でも町に響く咆哮を出す怪物。
巨大なカエルの姿をし、雑居ビル程度の大きさを持つ敵名「ガーヴィー」。
殺人・器物損壊等、前科15犯。
個性「ストック」。
自分が受けた攻撃を吸収・蓄積し任意に放出できる。
……現在は個性による改造を受けており、巨大化、吸収のキャパシティの増量、水にぬれることでの身体強化、避雷針の個性が意図的に付与させられている。
いま、この悪天候で暴走した彼の被害を食い止めるのは非常に難しい。
この敵を倒すには純粋な物理攻撃ではなく搦手。
近くに事務所を構えるプロヒーロー「ハイネス・パープル」の個性「魅了」による鎮静化が最適だろう。
この情報は早くに対策本部に送ったが、残念ながら実際の行動に移るまでのタイムはそこまで縮まらない。
現場にいるヒーローたちはとにかく救助と避難誘導に徹する必要があった。
「だ、だれか! 助けて!!」
「もう大丈夫。さぁ、私の手を握って!」
私は逃げ遅れたビルの住人を抱えると窓から飛び出し、なるべく負荷をかけないように静かな着地を心がけながら救助を行う。
私のほかにも様々なヒーローたちが死力を尽くしている。
「ショータ! 今子供の声が聞こえた!! お前はそのまま行け!」
「待て白雲! そっちはもう崩れる!! 危険だ!」
「ヒーローが救いにいかねぇわけがねぇだろ!!」
己の命を懸けて懸命に命を繋ごうと足掻いている。
「……なら俺は敵を止める……!!」
「はぁ!? お前何言って……!」
「敵に物理攻撃は効かない! 暴走状態だ! 俺の目で個性を妨害して行動を抑える!」
近くに事務所を構える「ハイネス・パープル」。
そこでは二人の雄英生のインターンを受け入れており、その最中に不幸にも学生では対応しきれないような重大事件に巻き込まれてしまう。
「……わかった! 死ぬなよ!」
「お前もな……!」
その結果、彼らの内一人は命を落とす。
その名は白雲朧。
彼の遺体はAFOの手により辱められ、特殊な脳無に改造される。
その名は「黒霧」、未来における敵連合の幹部だ。
相澤先生はここで親友を失ってしまう。
「くそっ……、ビルへのダメージがデカい……。おい!! どこだ!! 返事をしてくれ!!」
「た、助けて」
「そこか! 今行く!」
「お、奥に……、みんなが……!」
「任せろってんだ!! 俺が全員救う! お前はこの雲に乗って避難してくれ! あとで友達に会わせてやんよ!!」
逃げ遅れた子供を救助すると、そのまま一切の迷いなく崩れかかったビルの奥へと進む彼。
「ここか! みんな! もう大丈夫だぜ!! 早く俺の雲に乗れ!!」
響く地響き。徐々に歪み、軋んでいく天井。
「出てこいクラウドッ!! 早く行け! ここは俺が抑える!!」
子供たちを乗せ、避難させる白雲先輩。
彼の個性「
その力は負傷者をまとめて雲に乗せて避難させたり、相手の目眩ましにと応用が利く強個性。
……だが、このビルの倒壊による質量を防げる類の個性ではない。
「ショータ……、わりぃ、帰れそうに……」
高潔な精神、
自分を顧みず他者を救う、ならば――
「
「えっ、なんて?」
――誰が
「人助けはさぁ、死んじゃ意味ねぇんだよっ!」
「え? 早口過ぎてよく聞こえ――」
「お、しっかり舌しまえ舌」
圧壊するビル。抜けられるかギリギリの時間の中で私は一般人なら後遺症の残りかねない加速を行う。
倒れかける柱の間、あと数瞬でふさがる瓦礫の隙、押しつぶさんとする天井。
人間負荷のギリギリアウトな加速度で一息に飛び出した時、白雲先輩は歯を食いしばりながら白目をむいていた。
目の毛細血管が破けているのが非常に申し訳ない。
私は安心感から思わずしりもちをついてしまう。
「ク゛オ”ォ”ォ”ォ”ォ”ォ”ォ”ォ”ォ――……!!!!!」
どうやら向こうの方もひと段落したようである。
この規模の戦闘で死者はゼロ人……、やり切った。
そんな風に座り込んでいると遠くから誰かが駆けてくる。
「白雲!!」
「ウプっ……、お、おぅ……、ショータこっちも生きてんぜ……。こっちの人が助けてくれて……」
「安易な自己犠牲で救われる奴なんて、死んだそいつぐらいだってそれ一番言われてるから、悔い改めて……!」
「……ウス」
「お前!やっぱ無茶して……!」
「そっちもインターンのくせに必死になって敵に突貫するのもヤバイ。 挙げ句にプロでもないくせに援護無しで敵を止めようとする姿勢にビックリ」
「うっ……、あ、あのありがとうございます。おかげで助かりました。……けど何方の事務所の方ですか? ここら辺のヒーローじゃないみたいですけど……」
「えっ、そうなん?」
「お前……、インターンの時一緒に周辺協力事務所の情報渡されてただろ」
頭を小突く相澤先生に、笑う白雲先輩。そんな二人を見ながら私は一応の名乗りを返す。
「ヒーローネーム「RTA」。昨日仮免おりたから、ここら辺にぃー良い働き口があるらしいって先輩に言われたんだよね」
「えっ、仮免なら俺達もうとってるし、実質先輩じゃね?」
「あっこら……」
「年、年って言うんじゃねえよガキのくせにオォン!?」
「えっ、じゃあおいくつなんですか?」
「17歳、学生です」
「えっじゃあ俺たちとタメじゃん! その全身を隠すコスチュームと声のせいで全然分からなかったけど先輩かと思った!! マジサンキュ! たすかったぜ!!」
「敬語使うべきじゃん……。助けたんだから大先輩だルルォ!? 」
白雲先輩はかなりフレンドリーな人らしく、すでにこちらに肩を回しているが私はこちらをみてホッとした様子の相澤先生に話しかける。
「なんだ――、……なんですか?」
ホントに敬語使ってる……。
「そんなかしこまらないで。君と俺は師弟関係みたいなもんやし」
「いや、初対面でそこまで俺がアンタを師と仰ぐ要素はないが……。まぁでも、とにかく助かったよRTA」
「ん? 今なんでもするって言ったよね?」
「言ってないが?」
「まぁまぁショータ!俺の命の恩人だぜ!!」
「お前の恩人であって俺のではないんだが?」
そう言いつつも、私に感謝してくれているのは本当なようで、彼は一応の話を聞く姿勢を取っている。
なんて義理堅い人なんだ……。
「そうだね、二つだけ約束して欲しいことがあるんだ。まず、命を軽く投げ出さないで欲しい。君らは親友なんだろ? 友達を失ったら一生後悔する。使い古された言葉だけど、自分を大事にできない人は結局は他人もぞんざいに扱う。生きて、生きて生きるんだ。何があってもね……」
「あんた普通に話せたんだ……。あ、あぁ、わかった。……あと悪かったなショータ」
白雲先輩の謝罪に相澤先生は少し照れてそっぽを向く、私はそれに少し笑いながら続けていった。
「それでもう一方の方なんだけど、そうだね……、覚えていたらでいいんだ。実は将来私の知り合いが雄英に行くと思うんだけど、その子の面倒を見てくれない?」
「うん? 来年雄英に親戚でもくるのか? まぁ、アンタの個性で親戚なら相当な子が来そうだ! いいぜ! 任せろ! ショータもいいだろ?」
「まぁ……、それくらいなら……」
「ショータお前あんま後輩とつるんでないだろ? ちゃんと後輩の面倒見れるか? 来年は一緒に新入生のクラスに行くからな!!」
「お前も勉強とか教えられないだろ……ってあれ、RTAは?」
私は離れたビルの陰から二人を見る。
彼らの友情に陰りがないことを祈ってその場を後にした。